if〜sweet〜
今日は休みだったから、午後からセンパイの家に行って、そのまま・・まあ恋人同士的な夜を過ごしまして、
今はベッドの中でゆったりタイム。というかんじだったりする。
午後から会ってはいたわけだけど、やっぱりセンパイは三年で受験生で。
当然、今は受験勉強真っ最中なわけで。
俺はそういうの邪魔したくなかったし、今日会うのもムリだったらいいって遠慮したけど、
センパイはなんやかんやでやっぱり優しいから、家に来いといってくれた。
俺はおんなじ空間にいるだけでもじゅうぶん幸せってかんじで、センパイが受験対策のテキストを片付けている間も
なるべく邪魔しないようにゲームしたり漫画読んだりしていた。
センパイもそれでよかったようだし、俺自身もべつに不満はなかった。
でも、やっぱ一年っていう年の差は小さいようで大きくて。
センパイが必死に受験勉強している傍らで、漫画読んでる自分がなんとなく不甲斐なくて。
でも、やっぱ頑張ってるセンパイに俺ができることって、邪魔しないことと応援すること。
それくらいしか思いつかない。
うまく言葉には表せないけど、そのやるせない感がなんとなく最近の俺には気にかかっていた。
「・・おい、」
隣にいる榛名センパイからの、センパイらしいぶっきらぼうな呼びかけ。
ひそかにいろいろ考えこんでた俺は、内心ハッと我に返った。
「なんすか」
向い合って寝転がっていたので、そのまま視線をセンパイに向けてみる。
センパイはいつもどおりに無表情で、もちろんそこから感情を読み取るのは俺には不可能。
すると、伸びてきた手が俺の頬を軽くつねった。
「・・何変な顔してんだよ」
いきなりのことに呆気にとられていると、意外にもそう指摘をされる。
「ふぇんなかおなんかしてないれすってば」
とつねられながらも抗議すると、その手はあっけなく離れていった。
そして、ため息をつくセンパイ。
「じゃあ、今何考えてた」
・・答えられない、俺。
だって、センパイを困らせたくない。
一年っていうどうやっても埋まらない年月を、どうこう言ったところで仕方ないのは俺が一番わかってた。
だからこそ、こんなうじうじした俺の感情は放っといてくれてよかったし、触れてほしくもなかった。
「なんも。ただ、ぼーっとしてただけっすよ」
きっと今の俺、すげー挙動不審。
だって、俺を見てくるセンパイの目があまりにまっすぐで、俺の気持ちとか全部見透かされそうで怖かったから。
「お前な。いっちょまえに俺に嘘とかついてんじゃねーよ」
次は、グイッと頬の辺りを親指で突っぱねられる。
センパイはそのまま、俺の頬をゆっくりと撫でた。
ダメだ。
やっぱ、センパイには全部見透かされてる。
「べつに嘘とかじゃなくて」
なんとなく、そう口にしていた。
センパイは黙ってる。
「ただ、俺。いろいろ考えちゃうんです」
目の前にある目と視線を合わせるのが今は少し不安だったけど、頑張った。
ちゃんと俺の思ってることを伝えなくちゃっていう一心で。
「センパイに受験受かってほしいから邪魔とかぜってーしたくないし、
でもやっぱ会って話したりしてーし・・とかって、マジで矛盾してんのはわかってんだけど・・」
自分の言いたいことがうまくまとまらなくて、頭の中がごっちゃになる。
それでもまだ、センパイは黙って聞いてくれてる。
「なんか受験勉強してるセンパイと、いつもどおりフツーに過ごしてる自分とかアホみたいに比べちゃったりとか。
そんで、俺はやっぱなんも目標とかないし、頑張ってるセンパイと吊り合わないんじゃねとか考えたり。
ホント・・なんか重いっすよね、すいません」
あははとムリに笑いを浮かべてみたりするけど、そんなの作ってるって絶対バレてる。
でも、そうでもしないとこの空気に耐えられそうになかった。
センパイが今のを聞いてどう思ってるとか、正直考えたくなかったし、聞くのも怖い気がした。
もう・・どんだけ俺、ネガティブボーイなのよ。
「・・・お前が悩んでんの、そんだけ?」
俺の話が一区切りついたところで、そう確認された。
俺は頷いた。
そして頬に置かれていたセンパイの手が、ほんの軽くそこをはたいた。
また、驚く俺。
全然痛いとかはなかったけど、触れる程度にはたかれたその感覚がやけに頬に残った。
「え・・・・・、と・・」
「お前、俺の成績知ってんだろ。たかがお前と会う時間くらい勉強しなくっても、どうってことねーんだよ」
反応に困ってると、センパイはそうたんたんと回答を並べた。
どう返したらいいのかわからなすぎて黙っていると、センパイは少し困ったように「・・あー」と唸る。
「とにかく俺が会いに来いって言ってんだから、お前はなんもめんどくせーこと考えんな。黙って会いに来い」
照れ隠しなのかそのままグッと引き寄せられて、俺はセンパイの胸の中に収まった。
少し不器用なセンパイの、不器用な言葉。
それでも俺には充分すぎて、嬉しかった。
「センパイって不器用っすよね」
小さく笑って、センパイに擦り寄る。
少し辛めなセンパイの香水の匂いがふわっと優しく香ってきて、すごく安心した。
「・・バーカ。お前ほどじゃねーよ」
頭を少し離されて、自然と視線が交わる。
――――そして、どちらからともなく唇を合わせた。
「・・ん、」
まるで壊れ物のように優しく俺の唇を啄みながら、すっと冷たい指先を俺のシャツの中に忍ばせてくる。
「・・・花螢。お前、すげーやらしい顔してる」
唇を離した隙に、耳元でそう呟かれる。
ムカつくのにセンパイの言葉につい感じてしまう自分がいて、なおさらムカつく。
つまり、ほんとに・・・腹がたつ。
「や、らしくなんかねーって・・っあ、」
背中を這っていた指先が前にまわってきて、俺の腹を撫でつける。
自然と溢れ出た俺の声をセンパイはちゃんと拾って、触れるだけの口づけをした。
「今の声は・・?やらしくないって?」
俺の声に、なんとも満足気な表情。
対する俺は、胸を掠めてくる指の感覚にいちいち反応しそうになる声を抑えながら、センパイを睨んでいた。
こういうときばっか甘い声で囁いてくるセンパイはほんとにいじわるで、それこそやらしい。
「うるさ、い」
漏れそうな声を押し殺して、かわりに小さな悪態をついた。
我ながら可愛げないと思うけど、そうでもしないと恥ずかしさで死にそうだった。
「・・たく、相変わらず生意気な後輩だな」
首のあたりに顔を埋めてきて、そのまま首筋を舐めてくる。
身体が大きくびくっと反応してしまって、今度こそごまかせそうになかった。
「ま、そうでもなきゃ張り合いねーけど」
どうやらセンパイは俺の反応に満足したようで、そこをそのまま甘噛みして噛み跡を残した。
「そこ、バレるからヤだって言ったじゃないすか」
俺が少し不機嫌にそう言うと、センパイがいつになく優しく笑う。
「こういうのはバレるようにつけるもんだろうが」
そして、それこそいやらしい声でセンパイの声が俺の鼓膜を犯した。
「お前が俺のもんだってな」
俺も大概不器用だけど、センパイはそれ以上に不器用。
そんなセンパイがたまにこうやって俺に気持ちを伝えてくれることで、すごく満たされるし、安心する。
普段あまり口にしないからこそ、その言葉の重みみたいなのがあるのかもしれない。
「わ、ちょっ・・センパ、イ」
「もっとお前のやらしい顔見せろよ。そしたら受験勉強も捗るかもな」
「な、に言って・・っあ、」
俺に優しく触れる指先が愛しい。
たまらなく恥ずかしいけど、感じずにはいられない。
センパイの目が俺を見てる―――そう考えるだけで、身体中の血液が逆流しそうになった。
そして、目の前にある榛名センパイの顔を見て、うまく働かない頭の片隅で思ったことがある。
こんなに俺を思っていてくれる人がいるのに、なにを悩むことがある。
センパイはきちんと自分を持ってる人だ。
絶対に他人に流されたりしないし、それは俺相手だとしても同じことが言えるだろう。
だから、こんなに俺がいろいろ思いつめなくったってセンパイは大丈夫なんだ。
俺は自分の思ったこと、考えたことをセンパイに包み隠さず話したらいい。
そしたらセンパイがそれに対して何の遠慮もなく意見してくれるだろう。
俺はそんな関係が心地いいと思った。
榛名央未という男と付き合うということは、ある意味自分がありのままでいられるということなんだ。
そんな心地良い場所を、俺はこれからも大切にしていきたい。
そう、思ったんだ。
END
前回に引き続き、もしも榛名と稜が付き合っていたら・・の甘々編でした。
稜はおばかなのにいろいろ考えこんでしまうところがあるので、なかなか難解ですね。
その点榛名はサバサバ系ではっきりしているので、もし付き合ったらまあこんな感じにうまいこといくのかもしれません。
こういうもしも話は新鮮で書くのが楽しかったです。
重ね重ね、アンケートへのご協力ありがとうございました(*^_^*)