アイスマン 3.('07.10.9.)




 5000年前を生きた人間のミイラが、アルプス山中で発掘され
た。最新のCTスキャンによって、アイスマンと名付けられたそ
のミイラの死因が明らかになった。アイスマンの背中には矢じ
りが残っており、この周辺の動脈壁の損傷と血腫の存在か
ら、矢で撃たれた箇所からの多量出血による失血死であると
断定された。













◆あまりたいそうなものではありませんがこの後裏的描写がご
ざいます。 苦手な方、15歳未満の方はご遠慮願います。















「あ、あっ、……はぁ…んっ。」

 ゆるく揺すりあげると甘い声と吐息がこぼれる。力を込めるた
びに震える体も、切羽詰ったように喘ぎ俺を強請る声も、全て
が自分の手中にあるのだと思うと、めまいがする。

「…ッん、はっと、り…っ…。」

 工藤がわずかに俺を呼ぶ。

「何、工藤…?」

「…そ、…こ…、イ…ぁっ。」

 どうやら工藤の感じるとこにあたったらしい。自らそこに当て
るように俺の腰に無意識に足を絡めてくる艶姿は、壮絶、とし
か言いようがない。

 よく、妖怪と人間が交わる話には、妖の色香に心奪われ人
間は知らず知らず精気を抜き取られる、とあるが、工藤を抱い
ている時、あの話はほんまやろな、といつも思う。現実に妖怪
なんているわけはないのだが、それに工藤のことを化け物だ
なんてつゆほども思ってはいないが、なんとなく、そうであって
もおかしくないと、悟りに近いものを感じる。

 しばらく思考に沈んでしまったせいで(といってもコチラが思
い浮かんでいる景色はすべて工藤との情事の場面ばかりな
のだが)、動かない俺にしびれを切らしたのか、工藤は俺の腰
に手をあて、軽く揺らしてくる。自ら動きを急かす工藤に、くらく
らする。

…やらしい。

 そう思って、俺も工藤の腰を掴む。受け入れる工藤の苦しさ
を少しでも和らげるようにと、浮かせた腰の下に枕をあて、

「…ええか…?」

 と、静かに可否を聞く。この状態でわずかでも動いてしまう
と、俺だけ突っ走ってしまう。挿し込まれる側の苦労は、抱き
合った次の日に必ず腰が立たなくなる工藤を見ていて、多少
わかっているつもりだ。

 すると、

「…だから…おま、えは、…。」

「ん?何、工藤…?」

 駆け巡る下腹部からの快感に耐え切れないとでもいうように
身体に力を込めていた工藤が、そうささやいてから、ふぅ、とた
め息をついた。

「…んでも、ねぇ。…来い、よ…。」

 そして、俺を受け入れるために身体の力を抜いたのがわかっ
た。だからお前は、の続きが気になったが、その疑問は工藤
の、来い、という一言にかき消された。



「ン、あ、あぁ、…はっ。」

 腰をぐ、と突き入れると、工藤はいっそう高くあえぐ。

「イ、っあぁ…、違うっつの、そ、こじゃ、…っあ、んン…。」

 さっきのいい場所とずれてしまったのか、工藤は違うとうった
えてくる。だが、そうは言っても一向に「いやだ」とは言わな
い。それがたまらず、俺はさらに工藤におぼれていくのだ。

「工藤、どこ?どこがええの…?」

 聞きながら、そこを探るように腰をずらすと、あ、という小さな
声とともに、俺を取り込む工藤の内側が途端に収縮するのが
わかった。その壁の動きに思わずたがが外れそうになり、っ
く、と自身の快感をやり過ごす。抑えたはずみにさらにその場
所を刺激してしまったのだろう、次の瞬間工藤は切羽詰ったよ
うに「ま、待、てっ」と言い、そのまま「あ」とも「は」ともつかな
い声をあげ、達した。


「…おい。」

 まだ身体中に甘い痺れが残っているのだろう工藤は、肩で
息をしながら汗のうく赤い顔で俺をにらみあげてくる。

「なんでしょか、く、工藤はん。」

 その顔でにらまれても少しも恐くはないのだが、ひるんだよう
に返事をする。そのやりとりもまた愛しく思えてしまうのは、俺
が工藤に狂いすぎているからだろう。

「てめぇ、さっき。」

…抑えたろ。

 はぁはぁ、と、甘い吐息をこぼしながら、ひとことひとこと区切
るように工藤は言う。え、いや、そんなことあらへんで、とか、
ちょっとぎこちなく返事をする。

 工藤はそれを聞きながら一瞬、切なそうに眉をひそめ、次の
瞬間にはそれを打ち消すようにかぶりを振って、三度目の瞬
間にはぐいと俺の首に腕をまわして俺を引き寄せ、耳元に唇を
寄せていた。

「おい工藤?」

 それは不意のことだった。工藤の上でバランスを崩した俺
は、さらに深く中に入り込んでしまった。う、と小さくうめかれた
ので、あわてて身体を浮かし離そうとした。これ以上工藤の中
に入ってるのは本当に、やばい。

 しかしそれは、工藤が意外にもさらに腕に力を込めて巻きつ
いてきたことで阻止された。なるほど、こいつも男やからな。そ
れなりの腕力はあるんや。と、あきらかにどうでも良い当たり
前のことを真面目に考えた。

「…ばーか。」

「関西人にばかはあかんて言うとるやろ。」

 と、こんな状況でもお決まりのセリフを返せば、耳元でさら
に、んじゃ、アホだろお前、と微笑みながら応えてくる。

「俺はこれでいいっつってお前と付き合ってんだ。何、エンリョ
してんだよ。」

「く、工藤…。」


 そう、あの時。

 俺がお前を受け入れるんでも、別にいーぜ。

 やっとの思いで工藤に自分の想いを伝え、初めて身体を手
に入れるそのとき、工藤が言った言葉。

 男として対等に創られているはずなのに、対等のままでは
睦み合えないこの身体は、工藤に受け入れてもらうというカタ
チで成立していた。工藤を大切にしようと、そのとき俺は自分
自身につよく誓った。

 だがそれが、工藤を抱く時に、知らず、ストッパーのようにな
っていたのだ。それを言い当てられて、どきりとして工藤を見つ
める。

「お前は、さ、…。」

 その、あれだ、と、さっきまでの強い口調はどこにいったの
か、途端にごにゃごにゃと口ごもってしまった。

「俺が、なに?工藤?」

 言うて。
 多分、お前の言葉聞いたら、何かがわかる気がするから。

「だから…!お、お前は、優しすぎんだ!」

 優しいを通り越してぬるいんだよ、っつか、もうしゃきっとしろ
ってんだ、ふにゃふにゃの腑抜けなんだよてめーのアタマは!
と、恥らいすぎていささか文末がおかしいことになってしまって
いるが、真っ赤になった顔で必至に言葉をつむぐ工藤が愛しく
てたまらない。気にしなくていいのだと、対等に愛し合おうと、
そう言ってくれているのだ。

「おおきに、工藤。」

「べ、別におめーのことなんかこれっぽっちも褒めてねー…。」

 礼を言えば、工藤はさらに照れてとんでもない(おおよそ思っ
ていることと正反対なのだろう)言葉を返してくる。

 もうわかっとるから、と、勢いの良いその口を自分のそれで
ふさいでしまう。軽くかすめるように、そしてだんだん深くむさ
ぼるように。


 しばらくすると言葉での反撃の気配がおさまり、工藤の唇か
らはまた、甘い吐息が洩れてきた。


「ほな、俺のこれまでの行いは悔い改めるから…」

 ええな?と熱をおびた声で聞くと、二度も同じこと言わせんじ
ゃ、ねぇ、よ、と、艶をまとった震える声で応えてくる。

 言いながら、震える原因となっているそこにゆるりと自分を沈
めなおす。先ほどの感覚が残っているのだろう、すこし腰を進
めただけで内側にさざめきが起こった。工藤は、はん、と声を
出してたまらずかぶりを振っている。

 工藤…好きや。

 そうささやきながら、揺らした。さっきの記憶をたどるように内
側をすると、あるところで工藤の肩が、そして飲み込んでいる
内側がヒクリ反応する。

「あ、ふっ…。は、っとり、イ、…ぁん。」

 俺を呼ぶ声に、求める腰に、交わる水音に、抱いているのは
俺なのに、工藤に全て持っていかれるような、そんな錯覚を起
こし、ざわりと腰に熱が集まってくる。その熱に圧されるよう
に、大きく衝きあげる。俺の背中にしがみつく工藤の手は、もう
限界が近いのだろう、爪を立てているのがわかる。

「ン、は、はっとり、…も、お、…ぁ、あっ。」

 ひときわ大きく悲鳴をあげ、その直後工藤は身体を揺らして
熱を吐き出した。内側がいっそう俺を締め付ける。

「っく、くどうっ…。」

 次の瞬間、俺は受け入れられているそこに熱を注ぎ込む。そ
の強い感覚に、何だか全ての神経が浮遊しているかのように
解放されたようになる。くたりと力なく工藤が横たわり、俺はそ
んな彼を強く抱きしめて、甘く愛しい彼の余韻に浸った。





 俺は、幸せだと思う。

 お前と同じ時代に生きることができて。

 お前に会えて。

 ライバルとしても、親友としても、恋人としても認め合えて。

 好きだと、愛してると伝えることができる、この奇跡のような
瞬間に、心から。

fin

'07.10.9.
駄文目次
He/Si目次


 3000ヒットお礼、いかがでしたでしょか…。
 無駄に長く、なにを言いたいのかさっぱり…。
 ま、ま、平次が良い男で新ちゃんが平次を好きなら何でも良
いんです石英としては…!(ひらきなおり)
 ・・・いろいろごめんなさい(土下座)。