鍼 灸 治 療

目・耳鼻科系疾患  耳 鳴 り   難 聴  

1,現代医学的考え方
(1)伝音性難聴
主たる病態は中耳炎による耳小骨の振動低下である。耳小骨に付着している耳小骨筋(鼓膜張筋、アブミ骨筋)も振動増幅に関与している。耳小骨筋の鼓膜張筋の支配神経は三叉神経第V枝である下顎神経であり、アブミ骨筋は顔面神経である。治療としては耳小骨筋に刺激を与え、耳小骨連鎖を振動させる目的で三叉神経第V枝下顎神経(鼓膜張筋)と顔面神経(アブミ骨筋)を刺激する。

(2)感音性難聴
様々な病態がある。そのひとつに内耳の血流障害があるといわれている。内耳の血流を良くすると蝸牛の有毛細胞の基底板に栄養を与えて、リンパ液の振動をキャッチ機能を高めることになる。
内耳の血流に影響を与えるために内耳の血管構造を解剖学的に検討すると、内耳は前庭蝸牛動脈、固有蝸牛動脈よりなり、本流をたどっていくと蝸牛動脈、前庭動脈、迷路動脈へとつながり、さらに前下小脳動脈へ、そして脳底動脈にそして椎骨動脈へとつながる。このことから内耳の血流に影響を与えるにはこの経路を考えて、鍼灸刺激を行わなければ内耳の血流に変化を与えにくいのではないかと考える。耳周囲への刺激ではなく、椎骨動脈に影響を与える頚部への刺激が重要ではないかと思われる。
臨床においても、頚部の筋や硬結に刺鍼すると難聴や感音性の特徴である「キーン」というような高音性の耳鳴りが軽くなることがある。人迎刺鍼や星状神経節刺鍼などは頚部交感神経節への刺激により、椎骨動脈周囲の循環と椎骨動脈の血流に変化を与えて難聴や耳鳴りに有効であるという報告がある。
 椎骨動脈循環不全が耳鳴り、難聴の原因という考え方もある。
患者の多くは胸鎖乳突筋の緊張がみられ、この部位への刺激が頚部交感神経節を刺激し、椎骨動脈周囲や椎骨動脈の血流に変化を与えその結果として内耳の血流に変化を与えて「聞き取りにくい」という症状を軽減していると思われる。頚部への施術中に耳鳴りに変化が起こるときがある。内耳の血流障害が病態の中心であるときはこのような反応が起こることが多い。逆に変化が無い場合神経の変性など、他の病態を考えるべきである。

2,東洋医学的考え方。
「耳は腎の官なり」(霊枢)、「耳は足の小陰経なり」(諸病源候論)と書かれていることから腎経と深い関係があると考えられている。また、「胃経ー耳前による、小腸経ー耳中に入る、三焦経ー耳後に撃ぐ、胆経ー耳中に入る」(霊枢)、の記載からみると耳は手足の三陰三陽と関連があり、特定の経絡のみの治療を考えることはできない。

中医学において耳は、腎、心、肝、胆、脾、肺と密接な関係があり、中でも「素問・陰陽応象太論」に腎は耳に開竅するとあるように腎とのつながりが深い。また経絡との関係においては、「霊枢・口問」に「耳なるもの宗脈の聚る所なり」や「霊枢・邪気・臓腑病形」に「十二経脈、三百六十五絡、其の血気皆上面に上がりて空竅に走る。其の精陽の気、上がりて目に走りて清を為す。其の別気耳に走りて聴を為す。」とあることから、耳と経絡は繋がっていて特に小腸経、三焦経、胆経、胃経、膀胱経と密接な関係がある。

古典において耳鳴りは聊啾、苦鳴、蝉鳴、暴鳴、漸鳴。難聴は暴聾、猝聾、厥聾、久聾、漸聾などの記載がある。耳鳴りは難聴の前兆としてよく起こるため、病因・治療法は同じに扱われることが多い。また耳鳴り・難聴は主に実証と虚証に分かれるる虚証は先天的な腎精の不足や老化などによる腎精不足や、脾胃虚弱などによる気血の生成低下による精竅失養し、竅閉不開となり、耳鳴り・難聴となる。実証はストレスなどで肝気が鬱結し、上逆による肝火上炎や飲食の不節などによる痰火鬱結で火や痰が阻竅し竅閉不開となり、耳鳴り・難聴となる。