冷 え 性


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1,現代医学編

通常の人が苦痛を感じない程度の温度環境において腰背部、手足末梢、両側下肢、半身、全身的に冷感を自覚し、一般的にこの異常を長期的にわたって持続している状態をいうとされているが、統一された定義は存在していない。
冷え症には原因不明の本態性のものと種々のの基礎疾患による続発性のものがある。
T,本態性冷え症
(1)自律神経失調症性冷え症(いわゆる冷え症)
自律神経症状の頻度と冷え症の頻度が相関している。このことから自律神経機能の失調が血管運動神経機能を障害することにより、冷感部位の毛細血管が攣縮が起こり、血行が妨げられることにより冷たく感じるものである。冷覚過敏症ともいわれている。

(2)心因性自律神経症
自律神経機能に異常を示さないが情動障害が根底にある。このことにより皮膚の冷覚過敏を起こす。

(3)続発性冷え症
続発性冷え症は種々の基礎疾患によって発症するものである。原因には貧血症、甲状腺機能低下症(粘膜水腫)、心臓弁膜症、末梢循環不全(バージャー病、閉塞性動脈硬化症、レイノー病)などがある。
U,成因
未だ明らかになっていない。末梢循環障害説が根底にある関連する自律神経機能、内分泌機能、心機能を含めた循環機能などが関連していると考えられている。
(1)自律神経機能との関連
末梢循環障害を判定する方法としてサーモグラフィがある。
冷え症の訴えが多い四肢末端の皮膚温をみると、下肢においては自覚に一致した足指の低温の範囲が、上肢においては手背の高温の範囲や左右差が冷えの自覚に関連するとされている。これらは血管運動神経の過緊張、不均衡、不安定によるものとされている。

(2)内分泌機能との関連
頻度は女性が圧倒的に多い。思春期や更年期の性機能の転換期に対応している。月経異常が随伴している場合、頻度は更に高くなる。冷え症の患者の特徴のひとつとして甲状腺ホルモン(T4)の低値であることがある。代謝の低下が寒冷耐性を低下させている時がある。

(3)循環機能との関連
心機能を含めた循環機能との関連としては血圧がある。若年層冷え症患者では低血圧が中高年層冷え症患者では高血圧である傾向がある。

V,診察
(1)問診
基礎疾患の存在の有無の把握、冷え症の特徴をつかむことが重要。そのために十分面接を実施する。
@発症時期
発症時期から性機能の転換期との関連、発症に関連した社会的状態を把握。
A症状の存在する部位
症状のある部位としては両足(足指)が多いが、同時に顔面、上半身の火照りや発汗亢進の有無を確かめる。冷え症の症状が一側だけの時は、末梢循環不全を疑う。
B日内変動、季節変動の有無。
日内変動や外部環境変化による変化を把握する。
C月経異常の有無
月経異常の有無とそれによる影響(悪化因子であるが否か)を確認する。
D冷え症に対する対策
実施している生活上の対策について聞く。また適切な方法をアドバイスする。
E生活歴
運動状況、食生活、嗜好品、睡眠について聴く。必要な時は積極的にアドバイスをする。
F基礎疾患の有無
卵巣摘出、血圧異常、甲状腺機能低下症、副腎疾患の有無、交通事故等の外傷歴についても聴取する。

(2)判定
@自覚的部位の客観的確認
足の冷えがある場合、実際に皮膚温が低下している場合と皮膚温が低下していない場合がある。皮膚温が低下していない場合は皮膚の冷えを感じる受容器の障害や中枢神経での温度感覚障害などがある。脂質異常症治療薬、抗悪性腫瘍薬、抗ウィルス薬などの副作用を考慮する。
A足背、後脛骨動脈の確認
足の冷えの場合、左右の足背、後脛骨動脈拍動の触知が困難であることが多い。一側だけが触知困難である場合や大腿動脈拍動の左右差が確認できた時は、末梢循環障害を疑う。
B毛細血管の拡張の確認
腰部および下肢(膝窩部、下腿前・後側、外顆の周囲)の毛細血管が拡張している場合冷え症の頻度が高くなる。
C仙骨部の硬結の確認
触診の時に下部腰椎から仙骨部にかけての硬結や皮下組織の肥厚を感じることがある。このような反応は冷え症の頻度と対応している。
D経絡様皮膚線
足根部より膝窩内側、大腿内側から外陰部後陰唇連合付近に至る、足少陰腎経に相当した経絡様皮膚線(白または褐色、下腿で毛深い場合では毛が抜けて白い線となる)をみることがある。他に手の太陰肺経、手厥陰心包経および任脈に相当する線をみることがある。
この反応が確認できると冷え症の頻度が高くなる。
E性格特性の判定
冷え症の心因性因子との関連を判定する目的でおこなう。心理テストを用いる場合がある。短時間で実施可能なものとしてYG性格テストなどがある。実施については患者に同意を得た上で慎重に進めるべきである。