低血圧症
現代医学編
血圧が低い状態を低血圧というが、定義は定まっていない。一般に収縮期血圧100mmHg未満(以下)をいうことが多い。拡張期血圧は考慮にいれない。
血圧が低いこと自体では「低血圧症」とはいわない。めまい、立ちくらみ、悪心などの症状を伴って初めて「低血圧症」という。低血圧でも症状を伴わない場合、体質性低血圧といって区別する。
全年齢において収縮期血圧が100mmHg未満を示す頻度は男性で0,5%前後、女性2%弱とされている。一般に20〜30歳の女性に多い。症状を有する低血圧、すなわち低血圧症の頻度はこれよりも低いはずであるがあきらかでない。
一般に血圧測定は安静座位においておこなわれるために起立性低血圧に気づかないことがある。臨床的に重要な起立性低血圧の頻度はこれよりも高く、高齢者では20%前後にみられるという。
1,病態
(1)本態性低血圧
原因の明らかでない低血圧症の総称である。家族歴の認められる場合もある。
(2)二次性低血圧
種々の疾患により、二次的に血圧が低下した状態。原因には神経疾患、心血管疾患、内分泌、代謝疾患、薬物性、その他が挙げられる。低血圧は心拍量の低下により生じる。
(3)起立性低血圧
本態性低血圧にも二次性低血圧にも認められるが、原因が明らかでないものが本態性起立性低血圧である。二次性のものとしてはシャイトレーガー症候群、糖尿病性自律神経障害、褐色細胞腫、老人性起立性低血圧によるものが重要である。
2,症状
(1)本態性低血圧
全身症状・・・全身倦怠、脱力感、易疲労感、起床困難
循環器系症状・・・動悸、息切れ、前胸部圧迫感、四肢冷感
精神神経症状・・・めまい、頭痛、頭重感、不眠、耳鳴り、肩こり
消化器系症状・・・悪心、食欲不振、腹部膨満感、便通異常
などの不定愁訴である。
(2)二次性低血圧
原因疾患に基づく症状がある。
3,身体診察
@血圧測定
両側上肢でおこなう。下肢の測定もおこなう。
A本態性低血圧
やせ型の体格、心臓郭比の低値、徐脈や不整脈を見ることがある。
B起立性低血圧
起立時の血圧低下が収縮期で20mmHg以上とされている。脈圧(収縮期血圧ー拡張期血圧)については大きくなる動脈収縮不全型と減少する静脈収縮不全型があるとされる。
4,検査
@本態性低血圧
レニンーアンシオテンシン(RA)系、下垂体副腎系、カテコールアミン(CA)などは低値を示すことが多い。
A二次性低血圧
特に内分泌、代謝疾患に起因する低血圧の場合、原因疾患に基づく検査所見の異常をしめす。
5,診断・鑑別診断
@安静臥位の収縮期血圧が100mmHg未満の場合
↓
不定愁訴
全身症状 循環器系症状 精神神経症状 消化器系症状
全身倦怠 心悸亢進 めまい 食欲不振
脱力感 息切れ 頭痛・頭重感 腹部膨満感
易疲労 前胸部圧迫感 不眠 便通異常
起床困難 四肢冷感 耳鳴り
肩こり
↓NO ↓YES
体質性低血圧 低血圧症の精査(本態性低血圧症、二次性低血圧症)
↓ ↓
経過観察 専門医へ紹介
A立位時に収縮期血圧20mmHg以上下降
↓
起立性低血圧の精査
↓
専門医へ紹介
6,治療
@本態性低血圧
食事療法による食塩摂取量の増加
弾性ストッキングにより静脈系への血液貯留を減少させる方法もある。
低血圧による愁訴が強い場合、αレセプター刺激薬、内因性ノルアドレナリン増強薬、鉱質副腎皮質ホルモンなどが用いられる。
A二次性低血圧
原因療法が第一選択となる。
※食後低血圧はパーキンソン病、糖尿病などの自律神経障害を持つ場合が多い。
これらの疾患を除いた場合、若年者より高齢者。正常血圧者よりも高血圧者で高頻度で認められる。
食事中から食後にかけて、収縮期血圧が20mmHg以上下降し脱力、めまい、悪心から失神に至るまでのさまざまな症状をみる。24時間血圧測定(ABPM)が有効である。