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唐沢と弥栄
俺は、中学生辺りから俗に「不良」とか「ヤンキー」なんて言われるグループに属し始め、
気づけばすっかり遊び人になって、そりゃもういろんなことに手を出していた。
今となってはそりゃもー黒歴史だなんのってカンジだけど、そうやっていろいろ遊んでるうちに、
自分は男でも女でも勃つ人種だと知った。
それこそ男もイケるって自覚したキッカケなんか覚えちゃいなかったけど、
身体が反応するんだからしょーがない。
ま、そんな快楽主義者的な性格は、今も昔もあんま変わってねーのかもしんない。
そして、俺は熊田とともに今の高校に進学したわけだが、一年のうちも相変わらず問題ばっか起こしてた。
喧嘩、万引き、酒、タバコ、女(男)遊び・エトセトラ・・。
ただ、俺らは喧嘩弱い奴をイジメたりとか、無駄に暴力振るったりとか、
そういうことはダセェと思ってたからやらなかったんだよな。
そのせいか、最初は怖がってたクラスの奴らも「案外いいヤンキー」というカテゴリに、俺らを入れたらしかった。
で。そんなカンジの黒歴史を引きずったまま二年になって、クラス替えが行われた。
そこで俺は初めて弥栄と出会う。
今年も一緒だと騒ぎ立てながら貼りだされた教室に熊田と入り、周りの生徒にビビられながらも、
名簿順になった机の並びもシカトして適当に空いてる席に座ってた。
「今度こそ担任は若い女がいい」だのくだらないことをくっちゃべっていたところに、ふと人影がよぎったのに気づく。
「――――なァ。そこ、俺の席なんだけど」
なんだと見上げた先には、男のわりに小さい背、加えてデカい目をした小動物――もとい、弥栄加珠が立っていた。
これが俺と弥栄のファースト・コンタクト。
ちなみに弥栄の席に座っていたのは熊田だった。
「あん?」
今より100倍増しのDQN臭を漂わせていた熊田は、舌打ちしながら弥栄を見上げた。
「だーかーら、オマエが座ってる席!俺の!」
熊田の態度が気に入らなかったらしい弥栄も、明らかにイライラしていた。
初対面では大体俺らは遠巻きにされるから、こんな風に向かってくる一般生徒は初めてだ。
それだけでも俺は、こいつに少なからずとも興味を持った。
「熊田ー、こんなカワイコチャン怒らすなよ」
これはからかい半分、本気半分の言葉だ。
第一印象で、「あー、タイプだわ」って思った。ので半分。
あとは完全に口先だけのからかい文句だ。
こいつがどんな反応をするのか、面白半分の興味で見てみたかった。
しかし、これは予想以上に弥栄の神経を逆撫でたらしい。
「おい。初対面のくせにカワイイとか言うなっ」
コンプレックスなのか、その一言がえらく気にさわったらしい。
弥栄が突っかかってきたことにより、教室の雰囲気もざわざわしだした。
新しいクラスになって早々喧嘩かと、多くの生徒たちの落胆の様子がうかがえる。
まー、俺としては喧嘩とかしてるつもりは1mmもないんだけどネ?
「なんで怒ンの?俺べつに悪くなくね?カワイイもんをカワイイと言って何がわりーんだよ」
「そこかよ」
熊田のツッコミはともかく、俺の言葉に弥栄は顔を赤くさせ、さらに怒りを募らせていた。
そんな風に怒ったって全然怖くないし、むしろそんなとこがカワイイ。ドストライク。
・・なーんて言ったら、もっと怒るだろーな。
「オマエだって、自分のタイプの女はカワイイと思うべ?それとおんなじ。
俺もオマエがタイプだからカワイイと思った。そんだけ。なんか間違ってっかよ?」
それっぽい言葉をてきとうに並べて弥栄に放り出すと、予想以上に弥栄は困った顔をした。
「そう言われると・・間違ってもいないよーな・・気が、しないでもないよーな・・・」
しまいには考えこむ弥栄を見て、俺はこらえきれずに吹き出した。
あんだけ怒り心頭です!!!!!!って顔してたくせに、
軽く俺に言いくるめられて考えこんじゃうとかバカ。カワイイ。バカワイイ。
こんな可愛いくせに、中身は威勢よくて男前とかさァ。
俺が気に入らないワケがねーよネ?
というわけで。
この瞬間、弥栄は俺のお気に入りフォルダ(男ver.)の上位に加わった。
「あーっ!オマエ、今笑った!やっぱ俺のこと、バカにしてんだろ!」
真剣なのかふざけてるのかわからないようなこのアホなやりとりに呆れたらしい熊田は、
手持ちの菓子を食って、既に試合放棄している。
「あー、ヤバイ。アホ、カワイイ。ねー、オマエ名前なんての?」
いい加減腹を抱えて笑った後、俺は目尻に僅かに浮かんだ涙を拭いながら聞いた。
「ん」
熊田の座っている席の机を指さす。
そこには出席番号と、“弥栄加珠”とフルネームが書き添えられたシールが貼ってあった。
「やさか・・か、たま?」
「やさかかず!“かたま”ってなんだよっ」
相変わらずプンスカと怒る弥栄に、俺は手を伸ばしてその低い頭を撫でた。
「じゃー、弥栄クン。俺とオトモダチになろーぜ?」
果てやセフレになれたらラッキーだぜとか内心思ってた色魔クンな俺をよそに、
純粋無垢代表の弥栄は満面の笑顔でこういった。
「まずはお前の名前教えろ。オトモダチはそっからな」
ずっきゅ―――――――――ン。
勝気なその笑顔と何事にも物怖じしない弥栄の純粋さに、こうして俺のハートは見事射止められたのである。
クラス替え初日から運命の出会いってのを経験した俺は、そこから一変。
くだらない喧嘩はやめたし、学校もサボらず行くようになった。
ついでに女遊び、男遊びもだんだんしないようになった。
だって、そんなことするより弥栄といるほうがずっとおもしれーし、
汚れきったハズの俺のハートがキュンキュンしちゃったりするんだぜ?
それに、弥栄は俺らとつるむようになってからも絶対に自分を曲げたりはしなかった。
俺がどんなにちゃらんぽらんでも、弥栄はちゃんと自分ってのをもってて、悪いことは絶対ダメって言った。
そういう弥栄と一緒にいるうちに、俺も熊田も自然と浄化されていったっていうのもある。
俺の場合、弥栄に愛想つかされて嫌われたくないっていうのもあったけど。
そう。このときの俺はまだ、純粋な弥栄がフリーだと勝手に決め込んでいた。
そんな弥栄にアイドル級に可愛い彼女がいて、この片思いが延々に続くと知るのは―――まだ、もうちょい先の話。
END
唐沢が弥栄にずっきゅんきたときの話をかいてみました。
act1の一話で若干触れてはいたんですが、細かく書いたことがなかったので!
キッカケは些細なことですが、きっと普段しょうもない生活をしていた竜也には
純粋で可愛くてついでに中身は男前な弥栄が新鮮だったんだと思います。
そして一緒にいるうちにどんどん好きになっていった・・というそんなかんじです。
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