老年医学

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老年医学とは。

1.老年学と老年医学について
[1] 概念
老年学
・・・・老年医学、老年社会学、基礎老化学を3つを柱とする総合人間学である。

高齢者に特有な疾患などを研究対象とする老年歯科学を含む老年医学、高齢者の社会的諸問題を研究対象とする老年社会学、老化の機序などを研究対象とする基礎老科学を3本柱とする総合人間学である。

       老年学→→→→→→老年医学(歯科学を含む)・・・ 高齢者特有の疾患の研究
               ↓
               →→→→生物学(基礎老化)・・・老化の機序の研究
               ↓
               →→→→老年社会学・・・人口動態、福祉、社会学、行動心理学

長寿科学・・・・高齢者や長寿社会に関し、自然科学から人文社会までの幅広い分野を総合的、学術的に研究するものである。

老化の機序の解明、高齢者に特有な疾患の原因の解明、診断、予防、治療さらに高齢者の社会的、心理的問題の研究、高齢者の長寿社会に関して自然科学から人文社会に至る幅広い分野を総合的、学術的に研究するものである。

本質的には「老年学」とおなじである。
誰しも年をとることは避けられないが、出来る限り健康で生きがいのある人生をおくり、天寿を全うするのが理想である。その方法を研究するものである。

老年医学・・・・高齢者特有の疾患の原因の解明、診断、予防、治療を研究する臨床医学の一部門である。老年病学も同義である。

体系的に発達したのは1990年代、高齢者のプライマリ・ケア、老年病に関する基礎的、臨床的観点からの研究も含まれる。単に内科学の延長ではなく、より広い加齢と関連の深い疾患または病態を研究する学問である。

[2] 人口動態

1>老年医学と人口動態

一定の集団について人口の変化を研究するのが人口学である。人口動態は老年医学において、重要な意味を持っている。
 人間は加齢とともに死亡率は上昇する。乳幼児の死亡、感染症による死亡が減少したので若年者の死亡率がもっとも減少をみた。20〜80歳ぐらいでは死亡率は対数的直線関係を示す。老年人口は増加するため、平均寿命は延長する。平均寿命とは0歳時の平均余命のことである。

2>わが国の特徴

・総人口 2006年 1億2777万人 2007年高齢者人口22%(男性19%  女性24%) 、80歳以上713万人(女性の比率は男性の4倍)
・老年人口(65歳以上)を年少人口(0〜14歳)で除した値×100=老年化指数

1950年14.5 、1980年38.7、2000年119.1、2006年152.6と2000年代に急上昇をみせた。
・100歳以上の人口は2007年9月32.000人(女性85%)、  1997年は8.400人
・最高齢は男性111歳、女性113歳(女性は世界最高)
・平均寿命の男女差は年々増加し、2007年女性は6.8年男性を上回る。

2006年   65歳までの生存率  男性86% 、女性93%

           75歳までの生存率  男性70%、女性80%
       90歳までの生存率  男性20%、女性44%

3>主要死因の変遷

20世紀前半・・・・感染症が死因の首位を占めた。しかし抗菌剤と公衆衛生の進歩により感染症が制圧された。

1954年から24年間、脳血管疾患が首位となった。脳出血が主で高血圧、低栄養、高食塩食が関係していた。しかし降圧剤の開発、高血圧検診の普及により急激に減少した。

1981年から2007年まで死因のトップはがんである。2006年がん 30.1%、心疾患 16.0%、脳血管疾患 12.3%、肺炎 9.9%で75歳以上では、がん 23.5%、心疾患 17.9%、脳血管疾患 14.1%、肺炎 13.4%で心脳血管疾患が合計でがんを上回っている。80歳では肺炎が増加して死因の第3位を占めている。このことは高齢になると死因が多様になっていることを示している。

高齢者では複数の慢性疾患を併発している。死因よりも機能障害を重要視すべきである。

地域における高齢者の併発疾患の頻度や生活機能障害、死亡率を把握してこれを改善することは老年医学の使命であり、人口動態を学ぶ必要性であると考える。

[3] 老年医学の意義および専門医の役割

高齢者は1人の患者が多くの疾患をもつ多病を特徴としている。80歳を過ぎると平均8種類の疾病を持つと言われている。このため全般にわたる横断的に老人の疾患に対する知識を持ち、高齢者の薬処方、栄養、心理状態に深い造詣をもつ老年科医師が必要となる。

老年化医師とは予防医療、高齢者の緊急医療、在宅医療からターミナル・ケアを一貫して継続的診てゆく、そして医療と看護、介護者などで構成するチームの中心的な役割を担う。

老年医学研究の基本概念
@ 寿命の延長は障害の軽減によるQOL向上を前提とする。
A 介護や介護の向上に利するエビデンスを得るための科学的手法の確立。
B 高齢者のQOLを踏まえた高齢者個々の方針の決定に必要となる指標のエビデンスの確立の研究。
C 虚弱高齢者を対象としたEBMの確立。

老化とは・・・・・病気の初期の状況を引き起こす時期である。初期の病気の集合体であり、特定の器官の悪化が顕著となると病気と認識されることになる。また病気そのものが器官の悪化を促進させて、老化に寄与することになる。

老年期・・・・特定の機能不全症候群が出現する準備をしている時期である。

常に高齢者の疾患の背景にある老化過程に関心を継続的に持つのが老年科医ということである。

2、老化の機序
[1] 老化の定義・老化学説
1> 老化の定義
老化の定義=ホメオスタシスの崩壊
広義の老化・・・誕生、発育、成熟、衰退、死亡までの全過程、加齢、老齢と表現される。
狭義の老化・・・成熟期以後、衰退期におこる現象。老衰、老年と表現される。

(1)加齢に伴う生理現象の減退、体の恒常性が時の経過とともに変化し、最終的には崩壊してしまう過程である。

(2)疾病やその他の大きな事故ではなく、時間の経過に伴って生体に起こる緩慢な変化、終局に固体が年をとるにつれて死亡率が増加する。また、時間経過に伴い起こってくる身体的、精神的非可逆的退行性変化のことである。

2> 生理的老化・病的老化
生理的老化・・・・精神的、肉体的に疾患に罹患せず、天寿をまっとうする過程で現れる表現型である。生理的老化だけが進行するとすれば最大110歳まで生存することが可能である。

病的老化・・・・生理的老化に合併して種々の疾患、環境因子によるストレスが加わって寿命が短縮すること。

3> 老化学説
プログラム説・・・・老化が遺伝子レベルで制御されている。
                動物種固有の最大寿命
                ヒトの培養線維芽細胞に寿命がある。
                遺伝子的早老病
                老化を制御していると考えられる種々の研究事実  

環境因子説・・・・生体の数々の障害、老化物質の蓄積、化学物質によるDNAの損傷

摩耗説/すり切れ説 (放射線・紫外線障害、化学物質よるDNAの損傷)
活性酸素説 (フリーラジカルが原因)
架橋結合説
誤り説 (DNA複製、転写、翻訳時に生じる)
老廃物蓄積説 (リポスチン、アミロイドなどの蓄積)

[2] 生理的老化・病的老化

生理的老化・・・・加齢に伴う生理的機能の低下のことをいう。
(1)普遍性・・・生体すべてに老化は認められる。その過程には、種差や個人差があるが不可避であり、必ず現れる。
(2)内在性・・・誕生、発育、成熟の後に現れ、遺伝子的にあらかじめプログラムされている。
(3)進行性・・・老化の過程は進行性であり、不可逆的な現象。
(4)有害性・・・老化過程で現れてくる現象は、生体においては有害であり。これらの総和が最終的には生体を破綻させることとなる。老化に伴って予備的能力が低下してくる。そこに環境変化が加わると生体機能の恒常性が維持できなくなってしまう。

病的老化・・・・生理的老化の過程が著しく加速されることによって、病的状態を引き起こすこと

境界線は非常に曖昧で、生理的老化と病的老化の原因が必ずしも同じでないことから区別も明確ではない。

臨床的には、臨床症状を呈さないのが生理的老化であり、病的な臨床症状を呈するものが病的老化である。

[3] バイオロジー
1> 細胞老化・・・・老化の基本単位を細胞とする考え方
2> 固体老化・・・・加齢に伴って、個々の臓器障害と結合性の低下をいう。

[4] 老化の判定
1> 指標〜老化の進行の客観的な評価に使用される。
使用される検査項目が備えているべき条件
・方法が確立していること、簡単であり、安価でかつ、誤差が小さい
・苦痛と障害を伴わない。
・正常な人の場合加齢とともに有意に変化して、変動が直線的で変動に性差がない。
・他の老化の指標と相関が低く、機能の変化を代表している独立した指標である。

2> 生物学的年齢
老化判定を行う一つの方法である。
暦上の年齢ではなく、生体機能の老化の程度から推定されるものである。
平均的な人では歴年齢とほぼ一致している。

[5] 遺伝性早老病
老化徴候の一部が早期に現れる症候群のことをいう。古典的なものとして、ウェルナー症候群、ハッチンソンーギルフォード症候群、コケイン症候群があるが、老化が速くなったというより誇張される症候群である。アルツハイマー病、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病も遺伝性早老病に含まれる。

3、老年病の臨床
1、高齢者の主要疾患
高齢者は多くの疾患をかかえており、病態は若年者とは大きく異なる。とくに急増する後期高齢者は生理的老化、老年症候群、疾患(老年病)を総合的に診察を行う必要がある。後期高齢者医療のエビデンスも増えており、診察に反映すべきである。

高齢者に多い疾患・・・多くの疾患は非定型的、非可逆的、で診察、治療に留意が必要である

(1)、精神神経疾患
 脳血管障害、認知症関連疾患、パーキンソン病、うつ病
(2)、呼吸器疾患
 肺炎、慢性閉塞性肺疾患、肺結核、肺癌
(3)、循環器疾患
 うっ血性心不全、虚血性心疾患、高血圧、不整脈
(4)、消化器疾患
 消化器性潰瘍、胃食道逆流症、薬剤誘発性消化器障害
(5)、腎泌尿器疾患
 慢性腎不全、前立腺癌
(6)、内分泌代謝疾患 
 糖尿病
トン性高浸透圧昏睡・・・甲状腺疾患、高脂血症(脂質異常症)
(7)、骨運動器疾患
 骨粗鬆症、関節リウマチ
(8)、血液免疫疾患
 多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群

2、高齢者の病態、疾患の一般的特徴
1>加齢と臓器機能・・・・すべての臓器機能は加齢とともに低下をしてくる。
呼吸機能・・・・ほぼ直線的低下をみせ、女性では百歳で一秒間量が1Lを切り、呼吸機能の低下によって死に至ることがし示唆される。

脳機能・・・・女性で約90歳、男性で約100歳で認知症罹患率ほぼ100%になるといわれている。

心臓機能、腎機能、歯数も平均100歳で機能不全にいたるといわれている。

2>多臓器不全
老年者がある臓器疾患に罹患した場合。対象臓器のみ治療してもあらゆる臓器機能が低下しているため、足腰が弱り歩行困難となったり、認知症が進行したりなど多臓器障害を併発することが多い。これはあらゆる臓器の機能低下が加齢とともに起こることにより、多臓器障害がおきる原因となっている。各臓器ごとの専門医がそれぞれの専門臓器を治療しても全臓器の機能低下が存在するため、疾患を繰り返してしまう難治性である。各臓器の専門医では老年疾患に対応しきれない。
 多臓器障害を総合的に診察するということが老年医学である。そのためには一元病因論的に診察する必要がある。

例をあげると           老年病は高血圧がある
                         ↓
                    脳血管障害が発生
                         ↓
                   摂食、嚥下障害が発生
                         ↓
                不顕性誤嚥による肺炎を発症
                         ↓
            寝たきりとなり、体動不良により糖尿病が発生
                         ↓
         脳血管障害と日常生活の不活発により、認知症を発症
                         ↓
                   脳血管障害による転倒

と一元病因論的に考えられる。

老年医学は患者ごとの問題点を探し、必要最小限の治療をすることができる。場合によってはその患者の家庭環境なども考慮しなければならない。

3>老年者特有の対応
高齢者の精神状態は不安定である。落ち込みは細胞免疫、液性免疫を低下させて感染症に対しての抵抗力をていかさせてしまう。

血清コレステロール値が高いと認知症に罹患しにくい、感染症に罹患しにくい、など血清コレステロールの低い人より長寿という傾向がある。

若い人の咳嗽は止める対策がとられるが、老年者では咳嗽がない場合、気管への誤飲した時など異物を排除することができずに肺炎になりやすい。
                           ↓
         老年者の場合はいかに咳嗽は亢進させる対策が求められる。

3、要介護に至る疾患

要介護に至る原因疾患
 脳血管障害 (27.7%)  高齢による衰弱(16.1%) 骨折・転倒(11.8%) 認知症(10.7%) 関節疾患(10.4%) その他(23.3%)

65歳以上の死亡原因
 悪性新生物(29%) 心疾患(高血圧を除く)(16%) 脳血管障(15%) 肺炎(10%) 消化器疾患(4%) その他(26%)

65歳以上の要介護の原因
 脳血管障害(26%) 高齢による衰弱(17%) 転倒・骨折(12%) 認知症(11%) 関節疾患(11%) パーキンソン病(6%) その他(17%)

※死亡原因と要介護に至る疾患は異なるということである。
男女で分けてみた場合。
                       男性               女性
   脳卒中               42.9%               20.2%
   衰 弱                11.5%               18.2%
   パーキンソン病           7.2%                     
   転倒・骨折              5.7%               14.8%
   認知症                 6.2%               13.0%
   関節疾患                                12,8%
   その他               26.5%                20.9%
男性の脳卒中の割合が多く、女性ではその割合がやや低くなる傾向がある。

年齢階級別にみると、年齢が高くなるにつれて脳血管障害の割合が低くなり、認知症、衰弱、転倒・骨折の割合が高くなる傾向がみられる。肺炎などの感染症は高齢になるほど多くなる。要介護度が上がるほど脳血管障害、認知症の割合が高くなる。これらの疾患は互いに密接に関与し合っているのが特徴といえる。

例  脳血管障害→麻痺による運動機能障害→転倒の危険性増→脳血管性認知症の原因
                                          の一つである。
認知症→転倒・骨折の危険性増→転倒・骨折により寝たきりになる→認知症悪化

老年症候群=一人の要介護者に複数の疾患が存在する。

2> 各疾患と要介護状態
a、脳血管障害
麻痺による運動機能障害→移動、食事、排泄、着替え、入浴などが介護が必要。
構音障害、失語によるコミニケーション障害
球麻痺による嚥下障害
脳血管性認知症による認知機能の低下
運動機能障害は転倒、骨折をしやすくなり、ADLの低下につながる。

b、認知症
進行とともに、日常生活動作が困難となるる
せん妄、徘徊→転倒・骨折の原因となりうる。
さまざまな問題行動、(尿弁失禁、暴言、暴行、介護拒否)は介護側の負担の増加をもたらす。

C、転倒・骨折
骨密度の低下(骨粗鬆症)によって骨折し易い状態になる。→転倒により容易に骨折する。
転倒の原因と考えられる事項。
・脳血管障害・認知症
・パーキンソン病などの神経変性疾患
・生理的な全身の筋肉の低下、聴力、視力の低下
・高血圧の降圧薬による過度の血圧低下。
・糖尿病治療薬による低血糖

d、その他
心臓疾患、リウマチなどの関節炎、肺炎などの感染症

4、 老年病の臓器相関(複合性疾患)
高齢者は多くのの疾患を持っていることが多い、そのために高齢者に現れる症状、症候は単一の疾患では説明することができない。複数の疾患からもたらされている場合が多い。
老化に伴い、種々の臓器機能は低下しているか、低下していなくても予備能が低下している。しかし高齢者の場合、臓器の機能低下が症状や検査値の異常として現れることが少ない

臓器相関=複数臓器(器官)が神経分泌因子、免疫因子などの種々物質より情報交換をおこない、生体の恒常性が維持され、複数の臓器の機能が互いに関連することにより、保たれていることをいう。

高齢者は複数の臓器機能低下や予備能の低下を持っているが、互いの代償作用により臓器相関が保たれている。このため症状が見られないことが多い。

成人と比べて各臓器の相関が不十分であるためと、生体の恒常性維持機能が低下しているため、とくに負荷時に影響が著しくなる。

高齢者が一つの臓器の疾患に罹患し、その機能が破綻すると、他の臓器の代償機構にも影響を及ぼすことになる。つまり疾患の発症は複数の臓器の相互関係に異常をもたらすために、同時に複数の臓器において疾患が発生し、複合性疾患をもたらすこととなる。

高齢者の疾患の診察においては、若年者とは違うアプローチが必要となってくる。臓器相関を念頭において対処することが重要となってくる。このことは多彩な症状を1つの疾患から説明するという診断学からはずれることになるが、高齢者の場合1つの症状が複数の病因からきていることがあるので、注意が必要である。
疾患の治療において、臓器相関の観点から合併しやすい疾患に注意することが大切となってくる。

高齢者では心身の相関がよく見られる。
例  種々の疾患によりADLが低下→鬱病、認知症の進行
   うつ病→活動性が低下→廃用症候群の発生
     ↓
   心筋梗塞、脳梗塞などの危険因子

5.多臓器不全
高齢者は関節炎、高血圧、心疾患、癌、糖尿病、脳卒中などの慢性疾患を持っている。また、加齢に伴う臓器機能低下かつ、予備能低下も見られるので多臓器不全になりやすい。

多臓器不全=感染、手術、外傷などにより2つ以上の臓器が同時または連続して機能不全となる病態。死亡率が高い。
1>発生機序
@一次性・・・・外傷などの影響で起こるもので、外傷直後に起こる肺挫傷、横紋筋融解症による腎障害、大量輸血による血液凝固障害などである。
A二次性・・・・外傷などに対して生体が過剰反応を起こし、全身性炎症反応が悪化、最初の臓器とは別の遠隔臓器の機能障害を起こす現象である。
2>加齢による臓器の変化
心血系・・・・動脈硬化、心筋収縮力低下、左心室肥大、左心房肥大、左心室拡張機能低下、不整脈などの心機能自体および予備能の低下が見られる、このために心不全になりやすい
呼吸系・・・・呼吸筋の耐久力低下、低酸素血症、高炭酸ガス血症への反応の低下。回換気量低下、残気量低下、粘液線毛運動低下が起こる。脳血管疾患や変性中枢神経疾患では、嚥下障害がおこり、咳嗽反射も弱くなり、誤嚥性肺炎を発症しやすい。
腎機能・・・・ネフロン数減少、糸球体ろ過率の低下、腎血流量減少、尿濃縮力低下、ナトリウム保持力低下、尿細管排出力低下、体水分力量低下が起こる。
       脱水状態への反応が低下することにより脱水傾向になりやすい
                          ↓
                      腎機能低下の原因
                     薬の排泄能が低下する。

肝機能・・・・肝臓の縮小、肝血量の低下、肝コリンエステラーゼ活性低下、
                          ↓
                  肝機能障害になりやすい。
             チトクロームP-450活性低下→薬剤代謝低下

代謝系・・・・糖尿病=血管障害、虚血性心疾患、腎障害を起こしやすくなる。体温調節の低下代謝の低下。
6、高齢者の生活指導
適切な栄養、食生活、身体活動、余暇活動、運動、禁煙、適性体重の維持
                         ↓
種々の疾患、生活機能障害の悪化、発症を予防、遅延させることができる。
1>栄養、食生活
高齢者医療の目的=QOLの向上←栄養、食生活との関係は大きなものがある。

指導にあたっての注意点
@健康状態 A疾病の有無 B栄養状態 C栄養・食物摂取の状況 D食生活、食行動 E買い物をする能力、近隣の食品店の状況 F栄養・食生活に関する考え方 G認知機能
※急激な食生活の変化は多くの弊害をもたらすので注意が必要。
2>身体活動、運動
適切な身体活動、運動は種々の疾患の発症を予防し、健康寿命の延長をきたいできる。
高齢者の身体活動、運動の指導にあたっては、運動が好ましくない疾患の有無を確認する必要がある。
急に強度の高い身体活動、運動を指導すべきではなく、個々の能力相応の内容のものから開始し、除々に強度を増すのが望ましい。
3>禁煙
生活指導上、重要項目である
慢性閉塞性肺疾患、喘息、心血疾患などの既往症例は必須である。
肺癌などは老年期に禁煙しても、その期間に比例して発症頻度は減少して、非喫煙者の頻度に近くなってくる。
4>余暇活動
高齢者における活動的余暇活動、ボランティア活動など社会参加が認知機能の維持に有効であり、認知症の発症率を明らかに低下させていることがわかっている。
                             ↓
           余暇活動などの積極的社会参加を促すことが必要となってくる。
5>その他
身体の清潔については適切な入浴、清拭の方法を個々に状態に応じての指導が重要である
こころのセルフケアは鬱状態への注意である。ライフイベントの時(伴侶の死など)の過ごし方や積極的社会参加などの生活指導が重要となってくる。

7、高齢者の栄養
高齢者の栄養状態の特徴
1>栄養状態 ・個人差が大きい
・栄養状態、栄養必要量についても個人差に注意することが大切である。
・基礎代謝、身体活動は加齢とともに減少するため、個人差が大きくなる。
                     ↓
   エネルギー必要量についても年齢とともに個人差がひろがる。
・肥満者の割合は70歳以上で25%=過栄養と生活習慣病が問題となる。
〇高齢者の栄養を考える時、@自立高齢者 A要介護者に分けるとわかりやすい。
@では過栄養、A低栄養が問題となる。
@自立高齢者の場合 
・70歳以上については肥満、メタボリックシンドロームなどの過栄養が問題となる。
・体重、BMIに増加がなくても、加齢に伴い脂肪の割合が増加、筋肉や骨が減少することから、質的に肥満状態にあるということができる。
・適切な栄養と運動により、脂肪の増加や筋肉、骨の減少を阻止することにより生活習慣病の予防が必要である。
A要介護者の場合
大きな問題は蛋白質、エネルギー低栄養状態に代表される低栄養である。
要介護→摂食機能低下→低栄養→免疫機能低下・易感染→感染症・褥瘡→低栄養
加齢に伴う嚥下障害→摂食機能低下→低栄養→不顕性誤嚥による嚥下性肺炎→老人性肺炎は難治であり、死因でも最も重要である。→根底に低栄養対策が重要な意味を持つ
2>栄養対策
a自立高齢者の健康維持
・70歳以上の高齢者の推定エネルギー必要量は、日本人の平均的生活活動度の男性で1850kcal、女性で1.550kcalであるが、実際のエネルギー摂取量は75歳以上の男性で1.924kcal、女性で1.590kcalである。
・蛋白質に関しては高齢者でも壮年者と同値が示されている。推奨量では男性で60g/日、女性で50g/日である。
・生活習慣病の一次予防目的で新たに設定された目標値は男女ともに50〜69歳で総エネルギーに占める割合は20%未満であるのに対して70歳以上では25%と高めに設定されている。
・脂肪に関しては過剰摂取を反映して、生活習慣病の一次予防目的で設定された目標量がしめされている。
 男女ともに70歳以上で総脂質の目標値が15%以上25%未満、50〜69歳の20%以上25%未満と比較してやや低めの設定となっている。
b.要介護者の低栄養対策
経口摂取、経管栄養、経静脈栄養などの選択肢を必要に応じて組み合わせる。
考慮すべき事項
@適正なエネルギー量の供給
A必須栄養素の供給
B誤嚥の防止
C患者本人の意思、満足度
D家族の意向
8.予防医学
(1)老化、老年病危険因子と予防
1>老化と老年病
老化とは・・・個体が成熟期以降序々に身体機能の低下、衰弱をへて死に至る過程である。
          普遍性、内在性、有害性の原則を有する。
老化の危険因子・・・生理的老化を基盤に起こってくる病的老化の関連諸因子のこと。
2>老年病の特徴 ・高齢者に多い疾患(生活習慣病)・・・高血圧、糖尿病、悪性新生物、脳血管障害、心血管疾患、脂質異常症
・高齢者特有の疾患・・・変性疾患
認知症、骨粗鬆症、パーキンソン病、前立腺肥大、老人性白内障、老人性難聴

老年病は必ずしも死因とはならないが、寝たきりや要介護の要因となるものが多い、このため予防と管理は重要である。

現実に医療機関を受診する理由として、循環器疾患、脳血管疾患、腰痛、筋骨格疾患、消化器疾患神経系疾患が多い。
3>老化防止因子 ・運動習慣がある。 ・非喫煙、・非肥満。・血圧、耐糖能、脂質レベルが低値、・収入の安定
4>老化・老年病の予防  ・生理的老化促進因子の早期発見、適切な治療、リスクの除去
・高齢期以前からの生活習慣の予防・管理
・高齢期でも高血圧、糖尿病、脂質異常症などコントロール可能な生活習慣病の把握と対策。
・医学的アプローチに加え、精神心理的、社会要因に対しての配慮が大切である。
・リスク管理基準は成人期とは別に配慮すべき。
・生活習慣改善の基本は食事、運動、嗜好である。
・ライフスタイルが確立されているから、身体状態の個人差、疾患既往の有無程度の相違など、それぞれに即した対応が必要である。
(2)老年病と生活習慣病
1>老年病の成り立ち
@若いころからの病気が加齢に伴う臓器機能の変化によって病態が変化する。
A加齢と伴に著しく増加し、比較的特有なもの。=老年病、老年疾患

2>生活習慣病  病気の発症、悪化、治療の成否、に生活習慣がとくに重要である疾患。生活習慣の改善にはそのコントロールが重要な意味を持つ。

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