慢性閉塞性肺疾患(COPD)


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現代医学編
有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患である。
気流制限には様々な程度の可逆性を認め、発症と進行が緩徐であり労作性呼吸困難を生じる。慢性気管支炎と肺気腫と合わせた疾患群と理解されるが気腫優位型と気道病変優位型から臨床像は次の様になる。

①気流制限に関する主要要因は末梢気道病変である。
②主として肺胞系の破壊が進行して気腫優位型になるものがある。
③主として中枢気道病変が進行して気道病変優位型となるものがある。
④肺胞ー末梢気道ー中枢気道に及ぶすべての病変を包括する概念である。
⑤肺内病変の進行に伴い、労作時呼吸困難、気道の過剰分泌、多様な全身症状を生じる。
⑥発症、リスク因子と回避と適切な管理により、有効な予防と治療が可能である。
COPDの最大危険因子は喫煙である。(80~90%)

1.病態
①肺気腫の病理は次の3種類に分類される。
・汎小葉性肺気腫
病変は肺胞全体に広がり、下肺野優位である。一般にα
1アンチトリプシン(αーAT)欠損症おいて見られる。肺底部の限局性汎小葉性肺気腫は喫煙者の小葉中心性肺気腫に伴って認められることがある。
・小葉中心性肺気腫
病変が呼吸細気管支に始まりその末梢に広がっている。小葉中心性肺気腫は細葉中心性肺気腫の一型で長期にわたる喫煙に伴うものである。限局性肺気腫も細葉中心性肺気腫の一型で炭坑夫肺においてみられる。
・遠位細葉性肺気腫(傍隔壁型肺気腫)
気道末端の構造物、肺胞管、肺胞嚢に好発する病変は線維化した小葉間隔壁や胸膜に接した部位に限局している。肺尖部のブラは自然気胸の原因となりうる。この型の肺気腫では気流閉塞は強くない。

②肺胞壁の破壊と再構成の病因としては肺胞局所のエラスターゼとプロティナーゼインの拮抗によるという仮説が有力視されている。しかし蛋白分解酵素阻害作用をもつαーATの欠損症は極めて稀であり、欧米においても1%以下である。

③慢性気管支炎(気道病変優位型)とは気道の粘液の過剰分泌が持続する病態であり、「痰を伴う咳が1年間に少なくとも連続3ヵ月以上から2年以上にわたる。」と定義される臨床症状に基づく疾患名である。

2.症状
①患者の多くは喫煙者であり、労作時の呼吸困難と慢性の咳嗽、喀痰が主要症状である。
②COPDに典型的な身体所見は重症になるまで出現しないことが多い。
③視診上、口すぼめ呼吸、ビア樽状胸郭と称される胸郭前後型の増大、ときに胸郭の奇異性運動(下部肋間の奇異的内側移動フーバー徴候)を認める。
④胸鎖乳突筋や斜角筋などの呼吸補助筋の使用が目立ち、特に胸鎖乳突筋の肥大を認める。
⑤打診では肺の過膨張のために鼓音を示し、触診では胸郭の拡張運動域が全体に減少する。
⑥聴診ではしばしば呼吸音が減少し、呼吸延長を認め強制呼出時の喘鳴を認めることもある。

3.検査所見
①胸部X線検査
気腫優位型では肺過膨張の所見として横隔膜の平低化、傍胸骨腔の拡大、細長い心陰影(滴状心)を認め。肺の破壊に伴う血管床減少の所見として血管影の急激な途絶を認める。気道病変優位型では通常は異常所見を認めないことが多いが、感染を繰り返したり病変が進行した場合には肺紋理の増強、気管支壁の肥厚、トラムライン、輪状陰影、索状影などが出現する。
②CT検査(特に高分解能CT)
X線検査より感度も特異度もはるかに優れている。肺気腫の解剖的分類型と同定できる可能性がある。これらの情報によって肺気腫の治療法が変わることはないが禁煙指導に有用である可能性がある。巨大ブラに対する切除術の適応、合併する気管支拡張症の診断において重要である。
③呼吸機能検査
気腫型COPDでは1秒量(FEV
1.0)の低下は重症度を反映する。β刺激薬エアゾル吸入前後の改善の有無で気道閉塞の可逆性をみる。肺気量では全肺気量(TLC)、機能性残気量(FRV)、残気量(RV)の増加が認められる。肺活量(VC)は減少していることもある。肺の一酸化炭素拡散能(DLCO)は肺血管床の減少に伴い重症度に比例して低下する。またCOPDでは肺弾性収縮圧が減少して圧量曲線の勾配が急峻となり、圧量曲線が左上方に偏位して胸腔内圧の陰圧度が低下するため、最大吸気位食道内圧も陰圧度も減じる。
気道病変優位型では、ほぼ正常なものから閉塞性障害を示す場合まである。
④運動負荷試験
重症度の評価、呼吸循環系などの運動制限因子の解明、治療方針の決定や治療効果の判定、予後の評価に有用である。
⑤動脈血ガス分析
病気の進行により、低酸素血症が高度になり、次第に高炭素血症を伴うようになる。急性憎悪時には血液ガス異常はより高度になる。運動時や睡眠時にも異常が高度になることがある。
⑥血液検査
低酸素血症が進み、PaO
2が55以Torr以下になると赤血球(RBC)増加がみられる頻度が増加する。
⑦喀痰検査
急性憎悪時の起炎菌を同定する。

4.診断・鑑別診断
(1)次の①~③の臨床症状のいずれかがある。臨床症状がなくてもCOPD発症の危険因子、特に長期間の喫煙歴があるときはCOPDである可能性を念頭においてスパイロメトリーを行うべきである。スパイロメトリーはCOPDの診断においては最も基本的な検査である。
①慢性の咳嗽 ②慢性の喀痰 ③労作時の呼吸困難 ④長期間の喫煙あるいは職業性粉塵曝露
(2)上記の臨床症状や危険因子のうえに次の2つの条件を満たさればCOPDと診断できる。
・気管支拡張投与後のスパイロメトリーでFEV
ro/FVC<70%を満たす。
・他の気流制限をきたしうる疾患を除外すること。ただし気管支拡張薬の投与は次の様に行う。
・検査は原則として急性呼吸器感染症のない、臨床安定期におこなう
・短時間作用型気管支拡張薬は少なくとも6時間、長期間作用型気管支拡張薬は24時間中止した上で検査を行う。
・検査に用いる気管支拡張薬は通常短時間作用型吸入用β
2刺激薬を原則とする。抗コリン薬あるいは両者の併用であってもよい。
・投与方法はスペーサーを用いたβ
2刺激薬定量噴霧式吸入薬(MDI)吸入、ネフライザー吸入のいずれであってもよい。
・気管支拡張薬吸入後の検査は吸入後30~60分後に行うべきものとする。
・気管支拡張薬の吸入の効果の評価は吸入前のFEV
110と吸入後FEV110を比較して200ml以上の増加かつ前値に対して12%以上の増加があたったときに有意と判定する。
(3)確定診断
気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、先天性副鼻腔気管支症候群、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、肺リンパ脈管筋腫症、うっ血性心不全を除外するために呼吸機能精密検査、動脈血ガス分析、肺高分解能CT検査、肺血流、吸入シンチグラフィー、運動負荷試験、夜間睡眠時呼吸モニターのような検査を行い、COPD
の病期分類および病態生理の理解を得る必要がある。
5.治療
①禁煙指導
喫煙者の15%は急速に1秒量が減少し(150ml/年)COPDを発症する。しかし禁煙後の肺機能の低下率は同年代の非喫煙者と同等(約30ml/年)まで減少する。禁煙は開始年齢にかかわらずCOPDの予後を改善する。医師による指導やニコチンガム投与、カウセリング、グループ療法が行われる。
②薬物療法
気管支拡張薬、抗コリン薬、テォフィリン、コルチコイド(副腎皮質ホルモン)などを使用する。
③換気補助療法
高炭酸ガス血症を伴う患者(Ⅰ型呼吸不全)に対する換気補助療法と非侵襲陽圧換気療法(NIPPV)が普及しつつある。
④在宅酸素療法(HOT)
低酸素血症を示すCOPD患者の生存期間を有意に延長する。特にⅡ型呼吸不全に有効である。
⑤呼吸リハビリテーション
好気的運動訓練が慢性肺疾患患者に有効あると示されている。
⑥インフルエンザワクチン
インフルエンザワクチンは憎悪によるCOPDの死亡率を50%低下させることが報告されている。
⑦急性憎悪は気道感染と大気感染が原因とされているが1/3は原因が確認できないことが報告されている。酸素吸入、気管支拡張薬に加えて抗菌薬、抗ウィルス薬、抗真菌薬を適切に投与する。ステロイドの全身投与が憎悪から回復するまでの時間を短縮するとの報告があるが、長期投与は避けるべきである。