AED&PAD

AED(自動体外式除細動器:Autometed・External・ Defibrilator)を使用した市民による早期除細動システム(Pablic・Access・ Defibrilation)について


1.はじめに

 「HIGEさんのスポーツ救命救急誕生秘話」でもご紹介致しましたが,1986年1月22日,女子実業団バレーボールの「日立VSダイエー」の試合中、1984年のロサンゼルス五輪女子バレーボールにおいて、アメリカチームに銀メダルをもたらし、当時日本の「ダイエー」に所属していた長身のエースアタッカー「フロー・ハイマン選手」が試合中のベンチで突然意識を失い倒れました。ハイマン選手は突然の「心室細動」(HIGEさんのスポーツ救命救急誕生秘話をご参照下さい。)に襲われ,病院に搬送されましたが残念ながら遠い異国の地である日本でその生涯を終えてしまいました。

 この時、試合を中断させることもなく、試合会場から係員がただ担架で運び出しているだけのTVニュース映像が米国で放送された時、ニュースを見ていた米国市民から、「なぜ、日本人は心肺蘇生法をしないのか」と厳しい批判を受けました。それから16年経った2002年11月21日には,カナダ大使館でスカッシュ練習中の高円宮殿下(47歳)が「心室細動」に見舞われ急逝なさり、翌日の11月22日には「福知山マラソン大会」において58歳と59歳の二人の男性が,さらに同日に行われていた「名古屋シティマラソン」では,58歳の男性が・・・たった2日間で4人もの尊い命が「心室細動」による心臓突然死で死亡するという痛ましい事故が重なりました。

 それから遡ること半年前・・・日本では日韓共催のサッカーワールドカップが開催されていましたが,このワールドカップほど、日本国民が一致団結して燃え上がったことは近年なかったのではないでしょうか。
日本中の期待を一身に集めた日本代表は、1次リーグ初戦でベルギーと引き分け、2戦目にはロシアを破り、そして決勝トーナメント進出への鍵となる16強入りを目指してチュニジアと対戦することになったのです。
 2002年6月14日、期待の高まるなか、日本対チュニジア戦が大阪で行われました。チュニジアにしても日本に2点差以上で勝てば、1次リーグを突破できる状況でした。
 激戦の中、森島寛晃、中田英寿がシュートを決め、日本は2対1でチュニジアを破り、見事16強入りを果たしたのでした。競技場は日本の熱狂的なサポーターに埋め尽くされ、歓喜にわいたのは言うまでもありませんが、それは地元大阪だけのことではありませんでした。

 東京のファンに応えるため、神宮にある国立競技場では巨大スクリーンに試合の様子が放映され、じかに試合を見られない多くの若者が喜びを分かち合うために集まりましたが,その国立競技場に入ろうと行列の中にいた1人の19歳の女性が心停止を起こしたのです。 13時30分頃のことです。
 救護医が5分でそこに駆けつけたのですが、救命するのにどうしても必要な器械がそこにはありませんでした。除細動器です。これがないといくら心臓マッサージを続けても助けることができません。除細動器を持って救急救命士が駆けつけて電気ショックをかけたのは、連絡を受けてから13分後のことでしたが,そこまで遅いと、もはやこの器械をもってしても効果を発揮することはできません。
 さらに12分後、この女性はすぐそばの病院に運ばれたのですが、残念ながら救命することができず、2時55分に亡くなられました。日本中が歓喜に酔っている間のとても悲しい、可哀想な出来事でした。

 国立競技場での心停止はこれが初めてではありません。36歳の男性の残念な例がありました。子供と一緒に国立競技場を親子マラソンで走っていました。
スタートしてから500メートル地点、国立競技場の中で心肺停止を起こし倒れました。数分後に救護医が走って駆けつけ心臓マッサージをしました。119番に通報され除細動器が到着したのは12分後です。除細動を行いましたが心臓は元にもどらず、救命することはできませんでした。一緒に走っていた子供、応援していた母親の受けた衝撃を思うと、本当に心が痛みます。 「HIGEさんのスポーツ救命救急」ともリンクをさせて頂いている「AED普及推進運動」をなさっていらっしゃる「さくらさん」の愛するお嬢さんも,高校の体育祭でリレーを走り終わった直後「心室細動」に見舞われ,あまりにも早く天に召されてしまいました・・・・

 「心室細動」の悲劇は国外でも発生しています。2003年6月にフランスで開催されたサッカーの国際大会、「FIFA コンフェデレーションズカップ」の準決勝において、試合中のカメルーン代表のフォエ選手が試合中に急逝、同年秋には、ポルトガルリーグのベンフィカに所属するハンガリー代表、M・フェヘル選手もフォエ選手と同じように試合中に急逝しましたが、いずれも「心室細動」がその原因とされています。
 高円宮殿下の事例では、その場に居合わせた大使館員が、マラソンの事例では沿道5Kmごとに配置されていた救急救命士やマラソンに参加していた医師や看護師が,国立競技場では救護医が・・・心肺蘇生法を実施し、救命の鎖(Chain of Survival)の連携も行われましたが,残念ながらその「命」を救うことはできませんでした・・・・


                   【救命の鎖:Chain of Survival】
                 救命の鎖:Chain of Survival
               バイスタンダーから救急隊そして 医療機関へ

 これらの事例の原因とされているのは、致死的不整脈と呼ばれている「心室細動」ですが、もしもこれらの事故現場に「AED」(自動体外式除細動器(AED:Autometed external defibrillator)」があり、倒れた人の傍らにいる人達(バイスタンダー)が「AED」を使用することができたなら,この人々の尊い生命は,あるいは救われていたかもしれません。
 「心室細動」は何らかの原因により,心臓の鼓動が小刻みに乱れ,心臓がケイレンをしている状態を言いますが,この「心室細動」を改善し,正常な拍動に戻すための唯一の手段が,心臓に電気ショックを掛ける「除細動(細動を除くという意味)」です。例えればダラ〜っとだらけてしまった人を正気に戻すために往復ビンタを食らわせるといったら判りやすいと思いますが,この電気ショックを誰でも安全に簡単に実施できる機器が後ほどご説明する「AED」なのです。



2,「心肺蘇生法国際ガイドライン2000」と「心臓突然死」について

 これから「AED」の説明を始めたいと思いますが,まず米国心臓協会(AHA::American Heart Asosietion)」が,西暦2000年に策定した心肺蘇生法の国際基準である「心肺蘇生法国際ガイドライン2000(以下,G2000と呼びます。)」についてのご説明をさせて頂きたいと思います。

 米国心臓協会(AHA)では,過去における心臓突然死の事例と,その場において応急手当を実施した者(バイスタンダー)に関するデータと統計に基づき「心肺蘇生法」の国際基準と,心臓突然死に陥った者をより多く救命するための指針などを策定しました。
 日本においても,この「G・2000」に基づき,「心肺蘇生法」の改訂が行われ,現在は日本全国で「G・2000に基づいた国際標準の心肺蘇生法」が指導されていますが,この心肺蘇生法だけでは,「心室細動」に陥った傷病者の救命は非常に困難であり,倒れた者のすぐ隣に居合わせた一般市民(バイスタンダー)が、「AED」を使用して直ちに除細動(心臓への電気ショック)を行うこと。即ち,「市民による早期除細動(Public Access Defibrillation:略称PAD)システム」こそが救命の唯一かつ最大の手段であると結論付けています。

 人は身近な人が死ぬと、それをあきらめることによって、悲しみを紛らわせ、やりどころのない怒りを収めようとします。 そうでもしなければやっていけないものです。確かに、それが病気で段々と悪化をたどり、死にたどり着いたのであれば、それは取り戻しようのない運命としてあきらめるしかないでしょう。しかし突然死の場合もそれでよいのでしょうか。それは本当に取り戻しようのない運命なのでしょうか。
 実は突然死は、ほかの病気による死亡と決定的に異なる点があります。突然死はアッという間に起こりますが、アッという間に元に戻る可能性があるのです。じわじわと悪化して死に至る、というのとは全く異なります。
 心臓突然死の多くは身体のちょっとしたミスで起こります。いってみれば電気のコンセントをつい蹴飛ばして、真っ暗になってしまった、というレベルの出来事なのです。コンセントをまた差し込めば明るくなるのに、それをしないであきらめる。これが今、皆が突然死に対してやっていることなのです。
 車でいえば、バッテリーのような電気系統の故障であって、必ずしもエンジンが壊れているわけではないのです。もし電気系統だけの故障なら、そこだけちょっと直せば、また元と同じように車を走らせることができるのです。
 人間も同じです。突然死の多くは、この電気系統の故障で起こっているのです。ちょっと直すだけで、元と同じ人間に戻るのだとしたら、それをしないのは余りにもったいないことです。
 あきらめるなんてとんでもない。そう誰もが思うでしょう。はずれたコンセントをまた差し込む、それが突然死を救うことなのです。そしてそれは決して難しいことではないのです。

 次の項目では「AED」と,市民による早期除細動実施システム(PAD)についてをご紹介したいと思います。


3,自動体外式除細動器(AED)と,市民によるAEDを使用した早期除細動システム(PADシステム)について


 2000年に米国心臓協会(AHA)により発表された「G・2000」に基づき,日本における「心肺蘇生法」も従来の方法から大きく変わり、より簡単に,より早く実施できるようになり「心肺蘇生法」における「大きな改革」となりましたが,心肺蘇生法のみでは「心室細動」などによる心臓突然死患者を救命し得ることは非常に困難な状況です。

 「G・2000」においては、「第3者に目撃された心臓突然死患者の事故現場における心電図波形の多くは心室細動である。」と言う統計的な根拠に基づき、最も有効な救命法を次のとおり述べています。

 「心臓突然死患者の救命率は、心肺機能が停止し,心室細動が発生してから「除細動(心臓への電気ショック)」開始」までの時間が1分遅れるごとに7〜10%低下し、12分以上経過すると、その救命率は2〜5%までに低下する。」と述べられており,欧米諸国に比べ、日本の救命率が低い最大の要因は、ここにあると言われていますが,心肺停止患者に対する「早期除細動」が心臓突然死患者を救命できる唯一かつ最大の有効手段であると結んでいます。

 現在の日本では119番通報を受けてから,救急車が現場に到着するまでの全国平均レスポンスタイムは約6分と言われており,このレスポンスタイムのタイムラグにより,救命率は60%以上も低下し,救急車が現場に到着した時点で救命できる可能性はわずか40%しかないということになります。
 さらに救急隊員が患者さんのそばまで行き、除細動をかけるまでには、日本全国平均で9分〜12分のロスタイムがあり、この時点ではもたった2%の救命確率しかありません。
 しかし,この救命確率はバイスタンダーが「心肺蘇生法」を行うことによって大きく変わってきます。科学的な根拠となる確実なデータはありませんが,「心肺蘇生法」を実施することにより,救命率の下降曲線は何もしない場合に比べ、緩やかになっていくと言われています。アメリカでは,バイスタンダーが心肺蘇生法を実施している間に,付近にいる他の者が「AED」を持って現場に駆けつけ,除細動を実施することにより,高い救命率を達成しているのです。

 2003年6月、「FIFA コンフェデレーションカップ」におけるカメルーン代表のフォエ選手の試合中の悲劇を受け、日本サッカー協会では自動体外式除細動器(AED)を購入し代表チームに配備したという報道がありましたが、ここで「AED」について簡単に説明致します。


                      【自動体外式除細動器(AED)】
                  自動体外式除細動器(AED)

    
 上記の写真が「AED」ですが,この「AED」は,ある程度の訓練を受ければ(あるいは受けなくても)一般市民でも容易に使用することが可能です。倒れた傷病者の胸部にパッドを貼り付け、スイッチを入れるだけで、機械が自動的に心電図の波形を読み取り、もし電気ショック(除細動)が必要とされる「心室細動」が出現していた際には、自動的に充電を開始して、ショックボタンのスイッチONの指示までをすべて音声でガイドしてくれます。この音声ガイドに従いボタンを押すことにより,心拍を正常なリズムに戻すのに必要な電流を放電してくれるもので,「心電図波形の自動認識精度」には絶対的な信頼があると言われています。
 近年では、小型軽量化が進み、救急現場での早期除細動がより簡単に、早期に実施でき,内臓バッテリーの寿命は5年間、さらに自動作動チェックが定期に行われるために、煩雑な保守点検が不要となり、アメリカでは皆さんにもおなじみの「消火器」のように空港や鉄道の駅などの公共施設、スタジアムや大規模アリーナなどの多数集客施設に設置されています。さらにアメリカでは,2003年の7月に「AED設置法案」が可決され、2004年からは学校などの公共施設や多数の者が出入りする集客施設に設置することが法的に義務付けられました。 

 AED(Automated External Defibrillatoは,プロが使う「半自動式除細動器」よりも、さらに素人が使えることを目的として開発されたものですが,アメリカではこのAEDが、「救命」の仕組みを根本から覆すことになりました。
 最新式のモデルでは、大きさはラップトップコンピュータくらいかそれよりも小さく(ただし厚みはもっとありますが)器械の部分と、湿布のように患者に貼り付ける電極とからなりますが、多くの機種はそれらが最初からつながっています。重さは2〜3キログラム位で、持って走ることができます。

 電池も五年近く持つので、建物の中でもプールの脇でも、ゴルフ場でも、飛行機の中でも、車のトランクでも、どこにでも置いておくことができます。点検も器械が自分で毎日定期的に行ってくれるので、手間がかかりません。でも一番のセールスポイントは、初めて使う人でもまごつかないように様々な工夫がなされているところです。
 何しろ一生に一度使うか使わないか、というものですし、いざ使うときには説明書を読んでいる暇もありません。テレビを考えてみても、最低限でも電源、チャンネル、音量のボタンとかダイヤルがありますが、このAEDの場合にはほとんどの機種でボタンが一つか二つしかありません。電源のボタンと電気ショックをかけるときの放電ボタンです。ダイヤルみたいなものはありません。中にはボタンさえない機種も開発されているようです。
電極を取り出すために器械のふたを開けるとスイッチが入って、電極を患者の胸に貼ると、あとは器械が自動的に判断して自動的に放電まで進む、というものです。

 放電ボタンがあると、それをいつ押してよいのか、そこがわからないと思うかもしれません。大丈夫です。
AEDは電極を貼りさえすれば、自動的に心電図を解読して、それが心室細動で電気ショックをかけるべきか、それとも心静止なのか、あるいは全く異なる脈拍リズムなので電気ショックの必要がないのか、を音声で教えてくれます。
余談ですが、日本航空の国際線に搭載されているAEDは、英語と日本語の両方をしゃべるバイリンガルAEDになっています。確かにどこの国の客室乗務員や医者が使うかわかりませんから、これも大切なことかもしれません。
 AEDには心電図モニター付きの機種もありますが、心電図を読めるという必要は全くありませんし、心電図の波形をそもそも見る必要もありません。ただ音声の指示通りに放電ボタンを押せばショックがかかり、それだけで一人の命が助かるかもしれないのです。どうです、あなたでもできそうでしょう?

 「そうは言ってもどうも器械は信用できない」という疑い深い人もいるかと思います。
 例えば、もし心停止ではなくて、実は酔っぱらいだったとか、脳卒中で意識がなかった、というような場合は大丈夫なのか。それはごもっともな心配です。
 そのような場合にはそもそも器械が電気ショックを指示しませんし、無理にボタンを押してもショックがかからないようになっています。間違ってショックをかけてしまうという心配はありません。
 ただこの器械で治せるのは、あくまで「心室細動」だけです。心停止直後であれば一回の電気ショックで治るかもしれませんが、数分以上経過していると、何度も電気ショックを繰り返さないと心室細動を止められないこともあります。
 ただ同じ心停止でも心室細動ではなく、心静止の場合には音声が電気ショックをアドバイスしないので、あとは普通の心肺蘇生法を試みながら救急車が来るのを待つ事になります。だから,やっぱり「心肺蘇生法」の知識も重要となってくるのです。

 「簡単」と言ってもピンとこないかもしれませんが、実際、AEDを扱うことは心臓マッサージや口対口の人工呼吸よりもずっと簡単です。アメリカの実験報告ですが,小学6年生にマネキンでAEDを使わせたところ、正しく使えただけでなく、除細動までに要した時間も訓練されたパラメディック隊員よりもたった23秒遅かっただけ。という報告もあるくらいです。 本当に器械オンチでも扱える器械なのです。一度もこの器械に触ったことのない人が、これを使って助けた、という報告もアメリカで実際にあるのです。

 しかし,一応は使い方を含めた2〜4時間くらいの講習を受けることが勧められています。
 例えばまず「心停止を疑う」という知識があるということに越したことはないので、「意識がない」、「呼吸がない」、などのチェックの仕方を習っておくとよいと思います。
 次に大事なことは、この器械を使う前に必ず119番に電話をかけることです。飛行機の中ではその限りでありませんが、地上では後々のことを考えると早めに通報することが大事です。もし誰かがAEDを取りに行ってくるという場合には、待っている人が心肺蘇生法を実施しておくことが効果的なので、そのやり方も講習会で習っておくことも必要です。

 そしていよいよAEDを使用する際には、まず「意識」も「呼吸」もないことを確認した患者の着ている服を破っても構いませんから、とにかく胸を露出させます。
 そうして次に電極を貼るのですが、電極というのは二枚あっていずれも湿布薬のようなシート状になっており、乾燥しないように袋に入っています。まずはその袋を破ってから電極を取り出し、決められたところに貼り付けます。たいていはその袋などに、どこに貼るべきかが図で示されています。一枚を胸の右鎖骨の下に、もう一枚を左乳房の左下に貼ります。きちんと貼り終わると、自動的に心電図の解析が始まります。このとき、患者に触っていると、ノイズが入ってきれいな心電図がとれないので、患者から手を離すことが必要です。
 したがって心臓マッサージも口対口人工呼吸もしばらく休止しなければなりません。こうして解析結果は、心電図の診断が何かではなく、電気ショック治療が必要かどうか、放電ボタンを押すべきか、というメッセージを音声で伝えてくれます。もし「放電ボタンを押して下さい」と言われたら、押せばよいのですが、その際、一つ気をつけなければならないことがあります。電気ショックの瞬間に患者の身体に触っていないことです。これはボタンを押す人だけでなく、周りにいる誰でもが、患者から離れていることが必要です。
 別に遠くに離れる必要はなく、ただ触っていない、ということがポイントです。もし触っていたりすると、患者だけでなく、その人にもわずかですが電気が伝わる可能性があります。その点も音声で「患者に触れないで下さい」と教えてくれますが、とにかくこれだけは自分たちのために守る必要があります。

 2003年5月現在、日本には3機種が輸入されており、値段がおよそ70万円します(欧米では二千〜三千ドル) まだまだ新しい機種が開発中であり、値段ももっと下がると予想されています。
 とにかくAEDは素人が使うために作られた器械で、器械の中がどうなっているのかなどは知らなくてよいのです。テレビやパソコンと同じです。いや、パソコンよりずっと簡単です。心臓マッサージや口対口呼吸よりもずっと簡単で、それでいてずっと効果があります。意識がなくて呼吸をしていなければ、あとは患者の心臓の状態など、全然わからなくてよいのです。ただ「ボタンを押して下さい」と音声で言われたら、その通りにすればよいのです。これがAEDなのです。 素人が除細動器を使える、となると何がよいのか、どこが変わるのか、想像してみて下さい。
 このAEDを使用した「市民による早期除細動(PAD)」が「救命システム」に革命を起こすことになるのです。



4,日本におけるAEDとPADの現状

 では,現在の日本においてはどうなんでしょうか?現在の日本においては、「AED」を市民が使用することはまだできません。「医師法」により,現在使用を認可されているのは,医師と救急救命士,さらに航空機内に従事する「客室乗務員」だけであり、「救急救命士資格を持たない救急隊員」や消防隊員,警察官や警備員など,救急事故現場に遭遇する可能性の高い職にある者も現在の法の下では「AED」を使用することはできません。

 アメリカでは,このような救急事故現場に遭遇する可能性の高い職種の者はもちろん,一般市民も「AED」を使用することができます。
 また,アメリカでは多くの州において中学校の必修授業として「心肺蘇生法」などを始めとする「BLS 」(Basic Life Support:ベーシック・ライフ・サポート:一次救命処置)の普及が進められており,心臓突然死患者に対する地域社会全体で取り組むBLSを基本理念に掲げ、従来の心肺蘇生法に「AED」の使用を組み込んだ「市民によるAEDを使用したPADシステム」を実施することにより,たくさんの「命」が救われています。
 2004年からは,「AED設置法」の施行により「PADシステム」はさらに普及され,全米各地のいたるところに設置された「AED」により,さらに多くの「命」が救われることになるでしょう・・・・

※ アメリカにおける実際のPADシステムについては下記URL(ロサンゼルス消防局HP)のデモンストレーション画像をご覧になって下さい。

http://www3.medical.philips.com/resources/hsg/video/en-us/product_home/product/Resuscitation/FR2demo.html

 日本においても,早くこういう時代が来てくれることを願っていますが,もし日本でも「AED」が使用可能になったと仮定して,たくさんの「AED」を設置さえすれば本当に救命効果は上がるのでしょうか?おそらく,期待されるほどの成果は上がらないのではないでしょうか・・・・どんなに綺麗な花の種を植えてみても,それを育てる土壌が肥えていなければ,芽を出すこともなく枯れてしまうからです・・・・どんなにたくさんの「AED」を設置しても,それを使用できる人がいなければせっかくの「AED」も役に立たないからです。
 まず第一に,ひとりひとりが「心肺蘇生法」などの「BLS」を理解し,「お互いが助け合うという地域社会全体のつながり」を作ることが重要なのではないでしょうか・・・・そのためには小中学校におけるBLS授業「命の教育」の実施も必要ではないかと私は思います。これらの実施については「今すぐ」には無理かも知れません。しかし,「AED」が使用できる日が来るまでに少しずつでもそういう社会を作っていくことが私達大人の責任なのではないでしょうか・・・
 少しでも,一歩ずつでもこの国がそういう方向に向いた時,はじめて「日本のPADシステム」が完成し,「救命」という大輪の花を咲かせるのではないかと私は思っています。


 先ほども述べましたが,救急車が到着するまでの6分間が「生」と「死」を分ける境界線と言われています。
 その「6分間」を,この国に住む全ての人が有効に使えるように,そして,日本のいたるところに「AED」が設置され,それを使用できる人達と,救急隊,医療機関が連結した「救命の鎖」によって,私が遭遇したバスケットボール大会での救命事例のように,多くの人たちが救われることを・・・たくさんの人たちが笑顔で家族の待つ我が家に帰れる日が訪れることを願ってやみません・・・



 2003年10月,私はアメリカでNo1の救命率を誇る「シアトル市」と「AED設置台数」が全米で最も多い都市と言われている「シカゴ市」に行き,アメリカの「救急システム」や「バイスタンダー育成システム」などの先進的救急医療システムを現地研修してきました。
 このUSAレポートについては、このHPに「HIGEさんのスポーツ救命救急 in USA」と題して全24回に渡って紹介させて頂いておりますので、是非一度お読み頂ければその素晴らしいシステムがご理解頂けるものと思います。
 そして2003年8月には,厚生労働省から待望の「AEDの一般市民使用解禁」が発表され、2004年度中の法制化に向けての検討会がついに開始され,日本も動き始めました。
 厚生労働省内での「AED検討会」の模様は、「HIGEさんのスポーツ救命救急」の「AED特集」において連載中ですので,こちらについても是非一度ご覧頂ければと思います。

 救命率向上の「最後の切り札」とも言える「AED解禁」は,いよいよカウントダウンに入りましたが、「AED」というハードウェアだけでは「命」を救うことはできません。倒れた人のそばに居合わせた「バイスタンダーの意識」と,バイスタンダーの行う「BLS」があってこそ,「最後の切り札AED」が真価を発揮するものだと私は思っています。
 「HIGEさんのスポーツ救命救急」では、「AEDとPAD」について,皆さんにご理解を頂けるように今後もどんどんUPしていきたいと思いますので,今後もご支援,ご声援を頂きたくお願い致します。(HIGE)

※参考文献・一部出典※
 「心臓突然死は救える」(慶応義塾大学医学部教授 三田村秀雄先生著)

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