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名馬メモリアル(タ行)



タイキシャトル
短距離界で絶大な安定性を誇ったタイキシャトルのデビュー戦はダートの1600mだった。その時期はすでに新馬戦の無くなった4月19日であった。まったく目立たないレースだったが、ここを4馬身差圧勝したタイキシャトルは、その後500万、オープンとぽんぽんと勝ち上がった。3勝目のオープンは、芝のマイル戦。後に、もっとも得意とする舞台を、スピードの違いで逃げ勝ち、3連勝をあげた。4戦目はクビ差とどかず、敗戦を期すが、デビューからまだ3ヶ月経っていない若駒。全く悲観する必要はなかった。そして、タイキシャトルはその後、安定した走りを、さらに格上の条件で続けることになる。

敗戦後一息入れた秋初戦はダート1600mのユニコーンS。G3である。タイキシャトルの不敗神話はここから始まった。あっさり抜け出して、2馬身半。圧勝であった。ダートでは大物。ならば芝ではどうか。そんな思いもあった2戦目はスワンS。マイルチャンピオンシップの前哨戦で、メンバーもそれなりに集まったここでも、タイキシャトルは他を圧倒する。着差は4分の3馬身。好位につけて、何無く前を捉える競馬は、着差以上の強さを感じさせた。ましてやここは古馬初対戦の重賞である。ここを勝ちきったタイキシャトルは、すでに名馬のもつ強さを感じさせるほどであった。

そして初G1であるマイルチャンピオンシップ。3歳馬ながらすでに強さは認められており、2番人気に支持されると、それまで通りの安定感十分の走りぶりに加えて、直線で後続をちぎる強さも見せ完勝した。G1ひとつめながら、早くも貫禄が漂っていた。
その貫禄は正しいものであって、次のスプリンターズSでも、1200mの距離もものともせず、マイルチャンピオンシップのような、好位から危なげなく前を捉える競馬で、G1二つ目を獲得するのである。この、安定した走りぶりに、3歳馬で、しかも短距離馬でありながら、年度代表馬としても良いのではないかという声が上がったほどである。残念ながら年度代表馬はエアグルーヴに譲るが、まだ3歳。翌年の活躍によっては、十分そのタイトルを奪取することも可能に思われた。

翌年。タイキシャトルは、さらに負けない強さを手に入れて、競馬場に帰ってきた。休み明けと斤量が心配された初戦で1分20秒1のレコードタイムをはじき出すと、2戦目は春の目標安田記念に向かう。ここは前日からの雨で、ひどい不良馬場。この悪コンディションでも、タイキシャトルの強さは変わらなかった。いつもより、後方につけると、直線は不良馬場を気にせず1頭違う脚を見せ付け、完勝。どんな条件でも関係なく勝ちきるタイキシャトルの不敗神話は、このあたりで完全に確立された。「もう国内には敵はいない」それがファンの感覚であり、陣営も海外遠征に積極的なことから、次は海外の、ジャックルマロワ賞が選ばれることになったのである。

海外遠征は、今でこそ十分に勝ち負けになるが、かつては勝つのは容易ではなく、ましてやタイキシャトルが挑もうとするのは、海外のG1中のG1である。欧州ではいまだ、日本の馬が遠征して勝った例は無く、苦戦も予想されて不思議ではなかった。しかし、ファンは「シャトルならやれるかもしれない」と言う思いを、強く持っていたのである。
そして、レース。直線だけで行われる異質の条件、芝が日本より背丈が長く、非常に時計のかかる馬場。負ける要素はいくつもあった。しかし、海外でも臆することなく、道中2番手につけたシャトルは、最後の抜け出し、差して来る馬もなんとか抑えきると、海外G1勝利を「あっさり」決めた。レース内容から、相手も強く、けして楽に勝ったわけではなかったが、国内のファンは「シャトルがやはり楽に勝った」そう思ったのである。着差以上の何かを見せ付ける。それがタイキシャトルの強さと人気の源であったろうか。
欧州G1初制覇の座こそ、前の週に同じく遠征していたシーキングザパールに譲ったものの、特に格式の高いG1を、日本の馬が勝つことは快挙であり、タイキシャトルの名声はさらに高まらざるを得なかった。鞍上岡部騎手にとっても、念願の海外G1であった。

「もう誰にも負けない」不敗神話はかつてのレースにとどまらず、この先のれーすでも、ずっと続く。ファンはそう疑わなかった。秋に、国内に帰ってくると、マイルチャンピオンシップはなんと5馬身差をつける完勝劇。さらに強くなったタイキシャトルに、ファンはラストランの確勝を、ほぼ誰もが抱いていた。実際、タイキシャトルはここまで負けなかった。12戦11勝、2着1回。2着も成長途上のことであるから、成績はきわめてパーフェクトに近い。負けは無い。そう思われた。

そしてラストラン、スプリンターズS。誰もがタイキシャトルの最後の「勝ち方」を見るために競馬場に押しかけた。しかし、道中タイキシャトルの様子がおかしい。故障などではなかったが、ややむきになって走っている。常の威風堂々として、威厳漂うタイキシャトルでは無い。その心配は直線で形になって現れる。普段より伸びない。そして、タイキシャトルを交わすことに執念を燃やした名馬がいた。シーキングザパール。直線、シャトルは目標となり、ついにゴール前、交わされる。さらに大外からマイネルラヴが、その名馬2頭を交わし去る。
3着。タイキシャトルのラストランは、初めて連をはずす結果となったのである。前のレースで、5馬身ちぎっていたことによる反動。海外遠征の疲れ。明らかに太め残りの体。負ける要素はいくつもあったのだ。だが、それは些細なことで、それでもあっさり勝ってしまうのがタイキシャトルだ。ファンにそう思わせることができたこと自体が、タイキシャトルと言う名馬の、真の強さであっただろう。

このレースを最後に、タイキシャトルは引退する。そして、この年、短距離馬でありながら年度代表馬に選ばれるのである。近年のレベルの高まった競馬では、1頭がずっと勝ち続けることは極めて難しい。その中で抜群の安定感の中での8連勝を含む、通算成績の13戦11勝は、能力の違いと、最高の安定性をもったこの名馬にしかなし得ない成績であったろう。その安定性を上回る名馬は、10年近く経った今でも、まだ現れてはいない。

通算成績13戦11勝。G15勝。