2009・BLS&AED普及推進運動B

Hands・Only・CPR
「ガイドライン・2010」への潮流

日米スポーツ現場救護体制の差について
「横浜スタジアムの悲劇」を忘れないで
&
「エルトラック」Sコーチの救命事例
救われた命の陰に・・・
Hands Only CPR



 こんにちは、HIGEです。
 今回の特集は、あとわずかに迫った新しい蘇生法の指針、「ガイドライン2010」(以下G2010とします。)における最大の関心事、胸骨圧迫のみのBLS「Hands・Only・CPR」について、そして先日、横浜スタジアムで発生したファン転落事故における「日米スポーツ現場救護体制の差」、さらには、当HPでおなじみの「エルトラック」のSコーチが緊急事態に遭遇、バイスタンダーCPRにより救命した事例についてお送りしたいと思います。

1、「ガイドライン2010〜Hands・Only・CPR」について

 まず最初は、もう間もなく決定する「G2010」の焦点となっている胸骨圧迫のみのBLS、「Hands・Only・CPR」についてお送りしたいと思います。

★米と欧州が「Hands・Only・CPR」で統一見解★

 皆さんも御存知のとおり、AHA(アメリカ心臓協会)では条件付きながら、従来の心肺蘇生法から「人工呼吸」を省略した「Hands only CPR」(胸骨圧迫のみの心肺蘇生法)が蘇生の第一選択になりましたが、欧州の蘇生協議団体である「ヨーロッパ蘇生協議会」からも同様の声明文が出され、アメリカとヨーロッパがほぼ同じ方法で統一されたことから「ガイドライン2010」では、バイスタンダーCPRで「人工呼吸」が省略されることがほぼ確実となったようです。

★救命講習を3つのコース別に★

 この声明では、「Hands・Only・CPR」の導入とともに、救命講習に関わる画期的な声明が出されました。
 それは「救命講習にコースを設ける」ことが謳われていることです。声明では、「救命講習」を難易度別に3コース設け、入門編では胸骨圧迫のみを教えるよう提案しています。
 具体的には、救命講習に「金」・「銀」・「銅」の3コースを作り、上位の講習会は、下位の講習会が発展した形となっています。

 「入門編」である「銅コース」は地域住民を対象とし、突然倒れた成人に対して胸骨圧迫を効果的にかつ確実に行うことを目標としており、実習はシンプルに、講習は短く、人工呼吸は教えないとしています。そして「銅コース」では修了後には、フォローアップトレーニングが必要であることを伝え、上位の「銀コース」の受講を促します。

 「銀コース」は「銅コース」での知識・手技の再確認ーコースであり、ここでは胸骨圧迫の手技の確認がメインとなるようです。
 加えて、いくつかの病態では「人工呼吸が必要である」ことも伝え、人工呼吸のやり方も教えますが、人工呼吸を嫌がる受講者には無理にやらなくてもいいことも伝えます。

 「金コース」は、救命が仕事の一部、または救命に人工呼吸が欠かせない人たちへの講習となります。例えば小児を相手にする保母さんや、溺水した傷病者を相手にするライフセーバーなどが受講対象者者となり、ここでは「蘇生のフルコース」を教えます。

このように、講習会が3つのランクに分けられるようですが、対象者別になっており、判りやすくてとてもいい試みであると思いました。

★小児や呼吸不全の場合「人工呼吸」はどうするの?★

 AHA(アメリカ心臓協会)において「Hands only CPR」を提唱した際、この方法(Hands・Only・CPR)は「心臓が原因」で「目の前で卒倒」した「成人」のみに適用されるとしていました。
 しかし、今回のヨーロッパの声明では、この条件をなくし、事実上バイスタンダーCPRは「胸骨圧迫のみ」としています。
 なぜこの条件をなくしたのか?この声明ではエビデンス(根拠)を並べ説明しています。

(1)短時間の胸骨圧迫のみCPRは有効である。

(2)訓練された救助者でさえしっかりしたCPRは難しいのに、さらに人工呼吸までやろうとするのは非常に困難である。

(3)難しいことよりも、簡単なほうが覚えられる。

(4)小児や呼吸不全による心停止は重要だがまれである。


 「人工呼吸」が不要なのはCPRが短時間で終了する場合だけであり、長時間の蘇生を行うとき場合には「人工呼吸」は必要である。
 しかし、バイスタンダーが延々とCPRを行うとは考えにくく、素早い消防機関への通報で人工呼吸なしの時間は短くできる。
 胸骨圧迫だけのCPRに比べ、人工呼吸を追加したCPRでは手技的にも時間的にも雑なCPRになると解説されています。


 「小児の場合と呼吸不全」については下記のとおり解説されています。
 これらの病態を蘇生させるためには、「人工呼吸」は必要であるが、西側諸国での症例は全体の約2%であり、わずかの症例のための人工呼吸がバイスタンダーCPRを妨げるより「人工呼吸」を廃してバイスタンダーCPRを増やした方がいいとしています。

★AHA(アメリカ心臓協会)よりも、さらに単純に・・★

 この声明では、AHAが発表した胸骨圧迫のみCPRについても言及しています。

 AHAのアルゴリズム(手順)では、卒倒した患者が「成人」か「小児」か判断させて、次にその原因が「心臓」か「心臓以外」かを判断させるが、この判断は「バイスタンダー」という名の医学的素人が行うことになっています。

 さらに自分は「全くの素人」なのか、「訓練を受けたことのあっても自信のない素人」なのか、「訓練して自信のある素人」なのかを自分で判断しなければなりません。
 それらの判断を基に蘇生法を決定した上で、ようやくCPRに着手できますが、考えてみれば、その手順はあまりにも複雑であることから、前段で説明したように、救命講習をランク付けし、自分が受けた講習コースによって、自分のできるBLSの範囲が明らかになっていれば、この煩わしさから解放される。と解説しています。
 確かに、この方法であればとても判りやすく、自分の知識と技術に応じたBLSを、いち早く行うことができると思いました。

 以上がヨーロッパ蘇生協議会からの声明文ですが、この声明文は「ヨーロッパ蘇生協議会」の機関誌である「Resuscitation」に掲載されたものです。

 このように、アメリカとヨーロッパの蘇生協会が、ともに心肺蘇生法からの「人工呼吸」省略を提唱していることから、「G2010」におけるバイスタンダーCPRにおける「人工呼吸」は省略されることがほぼ確実視されていますが、あくまでも「指針」であり、今後、我が国の蘇生委員会などの専門機関で審議を重ね、我が国における最適なBLSの方法が決まるものと思われます。

 「救命講習」を3つのコースに分け、自らが受講したコースによって、自らが実施できるBLSを選択するというアイディアは、「自分にできることをする。」という判断基準にもなることから歓迎すべき画期的なアイディアだと思います。
 「3時間の講習会は長いから・・・」という方でも、シンプルで短い時間の講習会であれば受講者も増えるのではないかと思いますが、一方で、短い講習時間で、いかに理解してもらえるか?指導員の知識と指導スキルが非常に重要なポイントになってくるものと思います。

 つい先日、友人から頂いたメールに、とてもいい話が書いてありましたので、ここでご紹介させて頂きたいと思います。

 「私たちが指導する救命講習会の盲点は、やるか、やらないかの差が後々の社会復帰率に反映するはずなのに技術的側面のみの指導で終わってしまっている傾向にあることだと思います。一般市民にとって一生涯に一度あるかないかの事象に対し、「戦術(法的免責・安全確保・感染防止)」と「心構え(事後のストレス対策)」を重視して教えていかなければ意味がないと思います。

 全く同感です。サッカーや野球、バスケットボールなどチームスポーツで、いざ試合に臨む場合、最も重要なのは、どうやって戦うかという戦術(作戦、ゲームプラン)であり、試合に臨む心構え(メンタル面)です。
 試合に臨む前に、バッティングがどうとか、トラップがどうとか・・・そんな技術的な事は二の次です。「戦術と心構え」、初心者コースには最も重要なポイントだと思いました。
 また、この友人がある研修に行った際、講師から頂いたお言葉だそうですが、救急隊員と一般市民が、心肺停止患者に遭遇した時の行動の違いを如実に示した例え話として、下記のようなお話を聞いたそうです。

 「ジャングルの中を3日間行動する時、君達、救急隊員は、ナイフと釣り道具さえあればどうにか食料を調達出来るだろうし、行動出来るだろう。しかし、一般の市民は3日分の「缶詰」という携行食を与えなくては行動できない。また、携行食には賞味期限があり、いざジャングルへ行けという時には役に立たないときもある。君達、救急隊員が救命講習で行っているのは、一般市民に缶詰を与えているのだ。我が国では、救命講習を受けていてもバイスタンダーのCPR実施率は、救急隊が搬送したCPA症例の約30%程度といわれているが、医療従事者を除く真のバイスタンダーはいったいどれだけいるのか?おそらく、ほとんどの一般の救命講習受講経験者がCPA症例に遭遇した時、すぐに行動できないだろう・・・なぜなら、もらった缶詰の開け方を教わってないから行動出来ないのではないだろうか・・・」というお言葉だったそうで、友人はその言葉に感銘を受けたそうです。

 私も、全くそのとおりだと思いました。
 これからの講習会では、BLSという名の「缶詰」を配った後、その「缶詰」をどうやって開けるかという方法をしっかり教えてあげなければならないと思います。
 講習会では、とかく、技術的な側面に走りがちですが、なぜこの知識が必要なのか、どうしてこの手技が必要なのか・・・
 この方法にした方がより良い結果を生むという、長年の研究に基づく理由と根拠があって、現在のBLSに至っていること。そして、どうして早い処置が大切なのか。
 多くの「どうして?」と「なぜ?」を判りやすく解説し、理解してもらい、長く記憶に残るような講習会の進め方が大切ではないかと思います。

 私の講習会の進め方は、「どうして?」と「なぜ?」に重点を置き実施しています。

 大昔から、「人」は「人」を救うために様々な方法を試行錯誤してきたこと。「逆さ吊り法」や「樽に乗せて転がす」、「馬に乗せて走らせる」などなど、現代では無謀とも思える方法であり、非科学的な事だと思いますが、みんなが一生懸命になって人を救うための方法を模索していた時代でした。

           逆さ吊り法
                昔の蘇生法@「逆さ吊り法」

           樽に乗せて転がす
               昔の蘇生法A「樽に乗せて転がす」

           馬に乗せ走らせる
               昔の蘇生法「馬に乗せ走らせる」

 やがて「CPRの父」と呼ばれる「ピーター・サーファー」博士により現在の心肺蘇生法(CPR)が誕生し、その手法や胸骨圧迫の回数は、命を救いたいと願う、世界中の人たちの長年に渡る多くの研究結果により現在の方法に至った・・・ということをお話します。

 CPR実施の判断となる「普段どおりの呼吸」と「死戦期呼吸」の見分け方については、実際に私が実演します。
 また、「心室細動」のメカニズムの説明にはペットボトルの清涼飲料水を使い、心臓(ペットボトル)が細かくケイレンした時、ペットボトルからどのように液体が出るかを見てもらいます。
 「G2005」における胸骨圧迫の重要性と圧迫解除の重要性では、圧迫と解除によって「大動脈圧」がどう推移するかというスライドを見てもらって理解してもらっています。

 やがて、その場で命を救うことも可能となった「AED」の登場と日本で使用できるようになった経過とその効果、注意事項を説明し、その場にAEDの実機があれば、その実機が普段どこに設置されていて、使用できる時間帯はいつなのかを確認し、AED実機の付属品を手にとって見てもらい、どんなときにどの付属品を使うのかを説明した後、そこに設置されているAED実機の「使用説明アナウンス」が、パッドを取り出すまでの間、どんな風に流れるのかを必ず聞いてもらっています。

 BLSに必要な「なぜ?」「どうして?」を知り、「へぇ〜そうなんだ。」と理解してもらうことによって、その後の実技講習がより活きた講習になり、一人ひとりの記憶に残る講習会になってきます。
 先にUPした「サマーキャンプBLS講習会」でも、小さな頃から段階的に、まず「缶詰」を見せ、段々とその開け方を学ぶという方法を取ってきましたが、その手法が間違っていなかったのだと感じました。

 今回、欧州からの声明で出されたコース別の講習会が、日本にも反映され、「いつでも缶詰を開けられる。」講習会になっていくことを期待したいと思います。


2、日米スポーツ現場の救護体制の大きな差について

 今年のプロ野球は、巨人の日本一で幕を閉じましたが、今年の夏、悲しい事故が起きたことを覚えているでしょうか?夏休みも終わりに近づいた8月27日の夜、楽しいはずのプロ野球観戦中に悲しい事故が起きてしまいました。

【記事ここから】

◆横浜スタジアムの外野席からファン転落し意識失う◆

 横浜スタジアムで27日、試合中のグラウンドに外野スタンドから観客が落下し意識不明の重体に陥る事故が発生した。落下したのは静岡県沼津市の男性(36)で、8回表、フェンスに飛んできたボールを捕ろうとして落下。横浜市南区の横浜市大付属高度救命救急センターに搬送された。横浜−阪神戦は約2分間の中断後再開された。

 横浜スタジアムで行われた横浜−阪神戦の試合中、右中間スタンド最前列から男性が転落した。神奈川県警加賀町署によると、男性は静岡県沼津市の会社員。救急車で横浜市南区の横浜市大付属高度救命救急センターに搬送されたが、意識不明の重体で、集中治療室(ICU)で手当を受けている。

 男性が転落したのは、横浜4点リードの8回表、阪神の先頭打者・代打桧山が右中間に二塁打を放った直後だった。観客席にいたほかの観客によると、男性はフェンスにダイレクトでぶつかった打球を捕ろうとしてフェンスから身を乗り出したものとみられる。捕球できなかったばかりか、勢い余って高さ約5メートルのフェンスから一気に落下したという。

 右翼の外野の守備に就いていた横浜のライト吉村は突然の事態にぼうぜん。「(転落したのは)見ていない。ドンと音が聞こえて振り返った。そうしたら血が出ていた。僕はどうすることもできなかった」。吉村は落下した男性に駆け寄ったが、男性はあおむけに倒れたまま動かなかったためチームトレーナーを呼んだ。男性は当初「自分で落ちた」とトレーナーらに話したが、その後意識を失い水を掛けても反応しなくなった。心臓も停止状態に陥ったことからタンカでグラウンド外の医務室に搬送、救命措置を続ける一方で午後8時40分すぎに119番通報した。

 約2分間の中断後再開された試合は、4−1で横浜が勝利を収めた。横浜の江川チーフトレーナーは「心肺停止で意識がない状態だった。10分ぐらい心臓マッサージをしたところ脈が戻ったので救急隊員に託しました。多分、頭から落ちて首を強く打ったのではないかと思われます」と話している。球団関係者によると、男性は友人4〜5人と観戦に来ていたが、落下時はかなり酒に酔っていたという。
 横浜スタジアムの鶴岡博社長は「球場の創業以来かかわっているが、初めてのことで想定外。安全は確保しなければならない」としている。横浜の田代監督代行も「意識がないようなので心配です」と話している。【記事ここまで】

 転落した男性の容体が心配されていましたが、祈りは届かず、2日後の8月29日、この男性はお亡くなりになってしまいました・・・・

【記事ここから】

 去る27日、横浜スタジアムで、プロ野球の横浜―阪神戦を観戦中にスタンドから約5メートル下のグラウンドに転落した男性(36)が29日午前、収容先の横浜市内の病院で死亡した。神奈川県警によると、死因は脳挫傷と頭蓋内出血。八回の阪神の攻撃中に外野席のフェンスから身を乗り出して転落したとみられる。【記事ここまで】


 「僕はどうすることもできなかった・・・」(横浜・吉村選手)、「球場の創業以来かかわっているが、初めてのことで想定外。安全は確保しなければならない」(横浜スタジアム鶴岡社長)とのコメントが新聞に掲載されていましたが、真っ先に駆けつけ、一番近くにいる人の「どうすることもできなかった・・・」というコメント、施設責任者の「想定外」というコメントはちょっと悲しすぎるように思いました。

 ニュースで事故直後の映像を見ましたが、頭から落下しているのが明らかであるのならば、頭部はもちろん、頸椎や脊椎の損傷を考え、容体や予後の悪化防止のために、ネックカラーを着け、「バックボード」と呼ばれる全身固定器具で「全脊柱固定」をするべきところですが、いかにも「アルバイ」トという感じの若者達数名が、ごく普通の「担架」で搬送していました。

 これは、アメリカでは考えられないことです・・・
 アメリカでは、プロ野球に限らず、バスケットボールやアメフトの試合などで負傷し、頸椎や脊椎の損傷が疑われるような場合には、こうした「全脊柱固定」の方法を心得た専属の救護班が、上記の方法で負傷者を搬送しています。

 処置には多少時間がかかりますが、しっかりと固定して搬送するまで、試合は再開しません。スポーツの現場で起こるケガや疾病のほとんどは、救急車を呼ぶ必要のない軽いものですが、時に救急車を必要とする場合もあり、その判断をするのはその場にいる人達です。ケガや疾病が発生したときには、その場で応急処置を行わなくてはならないケースもあるので、試合や練習を中断し、状況判断と応急処置をして欲しいと思います。

 とかく日本では、試合や練習を中断させないで、傷病者をプレーの妨げにならない場所に移してから判断しがちです。
 しかし、皆さんも御存知の「心臓震盪」や、今回に事故のような「頭部外傷」といった生命の危機にもつながる場合は、まずプレーを止め、発生直後からの判断と的確な処置をすることが非常に重要になってきます。

 現西武ライオンズの石井一久投手がアメリカメジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースに在籍していた2002年のことです。
 試合中、石井投手の頭部に強烈なピッチャー返しの打球が直撃、石井投手が昏倒するというアクシデントがありました。
 この時、すぐに審判や選手が駆け寄り、石井選手に「動かないように」と指示、救急車がマウンド付近まで行き、救急隊員が前記の固定処置を行い救急車に収容しました。
 その間、試合は中断されましたが、もちろんお客さんも騒いだり、野次ったりはしませんでした。人の「命」がかかっているんですから当たり前のことですが、今回の事故では、すぐそばにいた横浜の選手や、現場を確認に行った審判は、ニュース映像を見る限りでは、何もしていませんでした・・と言うよりも、できなかったのかも知れません。

 上記の新聞記事に「僕には何もできなかった・・・」とのコメントがありますが、こうした事故に対する「危機管理」や「教育」がなされていなければ、いざという時に対応できるはずもありません。結局、球場のアルバイトとおぼしき、いわゆる「素人集団」が集まり、頭部外傷によって意識が無い重篤な人を「せ〜の」で担架に乗せ、さっさと搬送し、わずか2分間の中断の後、何事も無かったかのように試合再開となりましたが、これが日本のトップスポーツを自負している「プロ野球」のファンに対する救護体制なのかなと思うと何だか悲しくなってきました・・・

                 転落事故直後の横浜球場
                  横浜球場での転落事故

 数年前、東京ドームで行われた巨人対阪神戦では、渡真利球審が不整脈のため一瞬意識を失い倒れましたが、このとき渡真利球審の応急処置は「その場」ではなく、ベンチ裏で行われ、試合が中断されたのは渡真利球審がベンチ裏に運ばれる間のみで、代わりの審判員を立て、すぐに試合は再開されました。
 幸い渡真利球審の生命に別状はありませんでしたが、もし、致死的な不整脈である「心室細動」が発生していたなら、ベンチ裏への搬送が致命的な遅れになっていたかもしれません・・・・

                 倒れた渡真利球審
                渡真利球審が不整脈により倒れる

 「心室細動」により心肺停止となった場合、一刻も早いCPR(心肺蘇生法)とAED(自動体外式除細動器)による除細動(電気ショック)が必要となります。これは電気ショックが1分遅れるごとに、その生存率が7〜10%低下していくからです。
 これらの事例が、スポーツ現場でのアクシデント発生時における日米の違いを顕著に表していると感じました。

 選手だからできない。審判だからできない。救護法を知らないから、習っていないから、できない・・・というのはとても悲しい話です。
 グラウンドやコートで緊急事態が起きた時、倒れた人の一番近くにいて、すぐに救護に動くことができるのはいったい誰でしょうか?同じグラウンドやコートにいる選手であり、審判ではないでしょうか?
 子供たちがあこがれるプロ選手だからこそ、試合を預かる審判だからこそ、緊急時の応急救護を知っておく必要があるのではないでしょうか?

 不特定多数の人が集まる場所では、あらゆる危険を想定した「危機管理対策」が必要であり、こうした重傷外傷の発生も「想定」しておくべきではないかと思いました。
 また、プロの野球選手であるからこそ、プロの審判だからこそ、子どもたちやアマチュア選手達のお手本となるように、こうした緊急事態が起きた時の「応急手当」を是非知って欲しいと感じています。

 当HPでもご紹介しているとおり、バスケットボールの現場では、アトランタ五輪やアテネ五輪に出場した元女子バスケットボール日本代表選手の皆さんが、コートレベルで誰かが倒れた時、すぐに救護することができるようにと、BLSを学んでくれています。

 お亡くなりになった男性のご冥福を心からお祈り致しますとともに、今回の悲劇を教訓とし、日本のスポーツ界が、現在の救護体制の問題点を見直して、選手も審判も、そこにいる全ての人が救いの手を差し伸べられるような救護体制になってくれることを切に願うばかりです。 支えるファンがあってこそのプロスポーツなのですから・・・

3、エルトラック・Sコーチの救命事例

 先日、掲示板においても速報させて頂きましたが、11月の初旬「エルトラック」のSコーチから、とても嬉しいメールを頂戴しました。ご本人からのご許可を頂きまして、ここにご紹介させて頂きます。

【メール転載ここから】

 HIGE様
 いつもお世話になっております。バスケットボールの家庭教師(エルトラック)事務局のSです。突然ですが、昨日、電車の中でCPRを行うべき現場に遭遇しました。
 バスケ教室へ向かう電車の中で、座って本を読んでいたところ、いきなり私の前に40代くらいの女性が倒れたのです。本当に僕の目の前、足元です。

 電車は騒然としたのですが、これは自分がやるしかないと思い、すぐに声をかけてみました。肩や頬を叩き「大丈夫ですか?分かりますか?」と声をかけても返事は無く呼吸も無し・・・幸い、急行の通過待ちをする各停の車内だっったので、すぐに近くの乗客に救急車の依頼と電車を止めておくように駅員へ伝えること、AEDの搬送をそれぞれお願いしました。

 すると近くの女性が「とりあえず安定した姿勢に・・」と何か始めようとしていたので、私は「いや意識も呼吸も無いので、すぐCPRしましょう!」と言いました。
 胸骨圧迫を始めようとすると、人工呼吸を出来る方が近くにいらっしゃり協力してくれた
ので、その方にお願いし私はすぐさま胸骨圧迫をスタート。

 数十秒したところで呼吸が始まったので、安静にし駅員のタンカと救急隊員を待ちました。意識は戻りませんでしたが、きちんと呼吸が始まったので一安心かな。という状況でした。私は教室へ向かわなければならなかったので、駅員と倒れた方をタンカに乗せ、後は駅員に任せて電車に乗ってしまいました。

 その後どうなされたかが気になるところですが、今回ばかりは本当にHIGEさんの講習のおかげで人の役に立つことができたのではないかと、感謝の気持ちでいっぱいです。
 すぐに行動ができたのは、毎年の講習会で実技講習を受けていたからこそです。
今回の僕の場合は、何名か協力してくれる方がいらっしゃり、日本人の意識も意外と変わってきたんだな〜と思わせる出来事でした。ひとまずのご報告でした。
【メール転載ここまで】


 今回メールを下さったSさんは、このHPをご覧になっている皆様なら、よくご存知の「エルトラック」のコーチです。

 「エルトラック」の前身は「バスケットボールの家庭教師」ですが、その代表である「よしかずさん」からのご依頼を受け「バスケットボールの家庭教師」ホームページ内のひとつのコンテンツとして2003年の春に「HIGEさんのスポーツ救命救急」ホームページが開設されました。言わば、このHPの生みの親と言えるのが「エルトラック」です。

 「エルトラック」では、子どもたちに「上達する楽しさを感じることのできるバスケットボールを提供し、子どもたちの健やかな成長に寄与する。」という理念で活動を行っていますが「スポーツを心から楽しむことのできる環境とは、まず安全な環境であること。」をコンセプトに、2003年の開設当時からBLSの普及に対し積極的にご協力して下さいました。

 まず「指導者」に対するBLS講習の受講を義務付け、2004年に「AED(自動体外式除細動器)が一般に解放されるとともに、AEDを導入しました。
 私が知っている限り、バスケットボール関連団体がAEDを導入したのは「エルトラック」が国内初の団体でした。AED導入後は、代表のよしかずさんがAEDを主催する各教室に持参し、練習に打ち込む子どもたちの安全を見守ってきました。

 そして、2004年から、子どもたちにもBLS普及の輪を拡げようという目的でスタートしたのが今年の夏で6年目を迎えた「エルトラック・サマーキャンプBLS講習会」です。
 Sコーチは、2003年の当時から、エルトラックのコーチとしてご活躍され、私が開催させて頂いているコーチの皆さんに対するBLS講習会はもとより、2004年から開催されている「サマーキャンプBLS講習会」にも毎年ご参加されていますが、そのSコーチの勇気ある迅速な行動により、電車内で突然倒れた女性を救命することができたとお聞きし、本当に嬉しく思いました。

 特に、女性が倒れてからの観察と行動の速さ、また、するべき事の全てを、ほぼ完璧に行っている事は本当に凄いと思いました。
 倒れた女性の呼吸が無いことから、直ちに胸骨圧迫を開始したこと、さらには電車を停めておき119番通報する旨の指示やAEDの手配など、騒然となり混乱していたであろう状況下で、これだけの行動ができたことは本当に素晴らしく、素早いCPRの開始が、開始後間もなくの呼吸再開に結びついたものと思います。
 「エルトラック」のコーチの皆さんを対象とした定例のBLS講習会では、いざ、こうした現場に遭遇した時を想定した「実戦向き」の講義や実技を行ってきましたが、今回その講習会が現場で役立ったということをお聞きし、今まで一歩一歩積み重ねてきて良かったと心から嬉しく思いました。

 倒れた女性の「その後」ですが、女性は40代後半の方で、救急隊が駅員から引き継いだ時に意識が回復したそうです。そして、収容された病院での診察後には自らの足で歩いてご帰宅されたとのことで、見事な「完全社会復帰」でした。
 Sコーチは、女性の「その後」をずっと心配していたので、女性のその後をお伝えしたところ、大変喜んでくれました。

 ただ、駅員から車内でバイスタンダーCPRが実施されたという報告が救急隊にされておらず、駅からの通報も「電車内で痙攣発作を起こしたらしい。」との内容で通報されていたため、通常の急病案件として処理されており、残念ながら表彰の対象にはならないそうです。しかしながら、尊い命が、Sコーチの勇気ある行動によって救われたことには変わりはなく、この行動に対し「エルトラック」から、子どもたちと保護者の前でSコーチを表彰することになりました。

 「表彰式」の日取りはまだ未定ですが、エルトラックの表彰に先がけ、定例バスケ教室の際に不肖HIGEより心ばかりの感謝の意を込めた記念品贈呈式を行わせて頂くことになりました。 定例バスケ教室には、多くの子どもたちと保護者がお見えになりますが、Sコーチの「勇気ある行動」から、何かを感じてくれればと思っています。

 毎年夏恒例の「エルトラック・サマーキャンプBLS講習会」も今年で6回目を数え、第1回に参加してくれた中学生の中には、もう成人して社会に出ている人もいるそうです。
 そんなエルトラックBLS講習会の卒業生の中から、今回のSさんに続く若者がたくさん出てきてくれることを期待しています。Sさん、本当にお疲れ様でした&ありがとうございました。心から感謝申し上げます。 (HIGE)


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