- 序論(Introduction)
シールド(shield)は盾と呼ばれる防具で、片方に武器を持ち、もう片方に盾を持つスタイルが鎧の発達以前に定着したと思われています。 古代ギリシャや、それを源流とするヘレニズム文化圏では、ホプリタイ(hoplite)と呼ばれた重装歩兵が使用していたホプロン(hoplon)と呼ばれる円形の盾が主流だったようで、後にスクトゥム(scutum)と呼ばれる長方形へと変化して行きます。
騎兵用としてはカイト型(Kite shaped)と呼ばれる凧型の盾が主流となります。
紋章の継承に伴い、いくつもの紋章が組み合わされるようになると、縦長の盾では図柄が描きにくくなり、次第にヒーター型と呼ばれる形に変化します。実戦の盾を「シールド(shield)」、紋章の盾を「エスカッシャン(escutcheon)」と呼ぶようになり、紋章を描く図形となります。- 内容(Contents)
-
- エスカッシャンの形(Shape of escutcheon)
- エスカッシャンの形は、時代による変化の他にも、流行や、紋章使用者の目的、好みなどが反映されていたりします。ブーシュ(Bouche)は、槍を通すための切り込みが特徴です。慣習的に女性はロズンジ(lozenge)と呼ばれる菱形又はダイヤモンド形の形を用い、戦闘に参加しない聖職者はオーバル(Oval)と呼ばれる卵形又はカルトゥーシュ(cartouche)と呼ばれる小判型を用いました。しかし、聖職者が必ずこの盾形を使用するとは限りません。
- パーティション(Partitions)
パーティションは、エスカッシャン上のフィールドの分割のことです。
- 2、3、4分割
- 多分割
4つを越す分割で、分割された領域は等間隔で、数は必ず偶数でなければなりません。
- ティンクチャー(Tinctures)
- ティンクチャーは紋章における色のことで、戦場で遠くからでも識別できるように限定された色で表現されます。ティンクチャーは大きく分けて金属色(Metals)
、原色(Colours)、毛皮模様(Furs) の3つの種類があります。金属色にはオーア(金色)とアージェント(銀色)の2色、原色にはアジュール(青色)、ギュールズ(赤色)、パーピュア(紫色)、ヴァート(緑色)、セーブル(黒)の5色、毛皮模様にはアーミン(ermine)シロテン、ヴェア(vair)リスの2色あります。毛皮模様は2色の原色のティンクチャーを用いて表現しますが、紋章では1色として扱われます。基本はこの9色ですが、地域により原色のティンクチャーにはいくつか色が付け加えられたことがあります。
彩色のルールとして、金属色の上に金属色を置かない、原色の上に原色を置かないというルールがあります。これは紋章の起こりがもともと戦場での個人の識別用だったため、遠くから見て識別しにくく、紛らわしい彩色を禁止したことによります。このルールはごく一部の例外を除いて現在でも厳格に守られています。 - スペインの紋章に使用されるR.G.Bです。
204.153.051 オーア/金 245.000.037 アージェント/銀 000.138.255 アジュール/青 245.000.037 ギュールズ/赤 252.031.255 パーピュア/紫 000.199.046 ヴァート/緑 000.000.000 セーブル/黒 255.219.135 (ザクロ)
- ハッチング手法(Hatching system)
ハッチングは、ルネッサンスの絵にも使用された古い方法で、点と線で色を表現するものでした。銅板彫刻師やアーチストにより自然の方法として使用され、すべての可能性から始まったと言えます。
紋章学のハッチングシステムは1630年代に、イタリアの聖職者で紋章学者のシルベスター・ペトラ・サンクタ(Silvester Petra Sancta)とフランスの紋章学者のマーカス・ブルソン・デラ・コロンビ(Marcus Vulson de la Colombiere)により開発されたと言われています。 この方法は着色が困難な印刷物、硬貨などに使用され現在に伝えられています。アーミン、ヴェアを除く下図右側がハッチング手法です。
- ティンクチャーは紋章における色のことで、戦場で遠くからでも識別できるように限定された色で表現されます。ティンクチャーは大きく分けて金属色(Metals)
、原色(Colours)、毛皮模様(Furs) の3つの種類があります。金属色にはオーア(金色)とアージェント(銀色)の2色、原色にはアジュール(青色)、ギュールズ(赤色)、パーピュア(紫色)、ヴァート(緑色)、セーブル(黒)の5色、毛皮模様にはアーミン(ermine)シロテン、ヴェア(vair)リスの2色あります。毛皮模様は2色の原色のティンクチャーを用いて表現しますが、紋章では1色として扱われます。基本はこの9色ですが、地域により原色のティンクチャーにはいくつか色が付け加えられたことがあります。
- チャージ(Charge)
チャージは、エスカッシャン上のフィールドを占める図のことで、単純な幾何学的な図形のオーディナリー(ordinary)や、動植物などの生物、様々な物体の具象図形(concrete figures)などが含まれます。
- オーディナリー(ordinary)
- サブオーディナリー(subordinaries)
- 具象図形(concrete figures)
具象図形はチャージの動物、植物、架空の動物、建物、工芸品などあらゆる物が描かれ制限はありません。しかし元来、騎士が使用するものだったため強さを象徴するライオンや鷲が好まれました。同一紋章の使用には制約があるため動物の色や、数の変更をし、その姿勢も変えて使用されました。それにより主な動物などは決められた姿勢のパターンができ、それ以外のものを紋章図に描くことが禁止されました。
ライオン(Lion)、鷲(Eagle)、百合(Fleur de lis)が三大具象図形と呼ばれます。百獣の王ライオンは、広く使用されイギリス王室の紋章として使用されています。鷲は鳥の王者と言われていて、ローマ皇帝の紋章には双頭の鷲(Double headed eagle)が使用され、のちにハプスブルク家によって神聖ローマ帝国からオーストリア帝国へと受け継がれていきます。ナチス・ドイツもそれにならい、軍服や建築物の随所に鷲の意匠を施しました。ナポレオンやイギリス王室なども鷲を紋章に取り入れています。
アメリカ合衆国はハクトウワシを、フィリピンはフィリピンワシを国鳥としています。
百合は、フルール・ド・リス(Fleur de lis)と呼ばれ、自然の百合の花はガーデン・リリー(Garden lily)として区別されます。バラはヘラルディック・ローズ(Heraldic rose)と呼ばれ自然のバラ(rose)と区別されます。
- オーディナリー(ordinary)
- 位置(shield points)
チャージをどの位置に描くかを記述するために紋章記述(Blazon)の中で使われるシールドの位置を示す言葉です。
- チーフ(Chief)
- デキスター(Dexter)
- シニスター(Sinister)
- ベース(Base)
- デキスター・チーフ(Dexter Chief)
- ミドル・チーフ(Middle Chief)
- シニスター・チーフ(Sinister Chief)
- オーナー・ポイント(Honour Point)
- フェス・ポイント(Fess Point)
- ノンブリル・ポイント(Nombril Point)
- デキスター・ベース(Dexter Base)
- シニスター・ベース(Sinister Base)
- ミドル・ベース(Middle Base)
- チーフ(Chief)
- マーシャリング(marshalling)
結婚や相続などで領地が増えたり家が結ばれ、紋章が組み合わされることをマーシャリングと言います。 紋章の組み方には法則があり、エスカッシャンのどの場所に描かれるかによって、領土や称号の序列、それから家系の由来といったものがわかります。向かって左上が上位で右下が下位になります。

14世紀頃の初期のマーシャリングでは、二つの家の紋章を半分に切り、お互いの紋章を組み合わせる、ディミディエイション(dimidiation)という手法が使われていました。しかし読みとりが困難な紋章があり、2つの家の紋章をデキスター(Dexter)とシニスター(Sinister)に収まるようデフォルメし、それらを組み合わせるインペイルメント(impalement)が広まっていきます。左ナバラ王国、右シャンパーニュ伯(comtes
de Champagne)。1255年のナバラ王テオバルド2世とフランス王ルイ9世と王妃マルグリット・ド・プロヴァンスの娘イザベル・ド・フランス(Isabelle
de France)の結婚によるディミディエイション。

一般に、多く用いられているのがエスカッシャンを4分割するクォータリング(quartering)です。クォータリーを利用し、各クォーターに紋章を組み込むものです。原則として左上から右下へ優位な紋章から配置します。他には、インエスカッシャンの、A家の紋章の中央に、B家の紋章を小さく配置するインプリテンス(in
pretence)があります。左アラゴン王国、右ナバラ王国。1419年、アラゴン王フェルナンド1世と王妃レオノール・デ・アルブルケルケの子、フアン2世(Juan
II)と、ナバラ王カルロス3世とカスティーリャ王エンリケ2世の娘レオノールの娘、ブランカ1世(Blanca I)の結婚によるクォータリングです。
- 序列(rank of marshalling)
- 序列(rank of marshalling)
- スペインの紋章です。
スペイン王国
ブルボン家(House of Bourbon)、カスティーリャ王国(Kingdom of Castile)、レオン王国(Kingdom of Leon)、アラゴン王国(Kingdom of Aragon)、ナバラ王国(Kingdom of Navarre)、グラナダ王国(Kingdom of granada)のマーシャリングです。
ブルボン家(House of Bourbon)
フランス及び両シチリア王国の旧王家。カペー朝のフランス王、ルイ9世の孫のルイがブルボン公家を開き、その後ナバラ王国の王となります。 1700年11月にスペイン・ハプスブルク家の最後の王、カルロス2世が亡くなり、遺言により王位継承者として指名されたアンジュー公がスペイン王フェリペ5世として即位し、スペイン継承戦争を経てスペイン・ブルボン家の祖となります。その後、ナポレオン、1868年の9月革命、1931年の第二共和制の成立、フランコ独裁の終了まで王位は中断しますが、現在もスペインの王家として存続しています。
カスティーリャ王国(Kingdom of Castile) 1035年〜1715年
1035年、ナバラ王サンチョ3世ガルセスが死亡し、ナバラ王国は長男のガルシア・サンチェス3世が相続し、カスティーリャ伯領は次男のフェルナンド1世が相続しカスティーリャ王国となり、ソブラルベ伯領は三男のゴンサロが相続し、アラゴンは嫡出(ちゃくしゅつ)でないラミロ1世に与えられアラゴン王国となります。
レオン王国(Kingdom of Leon) 910年〜1037
アストゥリアス王国は、アルフォンソ2世(Alfonso II)の時代にガリシア地方へと勢力を拡大し、オビエドを都とします。 856年には、アストゥリアス王オルドニョ1世(Ordono I)がレオン地方を征服し、910年に、ガルシア1世は都をオビエドからレオンへと移し、アストゥリアス王国はレオン王国に改名されます。
アラゴン王国(Kingdom of Aragon) 1035年〜1715年
1035年、ナバラ王サンチョ3世ガルセスが死亡し、アラゴン川の渓谷を、嫡出(ちゃくしゅつ)でないラミロ1世が相続し、アラゴン王国となります。
ナバラ王国(Kingdom of Navarre)
中世のイベリア半島北東部パンプローナ王国のフォルトゥン・ガルセス(Fortun Garces)から、905年に、王位を譲られたサンチョ・ガルセス1世(Sancho Garces I)が初代ナバラ王となります。 1010年、サンチョ・ガルセス3世(Sancho Garces III)は、カスティリャ伯サンチョ・ガルシアの娘ムニアと結婚し、カスティリャ伯はナバラ王国の領土に組み入れられます。サンチョ・ガルセス3世は次第に領土を拡大して行きます。
グラナダ王国(Kingdom of granada)
イベリア半島最南部に、1237年ムハンマド1世が都を正式にグラナダに定めたイスラーム王朝。キリスト教勢力のレコンキスタ(再征服運動)により13世紀前半までにイスラームの多くがカスティーリャ王国に征服されていきました。そのためグラナダ王国はイベリア半島における最後のイスラームとなり、1492年、スペイン王国に征服されたことで、キリスト教勢力によるレコンキスタが完了します。
- エスカッシャンの形(Shape of escutcheon)