君の香り。








扉が開かれた途端に部屋に湿気と花の香りが広がった。
ホテルに備え付けの安物のシャンプーの匂いは、それでも暖かく鼻孔の奥に消える。スマイルはその香りを纏った人をあえて見ずに香りだけを深呼吸して楽しんだ後、ベッドの上からあお向けのまま、バスルームへと続くドアをみやった。
「イイ匂いだね。」
ベッドの上で整った顔を楽しそうに歪めてスマイルは笑った。
「お帰り、ユーリ。」
ころん、とベッドの上で寝返りをうつ。
スマイルの深めの藍色の髪がシーツを滑って、衣が擦れる音が聞こえた。
「…まだいたのか。」
この部屋の主であるユーリが我が物顔でベッドに転がる青年に素っ気ない態度で言い放った。
「うん。」
本人は別段傷ついた様子もなく、笑いながらユーリに向けて手を伸ばす。
「そろそろ戻らないと明日に支障が出るぞ。」
その手をあやすように掴まえて握る。いつもは低い体温が、今はほんのり桃色に色づいて、暖かい。
その手をくすぐったそうに引っ込めるとスマイルはまたクスクスと笑い出した。
「だぁってぇ…ユーリの1ファンとしては、お風呂上がりのユーリなんて貴重なモノ見過ごす訳には行かないデショ。」
でも、他の誰も見ちゃ駄目なんだよ。
と幼稚じみた台詞を吐きながら濡れた髪を捕まえて指先で弄ぶ。 「それはどんな原理で出来た理屈だ?」
覗き込まれて髪が瞼にかかる距離まで近づく。
「んー」
ちょい、とユーリの首にかけられたままだったタオルを両手で引いて紅く暖かい唇に、己の唇を押し当てる。
「・・・ぼくてきげんり?」
唇を離して笑う。
それを見てユーリも軽く笑った。
「…確かにお前らしい原理だよ。」
「だってユーリは誰のものでもないんだよ。」
「よく言うよ。」
「本当だよ?誰のものでもない。
ぼくのものでも、
もちろんアッシュのものでも、
ファンのモノでもないんだよォ〜」
ヒッヒッヒ…..と特有の笑いを浮かべて身体を起こすと、ベットの縁に腰掛けていたユーリの背中にのしかかった。
「…オイ、重いぞ。」
「でもぼくはユーリのモノなんだよ〜?」
言いながら、バスローブから覗く、白い腕を上からなぞって手の先端に指を絡ませていく。
「…言っている事とやっている事が一致していないようだが?」
そのまま自分の指ごと手を持ち上げてユーリの肩越しに細い指に口付ける。濡れた髪が頬に触れて僅かに冷えていく。
ただそれを気にするで無く、スマイルはユーリの指先を軽く舌でなぞって甘く噛んだ。
するとユーリはくすぐったそうに身じろぎして、空いていた左の腕でスマイルの頭を押さえた。
「…コラ。」
それでもスマイルは動きを止めずに指の一本一本にキスと甘噛みを送り続ける。ユーリが身体を引いて腕を逃がそうとしても、そのまま腕に張りついて離れない。
「こら、スマイル…。」
しかし行為は止まる事無く、楽しそうに指の先端を舌で舐めては軽く口に含む。
まるでネコのようだ、と思った。
ユーリはため息をついてしばらくそのままスマイルに右の手を預けていた。
が、いい加減飽きてきたようで、左手でスマイルの頬を撫でるとゆっくり指を口から引きぬいた。
「そろそろ離れろ。」
名残惜しそうに残る舌が、左手の指を捉える前にユーリは自らの唇で塞いだ。
そっと触れるだけのキスの後に、スマイルは幸せそうに目を細めてユーリの膝に擦り寄る。
「いいニオイ〜…」
「ただの入浴剤の香りだろう。」
ネコのように擦り寄ってきたスマイルの髪を先ほどの右の手で梳いてやる。
「違うよォ、ユーリのニオイ。」
「?」
どちらの手だか、気付いているのかいないのか、スマイルは目を閉じて手の感触を楽しみながら笑う。
「余計なモノとか全部取り除かれた、ユーリだけのニオイだよ。」
「…そんなものか。」
「うん。」
本当に幸せそうに額をくっつけているのを見て、なにも言えなくなった。
しばらくそのまま静かな時間を流れるままにまかせる。

ベチッ。

「イタあッ?!」
唐突に後頭部に襲った痛みがスマイルを現実に戻した。
「そろそろ明日の為にお前も入ってきたらどうだ?」
小気味良い音を立てて殴られた頭を押さえていると、膝から追い出されるようにして立ちあがらせられ、唇を尖らせてスマイルがブーたれた。
「そんなことしたらドーラン落ちちゃうよォ…?」
軽く肩を竦めて見せると
「そんな小汚い格好のまま明日のライブを迎えるつもりか?」
頭を指差され言い放たれた。頭を汚したのはユーリなのだがそんな事はお構い無しらしい。
まあ、そもそもその手を唾液まみれにしたのはスマイルの方なので、ユーリに非は無いのかも知れ無いが。
「今下手に包帯を解いたら身体の中がパンクしちゃうもーん。」
拗ねた子供のように腕を頭の後ろで組むと、ユーリの隣にまた深く沈み込んだ。
「なんだ、調子が悪いのか?」
心配そうに覗きこまれて、なんとなくばつが悪くて目をそらす。
「…そういう訳じゃないけどーぉ…」
「…まあ、生半可ではないからな、あの熱は。」
ユーリがフッと笑った。
「…ねー。すごいもんね。」
スマイルも笑いながら上半身を起こすとユーリに抱きついた。
「…だから、今のうちに身体、軽くして?」
妖しげな笑みを浮かべてユーリの鼻の頭にまた軽く噛みつくように歯を立てて舐め上げる。
「…お前は…」
ユーリが飽きれたような声を出すと、スマイルはその声ごと飲みこむようにキスをして、そのままベッドへと倒れ込んだ。
「…ダメ?」
覗き込んできた、色のない筈の紅い瞳が悪戯好きな子猫のようで、思わず苦笑する。
「…しょうがない、駄目といってもどうなる訳でもないしな。」
くしゃりと前髪を掻き揚げて、程よく乾いた髪を撫でてくる手に手を添え、口元まで引き寄せて包帯まみれの手にキスをした。
「…ユーリが本当にイヤならやんないよ?」
そう言って覆い被さった身体を起こそうとする優しいらしい透明人間の首に手を回して引き寄せる。
「いいから。…ほら。」
そうして本日何回目かの口付けをしながら、ユーリはベッドサイドの灯りを静かに消した。












HP開設おめでとうございます〜。
先越されたゼ…。
お誕生日プレゼントで無料配布になったりしたポップンのスマユリでした。
オリジナル設定入っていてごめんなさい。手直ししてなくてごめんなさい…
これからもがんばってくださいね!!(逃走)

柳原ゆう



去年の誕生日祝いにもらったショートストーリーです。
ていうかどこの世界に自分の誕生日祝いに娘から以下略。
一回だけイベントで無料配布しましたのでお持ちの方がいらっしゃる、かも…

ということでありがとうございました。
ふふふふふスマユリー。
多分に私ら設定も入っておりますがご容赦。
ご感想などありましたら二人で喜びます(二人か!)。



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