おとめ座の彼
「あ、榛名センパイ!おつかれっす」
部活終了後、部室に入ってきた榛名センパイをこれでもかってほど爽やかな挨拶で迎える。
対するセンパイは、そんなさわやきーな俺を見て、思いっきり顔をひきつらせた。
「・・・・お前、キモイ」
失礼極まりない毒舌にも、俺は笑顔を絶やさない。
「センパイってば、またまたあ〜。ま、ビッグマインドな俺は怒ったりしねーけど!」
「・・なんでそんな機嫌いんだよ」
特等席である簡素なパイプイスにドカッと腰掛けて、センパイはジロジロと嫌な視線を俺に送ってくる。
「だって」
これまた簡素な机に置かれた雑誌を手に取り、センパイに見せつけるように開いた。
「今日の乙女座の運勢第一位!」
「・・・・・。」
一瞬、部室の空気が凍った気がするのは、まあ気のせいだろう。
俺は、たんたんと今日の自分の運勢を説明し始める。
「好きな相手と進展できるでしょう。積極的な行動が◎」
ますますセンパイの表情が険しくなる。
・・あれ。俺、もしかして地雷踏んだ?
「お前は中学生のガキか」
俺が見せた雑誌を取り上げて、それを凶器に頭を軽く叩かれる。
痛くはないものを、当然気分は悪い。
「・・返してください」
じろっと睨みつける。
占い信者な俺は、今のセンパイの言動を否と捉えたのだ。
「大体、日本中の乙女座が全員同じこと起きんのかよ?ありえねーだろ」
星座のページを見ながら、明らかにバカにしたような溜め息をつかれる。
なんて夢のない高校生なんだ。
いっそ、気の毒になってくるぜ。
「当たるかもしんねーじゃん」
そう啖呵を切ってみたものを、まあ根拠はないわけでして。
あえていうなら、この雑誌の占い師(ムーンライト峰松さんという方)自身だ。
「じゃあ、俺の星座の運勢も当たるってことだな」
雑誌を俺の前に広げ、センパイが指をさした先には。
「センパイも乙女座・・だっけ」
そう。
その先には、なんと俺とおなじ「乙女座」の文字が。
「よかったじゃないすか、一位っすよ一位!しかも、好きな相手と・・」
バサッ。
雑誌が無惨に床に落ちる音がする。
喋り終わる前に、俺の口は塞がれていた。
目の前にいる・・榛名センパイの唇によって。
「・・積極的に、なんだろ?」
下唇を舐められ、俺がすっかり固まっていると、センパイは満足げな笑みを浮かべながら、自分のロッカーに向かったのだった。
END