サッカー編

Topページ  目  次  運動器系疾患   

1,競技特性
特徴は走る、蹴るという動作が主体となり、足でボールを扱うことである。このため片脚で立っているという不安定な状態が多い。激しいボティコンタクトなどの接触プレイも多い。
走ることに関しても急激な方向転換やストップ&ゴーの繰り返しが非常に多く、下肢の外傷・障害が多く発生しやすい。転倒して手をついた際に上肢に外傷を受ける場合もある。

2,傷害の特性

(1)外傷
@足関節捻挫 (11,7%)
最も多い外傷である。相手との接触プレイでバランスを崩す、タックルそのものによるもの、スパイクのスタッドが芝生に引っかかって起こる場合やグランドの凸凹に足をとられることもある。足関節捻挫は放置されることが多く、慢性化しやすくなる傾向にあるため適切に処置する必要がある。
A手指骨折 (6.5%)
転倒して手をつくことにより発生することが多い、競り合ったときにユニフォームに指がひかかった状態で引っ張られた場合やゴールキーパーにおいてはボールをキャッチしそこなった場合やボールを取りに行ったときに蹴られることによっても起こると気がある。
B前腕骨折 (5.3%)
転倒して手をつくことによって発生することが多い、特に若年者に多い。
C上腕骨骨折 (3.9%)
転倒して、肩から落ちることにより発生することが多い。
D足関節骨折 (3.7%)
足関節捻挫と同様な機序で起こる。足関節の果部に強いストレスがかかることによって骨折が起こる。足関節捻挫が慢性化して、関節が緩くなっていると起こりやすい。
E打撲
ボールを足で扱うため、下肢の打撲が多い。
F肉離れ
大腿部では大腿四頭筋、ハムストリング、内転筋、下腿部では腓腹筋に起こりやすい。筋力のバランスや筋の柔軟性が低下したときに起こりやすい。再発しやすいので慎重に対応する必要があります。
G膝関節靱帯損傷
よく起こる外傷です。内側側副靱帯、前十字靱帯、後十字靱帯の損傷がおおいです。相手との接触プレー、ジャンプした後の着地、スパイクがひかかったなどで起こります。

(2)障害
@フットボールアンクル
キックやジャンプやダッシュで足関節の過度の底背屈動作により脛骨下端と距骨が互いに衝突をすることにより骨、軟骨の損傷が生じ、同部に増殖性骨棘が生じている。
A腰痛症
他のスポーツと同様に多いが、スローイングやヘディングをする際に上体を過度に伸展することによって腰部に負担がかかる。特に十分発達していない若年層については、脊椎分離症を起こしやすいので注意が必要である。
B鵞足炎
鵞足とは薄筋、縫工筋、半腱様筋の脛骨への付着部のことである。ランニング時の脚を後ろに蹴り出す、キック時の蹴り出した脚を減速させるなどの動作により、鵞足包炎、鵞足腱炎を起こす。普段の練習により負荷が増えたときに起こしやすい。
C中足骨疲労骨折
ランニングやジャンプにより地面からの衝撃が足底のアーチにかかることにより、発生する。サッカーでは第5中足骨に多く発生する。
D股関節周囲の痛み
骨盤骨端炎、恥骨結合炎等の疾患があげられる。いずれもオーバーユースが原因と考えられる。ウォーミングアップ、クーリングダウンをしっかりおこなうことが大切で予防につながる。
Eスポーツヘルニア
鼠径管後壁の脆弱化、膨隆などによる潜在性の内鼠径ヘルニアのこと。サッカーに多く見られ明らかな原因がない慢性鼠径部痛があるときはこれを疑う。治療は保存療法、外科的療法をおこなう。競技復帰が可能である。
F離断性骨軟骨炎
膝関節、足関節に起こりやすい。膝関節については成長期に見落とすと、後に深刻な問題となることがあるので、注意を要する。
(3)原因
@解剖学的特徴・弱点によるもの
a,マルアラメントによるもの・・・・レッグヒールアングル、Qアングルなど
b,関節の弛緩性によるもの
特に女子選手において関節弛緩性の問題から足関節、膝関節などの靱帯損傷などの大きな外傷が起こりやすい。予めチェックを行い弛緩性が認められる場合には注意が必要である。
Aオーバーユースによるもの
特に一定の固所に過大なストレスが反復することが少ないので、サッカーに特異的な成長期の過労性障害はない。しかし一般的な障害は起こる。
Bグランドによるもの
芝生のグランドについてはスパイクのスッダトが引っ掛かり、足関節や膝関節などに思わぬ外傷を起こすことがある。グランドの硬さやコンディショニングによって同様な注意が必要になる。ゴールキーパーについては土など固いグランドの場合肘、腸骨稜など骨が体表から触れる部分の打撲が起こりやすい。
C用具の問題
スパイク・・・グランドコンディションに合わせたスタッドのものを使い分けていく。摩耗度や摩耗の仕方に注意を払う必要がある。
スタッド・・・相手を傷づける危険性かないか試合前にチェックが行われる。身につけているものについても同様にチェックが行われる。
防具・・・シンガード(脛当て)の着用が義務付けられている。
(4)試合中のけがへの対処
・不意の外傷に対応できるように待機する。
・グランドには勝手に入ることはできないのでタッチラインもしくはゴールライン付近で待機している。
・主審の指示があればグランドに入って負傷の程度を判断する。
・処置が必要な場合は担架によってフィールド外へ運び出して処置する。
・ゲームの進行に気をとられないように心がけ受傷機転をしっかりと把握するために接触プレーなどの外傷発生時の状況を見ておく必要がある。
・外傷発生時は最悪の事態を想定しておく。
・試合中の処置ついては、プレーの続行ができるかできないかの判断を素早くおこなう。
・安易に競技に復帰させるべきではない。
・水分補給については時間を設けられることがある。時間を見つけて補給するように指示する。
(5)ハーフタイムにおける処置
・時間が少ないので外傷、筋疲労に対しては素早く対処する。
・ロッカールームの温度(選手の体温管理)と水分補給を管理する。
※対応によって後半の動きに大きな影響が出てくる。

3.競技現場における治療
(1)試合時
@試合前   ドーゼに十分に注意する。
鍼は単鍼術、18号以下を使用する。
パフォーマンスを向上させるために交感神経を適度に刺激することを目的とする。
円皮鍼、皮内鍼は感染防止の観点から使用しない。灸は一般的に行わない。
A試合中
ハーフタイムでの対応時間は短いので、迅速で適切な処置が求められる。
急性疾患はおこなわない。
試合中のアクシデントの際にはおこなわない。

鍼は痙攣の際の対応として使用することがある。熱中症による熱痙攣との鑑別が必要である。単鍼術または雀啄術をおこなう。

外でおこなうコンタクトスポーツであるため感染防止の観点から、円皮鍼、皮内鍼は使用しない。灸は一般的にしようしない。
B試合後
通常おこなっている治療をおこなう。
選手のスケジュールを確認の上、適切なドーゼでおこなう。

鍼は単鍼術、雀啄術、置鍼術、低周波鍼通電療法などをコンディションに合わせて行う。円皮鍼も有効である。灸は糸状灸、隔物灸、温灸をおこなう。灸痕を残さないように注意する。
(2)練習時の対応
@練習前
鍼は単鍼術をおこなう、使用する鍼は18号以下。
パフォーマンスを向上させるために交感神経を適度に刺激することを目的とする。
外でおこなうコンタクトスポーツであるために、円皮鍼、皮内鍼は感染防止の観点から使用しないほうが良いと考えられる。灸は感染防止の観点からおこなわないほうが良い。
A練習後
鍼は単鍼術、雀啄術、置鍼術、低周波鍼通電療法などをコンディションに合わせておこなう。
円皮鍼も有効である。
灸は糸状灸、隔物灸、温灸などをおこなう。灸痕を残さないようにする。

4.競技特有のコンディショニング
1年間にリーグ戦を中心にして、いくつかのカップ戦が組まれていることが特徴である。
代表選手やカップの優勝チームにおいては国際試合が組まれることとなる。

すべての公式試合をインシーズンとして年間計画をたてることは非常に無理があるため、カップ戦などをプレシーズンやオフシーズンに位置づけるような年間計画を作成する方が良いのではないかと考えられる。

インシーズンでは1週間に1試合(もしくは2試合)がおこなわれるために1週間のトレーニング計画が必要となる。デーゲームとナイトゲームとではキックオフの時間が大幅に異なるので、その時間に合わせたコンディショニングが必要となる。

5.禁忌事項

擦過傷、火傷が見られる場合に十分に注意してその部位への施術は控えるようにする。