「よ、っと!いやあ、今年も大量大量。この時期、モテる美少年はつらいぜ〜」
バレンタイン当日。
毎年のことながら、大量の収穫を得た俺は、バレンタインもクソもなく、放課後もそのまま部活に向かっていた。
今日は、俺も兄者もお互いに部活があるから、家に帰ったらそれなりのプチパーティーをする予定。
俺ってば、けっこーな奮発してチョコレートケーキも作ったから、きっと兄者も喜んでくれるにちがいない。
はやくもルンルン気分で部室への道のりを歩いていると、後ろからなんともローテンションな声が聞こえてきた。
「・・・・お前。そーいう独り言は、マジでバカに見えっからやめとけ」
後ろを振り返るまでもなく、俺はその声の主を理解した。
俺をさんざんバカ呼ばわりして、容赦ないパワハラを与えてくる超サディストなセンパイといったら、コイツしかいない・・。
「・・榛名センパイ。会って早々、バカ呼ばわりしねーでほしいんすけどッ」
バレンタイン用にラッピングされたピンク色の袋たちを両手に抱え込みながら、後ろを振り返った。
もちろん、ちょっとした優越感を隠し持ちつつ。
たしかに榛名センパイもモテるけど、今年の俺の収穫量にはさすがに勝てねーハズ♪
「バカをバカといって、何が悪い」
しかし、そこには鬱陶しそうな顔をして、段ボール箱を片手で抱え込んでいる榛名センパイの姿があった。
・・・・まさか、そのダンボールは今年の全収穫ですか?
「・・・・負けた」
頭を垂れつつ、そのまま方向を変え、再び歩き出す俺。
俺のモテ度をもってしても、やっぱ奴の泣きボクロには勝てねーか・・・・。
くそ・・無念だぜ。
「おい、待て」
つくづく偉そうな口ぶりで俺を呼び止めてくるので、しぶしぶ歩く足を止めた。
人間、どうしたらここまで俺サマな性格になれるんだか、俺にはわからない。わかりたくもねーけど。
「なんすか」
「ホントお前って奴は、つくづく後輩甲斐のねえやろーだな。『先輩、荷物お持ちしましょうか』の一言も言えねえのか」
敬ってほしかったら、常日頃からもっと後輩を大切にしろ!ッつーか、「後輩甲斐」ってなんだよっ?
とかとか、いろいろツッコミたいことはあったけど、とりあえずは腹の底で辛抱。
反論を、なるべくやんわりした形でお返ししてやった。
「いやー、残念!ひじょーに残念!お持ちして差し上げたいのは山々なんすけど、生憎俺も両手がふさがってまして」
にっこりと「最上級俺式スマイル」をおみまいしてやった後、誰が見てもわざとらしいと答えるような、残念そうな口ぶりで俺はいった。
残念なワケあるか!と心の中では半ギレしつつ。
「・・何、お前ってモテんの?」
俺の言葉を聞いて初めて手元を見たらしいセンパイが、今更ながらにそう問うてくる。
そう。ホント今更スギだろ?
だって、2月14日に大量のお菓子持ってるイコール、そこそこでもモテてるって考えるのがフツーじゃねーの?
コイツは、俺をただのお菓子マニアか何かと勘違いしてんのかよ・・なんてのは、心の中でしか言えませんが。
「ま、人並みちょいくらいには」
軽く受け流す程度に答えると、榛名センパイはやけに神妙な表情で考え込み始めた。
そして、結局答えには行き着かなかったようで、不服そうな声音で俺に文句をつけてくる。
「なんで、お前みてーなバカがモテんだよ。世も末だな」
そこ!?そこなのかよっ!
ムカつくを通り越して半ば呆れながら(心の中で)ツッコむ、ちょっと・・いや、かなり不憫な俺。
榛名センパイ相手だと、どうして俺って可哀相キャラになるんだろ。
・・答え。たぶん、センパイが超絶ドエスだから。
「センパイはそう言いますけどねー。俺にだって、イイとこの一つや二つ・・」
反撃というか挽回の意味を込めて俺がそう言いかけると、ふとセンパイから痛いくらいの視線を感じた。
訝しげな顔で、俺の顔をじっと見ている。
そのありえない気まずさに負け、俺はたじろぎつつ、聞き返してみた。
「な、なんすか」
「目がいい。あと、口。以上、お前のいい所2点」
脇に抱えていたダンボールを持ち直しながら、なんて事ないようにセンパイはいった。
「顔ッつーか、もはやそれってパーツじゃねーかよッ」
「ほら、部室着いたぜ。ドア開けろよ」
俺の言葉を軽くどころか真正面からスルーして、榛名センパイは俺にそう命令した。
その言動により、いつの間にか部室の前に着いていたらしいことに気づいた。
しかも、両手がふさがってる俺に対してそれを言うかコイツは。
「・・ったく、この俺サマドエスが・・・」
「あ?なんか言ったか」
「いえッ、なんも言ってないっす」
なんとか荷物を持ち直して、ドアを開ける。
部室には、まだ誰もきていなかった。
「俺たちが一番乗りみたいっすね」
俺はそのままロッカーの前まで歩いていき、荷物をすべてその中にムリヤリぶち込んだ。
出しっぱなしにしておくと、几帳面な部長にぼやかれるし。
ふう、とため息をつきつつ、何気なく後ろを振り返ると。
「って、センパイ!何食ってンすかっ」
そこには、早くもダンボールの中身であるプレゼントを数個取り出して、その中身を拝借している榛名センパイがいた。
もちろん、センパイの定位置でもある簡素なパイプ椅子にふんぞり返って座りつつ。
「何って、見りゃわかんだろーが。もらったモン食ってんだよ」
そんなの先輩の言うとおり、見ればわかる。
俺がいいたいのは、「なんで部活前のこのときにそれを食ってらっしゃるんですかこの俺サマ野郎」ってことだ。
「・・だからって、今食うことねーと思うんですけど」
「俺は、甘いもんが好きなんだよ」
生チョコらしきものを頬張るセンパイは、相変わらずチョコを食いながらもエラそうだった。
まあ、課題を手伝ってもらっては、よくそのお詫びにとパフェを奢らされるし、センパイの甘いもの好きは今に知った話じゃねーけどさ。
まあ、なんつーか実に「空気読め」なタイミングだと思うんすけど。
「おい、花螢。こっち来いよ、」
軽く手招きされて、仕方なしにセンパイの前へと歩いていく。
まさか、俺を同犯にするつもりってやつ?
俺まで部長にこっ酷く叱られんのは、御免だっての。
「俺はぜってー食いませんから。部長に怒られんのは、榛名セ・・」
とつぜん腕を引かれて、俺はあえなく身体のバランスを失う。
そこで思いっきり頭を引き寄せられて、そのまま口を近づけられた。
「っ・・、ん、」
それはあまりにも簡単な形で俺の唇を奪い、チョコレートでとろとろに溶けた舌を絡ませてきた。
俺の口内は、そのおかげで一気に甘い芳香に占拠されるハメとなる。
もちろん抵抗しようともがくけど、頭を押さえつけられているので、かえって深くされるだけだった。
「・・・・・っは、ぁ・・」
いい加減舌で弄ばれた後、ようやく榛名センパイは俺の口から舌を抜いた。
荒い息の中、口の中にはまだチョコレートの甘い味が残っている。
「これでお前も同罪だな」
床に膝をついて、声のする方を睨むと、センパイは足を組んでさぞや満足げな笑みを浮かべていた。
それは、まさに「魔王降臨」の図に等しい。
「こンの超ドエス級俺サマ魔王陛下がッ!!」
俺のキレ顔に、榛名センパイの嘲笑。
せめてバレンタインくらい優しくしてくれてもよくねー?とか思っちゃう俺は、まだまだ甘チャンに違いない。
バレンタインだろーが敬老の日だろーが、センパイはオールウェイズ鬼畜。
・・これでも、少しは尊敬できるとこもある・・・・ハズなんだけどな・・。
END