風船の星


 天気の良い日のことです。
 美加ちゃんが家の近くで遊んでいると、隣のめぐみちゃんが沢山の風船を持って歩いて来ました。
「あ…きれい。」
「いいでしょう。角のお店のおじさんに貰ったのよ。」
そういってめぐみちゃんは、そのお店を指さしました。
 美加ちゃんもふうせんがほしくなったので、急いでそのお店のところまで行きました。でも、風船などどこにも見当たりません。
「ねえ、おじさん風船は?」
「ああ、風船。ごめんね、もうなくなっちゃったんだよ。でも、ふくらませてないので良かったらまだいくつ かあるから、持ってきてあげようか。」
「うん。」
美加ちゃんがそういうと、おじさんはお店の奥に行って赤いゴム風船をいくつか持ってきてくれました。
「おうちへ帰ってお母さんにふくらませてもらうといいよ。じゃあ、気をつけて帰ってね。」
「はい、ありがとう。」
 美加ちゃんはそういうと風船をふくらませてもらいたくて、大急ぎで家に戻りました。
「ただいま!お母さん、この風船ふくらませてちょうだい。」
「え、風船?お母さんにできるかしら。」
そう言いながらお母さんは風船を手にとってふーっと息を入れました。でも、ふくらみません。
「お母さん早く!」
「せかせないで、もう一度ね。」
何度かふーっとやっているうちに少しふくらみました。
「もう大丈夫、ふくらむわ。」
そしてもう一度ふーっと息を入れると、めぐみちゃんが持っていた風船と同じくらい大きくなりました。
「さあ、できた。これ一つでいいでしょう。お母さん疲れちゃった。」
「うん、これ一つでいい。お庭で遊んでこようっと。」
 美加ちゃんは、お母さんがふくらませてくれた風船を持って庭におりました。そこで、風船をポーンと空に向かって打ち上げました。落ちてきたらもう一度ポーンと打ち上げました。そうやって夕方になってお母さんに、
「お夕飯ですよ。」
と呼ばれるまで、美加ちゃんは風船で遊んでいたのでした。
 次の日も同じように、美加ちゃんは風船で遊んでいました。でも、それから何日かすると、風船は部屋の片隅に置かれたままになりました。
 それからまた何日たった日のことでしょう。。美加ちゃんはめぐみちゃんの家で遊んでいました。めぐみちゃんの家では、一ヵ月ほど前にめぐみちゃんをとても可愛がっていたおじいさんが亡くなったのでした。美加ちゃんは、めぐみちゃんのおじいさんが亡くなったのは知っていましたが、「美加ちゃん、こんにちは。」と言いながら、どこからかやってくるような気がしました。
「めぐみちゃんのおじいちゃん、今頃どうしているのかしら。」
「めぐみのおじいちゃん?今はね、お星様になったのよ。」
「ふーん、お星様になったの。」
「そうよ、みんなお星様になるんだっておばあちゃんが言ってたもの。」
二人は遊びながら、そんな話をしていました。するとめぐみちゃんのお兄さんが、それを聞いて笑いながら言うのでした。
「ばかだなあ。めぐみはそんなこと信じているのか。」
お兄さんはそう言いましたが、二人はそんなことなど聞かずに話し続けました。
 その次の日の夕方のことです。
「美加、美加のお部屋のゴミを持っていらっしゃい。お庭で燃やすから。」
「はーい!」
そう言って美加ちゃんはゴミ箱を持っていこうとしました。その時、いつかの風船がしぼんで小さくなって部屋の片隅にあることに気がつきました。それはもう遊ぶこともできないほどしぼんでいたので、美加ちゃんは捨ててしまおうと思いゴミ箱の中に入れて持っていきました。
 お母さんは、そのゴミ箱の中のものを庭のたき火の中に入れました。
「あら、風船。」
「もういらないの。この風船、おばあさんだから。」
美加ちゃんはそう言って風船を見ました。風船が火のそばで動いています。そして一瞬プーッと大きくなったかと思うと、
「パン!」
と、音をたてて割れました。
「わあ!」
美加ちゃんとお母さんは驚いて声を上げました。
「でも、お母さんきれいね。ほら、お星様みたいに光ってお空に飛んでいく。」
「そうね。」
 美加ちゃんは、風船の燃えかすが空に舞い上がっていくのを見ながら、ずっと部屋の片隅に置きっぱなしだった風船がかわいそうになりました。そして、できることならこの風船が本当のお星様になってくれたらいいのにと美加ちゃんは思うのでした。 
                                                         終わり


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