2007年5月のメインレース回顧
日本ダービー回顧
今年の日本ダービー。
絶対に無謀な挑戦だと思われる馬が1頭いた。
その馬は、牝馬で、しかも前走は2着に負けている馬である。
名をウオッカと言う。
この馬がもし凡走したら、(もしも何も凡走するのが当たり前とすら思っていた)
陣営の傲慢さを批判してやろうと思ったものである。
傲慢だったのは、私自身であった。
勝ったのは、まさにその馬、ウオッカだったのだ。
その勝ち方といえば、並み居る牡馬がまともなレースをしない中、
ただ一頭。とてつもなく強い競馬を見せた。
スローペースで、他の馬に行きたがる馬が続出する中、
この馬だけは、中段で折り合い、
さらに、最後の直線では伸びあぐねる牡馬たちを尻目に、
1頭次元の違う脚を見せての、まさに圧巻の完勝であった。
スローペースになっての瞬発力勝負に勝ったというだけではなく、
もう、ここまでの着差が付いた以上、今年の3歳馬ではこの馬が一番強いと認めざるを得ない。
距離適性が言われているが、父タニノギムレットも距離の壁は見せなかったし、
母も在来牝系。スタミナも十分備わっているとみたい。
牝馬がダービーを勝ったのは、戦前までさかのぼらなくてはならないのだから、
事実上、日本のダービーを制した、はじめての牝馬と言っていい。
歴史的瞬間が訪れた、今年の日本ダービーではなかっただろうか。
ウオッカはどこまでも賞賛できるが、他の馬たちはだらしない。
正直、ここで負けてしまったグループには、今後期待をあまりかけられない。
一応、フサイチホウオー、ヴィクトリーは引っかかって競馬になっていないから、
今後を考えれば、やはりこの2頭になってくるのだろうが、
夏場のあがり馬が登場すれば、一気の形勢逆転もあるだろう。
レースレベルは低かった。
ただし、2着以下は低かったと言う話で、一着馬は一頭別の競馬をしており、
勝った馬に関しては、例年のダービー馬と同じレベルと見てよいだろう。
金鯱賞回顧
中京巧者対、実績上位馬の対決の一戦ではなかったかと思われる。
結果的に、勝ったのは中京実績の豊富な、ローゼンクロイツだった。
前走も、同じ中京コースで、1分56秒台という、恐ろしい時計で勝っていたこの馬が、
今回もその力を存分に発揮したレースだったように思う。
前走は負かした相手がシルクネクサスで、レベル的に疑問符が付いたが、
今回はG2にふさわしい好メンバーでの対決を制してしまった。
それでも、時計的には前走よりも遅く、この馬の力と中京巧者ぶりを持ってすれば、
ここは突破できる一戦だったように思う。
2着には、去年の天皇賞で2着に入ったスウィフトカレントが入った。
京都記念の5着で評判を落としたが、実績からこの馬が最上位で、
今回はやや軽視されすぎた印象も強い。
本命アドマイヤメインは、逃げなければどうにもならない馬。
2番手に控えた時点で、レースは終わってしまった。
最後に自ら走る気をなくしてしまう悪癖の修正のためだったのかもしれないが、
それならばもっと追い込みに近い競馬をさせないと効果は薄いだろう。
レースレベルは通常。
通常レベルの年からも、宝塚記念の連対馬を出したこともあるレースだけに、
今年も1、2着馬には注意が必要だろう。
オークス回顧
桜花賞の1、2着馬がいないという、極めて異質な条件で行われたG1、オークスだったが、
結果としてはそれほど低いレベルのレースでは無かったようである。
その要因にタイムを挙げる人もいるが、これは今年の府中のやたら早い馬場を考えれば、
よどみの無い流れで飛ばした今回ならこのくらいのタイムは出る。
さすがに最後1Fは12秒6だが、これでおそらく通常のラップ。
先週のとろとろとした逃げを打った柴田善臣騎手とはまったく違い、
若手、長谷川浩大騎手の気持ちのよい逃げであった。
だから、かならずしもこのタイムはハイレベルの証明にはならない。
ではなぜ、レベルが通常レベルで収まったと見るか。
それは、ベッラレイアの存在が大きかった。
この馬、前走こそそれほど強いレースでは無かったものの、
その前の牡馬混合の500万で、他をまったく相手にしない強烈な末脚を見せていた。
スタミナ面でもナリタトップロード産駒と言うことで、問題なく、
例年のオークスを勝ってもおかしくないだけの馬である。
しかも、今回はその強いベッラレイアを負かす馬まで出てきたのである。
勝ったのはローブデコルテ。
前走の桜花賞で最も早い上がりを計測していた馬である。
今回、ベッラレイアが直線残り200mで早くも先頭に立つ、
(結果として)やや早い仕掛けにも助けられた感は強いものの、
そのベッラレイアを目標に、ゴール前できっちり差しきって見せた。
鞍上福永騎手の好騎乗でもあっただろう。
これだけのレースをみることができたのである。
決してウオッカ、ダイワスカーレットがいなくても、低いレベルのレースでは無かった。
今後と言う意味では、血統的にも、レースの展開的にも、
ベッラレイアが一番強い内容であった。秋華賞につなげて行って欲しい。
決して悲観するような負け方ではなかった。
レースレベルは通常。
桜花賞1、2着が抜けても、今年の牝馬路線はタレントぞろいである。
ペースといい、レース内容といい、非常に面白いオークスだった。
東海S回顧
今年のフェブラリーSは、トップがいない状態で行われた。
そこで優勝して、ダート路線の有力馬に加わったのがサンライズバッカス。
その、サンライズバッカスをその前哨戦、平安Sで破っていたのが、
今年の東海Sを優勝したメイショウトウコンである。
この馬、追い込み脚質であって、展開に左右されてしまう。
しかし、型にはまらないと絶対に来ない。というレベルの馬でもない。
実際、平安Sでもそれほど展開に恵まれた感はなかったが優勝している。
そして、今回も普通の展開であったが、最後は1頭脚が違った。
最後3ハロンのラップが36秒5と、他の馬をぬきんじた末脚。
この馬にはG2馬の称号がふさわしいと思われる馬の優勝だった。
私は本命には押し切れなかったのは、その追い込み脚質で、
はまらなければ凡走もあるかと思ったからなのだが、
今回の競馬を見る限りでは「はまる」まで行かなくても優勝するだけの力があるようだ。
特にダート戦で追い込んで勝てるのは相当能力がある証明で、
今後が非常に楽しみな1頭だ。
中京の2300と、非常に長いコースだったから、展開に左右されなかったのかもしれないが、
それでも、かなり力を持った馬であることは心しておいた方がいいかもしれない。
本命キクノアローは、2周目向こう正面ですでに手ごたえが怪しくなってしまった。
あるいは体調が一息だったのかもしれない。
ただ、私も本命に推してしまったが、一本被りの1番人気になるほどの馬だったかは怪しいところ。
レース前の研究が甘かったかもしれない。
レースレベルは普通。その中でも、メイショウトウコンは1頭ぬけた末脚を見せており、
今後交流重賞や交流G1でも楽しめる存在になる可能性が高いと思う。
ヴィクトリアマイル回顧
昨年が第1回と、非常に歴史の浅いG1だが、
牝馬の短距離馬には、なかなかG1を取るチャンスが少なかった。
しかも、春シーズンに目標とするレースが無かったことなどからも、
この新設G1は、先週のNHKマイルカップと違い、今後も機能していく可能性が高い。
需要が高いだけのことはあって、昨年に引き続いて、好メンバーによって行われた一戦。
勝ったのは、まさにこのレースの需要を高めているタイプのコイウタだった。
この馬、牡馬混合のG1で優勝するまでの強さはないものの、
G3程度なら牡馬とも互角に争っており、
今までならその才能を「G1馬」と言う形にできなかったであろうタイプである。
今回は内が荒れており、格馬共に外を回そうと、4角から直線にかけて、
みんな外に振れ、かなり馬群がごちゃごちゃしてしまった。
そんな中、コイウタと松岡騎手は、馬場のぎりぎり持つ内目に迷わず入った。
これが優勝に繋がる。
今回は関東の名手候補、松岡騎手の好騎乗であった。
2着アサヒライジングは、スローペースでの逃げ。
鞍上柴田善臣騎手らしい、非常に消極的な逃げで、
ペース非常に緩んでしまった。
こうなると、レースが壊れてしまう恐れもある。
実際2着に負けているように、これではそこそこまでの結果しか出ない逃げである。
もっと積極的な騎乗をして欲しい。
関東のトップジョッキーの一人なのだから。
1番人気カワカミプリンス、2番人気スイープトウショウ共に、
弱点を抱えていた。1頭は休み明け。1頭は衰え。
今回はさらにレースでスローペースと言う弱点が加算されてしまい、
これでは凡走もやむを得ない。2頭共に、次走以降の牝馬限定戦で注目だ。
本命ディアデラノビアは、直線入り口でちょっと外に持ち出す気配を見せ、
一瞬の判断に迷いが見られた。
ただ、最後は馬自身がレースをやめてしまっており、
能力や騎手を云々する以前に、気性的に問題が大きすぎる。
逃げさせてみるなど、最後まで気を抜かないように走ることを覚えさせないと、
今後も3着ばかりの馬になりそうである。
力だけなら戦前の評価から、少しも変わらないのだが…。
レースレベルは昨年に引き続き高かった。
このレースは牝馬は目標にしやすい。
今後もこのレベルで定着してくれることを祈ってやまない。
京王杯スプリングカップ回顧
抜けた馬がおらず、混戦模様の東京の重賞。
先週からの流れで、非常に嫌な展開が予想されたが、
やはり、大荒れになってしまった。
このレースの勝ちタイムが1分20秒0。レコードである。
翌日のヴィクトリアマイルの1分32秒5と言う時計を考えても、
これは以前コラムでも紹介した、異常な馬場状態に設定された可能性がある。
先週の雨で荒れてきて、タイムが早くなると言う、わけのわからない馬場だ。
「荒れてくる=タイムが早くなる」
の、異常な馬場状態、そろそろ誰かがNO!といわなければならない時が来ている。
毎週のG1の大荒れも、この馬場と無関係ではないだろう。
勝ったのはエイシンドーバー。
某三流解説者が「この馬は切れ味がありますからね」
と以前テレビ上でコメントしていたが、
この馬には切れ味は感じられない。むしろじりじり伸びるタイプ。
今回のような、早い馬場の、早い展開はむいたと見る。
距離短縮で切れがあがったと言うよりは、展開が向いたとみたい。
1600に変わる本番でも、期待できるかもしれない。
それと同等に目立った脚を使ったのが2着シンボリエスケープ。
翌日の各馬のコース取りを考えると、外目から追い込んだのが効をそうしただけかもしれないが、
見た目には一番強い内容を見せたことは否定できない。
1400巧者だけに、一概には言い切れないものの、
次にも期待を持たせる内容。
負けた組では、フサイチリシャールがいいところが無くて残念。
ローテーション的に厳しいレースだったので、次走で改めて期待。
また、4着マイネルスケルツィは、伸びない馬場の一番内を通して最後までよく粘っている。
ペース的にもきつかったはずで、安田記念でも面白いかもしれない。
混戦となっている短距離界。
安田記念でもアドマイヤムーンが出馬しないようなら抜けた馬はいない。
このレースからも、上に挙げた4頭を中心に、連対できそうな馬が目白押しである。
NHKマイルカップ回顧
正直、ここまで荒れてしまうと、理論的な解釈は非常に苦しくなってしまう。
元々、一番人気が単勝6倍台という、とんでもないことになっていたレースだけに、
展開や馬場がよっぽど普通にならない限りは、こんな決着になってしまうのかもしれない。
優勝したのはピンクカメオ。
実に、前走の桜花賞で14着に大惨敗していた馬で、巻き返す要素を探すのは難しい。
今回も、展開、馬場、騎手、全てが上手く行っての優勝であって、
実力は果たしてG1級であろうか…?
前走が負けすぎと言う可能性はあるものの、
それにしても牡馬混合のG1をとらせるだけの馬でないことは明らかで、
今回は全てが味方したと言わざるを得ない。
次走はオークス挑戦だそうだが、あって掲示板までだろう。
しかし、それにしても、3着にムラマサノヨートーが入ってしまうG1はまずいだろう。
NHKマイルカップは、開設当初は外国産馬が日本ダービーに出走できなかったこと、
また、外国馬の層が厚かったことで機能していたが、
すでに外国産馬にもクラシックは開放されており、
また、輸入の質量ともに、落ちる一方と言うのが現状。
すでに、このレースは役割を終えたと言っていいかも知れない。
すぐに降格までは考えられないものの、
この先何年もこのような決着が続くようなら、G2への降格を含め、
フレキシブルに対応していくべきであろう。
距離に不安がある3歳馬は、G2に降格したここを使って、
安田記念を目標にする。あるいは日本ダービーにあえて向かう。
それで十分に対応可能。
すでに、役割を終えつつある、落日のG1。そんな印象しか覚えなかった。
チャンピオン決定戦でなければいけないG1としては、
極めて詰まらない、何の実りも感じられないG1であった。
レースレベルは最悪。
ここまで悲惨なG1は、私が競馬を始めてから初かも知れない。
2歳限定G1ではレベルがもっと低いものもあったが、
あれは2歳時でのチャンピオンを決めると言う大切な理由があったが、
このレースにはもはやそういったものも感じられない。
本気で、G2降格を議論してもらいたいG1と言う印象しか受けなかった。
京都新聞杯回顧
このレース、かつての京都4歳特別時代から、
関西馬がダービーへの切符を取る際に、最後のトライアルとして機能してきた。
最近はNHKマイルカップと言うG1をダービーのトライアルとして使う陣営までいるが、
できればここを使ってダービーを目指して欲しいところ。
折り合いの面でも、相手関係からも、本番と近い距離と言うことからも、
断然こちらを使った方がいいと思うのだが…。
最近このレースから日本ダービーを制した馬には、アグネスフライトがいる。
あの馬はここで目の覚めるような切れ味を見せて、着順以上の勝ち振りをみせていた。
ここからダービーに直結するためには、着順以上に、インパクトが求められる。
そう思ってレースを見ていたのだが、
結果として、衝撃度としてはアグネスフライトに比べると劣るものの、
それでも勝ったタスカータソルテはかなり強い競馬。
確かに着順や相手は微妙なところではあるものの、
内から強襲するローズプレステージを最後の伸びで交わし去った姿には、
「アグネスフライト半」くらいの強さを感じ取れた。
特に、最後になってさらにぐっと伸びたところなどは、
いかにもトニービン系の馬。と言う印象を受けた。
まだ新種牡馬であるジャングルポケットの評価は確定していないが、
あるいはその父トニービンのような、直線が長い方が競馬をしやすい種牡馬なのかもしれない。
ならば、次は日本ダービー、東京コースである。
アグネスフライトの時もそうだったが、全体的なレベルが低い年には、
皐月賞ではない路線からも連対馬を出しやすい傾向にあり、
この馬にも、そんな強さを見たような気がした。
ここ2戦は案外だったが、末の生きる展開と、東京コースなら、あるいは…。と思わせる馬の登場だ。
ついでに言っておくと、プリンシパルSのゴールデンダリアも素晴らしい末脚。
ここを勝ったタスカータソルテ共々、次でも楽しめる可能性が出てきたように思われた。
新潟大賞典回顧
勝ったのはブライトトゥモロー。
条件慣れがレース前から言われていて、穴人気していたようであるが、
正直、それほどのパンチ力があるようにも思えなかった。
しかし、レースでは最後外からするどい伸び足を見せ、ほかを完封した。
この馬、これで左回りは3戦3勝。相性のよさを見せた。
2歳時の中京2歳Sは、まだ成長途上で参考外かもしれないが、
それ以降も、府中、新潟コースでの相性を示している。
母の父がトニービンと言う血統から、直線が長くなると…。
とうがった見方をしてしまいそうになるが、
母方に入って、そこまでの遺伝力を見せられるかどうかは疑問。
血統云々より、純粋にこの馬の末脚のよさを賞賛するべきだろう。
右回りでまったくだめかどうかは、まだわからない。
サウスポーと呼ばれていた馬が、右回りで人気を落として穴をあける。
などというのは、競馬においてはよくあることだ。
今回は決してペースに恵まれたわけではないが、
それを外から交わしているのはさすがである。
今後も、末が生きる展開なら面白い1頭だ。
2着サイレントプライドは休み明けの1600万をいきなり勝つように、力はある。
1600万を57キロで勝ってきている馬なら、重賞でも55キロならやれる。
勢いの点では、この馬も十分にあった。
3着ヴィータローザは展開に助けられた感はあるものの、
ここに来て復活を予感させる3着だ。
この馬、またこれから夏にかけて、調子を上げてくる可能性がある。
レースレベルはG3としては通常レベル。
上位3頭は、今後のプラスアルファも見込めるだけに、今後が楽しみである。
抜けた力ではないので、もちろんG3級のレースで。と言う話だが…。