《2004年7月29日 USA TODAY》
糖尿病で競泳人生が終わったりはしない!
競泳選手であるゲーリー・ホールは1999年にT型糖尿病であると分かった時、かなりのショックと衝撃を受けた。
先週、来たるオリンピックのために練習をしているスタンフォードで、電話インタビューに答えて彼は次のように語った。
「診断された時は本当に恐かったです。糖尿病が失明や腎臓病、足切断などの一番の原因であるといういろいろな話やその数字的データを聞かされましたから。」
「『時間の問題なんだ。遅かれ早かれこんなこと(合併症)が起きるんだ』って、僕は思っていました。でも時間が経過し(糖尿病の)教育を受けて、合併症は必ずしも起きるものではないってことがわかりましたよ。」
ホールの存在は『糖尿病=不可能』ではないことの実例である。
競泳はもう出来ないと医者に言われてからも、彼は1996年のオリンピックでの4つのメダルに引き続き、2000年のオリンピックでもさらに4つのメダルを獲得した。
来月の(オリンピックでの)50M自由形と400Mリレーのために、一日6時間はプールにいるという。
アメリカでは100万人の患者がいるT型糖尿病は、膵臓のインスリンを作る細胞が破壊されることがその原因である。肥満や運動不足が原因で中高年に多く発症し一般的によく知られている2型糖尿病と違って、T型はスリムで活発な子供や若者に襲いかかる病気でもある。(ホールが発症したのは25歳の時)
血中の糖分をエネルギーに変える細胞へ取り込む働き補助するインスリンを体内で全く分泌できないため、T型患者はインスリン注射を毎日打たなければならないのである。
「非常に数多くの『自己管理』が要求される病気です。実際のところ、とても不便です。選択肢があまりないという不便さですが・・・。しかし、どのようにこの病気と向き合い管理するかという範囲内で『選択』することはできるのですよ。
ある意味、競泳に似ています。競泳というのは最終的には個人競技なのです。スタート台にあがるまではチームで取り組みますが、スタート台に立つのは自分一人なのです。」と、ホールは語る。
ホールの競泳チームには内分泌科の医師、糖尿病の専門アドヴァイザー、栄養士がいる。少なくとも年に2回、A1cの検査を受け、過去3ヶ月間の血糖値コントロールが順調であったかどうかをチェックする。
ホールは1日に6〜8回、試合のある日には12〜15回、指に針を刺し、血液の検査をする。特殊な検査紙に血液を一滴落とし、手のひらサイズのモニターで血糖値を計るのである。このように頻繁に検査をすることによって、ホールはいつ・どのくらいの量のインスリンが必要かを正確に決めることができるのである。このようにして、彼の血糖値は理想とされる範囲内に保たれているのである。 血糖値が高いと太い血管から毛細血管にいたるまでダメージを与え、長期に渡ってしまう合併症を起こしかねない。また、低ければ体が震えたり、目眩いでふらついたり、また、意識を失ってしまうことも起こってしまう。
ホールは一日平均6〜8回インスリン注射を打っている。 練習量と食事に応じて10〜12回もの注射をする日もある。
「糖尿病患者の人生の中身は、その人がどれだけ管理をすることができるか次第、つまりその人その人次第なのです。この病気をとても上手く管理し重篤な合併症を発病せずにすごしている人もいるのです。そうなのです。やれば出来るのですよ(合併症を発病させないということも可能なのです。)もし発病してしまったとしたら、他人を責めるのではなく、責めるべきは自分自身なのです。」
さまざまな技術的進歩があったことで、第一線級で活躍する運動選手でも厳しい糖尿病の管理をすることができるようになったと、ジョスリン糖尿病調査財団のカレン・ブラウンリー氏は述べている。ポケットサイズの血糖値測定器はほんの数秒で正確な数値を出してくれる。インスリン製剤も即効性や一日中少量で効くようにするものなど、様々なものが出てきている。カートリッジを入れたペン型インスリン注射器から常時インスリンを注入できるインスリンポンプに至るまで、様々な器具も出てきている。その結果、第一線級で活躍できる糖尿病患者の運動選手は今後さらに増えてくるであろう、そしてこの病気に対する関心を高めてくれるであろうと、ブラウンリー氏は述べている。
「『糖尿病をきちんと管理すれば、やりたいことを成し遂げるあらゆる機会は開けてくるのです』と、彼らは声を大にして言ってくれることでしょうね。」
実際、このような選手達の活躍もとても大きい。たとえば、PGAツアーゴルファーのスコット・ヴァープランクは今年度のライダーカップの有力選手に挙げられているし、アダム・モリソンは人気投票で5本の指に入るゴンザガバスケットチームで新人ながら今季は司令塔として活躍し、デトロイトタイガーズのピッチャー、ジェイソン・ジョンソンも今のところ7勝8敗という堅実な成績をおさめている。
「ホールは1型糖尿病の若者達を激励する活動を熱心に行っているのです。時間が許す時には子供達と話をし、自らの知識を直に子供達に伝えようとしています。」と、ブラウンリー氏は述べている。
糖尿病は軽く考えてはいけない病気で、きちんと管理しないと体にひどい障害をもたらし、死んでしまうこともある大変な病気なのです、と、ホールは子供達に言っている。けれども、糖尿病であるからといってしり込みをする必要もないのだいうこともホールは子供達に教えたいと考えている。
「僕がオリンピックで世界中の一流選手たちと競うことができれば、子供達だってサッカーだろうと他のどんなことであろうと運動選手としてやっていけるのです」と、ホールは述べている。
ホールは小児患者ににとって素晴らしいお手本であるのだが、自分自身を奮い立たせるためには、彼は自分より年長者へと目を向けることにしている。
「糖尿病関連の行事、ウォークとか基金集めとかへ行くと、糖尿病でありながら人並みはずれた事をしている方々に会うことが出来ます。45年間という病歴をもちながら何の合併症も発症していない人に出会ったりすると、僕にとってはそれがとっても励みになるのです。これから先、(合併症のような)ぞっとするようなことが起こるとは限らないということがわかると、自分の気持ちも楽になるのです。」と、ホールは言っていた。
Translated by Mieko without permission from the press.