世界の酒   ---常に酔っていなければならない--- ボードレール

第五十二回   ゴーヤ三昧               2011.8.4

 

庭に、三本のゴーヤが実を付けている。毎日食べても、なくならない。今年は、一時にゴーヤが実を付けたのでは、食べきれなくなると思い、三本の苗をそれぞれ、5月の上旬、中旬、下旬と、二週間の間隔を空けて植えたのに、最初のものは、先端が枯れてしまって、しばらく芽が伸びず、二番目のものも成長が遅く、結局、6月下旬から、三本同時に一気に大きくなって、7月下旬に、三本同時に実を付ける。8月の上旬からは、常にいくつもの実が生って、収穫が間に合わない。油断していると、黄色くなって、食べられなくなる。いや、食べられないのではなく、中の白い綿が、赤くなって、そこは甘くおいしいのだけれども、通常食べる、外側の緑の部分は、へなへなとなって、繊維だけが残り、おいしくはない。一日に一回、観察をして、これはあと三日後に食べようとか、これは明日には収穫しようと確認をして、日々、ひとつかふたつは収穫し、毎夕食に食べることにしている。妻や子どもは、早くも飽きてしまい、私一人で食べることもある。料理に工夫が要る。

定番はゴーヤチャンプルである。沖縄で良く見かける、缶詰のランチョンミートを、私は箱で買って、夏に備えている。これと厚揚げと一緒に炒め、塩と醤油で味付けをする。仕上げは卵でとじる。隠し味は泡盛。これで完璧な沖縄料理である。私はさらにこれに、茄子や隠元を加える。野菜が油を吸って、ゴーヤは程好い苦みがある。この料理には、泡盛も良いが、日本酒を、18度くらいに冷やして飲むのがうまい。冷やし過ぎず、この位の温度が、野菜のうまみを引き立てる。

あるいは、薄切りにして、氷水にさらして、サラダにする。ツナと合い、マヨネーズで和えるのがうまいが、鳥のささみやカルパッチョにした刺身類と併せて、バルサミコを少し、オリーブオイルは、これはたっぷりかけると、イタリアンになる。鰹節を掛けてもうまい。これには、冷やした白ワインが良い。シャルドネなどが特に良い。

さらには、豚のバラの塊を買って来て、大きめに切り、厚く切ったゴーヤと一緒に煮込む。同じく、豚を厚く切って、ソテーにし、その付け合わせにも、ゴーヤは合う。単純に、豚とゴーヤを煮るか、焼くかという料理がうまい。これにはもちろん赤ワインである。最近は、私はモンテプルチアーノばかり飲んでいる。

また、ゴーヤを厚めに切って、中の白い綿と種を取らず、そのまま油で揚げる。その後にカレーに入れればインド料理になるし、酢豚や八宝菜に入れれば中華料理だ。種は良く油で揚げられて、香ばしく、中の白い綿も甘く、おいしい。チーズを乗せて、オープンで焼くと、これもイタリアンになり、どの酒にも合う。

 大学はようやく夏休みに入ったのに、しばしば仕事に行かなくてはならず、雑用はたくさんある。しかし普段の時よりは、さすがに時間があり、大学に出かけなくて良い日は、朝早く起きて、メールのチェックなどをし、その後、近くの公民館で、空手の練習をするか、散歩をして、昼前から本を読み、論文を書き、夕方まで、それを続ける。そしてまだ日が暮れないうちから、ゴーヤを肴に酒を飲む。酒を飲みながら、さらに本を読む。平和で至福のとき。毎日がこうであればと願う。

 夕方、涼しくなると、クーラーを切って、窓を開けると、蝉の声がする。今年は、蝉が遅い。7月中旬から鳴くニイニイゼミは、下旬から鳴き始め、8月上旬の今時分には、嫌というほど鳴くアブラゼミは、ようやく出始めたところ。ミンミンゼミも、葛飾には大木が少ないので、もともと、神社にでも出かけないと見つからないが、散歩をしていても、少ないと思う。ヒグラシは、葛飾では水元公園のような、大きな茂みのあるところに出かけないと見かけないが、果たしてどうか。東京の下町地区で見られる蝉は全部で5種あり、あともうひとつは、ツクツクホウシだが、これは8月下旬に鳴く。今年はどうなるだろうか。

蝉の遅い原因は単純で、春先から夏の初めまでの気温が低かったからだと思う。ゴーヤも、間隔をおいて植えたのに、5月は気温が低いから育たず、結局、7月になって急に伸びて、三本皆、同じく育ったのにも、そのことは表れている。

そうして今年は、早々と梅雨に入り、早々と梅雨が終わって、すぐに猛暑が来て、今年の夏は、こんなに暑くて、大丈夫かと先が思いやられ、しかし、その後台風が来て、あたかも秋が来たかのような錯覚があり、その後は涼しくて、梅雨に戻ったかのようで、さらにその後は冷夏である。ゴーヤも蝉もすっかり振り回されているようで、しかし多少の遅れはあっても、しっかりと成長している。こちらも同じく、春から夏にかけて、地震の対策をしなければならず、気候の変調にも、随分と振り回されたが、しかし、しっかりしなければならない。暑くても涼しくても、仕事はしなければならず、酒も相変わらずに飲む。ただ、天気に合わせて酒を選び、料理の趣向を変える。そうやって、夏を凌ぐ。


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