舟歌 第9番 作品101
9eme Barcarolle op.101 (1908)


1.背景

フォレが歌劇「ペネロープ」の作曲に熱中していた時期に書かれた作品。ゴンドラ漕ぎの歌といわれる揺れをともなう、やや影を持った旋律が終始聞こえる。ネクトゥーはこの旋律を<想像上のフォークロア>だとしており、ピアノにストのマルグリト・ロンは「もしも自分自身がヴェネツィアに住んだことがなければ、この舟歌は演奏できなかったでしょう」と述べており、ヴェネツィアのヴィジョンの反映を指摘している。僕はそのようなことはあるにしてもむしろ明快な旋律に実験的伴奏を付ける試みをすることに力を注いでいるように感じる。その結果この旋律はいろいろな性格を持ち、時には物憂げに、時には華やかに、時にはおおらかに、歌いついでいく。結果として舟歌の中で最も美しい作品に仕上がっている。
この年国民音楽協会を不満とするフォレの教え子達が設立した、独立音楽協会の会長に選ばれる。

初演は1909年3月30日、エラール・ホールでマルグリト・ロンによるフォレの作品による演奏会で行われた。献呈はシャルル・ネフ夫人。同じ月、フォレとロンによるバルセロナでのコンサートが、聴きに来ていたフェデリコ・モンポウに作曲家を目指すきっかけとなった。

このころの作品は他に「夜想曲9番」作品97、「チェロとピアノのためのセレナーデ」作品98(パブロ・カザルスに献呈)、「即興曲5番」作品102、「前奏曲」の最初の3曲など。「イヴの歌」のほとんどが書かれ、「ペネロープ」は2幕を作曲中。

参考文献J=M・ネクトゥー著「評伝フォーレ」
解説「WPCS-6325-8」


2.構成

単一主題による変奏曲。


3.各主題とその利用、展開

舟歌らしい揺れる「歌」が主題となる
フレーズA

このモチーフAから派生したフレーズが続き、14小節の主題を作っている。
フレーズB

そしてフレーズC

各フレーズがどのように変奏されているか、楽譜をあげていく。

・フレーズA
1小節〜ためらうように始まる。
(伴奏は後期の作品におおい1拍目がないパターン)

15小節〜左手のテノールに現れる。
(括弧の部分。フレーズはそのまま)

23小節〜

36小節〜和音変化が加えられていく。
(水面が煌めくような右手)

和声は解決されずドミナントで次に繋いでいく。
44小節〜一つのクライマックスを迎える。ここから少しずつ軽くなり、和声もくすんだ色合いからきらめきを加えた和音が目立つようになる。

56小節〜3度現れるフレーズは全音で上昇転調。ここが最も美しいと感じる。
(ソプラノとテノールのカノンが聴かれる)

74小節〜単純ながらセンスを感じる和音付け
(属9の和音が美しい)

84小節〜そして穏やかに曲を終える。

・フレーズB
5小節〜

19小節〜旋律の周りに少しずつ他のフレーズがまとわりついていく
(カノンのように装飾されていく)

27小節〜水の流れのように音楽が動きを持ちはじめる

40小節〜反復するフレーズに同様に反復する装飾が複雑に絡んでいく

46小節〜フレーズAが一つのクライマックスを迎えたあと。シンプルで明確。この効果が逆に緊張感を持続させるようだ

62小節〜解決しない和声の連続。フレーズごとの解決はせず、終曲に向かって突き進む。

70小節〜62小節目から続いたフレーズBはここで落ち着く。
(緊張感は解放され落ち着きを取り戻す)

このあと78小節目にも現れ、フレーズAに繋がり曲を終える。

・フレーズC
フレーズCは少し形を変える。主題が新しい性格に変わる時に挟み込まれる経過的フレーズ。
32小節〜くすんだ和音がこの後少しずつ煌めいていく場面

52小節〜最高音からきらめきながら下降。この後もっとも美しい場面に繋がっていく。


4.この作品について思うこと

変奏曲というスタイルを取りながらもその枠に捕われない柔軟さがこの作品を美しくしている要因なのだろうか。主題の分かりやすさに後期の慎重さ、柔軟な主題の取扱いと明確な構成、それらが見事に融合した作品に仕上がっている。


CD評(好みの演奏にはジャケット画像を、そのなかでの1番の好みの演奏には、さらに★★★をつけてあります)

ピエール - アラン・ヴォロンダ 
Pierre - Alain Volondat / (NAXOS)

穏やかなテンポがこの作品にあっているのだが、唐突な音楽の変化がやや不自然。気になるのはフレーズの流れに関係なく、音の厚みにあわせて音量や音圧が増してしまうこと。これでは曲を理解できていないように感じてしまう。
ポール・クロスリー 
Paul Crossly / (CRD)

絶えず変化を続け絶えず流れ続ける川の流れのような柔軟性を持った音楽。その流れにのって歌われていく旋律。あるところでは速くなり、あるところでは緩やかになり、そして光を反射してきらめきながら流れていく川のような音楽。静と動、穏やかさと力強さなど反するものが交互に現れ、あるいは同居しながら進む音楽。それが冷たく、美しい音色で覆われている。

ジャン - フィリップ・コラール 
Jean - Philippe Collard / (EMI)


推進力があり華やかな演奏。ダイナミクスも広く、情熱的でさえもある。しかしそれでいてテンポは安定しており、音の隅々まできちんとコントロールされているのでバランスもよい。遊びも少なくやや技巧的に感じる所もあるのだが、その代わり無駄も隙もない演奏である。

ジャン - ミシェル・ダマーズ 
Jean - Michel Damase / (ACCORD)


特に際立った印象のないスタンダードな演奏に聴こえるが、よく聴くと、穏やかに始まる音楽が主題の変奏を経る毎に、細かく動的になっていくに従い増していく心地良い緊張感とスピード感や、フレーズの歌いだしや収めるときのさりげないテンポの「揺れ」などとてもセンスのよい音楽作りがされていることがわかる。

ジェルメーヌ・ティッサン - ヴァランタン 
Germaine Thyssens - Valentin / (TESTAMENT)


★★★
心地良い揺れを伴いながら軽やかに演奏している。形・場所を変えて現れるテーマは他の声部に埋もれる事なく、フォレのフレーズを自在に変化させていく面白さを楽しむ事ができる。特に主題をカノン的に扱う56小節目からは、追いかけるフレーズは両手にまたがって演奏していると思えないほど自然でありしなやか。美音で奏しているものは多いが、このように「生きた」演奏は少ないのではないだろうか。
ジャン・ドワイヤン 
Jean Doyen / (ERATO)

ゆったりとしたテンポ。それに加え重みのある音色、特にフレーズごとにバランスを変えていないこともあり、音楽は重い。それは56小節目からの和声の変化、フレーズのカノン的手法、アルペジオのきらめきのようなところでは華やかで美しくなるのだが、推進力も弱いためか全体的な重さの方が強い。
ジャン・ユボー 
Jean Hubeau / (ERATO)

主題が様々に形を変えていく場面ごとに「間」をあけたり、音色的な変化を加えたりする事が多いのだろうが、ユボー氏の演奏はそのような「テクニック」に頼る事なくストレートにこの作品に向かっている。内声のフレーズはもちろんの事、ベースラインをはっきりさせる事で全体の響きが安定し豊かに聴こえてくる。フォレの作品はベースラインが一つの旋律であるような動きをさせる事に特徴があるが、それを聴き手にはっきり認識させてくれる演奏である。

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