甲状腺疾患


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1.甲状腺疾患
(1)甲状腺の位置と甲状腺腫
甲状腺は「喉仏」と言われる甲状軟骨の下方、気管の前面から側面を取り巻くように存在している。前方から見ると蝶が羽を広げた様な形で右側を右葉、左側を左葉、中央部を峡部という。正常な甲状腺は縦横4〜5cm、厚さ1cm、重量10〜20gの小さな柔らかい臓器である。

触診で触れることはない。触知できる場合は甲状腺腫があって、何らかの甲状腺疾患が存在する事を意味する。バセドゥ病や橋本病では甲状腺全体がびまん性に腫大し、亜急性甲状腺炎や急性化膿性甲状腺炎、甲状腺腫瘍などでは片側性の腫大または部分的に腫大する結節性甲状腺腫を認める。亜急性甲状腺腫や急性甲状腺炎では甲状腺腫の圧痛や自発痛を伴う。
2.甲状腺ホルモンと甲状腺の機能
海藻などに含まれるヨードは摂取されると甲状腺に集まり、甲状腺はヨードを材料として甲状腺ホルモンを合成し血液中に分泌する。甲状腺ホルモンにはThyroine(T4)とTriiodothyronine(T3)があり、T3はT4よりもホルモン活性が高い。甲状腺ホルモンの合成や分泌が過剰になっている状態を甲状腺機能亢進症、合成や分泌が低下している状態を甲状腺機能低下症という。

甲状腺ホルモンは全身の臓器や細胞に作用し、糖や脂質を分解して生命維持に必要なエネルギーを産出して新陳代謝を調整する。糖代謝、脂質代謝においても重要な役割をはたしている。
甲状腺機能亢進症・・・血中総コレステロール値の低下、耐糖能異常がみられる。
甲状腺機能低下症・・・血中総コレステロール値の増加がみられる。
甲状腺ホルモンは体温、脈拍、発汗、胃腸の蠕動などの自律神経の働きを調節する。胃腸の消化吸収にも影響を及ぼす。さらに胎児かせ成人になるまで脳や神経、知能の発達を促進し、骨の発育を促す。

下垂体からは甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンを分泌させる甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌される。視床下部からはTSHの分泌を調節するTSH放出ホルモン(TRH)が分泌される。血中甲状腺ホルモンによるネガティブフィードバックによりTSHおよびTRHの分泌は抑制される。

甲状腺ホルモンは血中では大部分が蛋白と結合した形で存在するが、臓器に作用してホルモン作用を発揮するのは蛋白と結合していない微量の遊離型の甲状腺ホルモンである。臨床においては遊離型の甲状腺ホルモンFreeT3(FT3)とFreeT4(FT4)および下垂体のTSHを測定し、これらがすべて正常であれば甲状腺機能は正常、FT3、FT4のどちらかまたは両方が高値でTSHが低下していると甲状腺機能亢進症、FT3、FT4が低値でTSHが増加している時は甲状腺機能低下症と診断する。

3,甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の症状
・甲状腺機能亢進症
新陳代謝が異常に活発になっている。暑がり、多汗、微熱、動悸、頻脈、易疲労、手指振戦、体重減少、排便回数増加、軟便や下痢、筋力低下、月経不順、無月経、不眠、高血圧
・甲状腺機能低下症
寒がり、冷え症、低体温、皮膚乾燥、体重増加、浮腫、徐脈、疲労倦怠感、気力低下、便秘、頭髪や眉毛の外側の脱毛、筋力低下、記憶力低下、眠気、抑鬱、月経不順

軽度の場合無症状である場合も多い。

4,甲状腺疾患の分類
(1)甲状腺機能亢進症を呈する疾患
バセドゥ病が最も多いが亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎などもしばしば見られる。
亜急性甲状腺炎・・・上気道炎を前駆症状として発症し、ウィルス感染が原因の可能性が高いと考えられている。片側の甲状腺の炎症が起こり、発熱、片側甲状腺腫とその自発痛、圧痛を認める。血液検査ではCRPや赤血球沈降速度が高値である。治療はステロイド剤の内服が行われている。
無痛性甲状腺炎・・・橋本病、バセドゥ病が基礎にあることが多い、女性では出産後1年の間にも時々起こる。自己免疫機序により一過性の甲状腺の炎症が起きて、甲状腺から甲状腺ホルモンが血中に逸脱し、血中の甲状腺ホルモン値が高くなるが、その後一過性の甲状腺機能低下症をきたし、約3ヵ月で収束して甲状腺機能は正常になる。通常は経過観察となる。
(2)甲状腺機能低下を呈する疾患
橋本病が多い。甲状腺の手術や放射線治療後に認める場合も少なくない。治療はいずれも甲状腺ホルモン剤の投与となる。
(3)甲状腺機能異常を伴わない疾患
甲状腺腫のみを認める単純性甲状腺腫、良性または悪性甲状腺腫瘍、急性化膿性甲状腺炎、橋本病で甲状腺機能が正常なものがある。
・良性腫瘍(8〜9割を占め、治療の必要はない)
甲状腺嚢腫、甲状腺腫、腺腫状甲状腺腫
・悪性腫瘍・・・乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん(悪性度が高い)
9割が手術、アイトソープ治療や抗癌剤による治療をおこなうことがある。
・急性化膿性甲状腺炎
下咽頭梨状窩瘻を介して、甲状腺に細菌感染が起こる疾患である。高熱と甲状腺発赤、疼痛を認める。治療は抗生剤の点滴投与と切開排膿をおこなう。

5.自己免疫性甲状腺疾患
バセドゥ病、橋本病