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第53回「バタバタしちまった日。」
「ウェッ…気持ち悪い…」。10月6日(土)の朝は吐き気で始まった。自分にとって初めての上映会を迎えるにあたり、まず自分自身が楽しむことを決めたはずなのに、体はなんとも正直だ。普段吐き気をもよおすことなんてまずないのに、やはり緊張しているのだろうか。情けない。
本番は夜の9時から。ほとんどの準備は前日までにすべて終えたが、当日のアナウンス原稿を完成させなくてはならない。しかも上映後のトークに関しては、何をどうしゃべるのかさえ決まっていない。どうなっちゃうんだか。原稿を考えながらもなんだか落ちつかない。
会場で手伝ってくれるスタッフやトークに出てもらうキャストとの打ち合わせは7時からなので、昼頃までは作業を進められるのだが、チョコチョコ電話がかかってきて作業が中断される。でもほとんどの電話が今日劇場に来てくれる知りあいからのもので、少なくとも全くお客さんが入らないということだけは避けられそうで安心する(いや、マジでそんな想像しちゃうくらい不安だったりするのよ)。
スチールを撮ってくれるスタッフの伊東さんとともに、夕方都内に向かうが、その列車でひたすらしゃべりまくってしまう飯野。何をしゃべったのかあまり覚えてないのだが、新宿に付く頃に「なんだかもう疲れちゃったね」という会話をしたのだけが鮮明に残っている。こんなことでは「僕、緊張してます」って顔に書いてあるみたいじゃないか!と思い、静かにしようと密かに決意をするが、当然のことながら気付くとまたしゃべりまくる自分を発見する。
途中、新宿でビデオテープを買いに寄り道。ついでにちょっと早めの夕食を取ることにする。腹はそれなりに減っているハズなのに「食欲ないような気がする」とか思う。でも食べておかないともたないし、頑張って注文。で、料理が出てくるまでひとしきりまた喋る(本人は無意識)。いったい何をしゃべってたんだか。
料理が出てきて二人とも食べ始めるが、フト気付くと飯野は全部たいらげている。横の伊東さんを見るとまだ半分程度しか進んでいない。「食欲がなかったハズ…」と、その分裂気味な自分をさすがにイヤになるが、なんていうか全然落ちつかないのだ。腹が減ってたんだか、そうでなかったかなんかはどうでもいいが、体全体がキューッと締め付けられているような感覚が続いていて、ストレス感じまくり。
大体、今更なにをそんなに緊張する必要があるってんだ。作品を見せるだけじゃないか。直したくたってもう直せないし、開き直れ開き直れ。と、いよいよ劇場のある東中野駅にむかう。ま、その道中また無意識にしゃべりまくっているのは当然として、駅に降り立った時に目に入る「BOX東中野」の看板を見ると、結局緊張感が高まる(BOX東中野は線路沿いの劇場なので、ホームから見えるのだ)。
まだ劇場に行く時刻じゃないので、近くのミスタードーナツにてキャスト・スタッフと打ち合わせ。今日の流れを説明して、それぞれにやってもらう仕事を説明する。キャストとは引き続き上映後のトークの打ち合わせに入る。キャストの石山くん、山崎くん、五十嵐くん(「詭弁の街」)はなにやら本番で企んでいる様子だが、監督の僕には全然教えてくれない。何かされるんじゃないかと下らない思いを馳せたりして精神状態は疲弊しまくる。
そうこうしているうちに時間が来て劇場に入る。すぐにトークの司会・木下さんと打ち合わせを開始。しかしその間にやたらと呼び出される。僕の上映はこれから始まる「12の目作家別レイト上映」の初日のため、まだまだ段取りがしっかりしてない。いつの間にか全部が同時進行になっているのだ。受け付けでのチケットの確認や、スタッフの配置、劇場側とのトーク段取り打ち合わせなどやることが次々出てくる。
木下さんを始め初対面の人も多いため、その紹介をやっているだけでもドンドン時間が過ぎて行く。合間を縫って打ち合わせをしているうちに、またスタッフに呼び出される。当日清算ということで前売り券の予約をしていたお客さんが、いよいよやってきたのだ。気付くとすでに8時半。うわっ。全部の事が中途半端のままお客さんが来始めてしまった。
「ということで、お願いします」と何が「ということ」なのか分からない言葉を木下さんに発して、事務室から出る飯野。スタッフに案内されてお客さんのもとへ。「今日はありがとうございます」とスマイル状態で前売り券を販売するが、そう思っていたのはおそらく自分だけで、ハタから見ていると顔が引きつっていたことだろう。
実は当日清算券が50枚以上あり、途中で混乱しないようにそれぞれ封筒に分けて入れていたのだが、実際に清算を始めてみると「お釣りがない!」とか「予約枚数が違う…」とか、まったく初心者まるだしの愚かな展開が続くのだ。本来なら劇場の外で待ちかまえて清算するつもりだったのに、すでに続々と劇場の階段には当日清算のお客さんが集まっている(BOX東中野は地下の劇場なので受付まで階段で降りる)。
もう自分が何枚売って、いくら受け取ったのか全然確認できないまま、階段を走りまわって清算をし続ける監督。ついに12の眼スタッフの森川くんに「飯野さんが清算するのは、やはりマズいと思います」と注意される。うう…スミマセン。でもこうなると僕しか分からなくなっているのです。と訴えて続ける。確かに公開当日に劇場でチケット清算しまくる監督ってのは、あまり美しくはない。
途中、事務室に戻るとキャストのみんながくつろいでいる。あぁ俺だけバカみたいにうろたえている…。もちろん身から出たサビなので仕方ないが、大きく息を吐いてみんなを見たら「飯野さん泣きそう」と言われる。いや「泣きそう」ではなく、心の中では「号泣」なのだ(イバるな)。次の瞬間、またスタッフに呼ばれて返事をするときに声が裏返ってかすれる。もういっぱいいっぱいなのがバレバレ。ま、隠そうとしてたワケでもないが、あまりの段取りのひどさに自己嫌悪。しかしそれにひたっているヒマすら今はない。
まとめて清算してもらった人の仲間の方が、僕にチケットをもらおうと来る場合もあり、そんな時は代表の方を探しに走らなくてはならない。劇場内(階段)にはいないので、外に見に行く。するとそこで目にしたのは劇場前に集まる多くの人々。「え?」と一瞬おどろく。これって全部僕の上映に来てくれた人なの?チケットは整理券に変えて、入場時まで外に出てても大丈夫なのだが、それにしても想像以上の数に見える。ちょっと嬉しいかもしんない…
だが結局、そこでも声をかけてくれる友人や知り合いに挨拶しながら、清算をしたりしてバタバタは続く。再び劇場内に戻ると階段では受付から整理番号順に整列が始まっている。僕自身が全然余裕がないので、スタッフのみんなが動いてくれているのだ。ホントに感謝。そのうち劇場の阿部さんに「そろそろ入場を開始します」と言われ「もうそんな時間?」と焦る。が、進行スケジュールがただでさえキツいのでガンガン進めないといけない。
少し精神を落ちつけて入場を迎えよう。そう思って気を引き締めるが、その瞬間ひとつの事実に気付く。「あるモノ」がない!わー!どうする歩飯野!
<つづく!>
(おい、マジかよ)
(2001年10月18日第73号) |