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サロン及び翻訳城
| 今月の言葉 <個々人が感じる苦痛であれ、快感であれ、言葉でもって真に表現することは、不可能である。それら快苦を、もとの状態で伝えることは、決してできないものである。それらを惹き起こした、事情なり条件なりを、鮮やかに描くことで、同情心のある人の心に、せいぜい類似した質の感情をかきたてることはできよう。しかし苦なり快なりを引き起こした事情が、人間が共通に経験することとは、まったくかけ離れている場合には、いかにそれらを表現しようとも、そこに惹き起こされた感情を、十分に伝えることはできなかろう。 そういうわけであるから、私が私の前世を見たときの、ありのままの苦痛を語ろうと努めても、甲斐のないことである。ただ私にはこう言える。個人としての存在に可能な苦痛を、どんなにむすび合わせても、あの苦痛、無数の生命から織りなされた苦痛に、たとえることはできまいと。あたかも、私の神経の一つ一つが引き延ばされ、百万年もの過去にわたって、とてつもない感覚の織物となって、紡ぎだされたかのようであった。さらに、その数限りない横糸と縦糸の全体が、すべての震える糸を伝わって、過去の深淵から、私の意識に注ぎこまれるかのようであった。それは名状しがたいおぞましさであり、人間の脳がたえるには、あまりにも巨大な恐怖であった。 それというのも、過去を見渡している私は、二重にも、四重にも、八重にもなるのであった。私は算術級数的に倍化して行くのであった。私は百倍にも、千倍にもなり、いく千もの恐怖にとらわれ、いく千もの苦悶にさいなまれ、いく千もの断末魔に身をふるわせた。しかも、いかなる快をも知らないのである。あらゆる喜び、あらゆる快感は、霧のような、影のようなものに過ぎなかった。ただ苦痛と恐れだけが、現実であり、しかも、たえずたえず増していくのだ。すると、感覚そのものが破裂して、砕け散るかと思われた瞬間に、ある神々しいものが触れて、恐るべき幻影を終わらせ、単一の現在の、単純な意識へと、私をつれもどした。あー、なんと言いがたく甘美なことか、多重なものから、単一なものへと、突然に縮小していくことは! 世界我(Self)が、個我(individuality)という盲目で、すべてを忘れ去る麻痺の中へ、とてつもなく、測り知れない崩壊を遂げることは!> ラフカディオ・ハーン : 「円環」より |
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