気管支喘息


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現代医学編
気管支喘息とは
 気道の慢性炎症性疾患であり、その慢性炎症により気道の過敏性が上昇し、繰り返す喘息、息切れ、胸部圧迫感および咳嗽が特に夜間や早朝に起こる。この症状は気道の閉塞を伴って起こり、しばしば自然に、あるいは治療により緩解する。従来は可逆性の気道収縮が気管支喘息の特徴とされてきた。しかし治療法の改善にもかかわらず気道リモデリングを生じて非可逆的となる致死率の高い難治性喘息が大きな問題になっている。発生頻度は平成7・8年の疫学的研究によると小児喘息の有症率は4.0%、既往を含めると6.4%である。一般に都市部に多く、人口密度と相関する。成人では20代が2.0%、40代が1,8%と有症率は年齢が高くなるほど減少し、全体の累積有症率は3.0%である。死亡率は人口10万人に対して4.8人。1979~94年の間の年代別の喘息死は男女とも15~49歳の若年層で増加傾向をしめしたが吸入ステロイドの改善・普及によって死亡率は減少している。

1,病態
(1)アトピー、非アトピーにもかかわらず、気道に豊富に侵潤したTh2リンパ球から放出されたインターロイキン5(IL-5)、インターロイキン3(IL-3)、顆粒球、マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などによって活性化された好酸球による炎症が慢性化し、気道過敏性が亢進する。最近ではインターロイキン3(IL-3)が気道壁の線維化や上皮細胞から胚細胞への分化を促進するなど難治化に至る気道リモデリングにも重要であることがわかってきた。

(2)気道過敏性は抗原刺激、化学刺激、タバコの煙、冷たい空気あるいは運動によって生じ、その結果気流がさまざまな程度に制限される。

(3)喘息患者の気管支
細気管壁には好酸球、リンパ球、肥満細胞、好塩基球、好中球などの炎症性細胞が浸潤し、上皮細胞の剥離、気道粘膜下の浮腫、気管支腺や胚細胞の増生がみられる。

(4)気道平滑筋の著しい肥大、基底膜へのⅢ型やⅣ型コラーゲンおよびフイブロネクチンの沈着リモデリングが非可逆的な病変部を形成して、治療に抵抗性わ示す原因となる。

(5)重症発作の約4割はウィルス感染とかかわりがあり、6割の喘息患者におけるウィルス感染は発作を悪化させる要因となっている。非喘息患者で見られるウィルスによる一時的な気道過敏性は8週間以内で治まる。

(6)アスピリン感受性
喘息では、しばしばアスピリンあるいは他の非ステロイド性抗炎症薬の感受性が亢進している。特に喘息、鼻ポリープ、アスピリン過敏性の症状が続き、やがて鼻ポリープを生じる。

2,症状
(1)発作性の呼吸困難、喘鳴、咳(夜間、早朝が多い)、既往症状、発症の型、発症および悪化の要因、悪化したときの症状は重要である。急性発作時、喘鳴と「胸が痛くなる」という訴えはよく聞く。「息が吸えない」という訴えは吸気筋の緊張性が原因とされているが、気道の収縮や粘液栓でチェックバック状になって肺が過膨張していることも考えられる。成人の喘息では早朝や夜間の発作が一般的である。夜間の症状は胃食道逆流や狭心症、あるいは左心室不全といった心血管系疾患との鑑別が必要である。

(2)可逆性の気道閉塞
種々の原因で起こり、自然にまたは治療によって緩解するが、長期に罹患すると可逆性が減少して正常化しない。

(3)気道過敏性の亢進
症状がなく、呼吸機能も正常な喘息患者でもアセチルコリン、ヒスタミン、メサコリンによる刺激に対して気道反応性が亢進している。

(4)環境アレルゲンに対するIgE抗体の産出(アトピー)
特定の環境アレルゲンに対する即時的皮膚反応陽性、特異的IgE(REST)陽性、または吸入誘発試験陽性を示す。

(5)鑑別疾患の除外

(6)気道炎症の存在

3,診察
(1)喘鳴
喘息発作時の喘鳴は狭窄した気道内の速い気流が乱れることによってさまざまな音色として生じ、主に呼気時、ときに吸気にも聴取される。喘鳴の強さやピッチの高低はPEF(1秒量の変化)と相関する報告があるが、必ずしも気道閉塞の程度や喘息の重症度に反映しない。上気道領域での吸気と呼気の両方で喘鳴が聴取される場合は声帯の麻痺や機能不全、あるいは上気道の腫瘍などのような上気道閉塞を疑う。

(2)鼻炎、副鼻腔炎、鼻ポリープは慢性閉塞性肺疾患(COPD)やうっ血性心不全よりも喘息に多く見られる。

(3)奇脈
胸腔内が吸気時に著しく陰圧になることによって収縮期血圧が下がる奇脈は、気道閉塞の程度、空気の封じ込め、努力性呼吸を反映する。

4,検査
(1)肺機能検査
・スパイロメトリー
気道閉塞所見を確かめ、気管拡張薬による1秒量(FEV1.0)の改善を確認する。診断基準はさだまっていない。

・PEF(最大呼吸流量)
気管支拡張薬の投与前、投与後のPEFの改善は可逆性の目安になるはずであるが、明確な診断基準として定められていない。喘息はPEFの変化が増大することで特徴づけられる。

・肺活量(VC)
VCを含む一般的な肺機能検査は他の肺疾患との鑑別に有用である。喘息では残気量(RV)の増大がみられる。発作時には機能性残気量(FRV)と喘肺気量(TLC)も増加する。フローボリュームカーブは上気道閉塞疾患を除外するにも有用である。

・肺の一酸化炭素拡散能(DlCo)
喘息では基準範囲内にあるが、肺気腫で減少する。

・動脈血ガス分析
平穏状態の喘息では基準範囲にあるが、発作時には低酸素状態となる。PaCO2(動脈血CO2分圧)は過換気のために低くなるが、重症の喘息状態となると高くなりPHはPaCO2で予期されるよりも低く、乳酸アシドーシスが起こる。

・胸部X線
CT検査、喘息では特異的な変化がみられないが、COPDなどとの鑑別のために有効である。

・心電図検査
平穏状態では基準範囲でも重症発作時には上室性頻拍、肺性P右軸偏位、右脚ブロックなどのさまざまな変化を起こす。心疾患との鑑別やテオフィリン、βアゴニスト療法の副作用のチェックにも有用である。

(2)血液検査
・好酸球増加
アレルギー性でも非アレルギー性も喘息患者の末梢血中の好酸球が4%以上あるいは300~400/μがみられることがある。しかしステロイド薬が投与されていれば好酸球増加は見られない。好酸球が増加していなくしも喘息は否定しない。

・IgE
喘息患者の血清中にはIgEが高値である事が多い。その場合は抗原の特定が求められる。アレルギー性鼻炎では皮膚テストが有効であるが喘息患者ではIgEのほうが信頼性が高い。IgEが高いことは喘息を意味しないし、IgEが基準値でも喘息は否定しない。

・その他
抗真菌IgGは喘息症状誘導の原因が不明な場合に有効なことがある。重篤な喘息の急性発作時、乳酸値やCrが高値になることがある。

(3)喀痰検査
喀痰中の好酸球増加はCOPDよりは喘息に多く、好中球の増加は慢性気管支炎に多い、喀痰中の好酸球はいずれの疾患にもみられる。発作中の喀痰に好酸球の顆粒膜の構成物であるシャルコーライデン結晶や脱落した気道上皮に由来するクレオライ体、粘液がよじれたクルシュマンらせんなどがみられる。

(4)アレルギーテスト
喘息がアレルギー性であるかどうか、また特異的な抗原があるかどうかを調べるために有効である。高齢になるにつれて特異的喘息を起こす可能性が低くなる。抗原の特定には血清中のIgEや皮膚テストおよび抗体の反応をみる。

(5)気管支刺激テスト
異常な気道反応が喘息の病態としてとらえられてきたことからヒスタミンやメサコリンのような化学刺激物によるテストがなされてきた。実際には化学刺激物と他の刺激に対する反応の差をみることは有意義である。刺激テストは臨床上では肺機能上異常がない喘息患者の検査としてのみ使用される。高齢者の気管支刺激テストはあまりあてにはならない。

5,診断・鑑別診断
(1)診断
臨床症状のなかで特に
・呼吸困難などの喘息症状
・可逆性の気流制限、喘息症状
が他の心肺疾患によらないことが重要である。気道過敏性、気道炎症は他の所見とともに喘息であることを支持する。

(2)鑑別診断
・喘息以外の閉塞性肺疾患
慢性気管支炎、肺気腫、気管支拡張症などのいわゆるCOPDの症候群は単に喘息と類似した症状を示すことがあるというだけでなく、疾患として重なり合うことから鑑別はきわめて困難な場合もある。臨床的には治療方針に影響を与える状況はほとんどなく、正確な鑑別診断が求められる必要性に関しては疑問である。

・うっ血性心不全
左房圧と肺血管内の急激な上昇は気腔を狭くし、呼吸困難と喘鳴を生じさせる。気道閉塞のメカニズムは不明瞭であるがおそらく神経を介した反応と間質圧の増加に伴う気道の変化の両方に伴う変化であろう。異常心音を伴わない僧帽弁狭窄症も喘息と誤診されやすい。急性心不全に伴う気道抵抗の急激な上昇は気管支拡張薬や血流異常の正常化によって改善する。左室不全の患者との鑑別診断はFVC、FVC
0、FVC1%あるいは低肺気量での気流が減少することがあり、鑑別診断が難しくなるが、一般的には拘束性である。自覚症状が臨床所見にさほど比例しないことが喘息と異なる。

・喉頭不全
フローボリュームカーブや喉頭鏡、気管支鏡の観察で診断できるが、その可能性を疑うことは大切である。

・慢性鼻炎
慢性気管支炎や気管支拡張症、あるいはびまん性汎細気管支炎などをとのなうことが多く、喘息様喘鳴を聴取することがある。

・逆流性胃食道炎
誤飲などの原因で気道粘膜傷害を生じ、喘鳴を呈することがある。

6.治療
(1)長期管理
喘息症状の改善と維持、および呼吸機能の正常化とその維持を目的とする。喘息の重症度による薬物療法をおこなう。
・吸入ステロイド薬
喘息を慢性の好酸球性気道炎症ととらえる現在では喘息治療の中心であり、実際に喘息死を激減させたという報告が多い。

・テォフィリン
従来知られている気道拡張作用と最近では抗炎症作用の報告がある。テォフィリンの血中濃度は治療濃度域に達し、また危険濃度になっていないことを確認するために重要な指標である。通常テォフィリンを投与されている喘息患者の急性発作時にはすでに血中濃度が高まっている可能性があり、注意を要する。

・選択的β
2刺激薬
心臓刺激作用が少ないとされて期待されてきたが、定期的に吸入性β刺激薬を使用している喘息患者の重症発作死亡例が1990年に報告され、また喘息の気道収縮が慢性炎症に由来するものであるという最近の理解から、吸入薬はステロイドが使用される。発作時や運動誘発性喘息(EIA)、夜間発作の予防に有効との報告もあるが、、吸入回数の急激な増加は非常に危険である。吸入あるいは経口薬の長期投与の根拠はNIHのガイドラインでは長期管理において抗炎症薬を十分にしたのちに長時間作動型β
2刺激薬を追加投与することを指導している。

・抗ロイコトリエン(抗LT)薬
アラキドン酸の5ーリボキシナーゼ代謝産物のLTのうちペプチドLT類(C
4,D4,E4)は強力な気道収縮作用と血管透過性亢進作用をもち、気道過敏性、気道への好酸球浸潤促進作用がある。抗LT薬は1秒量の改善や喘息発作の回数減少などの作用があり、軽症~中等症患者の治療薬として有効であるが、急性発作の治療薬としては用いられない。

・抗トロンボキサン(抗TX)薬
トロンボキサンA
2(TXA2)は、アラキドン酸のシクロオキシゲナーゼにより血小板で多量に産出される強力な平滑筋収縮作用、気道過敏性亢進があり抗TXA2気道過敏性改善効果が認められるが、症状安定期の患者を投与対象とする。

・ヒスタミンH
1拮抗薬
軽症~中等症のアトピー型の20~30%に有効であるが効果判定には4~6週以上の投与が必要である。

(2)発作治療
喘息発作(急性憎悪)の強度に対応した管理法により、気管内挿管が必要となる場合がある。