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双子の大晦日とあのひと。



「兄者―。そっちの袋に入ってんのは、ごみな。んで、こっちのは―――」

今年も早いもので、もう年末。
この時期になると、俺と兄者は毎年必ず2人で大掃除をする。
俺はこう見えてもけっこうまめに掃除したりするタイプだから、家中にホコリがたまってるなんてことはまずないけんだけど。
やっぱいらない物の整理とかはしなくちゃいけないし、こういうのは楽しいから進んでやっちゃうんだよね。
兄者も言えば手伝ってくれるし。(自分からやろうとは、絶対言ってこないけど・・)

「ついでに、押し入れの中も整理すっかー」
「そうだね。去年の年末は母さんたちがいたから、押し入れは僕らの管轄外だったし」

兄者は、普段めったに触れない押し入れの中に少し興味があるらしく、快くオッケーしてきた。
たしかに、俺もちょっと興味あるかも。

胸をわくわくさせながら押し入れを開いて、その中に頭を突っ込むと、独特の湿っぽさとかび臭さが俺の鼻をついた。
思わず、せき込む俺。どんまい。


「ホコリっぽー。こりゃ去年、ぜってー掃除してねーな。
おふくろの奴、『押し入れは、かーちゃんにまかせといて☆』とかいってたくせに〜・・」

ぶつくさ文句を言いながらも、とりあえず積み重なった箱やら何やらを取り出そうと手を伸ばすと、そこには思わぬ標的がいた。
怪しく黒光りする全人類の敵。
ずばり、そいつの頭文字はG。俺は、奴とは一生相容れない。
てゆうか、むしろ虫全体が無理だってのに、よりにもよって奴がでるとは。

しかもしかも、この押し入れという名の密接空間で・・ッ!


「ぎゃあああああッ」

訳がわからず、とりあえず豪快に押し入れの仕切り板に頭をぶつける俺。
死ぬほど頭がいてェとかいうことよりなにより、Gがこわい。
生理的にむりだろ、あのギラギラフェイス!

「ちょ、稜・・!?すごい音がしたけど、だいじょ――」

兄者の心配の言葉をよそに、押し入れから脱出した俺は無我夢中で目の前の兄者に抱きつく。
これは確信犯とかではなく、俺なりの必死のSOSだったわけで、決してほんとに確信犯とかではない。

「Gがでたああ!兄者ッ、奴を退治してくれー!でないと、俺は俺の任務を遂行できーん!」
「はいはい。ほんっと、稜って虫苦手だよね。何がそんなに怖いんだか・・」

そう文句を言いつつも、兄者は近くにあったスリッパで奴を無事撃退してくれた。
今日から兄者は、俺の中でマイエンジェルからマイゴッドに昇格したな、うん。


「さて、とー。強敵も消え去ったことだし、さっそく片付けますか」

腕まくりをし、とりあえず気合を入れてみる。
再び押し入れの中に舞い戻った俺の作戦として、まず中にあるものを全部外に出すことにした。
ちまちまやるのは効率悪いし、これなら兄者と2人でできるしな。
愛の共同作業ってやつ!


以外と物が多くて、荷物を出すこと数分。
俺と兄者の周りは、見事ガラクタまがいなものでいっぱいになった。

「だいぶ古いものが多いみたいだね。これとか、僕らが幼稚園の時に使ってたおもちゃだし」

そういって、兄者は手近にあった安っぽいロボットを懐かしそうに眺めている。
今となっては音すら出ないけど、昔は変な機械音で喋ったりしたんだよなー。
それで喜んでた俺かわいい!

「俺たち的にはとっときたい気もするけど、まああとでメールでもして聞いとくか。・・・・あ、」

荷物の山を目でたどっていくと、俺はあるものに視線を止めた。
あれは、アルバムだ。ぱっと見、5〜6冊は積んであるように見える。
物を運び出してるとき、後半はほぼ無心だったからな。全然気づかなかった。

「兄者、兄者。俺、アルバムみたい」
「アルバム?」

俺の言葉に、きょとんとする兄者グッジョブ。
かわいいぜ・・と心の中で思いつつ、アルバムの在りかへと視線を向ける。

「ほんとだ、いつのだろう?僕もみたいな」

少し手を伸ばして、兄者はアルバムを手に取った。
俺も兄者の傍によって、覗き込む。

兄者がゆっくりとページを開くと、そこにはまだ幼少期の俺たちの姿があった。
たぶん、小学校低学年くらいかな。今と比べたら、背もちまっこいし、顔も幼い。
ていうか、なにより兄者の可愛さが尋常じゃねー!

「ちま兄者かわいすぎ!お兄さん、誘拐しちゃいそうッ」

我を見失いかけている俺に、兄者からはなんとも冷ややかな視線。あいたたた・・。

「てか、稜も人のこと言えないけどね。実際、知らないおじさんについて行きそうになってたし・・(あの頃からばかだったんだなあ・・)」

そんな過去を思い出しながら兄者はしみじみしてるけど、俺はそんな話しらないぞ?
なによ、俺が知らないおじさんうんたらって。

「そんな美少年の危機的な事件あったっけ・・?」

むろん、美少年とは俺のことだ。

「あーあ。本人は、すっかり忘れちゃってるしね。よく思いだしてみなよ。ほら、小学生の時・・」

そうして、美少年(もとい、俺)の危機的事件の回想が始まった。



「あにじゃー?ったく、あにじゃがかくれんぼでかくれると、いっつもみつかんねーんだから」

それがかくれんぼという遊びの定義なのではないかと思うけど、まあ今よりさらに脳みその小さい稜に何をいっても無駄だろう。
そのころ幼い僕はというと、意外と稜が探しているすぐ近くで息をひそめて隠れていた。

「もー!ぜんッぜんみつかんねーっ」

そっと物陰から稜の様子を伺うと、両手を空に伸ばしてぐだっている稜が見える。
もうちょっとしてもみつからなかったら、出て行ってあげよう。
前に、ずっと出て行かなかったら稜が半べそをかいていたから。
そんな稜はちょっと可愛かったけど、僕は仮にも兄なわけだし、弟をあんまりいじめるのはかわいそうだしね。

「あーあー。はらへったあー」

そろそろ探すことにも飽きたのか、稜は家の塀に寄り掛かりつつ、おなかを押さえていた。
たしかに、僕も少しおなかがすいたな。今日の夕ごはんはなんだろう?
そんなことを考えながら、少しわくわくしていたら、ふと稜以外の声が耳に届いた。

僕は、瞬時に耳をそばだてる。


「こんにちは、坊や。ちょっと聞きたいことがあるん――」
「ぼーやじゃねーよ。おれ、もう10さいだぜ!」

相手は、声からして中年の男性。聞いたことのない声だった。
そして、稜は知らない人相手に胸を張って自分の歳を自慢している。
僕は(稜のバカさかげんに)少し不安になって、向こうの様子をひょっこりのぞいてみることにした。

「あ、ああ・・ごめんね。お兄ちゃん、今ちょっと時間あるかな?」

稜の態度に少したじろ気味のおじさんは、そういって稜の頭をなでた。
おじさんの容姿は身長が低めで小太り、そして大きなフレームのメガネが特徴的だった。

「あるっちゃあるけど、おっさんだれ?」

いぶかしげな顔でおじさんを見上げる稜は、いつになく慎重だ。
いくら稜がおばかでも、知らない人に声をかけられたら警戒するくらいの防犯力はあるよね。
そう僕は、安心しかけていた。

「おじさんは、今道に迷って困ってるんだよ。お兄ちゃんに案内してほしいんだけど、いいかな?」

あやしい!と僕の子どもの感が即座に察知した。
先月にやった防犯教室でも、誘拐犯役の先生がおんなじようなことをいって、女の子を連れ去ろうとしてた。
このままじゃ、稜が誘拐されちゃう・・?
でも、僕が今出ていっても、即戦力にならないことくらいはわかってた。
おとなの人を呼んできて、助けてもらったらいいのかな?
・・・・・僕は、初めての状況にえらく混乱していた。

「でもおれ、あにじゃとかくれんぼしてんだよね」

子どもの安っぽい良心からか、稜はどうしたらいいものかとなやんでいるようだ。
先月に防犯教室やったばっかりなのに、なんでもう「疑う」とかいう概念を、さっぱりきっぱり忘れちゃってるんだよばか!

「おねがいだよ。ここからそう遠くはないと思うし、おにいちゃんはやさしい子だろ?」

うさんくさすぎるおじさんの笑顔が気持ち悪くて、僕は一瞬たじろいだ。
気づけば、おじさんは肉質のいい手で稜のちいさな手をにぎっている。
そんな手で稜に触るな!そう思いつつも、ますます僕の身はちぢこまる。
でも、ここでこのままにしてたら、本当に稜の身が危険なんだ。
だいすきな稜が僕の前からいなくなっちゃうなんて、僕にはたえられない!

僕が決死の覚悟で、足を踏み出そうとしたとき。


「おい。おっさん、その子の父親か?」

また、見知らぬ声が僕の耳に届いた。
でも、この声はどこかやさしくて、やわらかい・・耳に心地いい声。

「ちげーよ、しらないおっさん。てか、にーちゃんだれ?」

おじさんが答える前に、稜が即答する。
僕はあわててその様子を探ると、おじさんはとても慌てふためいていて、ちょっといい気味だとおもった。
でも、いきなりあらわれたあのおにいさんはだれだろう?
ちらっとその後ろ姿を見てみると、その風貌はまだ若いように見えた。
今から考えてみると、大学生くらいかな。それでも、僕ら小学生には大人のように見えてすごく心強かった。

「にーちゃんは、正義の味方。お前、危なかったな。誘拐されるとこだったぞ?」
「ゆーかい?そんなわけねーじゃん。おっさんは、みちにまよってて・・て、あれっ?」

稜とおにいさんが話しているすきに、おじさんはすごい速度で走って逃げてしまった。
それは、まぎれもなくあのひとが誘拐犯だったってことのしるしだ。

「ほらな。最近はぶっそうなんだから、気をつけろ。・・そこのお前もな、」

ふりかえったおにいさんは、そういって僕に向けて笑顔をつくった。
やさしくて、ふんわりした笑顔。このひとの声によく見合った表情だとおもった。

人見知りなこともあって、僕はすこし不安な面持ちで物陰からでていく。
(稜が「あにじゃってば、そんなとこにかくれてたんかよーっ」とふてくされた顔をしていた気がする)
そして、どこかぎこちなく頭を下げた。

「あ、あの・・りょうをたすけてくれてありがとうございました…」

小学生が知ってるだけの知識を振り絞ってでた感じの丁寧語だけど、その誠意はおにいさんに通じたみたい。
おにいさんはわらって、僕と稜の頭を交互になでてくれた。

「今度からは、気をつけろ。知らない人には、絶対ついていっちゃ駄目だかんな」

そういってわらうおにいさんは、ほんとに正義の味方みたいでかっこよかった。
僕たちが「はーい」と返事をすると、「よし」といってまた頭をポンとなでてくれる。

「・・・・・・・山瀬のやつ、まだかなー・・」

そうぼやいてあたりを見渡すと、「っあ」と嬉しそうな声をあげて、おにいさんは笑顔になった。
それは、さっきの笑顔とはちょっと違う気がする。
このころの僕には、まだその理由はわからなかったけど。

「じゃあな、少年たち。元気でな」

軽く手を振って去っていくおにいさんに手を振り返しながら、僕らはその後ろ姿をしばらく見つめていたのだった。



「てな話!どう、少しはおもいだした?」

いい加減喋りつくして満足した風な兄者は、俺にこれ以上ないってくらいの期待のまなざしを普段より三割増で大放出してきた。
そんなかわいい顔されても、覚えてないもんは覚えてないっての。

「まあ、思い出せはしねーケド、とりあえずいい話だよな。ヒーロー万歳!」

つーシメはどうよ?あ、だめ・・?

「あのおにいさんがいなかったら、今頃稜はどうなってたかわかんないってのに・・忘れるなんて、ほんと恩知らずな奴」

ツンとした視線を隣から感じるわけだが、まあ見なかったことにしようそうしよう。

でも、俺にもそんな危機迫る体験談があったんだな。
これを機に、もうちょっといろんなことに注意するかな。
ていうか、むしろ今度は俺が正義の味方になって、ちっさい子やかよわい立場の人々をお守りせねば。
もちろん、兄者もな。

「なに、にやついてんの。気持ち悪いな・・」
「なんでもねーよ。それより、兄者ーすきだーvvvvv」

ぎゅっと抱きつけば、温かいぬくもり。
一年の総まとめで大掃除したけど、けっこう基本的なことを学んだ気分。
俺には押し入れの掃除のほかにも、もっといろいろやらなきゃならないことがあるんだよな。
風呂磨き、自分磨き、兄者のお守りetc・・。
ちょっとうまいこと言った気になっちゃった。
へらへらしてると、また兄者に怒られるしな。また、掃除に戻りますか。
一年間、おつかれさん!





 END






クリスマスのssが間に合わなかったので、今回は年越しです。
ここにきて、まさかの双子と同居人のコラボをかいてみました。
この話から行くと、双子と同居人の話の時間軸は同じではないようですね。(今そうなった感があるのは否めない・・)
小さい子って、たまにかきたくなります^^ 稜は小学生のころからばかだったんだなあ・・。










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