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初詣パニック。(2)



榛名センパイのせいといってはなんだけど、なんとか難を乗り越えた俺は、とりあえず兄者に電話をかけてみることにした。

プルルルル・・・・・

『もしもし、稜?』

電話が繋がり、兄者がでた。
その声は、どことなくだが疲れている。
この人ごみで、兄者もすっかりダウンしてるに違いない。
現に俺は、人ごみ以外のことが原因で疲れてるワケだけど。


「あ、兄者?今、どこいる?」

『今、おみくじ売ってるとこの近くにいる。稜、大丈夫だった?』

辺りを見回し、おみくじ売り場を探すが見当たらなかった。
もしかしたら、本堂の門の外にあるのかもしれない。

「あー、まあな。じゃあ俺、お守り買ってからいくわ。兄者は買った?」

さっき見回した際、お守りの売り場が見えた。
俺は一応、こういうことは毎年きちんとしときたいタイプだからさ。

『忘れてた。ついでに、僕のも適当に買っといてくれる?』

こういう面にすっかり信仰心が薄い兄者は、こんなとってつけたようなセリフをいう。
・・ホント、こーゆうとこも俺たちってば全然似てねーよな。

「りょーかい。んじゃ、また後でな」

そういって、通話をきった。
見た感じ、お守りの売り場もそこそこ混んではいるが、ため息が出るほどの混み具合ではなかった。

俺はさっそくそのままの足で売り場へと向かい、列に並んだ。


(俺は、ちょっとでも頭よくなるように学業祈願のお守りを買うとして。兄者はなにがいーんかな?)

兄者は頭いーから、学業祈願はいらないだろーし。
恋愛成就は、もう叶ってるし?(相手はもちろん俺v)

なかなか思いつかないので、少し背伸びをして売り場の上に出ている項目を眺めてみた。
・・そして、いいモノを発見。

(よし、家庭円満にしよ。去年は、なにかと兄者に怒られてばっかだったし、今年こそは円満にラブラブに〜ってなv)

買うお守りを決めたところで、気づけばちょうどおれが会計の順番までやってきていた。
売り子さんを見ると、みんな俺と同じくらいの年の奴らばかりだった。
きっと、バイトなんだろーな。元旦から、ごくろーサマ。
・・・とかぼけっと考えていたら、また後ろに並んでる人から急げと急かされそうだったので、俺は我にかえって目の前にいる売り子さんに目線を向けた。

「すんませ・・って、紫苑!?」

目の前にいたのは、白に近いような金髪に、ほぼナイに等しいような眉毛をした売り子だった。
ッてか、こんなヤンキーを売り子にしていーのか神社よ!

「あ、やっぱり稜さんだ。今年会うの初めてですよね、あけおめです」

俺の動揺にも目をくれず、いたってマイペースな応対をする紫苑。

「なんでヤンキーが売り子してんだよ?あー、世も末だぜ・・」

「だから、ヤンキーじゃないですってば。ココ、知り合いの神社なんで、頼まれたんです」

どれにするんですか、と紫苑に愛想なく急かされたので、コレとコレ!と例のお守りたちを指差した。
言われた金を支払って、紙の袋に入ったお守りを受け取る。

「まさか、大道寺までやってんじゃねーだろーな?あんな変態が神社にいたら、それだけで品位が損なわれるっての」

「ココにはいませんけど、たぶん門の辺りで案内したりしてるんじゃないかな。てゆーか、後詰まってるんでどいてください」

「クソー!ヤンキーのくせにムカつく〜!おぼえてろよっ」

どこの負け犬だという感じの捨て台詞を吐きながら、俺は売り場を後にした。

まったく、今日はいいことないぜ。
兄者とはぐれるわ、榛名センパイに会うわ、紫苑には足蹴にされるわ・・。
俺って、なんか新年早々可哀相じゃねー?

そんな自分の運命を軽く呪いつつも、とりあえず目的を終えた俺は、兄者が待つべくおみくじ売り場の前を目指して歩き始めた。

(こっちの道は、そんなに混んでねーんだな)

行きとべつの出口から出たので、帰りは呆気なく門の外に出ることができた。
人が少ない代わりに、暗いし、足場が悪くて、コケそうだけど。

「ッて、おわ・・!?」

言ってるそばから、砂利に足を滑らせて、思いっきりコケる体勢に。
このままいったら、後頭部直撃は間逃れない・・!


「大丈夫かいな?ホンマ、稜はおっちょこちょいやな〜」

聞きなれたトーンの大阪弁が背後からして、そのまま背を受け止められた。
おかげで、ゴツゴツの砂利道に後頭部を打ち付けないですんだ、けど。

「大道寺、てめー・・ドコ触ってやがるッ」

背後から抱きかかえられ、気づけば俺の腰付近を撫で回していた大道寺ヘンタイヤローの手。
コイツは・・・・どこまで変態なんだよ!

「こんくらいで騒がんといてや。こんなんスキンシップのうちにも入らんやろ?」

奴の手をムリヤリ引き剥がして、俺は大道寺に向き直った。
そこには、やっぱりというかなんというか・・・紫苑と同じ白い氏子の格好をした大道寺がいて。
まあ、相変わらず見目はそこそこなのに・・・この、根っからの変態根性がそれをすっかり損なわせている気がする。
まあ、コレは一生なおらねーだろうけど。

「俺サマの高貴な腰を撫でくり回したから、礼はいわねー。じゃーな、」

目もくれずに歩き出すと、腕をつかまれ、それを制される。

「ンだよっ」

「なんでわいがこんなカッコして神社におんのかとか、聞かないんか!?」

「なんでそんな聞いてほしそーなんだよっ」

「かて、これだけの出番じゃ、わいってただの『稜の腰を撫でくり回した変態男』やん!」

当たりだろーが。
そう言ってやろうと思ったが、またとやかくツッコまれるのもめんどうなので、手短に経緯を説明してやる。

「札買うトコで、さっき紫苑にあったんだよ。アイツもバイトしてんだろ?そこでお前のことも聞いてたの。そんだけ」

「なるほどなァ。てえか、ハルキの氏子姿!めっちゃエロくて、目のやり場に困らん!?白い肌に白い布がよう似合っとって色っぽいわ〜v」

相変わらずのアホ発言にため息をつきつつも、俺はハッとした。
氏子姿・・・・兄者がしたら、ちょー可愛くねえ?
やばい。来年、俺も誘ってみよっかな・・・・。
・・ッて、しまった。
大道寺といると、つい妄想癖に磨きが・・。

「つーか、変態な大道寺クンには神社の氏子は似合わないと思うンですケド」

「え〜、そうかァ?わいは『大道寺』って名前からしてピッタリやと思うんやけど」

「お前は、寺。ここは、神社。奉ってるモンがちげーじゃん」

「そんな細かいこと気にすんなやv」

お前が軽すぎんの、そうツッコみをいれつつ、俺は大道寺に別れを告げて、兄者の元へと向かった。



「兄者ー!やっと会えた〜!」

おみくじとかかれた掛け看板の隣に立っていた兄者を目に留め、俺は一目散に走っていって兄者に抱きついた。
なんか、どっかで見たような光景な気もするけど、認めたくないのでココはスルー。


「ちょっと、稜!抱きつくなってば・・ッ」

相変わらずの瞬速であえなく離され、感傷に浸る間も与えられない可哀相過ぎる俺。
俺がココにたどり着くまでの苦労を知らないから、こんなに無下に俺を扱えるんだ・・!

「マジで俺、大変だったんだぜ?榛名センパイとかバカップルとか〜・・」

しゅんとして俯くと、兄者に頭を撫でられる。
・・っし!子犬チャン作戦大成功♪

「あとで話聞いてあげるから、ね?とりあえず、ここは気を取り直しておみくじでも引こうよ」

にこっと笑って元気付けられ、内心ガッツポーズの俺。
榛名姉の笑顔も素敵だったけど、やっぱ俺には兄者の笑顔がイチバンだー!

「よっしゃー♪今の俺なら、大吉なんか目じゃないぜっ」

100円玉を財布から取り出して、箱に入れる。
その隣では、兄者も同じことをしていた。

「せーので開けようね」

お互いおみくじを引いたことを確認して、とりあえず横に逸れる。
こういうのって、やっぱドキドキするよな。
とくに俺は、占いとか信じちゃうタチだから、当然おみくじの結果なんて気になる。
大吉、あわよくば中吉でもいい。
イイ感じの、でますよーに!


「んじゃ、せーのだぜ。・・せーのっ、」






・ええええぇぇぇ!?えんど・

あけましておめでとうございます!やや遅めに、なんとか完結。
稜は何吉だったんでしょう。
その辺は、皆様の巧みな想像力におまかせします(手抜きと呼ばないで










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