便  秘

このページのTop  内科系疾患  鍼灸治療 

現代医学編

糞便の腸管内における異常な停滞、通過時間の異常な延長により排便回数や排便量が減少した状態。同時に糞便が腸管内に停滞するため、水分量の減少が起こり糞便が硬くなることが多い。排便回数や排便量は個人差が大きく、同一人物でも食事内容や量によって変動が大きい。
 便秘を厳密に定義することは困難であるが、一般に排便回数の減少(3から4 日以上排便がない)、便量の減少(35g/日 以下)、硬い糞便の排出のいずれかにより、排便に困難を感じた状態と定義する。もっとも簡便に用いられる定義は排便回数の減少である。
 患者は「便の量が少ない」、「便が硬い」、「排便しにくい」、「排便の回数が少ない」、「便意がない」と訴える。便遺残感など種々のものが含まれ、これらの単独または複合した意味で用いられる。
 腹部膨満感、腹部不快感、腹痛などを伴うことが多い。

1,病態
経口摂取された食物は、消化吸収を受けて盲腸に達し(2から6時間)上行結腸から横行結腸中部で水分が吸収されて便塊が形成され、(5から6時間)、徐々に下行結腸からS状結腸に送られる(12時間前後)。S状結腸直腸移行部の平滑筋は緊張性に収縮しているために、糞塊はS状結腸に蓄えられ通常直腸は空虚である。
 これらの便塊を直腸に送り込む強い蠕動が食後(特に朝食後)に起こり、直腸壁が伸展して便意が引き起こされる。このため健常者は1回朝食後に便意がある。便意が起こっても排便されない場合、便意は消失し次の糞塊が直腸に入って直腸壁が伸展されて再び便意が起こる。便意が感じられると反射的に結腸下部から直腸壁の収縮、肛門括約筋の弛緩が起こり、肛門挙筋が上昇する(条件反射)。随意的に複筋、横隔膜を収縮させることにより腹圧が高まり排便する。このような排便機序の各段階の障害により便秘が起こる。便秘はその起こり方、原因によって急性と慢性、器質性と機能性に分類される。
(1)急性便秘
一過性便秘とは旅行や食事や生活様式の変化、運動不足などによって生じる機能的なもので、原因が除去されれば速やかに正常に戻る。
器質性疾患で一時的に便秘の原因となるものには、炎症性腸疾患、肛門疾患、膵胆道系疾患、子宮付属器の炎症、重篤な感染症、脳卒中などが挙げられる。

(2)慢性疾患
機能性と器質性に分けられる。
機能性便秘はさらに弛緩性便秘と痙攣性便秘、直腸性便秘に分けることができる。
 機能性便秘の中で最多が弛緩性便秘である。大腸の運動の減退に基づくもので高齢者や無力体質、多産婦などに多く、腹部膨満感を訴えることが多い。
 痙攣性便秘とは下行結腸やS状結腸に痙攣性の収縮を起こし、通過障害を生じることによって便秘となる。代表的なものとして過敏性腸症候群による便秘が挙げられる。下痢と便秘を繰り返す交代性便秘を生じることも多い。
 直腸性便秘は直腸内に糞便が送られてきても便意あるいは排便を生じないもので、便意を抑制する習慣や下剤の乱用のある者、痔や肛門疾患のある者に見られることが多い。
 慢性の器質性便秘には大腸癌、腸管癒着。子宮や卵巣の腫大、腹腔内腫瘍などによる閉塞性のもの、ヒルシュスプルグ病やS状結腸過長症などの先天性便秘などが含まれる。また全身性疾患に伴う便秘、すなわち糖尿病、甲状腺機能低下症、低K血症、高Ca血症などの代謝、内分泌疾患によるもの。脳血管障害、パーキンソン病などの神経筋疾患さらに強皮症などの膠原病に伴う便秘などが挙げられる。さらに抗コリン薬、抗うつ薬などの腸管運動を低下させる薬物の使用による便秘もある。
 これらの分類の中で最も多いのは慢性機能性便秘である。大腸癌をはじめとする悪性腫瘍は臨床的に最も重要な疾患であるが便秘のなかでは占める頻度は多くない。

2,診断
機能性の急性便秘では、症状が軽く診断も容易である。器質性の急性便秘は腹痛、悪心、嘔吐などを伴ったイレウスとしての処置を行いながら原因となった疾患の診断を進めていく。慢性便秘では大腸癌をはじめとする器質的疾患を常に念頭に入れておく必要がある。
 便秘は多様なので訴えの内容を詳細に聞き、客観的把握を行う。腹部症状は便秘に基づく症状と原因疾患による症状があり、両者の鑑別が必要である。高齢者に多いうつ状態にみられる便秘では食欲不振、不眠などを訴えることが多い。年齢や便秘の始まる様式も鑑別に役立つ。中高年で最近比較的急に発症した時は器質的疾患を考える必要がある。これに対して長期に持続するときは弛緩性あるいは習慣性便秘のことが多い。青少年期に始まる腹痛を伴った便秘の場合は過敏性腸症候群を考える。幼少期から持続する場合はヒルシュスプルング病などの先天性疾患が考えられる。
 食生活では低残渣食や水分摂取量の減少などが便秘の原因となる。環境因子も便秘に関係する場合もある。排便感が生じてもただちにトイレに行けない職業の人や、入院生活、寮生活が便秘の原因となることがある。モルヒネ、制酸薬、抗コリン薬、抗うつ薬などの薬物も原因となる。既往歴では開腹手術の有無、腸閉塞、腸管癒着症などが考えられる。
(1)身体診察
全身的な診察に加え、腹部の視診、聴診、触診を丁寧にする。
腹部手術の瘢痕の有無を確かめ、聴診でグル音の亢進または減弱がないかをみる。グル音の亢進を認める時は大腸癌、腸管の癒着などによる閉塞を疑う。腹筋の緊張の程度、腹部腫瘤、腹水の有無などを重点に触診する。左下腹部に大腸が索状に触れ、圧痛を伴うことがある。
直腸指診は便秘を訴える患者にはできるだけ全例に実施する。肛門疾患の有無、肛門括約筋の緊張の程度、直腸腫瘍の有無、直腸内糞塊の有無および性状(血液、粘液の付着)について調べる。直腸内に糞便を触れる場合は直腸性便秘を考える。直腸診は直腸癌などをすぐに診断できる重要な検査である。
(2)考察
中高年で比較的最近発症した場合、また血便、嘔吐、体重減少、貧血、腹部腫瘍などは器質性疾患を考えさせる症状所見がある時は大腸X線検査、大腸内視鏡検査を速やかに実施する。症状がない場合は二次性の便秘の可能性を考える。代謝、内分泌疾患や神経疾患、膠原病などの全身疾患、金属中毒、薬物の使用の有無を確かめる。これらの要因がなければ慢性の機能性便秘として弛緩性、痙攣性、直腸性便秘のいずれかと診断される。
(3)スクリーニング検査
@一般検査
抹消血検査、生化学検査(電解質、血糖)、甲状腺機能検査、腫瘍マーカーなど
A糞便検査
器質性疾患の除外に便潜血反応は必須。
B腹部単純X線検査
鏡面像、腸管ガス像、糞便量などをみる。
C大腸X線検査
大腸の形態異常(位置異常、過長症、拡張の有無)を含めた器質性疾患の除外だけでなく、ハウストラの状態などの機能面でも多くの情報を得ることができる。
D大腸内視鏡検査
器質性疾患の確定診断に有用である。大腸メラリーシスはアントラキノン系の下剤の乱用を示している。
E腹部超音波検査、腹部CT検査
腸管自体の情報には乏しいが、腹腔内臓器のスクリーニング以外に、腸管の拡張、腸管壁の肥厚、腹水の有無などの情報が得られる。

3,確定診断
a,大腸癌の確定診断
病歴情報からは、中高年で便秘が最近出現してきたり、便性が細くなったなどの排便習慣の変化に加えて、血便や体重減少、腹痛を伴う便秘の場合は大腸癌を疑うべきである。特に血便と体重減少は重要で、機能性便秘にはほとんどみられない。
便の潜血反応は必ずすべきであり、直腸診は肛門部の局所疾患の有無が鑑別できる。大腸癌の40%が指が届く範囲に存在するので、診断価値が高い。直腸内糞塊の有無を知ることができるので、潜血反応のための糞便の採取もできる重要な検査である。最終的には直腸鏡検査、大腸内視鏡検査により診断を確定する。血便、体重減少を伴う便秘の場合、必ずアプローチする必要がある。
b,過敏性腸症候群の確定診断
若年から中年の間では比較的頻度の高い疾患で下痢と便秘を交互に繰り返す交代性便通異常(便秘下痢交代症)の型をとることも多い。左下腹部の不快感や腹痛、腹部膨満感、食欲不振、悪心などの消化器症状のほかに、心悸亢進、めまい、頭重感などの神経症状を訴えることが多い。体重減少はみられない。排便量は少なく兎糞状の硬便で排便後に疼痛は軽減することが多い、残留感があることもある。直腸診では直腸は空虚である。XーRAYは大腸に深いハウストラがみられる。XーRAYあるいは腸内視鏡検査で器質性疾患を除外する必要がある。
c,弛緩性便秘の確定診断
慢性便秘の大部分がこの型であり、高齢者、長期臥床者、経産婦にみられる。代謝、内分泌疾患や神経筋疾患、膠原病などの全身疾患や金属中毒、腸管運動を低下させる薬物の投与などでもみられることから、これらを1つ1つ除外する必要がある。趾間性便秘では症状は乏しく、腹部膨満感がみられる程度である。太く硬い便が排出され、腹部触診で下行結腸が便で膨大しているのを触知することができる。直腸診では直腸内にむ便の貯留を認め、直腸性便秘を合併していることが多い。XーRAYでは大腸のハウストラは消失し、著しい拡張像がみられる。
d,直腸性便秘の確定診断
直腸に便秘が進入しても便意が起こらず排便反射もないために、排便が困難となっている。(排便困難症とも呼ばれる)
多忙な人や痔などの直腸肛門病変のために排便痛のある人は、この型の便秘になりやすい。症状としては便意わ欠くものが特徴である。便は硬く一部分割便となりやすい。
直腸指診では直腸腔は異常に拡大し、糞便が残っている。