← Back || Next →
女王様の駆け引き。



サッカー部夏合宿、3日目の夜。
花螢との二人部屋生活も、ようやく明日で終わりを告げる。

そして、今日が最後の夜。
練習の疲れからか、花螢は風呂から出て部屋に着いた途端、敷きっぱなしにしていた布団にダイブしてそのままぐっすりと眠りこけてしまった。
俺自身も相当疲れていたし、することもないのでとりあえず布団に横になる。

なんとなしに隣で眠る花螢を見る。
気持ちよさげに寝息をたてるその姿は、いつもにもまして愛おし・・いや、いまいましく感じた。
布団に入った途端に爆睡って、どんだけお前はの○太くんだよ。

「ん〜・・」

寝がえりをうった花螢が、仰向けになる。
それと同時に安っぽい宿屋の浴衣の胸元がはだけ、足もとも露わになった。
これはなんだ。俺に対する挑戦状なのか?

「おい、バカ。・・お前、誘ってんのかよ」

起き上がり、花螢の耳元でそうぼやいてみる。
もちろん爆睡中のこいつが聞いているわけもなく、相変わらずの寝むりっぷりだ。

「あと10秒たっても起きなかったら、・・襲うぞコラ」

寝ている奴相手にこんなこというのは、卑怯ってやつか。
まあ、なんとでもいうがいい。
こいつだって、寝ているのをいいことに遠慮なく肌さらしてんだから、お互い様だ。

「10、9、8・・・・・・」

10秒とは、数えてみると意外と長いことに気がついた。
その間にこいつが起きればアウト。
そんな駆け引きを勝手に組んでいるわけだが、5秒前に差し掛かったところでとうとう俺は移動を開始した。

花螢の上にまたがり、あいつの唇に触れてみる。

・・・3、2、1。


「タイムアウト」

駆け引き成立だ。
これからあとのことは、なにがあっても文句言うなよ。
・・お前が悪いんだからな。

「・・・・、」

唇に触れていた手を頬に移動させる。
がら空きになった無防備な唇を、そのまま自身の唇で覆うと、わずかに花螢が顔をしかめた。
唇を塞がれたことにより寝苦しいのか、それとも身体が自然と危険を察知しているのか。
どちらでもかまわない。知ったことではない。

「・・ん、」

舌を下唇にそっと這わせると、ぴくっと奴の身体が反応を示した。
それに少しながら浮かれた俺は、そのまま舌を口内へと忍ばせていく。
湿った舌と舌が触れ合うと、俺の身体はたちまち熱を帯びた。
こいつ相手にこんなことをして喜んでいる自分の身体が、ひどく妬ましい。
しかし、残念ながら「こいつ相手」だからこその反応なのだ、これは。

意識下ではそんなことは無視し、ただ欲のままに舌を絡めた。
いやらしい水音に、ますます俺の身体は上気していたんじゃないだろうか。
それに対し、睡眠中のまったく緊張感のない相手の舌は、俺のなすがままにほだされていく。
最高の征服感だった。

一通り口内を愛撫し終え、満足した俺は唇をゆっくりと離す。
半分以上はだけた浴衣の帯を解き、露わになったなめらかな肌に手を添える。
程よくついた筋肉の隆起をたどり、胸元で指を遊ばすと、その快感からか花螢の口から僅かな吐息が漏れた。

「気持ちいいのかよ、」

思わず口元が緩む。
ふだんは見られないこいつの顔、たまらなくそそるいやらしい顔。
無防備なお前が悪い。俺は、ただ出された据え膳を食そうとしてるだけなんだからな。

「・・ぁ、」

今まで閉じていた花螢の目がわずかに開く。
しかし、焦点はあっていないし、おそらく寝ぼけているのだろう。
何かを喋ろうと、必死に口をひらこうとしている。

「なんだ、」

さっきの口付けのせいで、てろてろと光る唇が妖艶だった。
俺は胸もとの愛撫をやめ、奴の言葉に耳を貸すことにした。

その言葉を聞いたことを、後悔するとも知らずに。



「ぁ、にじゃ・・?」


その一言が、心臓を打ち抜いたかと思った。
その時、俺の制服欲が砕かれたのか、それとも俺は「ショック」をうけたのか。
それはわからない。
しかし、たしかに俺の身体の熱は一気に冷め、脳内はいいようのない気持ちの悪さを訴えていた。

「・・・お前は、マジでブラコンすぎんだよ」

こいつがブラコンとかじゃなく、双子の兄を一人の人間として「愛している」のは知っていた。
俺は、ホモなわけではない。それと同時に、花螢もそうなわけではないのだ。
たまたま好きになったのが男で、双子の兄で、家族で。
ただ、それだけなのだ。――――俺がそうであるように。


「ぇ・・・・・、」

触れるだけのキスをすると、花螢は一瞬目を見開いたが、またそのまますぐ眠りについてしまった。
明日になれば、今夜のことなど覚えてはいないのだろう。
・・それで、いいのかもしれない。
俺は一瞬の気の迷いと己の性欲に負け、同室の後輩に手を出そうとした。
それも未遂で終わり。
このまま、夜が明ければいいのだ。
花螢が覚えていないように、俺も忘れよう。
これは、―――――冗談の過ぎる夢なのだ。

そう自分に言い聞かせ、花螢の格好を元に戻し、布団をかけてやった。
ほんとにお前は、いい先輩をもったよな。感謝しろ。
そう心の中で悪態をつきながら、俺はやがて目を閉じたのだった。





「せんぱいッ、榛名センパイ!いつまで寝てンすか、もう点呼の時間過ぎてるって!」

肩元を揺らしてくるバカがいる。
・・なんだ、今何時だ。つーか、なんで花螢がいる?

「聞こえてんだよ、バカが!耳元でギャーギャー騒ぐんじゃねえ!」

花螢の頭をつかんで、顔面から遠ざける。
あー、くそ。耳がいてえ。

「聞こえてんなら、起きてくださいよ!点呼に遅れて怒られんの、なぜか俺だけなんすから!」

「そら日ごろの行いのちがいだ、バカ」

低血圧の俺は、いつもに増して機嫌が悪い。

「もー、マジで早く着替えてくださいッて」
「めんどくせーから、このままでいく」
「はあ!?このままって、浴衣でってことすか!?」

のったりと立ち上がり、そのままドアの方へと歩いて行く。
残念ながら、朝の弱い俺はまだ正常に脳が活動していないようである。

「ちょ、センパイ!ストップストップ!」

あわてた様子の花螢が、俺の肩をつかみ制止する。

「・・んだよ」
「浴衣のままっつーのは、ちょっと・・なんつか、いろいろと目のやり場に困ると思うんで・・そのー」

しどろもどろの花螢に、俺はただただイライラが募っていくばかりであった。

「なにがいいてーんだよ。はっきりしろ」

俺が強くそう促すと、花螢はうっと短く唸って、やがて決心したように口を開いた。

「その、浴衣の榛名センパイって・・なんかエロいっつーか・・・。
・・ッ!だって、センパイ。浴衣とか関係なしに、へーきで足広げたりするし・・」

言ってから墓穴を掘ったと思ったのか、花螢は気まずそうに床を見つめている。
こいつは、ほんとに自分のことを棚に上げて・・。

「ンなこといったら、お前だってそうだろーがよ」

そう反論すると、花螢はすぐさま文句ありげに否定してきた。

「俺はいーの!センパイはキレーだし、だからなんつーか・・」

「わかった」

お前は、俺をきれいだと言いたい。ありがとうよ。
そして、無防備であると言いたい。どっちがだ。
お前は自分では気づいていないらしいが、自分で思ってるよりずっと無防備で、エロくて可愛い。
本人には、絶対教えてやんねーけどな。


「ちょっと、こっちこい」

べた褒めしてくれたお礼と言ってはなんだが、朝飯の時間まで可愛がってやるよ。

引き寄せたあいつの耳元で、そう囁く。
条件反射に、俺から逃げる花螢の顔はこれでもかという程に真っ赤だ。


昨夜のあれは夢だったのかどうなのか。
そんなことは知ったこっちゃねーな。
とりあえず俺は、今目の前にいるムカつくほど可愛い後輩をじっくりと苛めてやることが仕事。

何の仕事かって?
そりゃ、あれだよ。いいセンパイのお仕事ってやつだ。



END


3周年と4周年をまとめていわったssでした!←
一応お題は、3周年時にとっていたアンケートの結果で「稜受け」ということで。
アンケートにご協力くださったみなさま、ありがとうございました\(^0^)/
最初まじめに終わらせようと思ったんだけどな・・あれ?ギャグオチ?





← Back || Next →