世界の酒 ---常に酔っていなければならない--- ボードレール
第二回 自分で作って60点を付ける
2006.5.20
ラーメンを時々自分で作る。それほど凝り性ではないので、麺は市販のもので十分だと思う。いくつか食べてみて、気に入った会社のものを選べば良い。問題はスープだ。豚骨は処理が大変なので、鶏がらか、手羽先を使う。素人だとどうしても、簡単に入手でき、処理が容易なものしか使えない。あとはせいぜい、煮干の頭を取ったものを水に付けておいて、鳥だしとは別のスープを作り、最後に併せる、といったことができるくらいである。あるいは、最も簡単なのは、豚のひき肉をさっと煮るだけで、しかしこれは結構うまいスープができる。これに、鶏の皮を焼いて作った鳥油や、ねぎの青いところを炒めたねぎ油を使えば、素人の出来としては完璧だ。チャーシューや煮豚を具として作り、そのだし汁を使っても良い。また具はシンプルに、ねぎとにんにくだけでも良いし、青菜を、例えば春先ならば、菜の花をさっと茹でて乗せると、これはうまい。
さてこうして自分で作ったものに60点を与えたい。そうして、これを基準に、外で食べるラーメンに点数を付けていく。最近は、凝ったラーメンが多いから、たいていは、80点や90点が付くが、一昔前ならば、その辺で行き当たりばったり、中華料理屋に入って、ラーメンを食べると、50点以下のものもたくさんあった。最近はそういう店がなくなったのか、私がただ単にそういう店に入らなくなっただけのことなのかは分からない。ただ、物事の基準として、自分で作ってみて、それを60点とし、プロが作るのならば、当然それを上回るべきだ、と考えるのである。
さて、ラーメンの話から始めたが、本題は酒である。まず日本酒を自分で作ってみる、と仮定する。「仮定」と書いたのは、日本では酒を作ると、酒税法違反になるから、あくまでも話は想像の産物である。
日本酒の原理は簡単で、米のでんぷんは、麹(こうじ)と混ざると糖分に変わる。この糖はさらに酵母の作用で、アルコールに変わる。ただそれだけだ。実際に作ってみても、とりあえず、飲める程度の酒を造るだけならば、それほど難しくはない。本当は、食べておいしい米と、酒造りに向く米とは種類が違うから、米選びから入らないとならないのだが、素人にそこまではできないから、米屋で売っているものを使うしかない。水も、東京の水道水を、これは極寒の夜に、一晩晒したものを使う。麹は、甘酒屋で売っている。酵母は、これはそのあたりの空気中に漂っているものを集めるのが良いのだが、なかなか難しく、私は、生のどぶろくを入手したら、その底の方に残っているものを取って置いて使う。あるいは、一回目には、パンを作るときの酵母を使って、二回目からは、その残り滓を使う。
そうして何回かやってみると、まあまあのものができる。これを60点とし、市販の酒と比べてみる。最近は各地の地酒が売られ、純米だの、吟醸だのと、80点、90点の酒が結構世に出てきたけれども、一昔前の、大手メーカーの作った酒はひどかった。妙な甘さが舌にいつまでも残るし、燗にすると、嫌なにおいが鼻につく。自分で作ったものの方がよほどましだ。
私は日本酒が段々と飲まれなくなった最大の理由は、大手メーカーが60点に到底満たないまずい酒を作り、自分で自分の首を絞めた結果だと思っている。だから、まずは多くの人が酒のうまさを判断する舌を持って、うまい酒をプロに要求しないとならないと思う。
さて、ビールは少し状況が異なるかもしれない。ビール作りは結構難しい。麦芽の扱いも、ホップの入手も大変だ。欧米では、ビールのキットが売られており、また日本でも、アルコール濃度が1%未満ならば、合法的なので、これもキットが手に入る。それらを使って作ってみても、実はそれほどおいしいものはできない。それに対して、日本の大手メーカーの作るビールは、私は結構うまいと思う。70点くらいは付けても良い。日本の気候に良く合わせて作っていると思う。また特に込み入った製法のものもあるし、各地の地ビールの中には、80点、90点を付けたいものもある。
最近ビールがとりわけ若い人の間で飲まれなくなってきている。その原因について、私はいずれこのコラムで書きたいと思うが、その内のひとつは、値段の高さである。そして値段が高い原因の根本は税金の高さである。大手メーカーは税金対策に様々な工夫をしてきたことは知られているが、その努力をことごとく台無しにする、税政策が採られている。また地ビールの値段の高さは、異常と言うしかない。私の知っている限りで例を出せば、カリフォルニアでは、むしろ地ビールを育成するために、税率を下げているのに、日本ではそのようなことは見られない。
私の結論は、日本酒については、個人の酒造りを認め、ビールについては、税率を下げることである。これで酒文化が少しは活性化する。のちに述べるように、若い世代はどんどん酒やビールから離れているから、放っておけば、いずれ危機的な状況になると思う。これを救うのには、酒税政策を変えるしかない。
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