童話 サンドリヨン シャルル・ペロー/作 (1695、または1697年)
バレエ シンデレラ フレデリック・アシュトン/作 (1948年)
アニメ映画 シンデレラ ウォルト・ディズニー/作 1950年



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<ペローの童話「サンドリヨン」>


 昔々、シンデレラ(灰かぶり)と呼ばれている美しく心の優しい娘がいました。本当は貴族の娘なのですが、意地悪な継母とその連れ子である二人の義理の姉にその美しさを妬まれ、まるで召使のように扱われていました。
 ある時、この国の王子様が舞踏会を催すことになり、二人の義理の姉は着飾って出かけました。シンデレラも行きたかったのですが、もちろん連れて行ってもらえません。一人になると、悲しくなったシンデレラは泣き出してしまいました。
 すると、シンデレラの名付け親である仙女が現れて魔法の杖を振り、舞踏会へ行けるように、素敵な支度を整えてくれました。美しいドレス、かぼちゃから作った豪華な馬車。そして、燦然ときらめくガラスの靴。おしまいに仙女は1つ注意を与えました…12時を過ぎれば馬車もドレスも元の粗末な姿に戻ってしまうから、必ず12時までには舞踏会を出るようにしなさい…。シンデレラは、きっとご注意を守ります、と約束して、大喜びで舞踏会へ出かけました。
 さて、舞踏会に着いた美しいシンデレラは、たちまちみんなの注目の的となりました。王子様もシンデレラに魅了され、踊りに誘って愛の言葉をささやきました。そうして夢のような時間を過ごしているうちに、シンデレラは時の経つのも忘れてしまいました。
 気がつくと、時計が12時を打ち始めています。仙女との約束を思い出したシンデレラは駆け出しました。まだシンデレラがどこの誰だか聞いていなかった王子様は引き留めようとしましたが、シンデレラはあっという間に消えてしまいました。後にはシンデレラが履いていた美しいガラスの靴が片一方だけ取り残されていました。
 王子様は何とかしてあの舞踏会の女性を探し出そうと、おふれを出しました。ガラスの靴がぴったり合う女性を自分の妻にする、というのです。身分の高い女性から次々にガラスの靴を試してみましたが、ガラスの靴がぴったり合う女性は誰もいませんでした。
 そしてシンデレラの義理の姉たちの番になり、姉たちは何とかしてガラスの靴を履こうと無理をしましたが、無駄でした。そこへシンデレラが進み出て、王子様のお使いに、私にも試させていただけませんか、と言いました。義理の姉たちは、召使風情が何を言うの、と大笑いしましたが、王子様の命令はすべての娘に試させるように、というものでしたので、お使いはシンデレラにも履かせてみました。するとガラスの靴はまるであつらえたようにぴったりでした。シンデレラはもう片一方をポケットから取り出して履きました。
 お使いは、この方こそ王子様の探しておられた女性だ、と言って、シンデレラをお城へ連れていきました。王子様はたいそう喜び、数日後にシンデレラと結婚式をあげました。心優しいシンデレラは、今までの意地悪を詫びた義理の姉たちを許し、たいそう親切に遇した、ということです。
(終わり)


<アシュトンのバレエ「シンデレラ」>


 母親を早くに亡くしたシンデレラは、意地悪でわがままな二人の義理の姉たちに召使のように扱われながら暮らしていました。父親は気が弱く、シンデレラの扱いについて可哀想に思いながらも義姉たちに抗議をする事もできず、いいなりになっていました。
 それでもシンデレラは明るさや優しい心を失いませんでした。さきほどもやって来た物乞いの老女にパンをそっと与えてやりました。義理の姉たちは鬱陶しがって追い出そうとしたのですが…。
 今日はお城で舞踏会がひらかれる日。シンデレラは、私も連れて行って、と一生懸命父親に頼みましたが、義理の姉たちに反対され、とうとう連れて行ってもらえませんでした。
 シンデレラがしょんぼりしていると、さっきの物乞いの老女が現れ、美しい仙女に変身しました。そしてかぼちゃを馬車に、シンデレラのぼろ服を豪華なドレスに変えて、舞踏会の支度を整えてくれました。足元には世にも美しいガラスの靴がきらめいていました。
 但し、これは夜中の12時までしか効き目のない魔法。12時になるまでには必ずお城を出るのですよ、と注意をし、仙女はシンデレラを舞踏会へと送り出してくれました。仙女が呼び出してくれた四季の精ときらめく星の精たちがお供をしてくれました。
 さて、お城についたシンデレラは早速王子様と恋に落ちてしまいました。そしてあまりの楽しさに時間が経つのを忘れ、気がついた時には12時を告げる鐘が鳴り始めていました。仙女の注意を思い出したシンデレラはあわてて逃げ出しましたが、その際、ガラスの靴を片一方お城に落として行ってしまいました。鐘が鳴り終わった時、馬車もドレスももとのかぼちゃやぼろ服に戻ってしまいましたが、もう片一方のガラスの靴だけはシンデレラの手元に残っていました。
 シンデレラを見失った王子様は、まだ名前もきいていなかった美しいお姫様の唯一の手がかりであるガラスの靴を拾いあげ、この靴がぴったり合う女性を自分の妻にする、とおふれを出し、国中の女性に靴を試させてみる事にしました。
 国中を回っても靴がぴったりの女性は現れず、ついに王子様はシンデレラの家にもやって来ました。二人の姉は無理やりに履こうとしましたが、その拍子にこけそうになりました。あわてて義理の姉を支えようとするシンデレラのエプロンのポケットからもう片一方のガラスの靴が転がり出て来ました。驚いてシンデレラを見た王子様は、この人こそあの時の女性だと確信しました。そして両方のガラスの靴を履かせてみると、まるであつらえたようにぴったりでした。
 こうしてシンデレラは王子様に見出され、結婚して幸せになりました。もちろん心の優しいシンデレラは今までの意地悪をわびた義理の姉たちを許し、仲良くしてあげたそうですよ。
(終わり)


<ディズニーのアニメ映画「シンデレラ」>



 シンデレラのお父さんは早くに母親を亡くした娘には新しい母親が必要だと思い、二人の娘を連れたトレメイン夫人と再婚しました。しかしお父さんが亡くなってしまうとトレメイン夫人は本性を現し、ぜいたくをして家を傾かせた上に、自分の娘たちと違って美しいシンデレラを妬んで、召使としていじめながらこきつかうようになりました。しかしぼろ服を着せられて屋根裏部屋で寝起きしながらも、凛とした美しい心を失わないシンデレラは、ねずみや小鳥、犬、馬たちと友達になりながら、「いつか夢はかなう」と信じ、希望を失わずに暮らしていました。
 ある日、お城で王子様のお妃を見つけるための舞踏会がひらかれる事になりました。シンデレラも行きたいと思い、トレメイン夫人に言いつけられたたくさんの用事をすべてこなし、ねずみや小鳥たちに手伝ってもらって着て行くドレスまで用意しましたが、結局はトレメイン夫人に唆された意地悪な義理の姉たちにドレスをめちゃめちゃに引き裂かれてしまい、舞踏会に行く事はできませんでした。
 一人取り残され、あまりの事に夢も希望も何も信じることができずに泣き叫ぶシンデレラ。そこへ名付け親である仙女が現れ、魔法の呪文を唱えて、かぼちゃを立派な馬車に、ねずみを馬に、そして馬を御者、犬を従者に仕立ててくれました。そしてシンデレラのぼろぼろになったドレスは王女様のようなドレスになり、足には世にも美しいガラスの靴が輝いていました。
 そして仙女は、この魔法は12時までしか効き目がないから、必ず12時までにはお城を出るのですよ、と注意を与えて、シンデレラを舞踏会に送り出してくれました。
 さて、舞踏会ではどんな女性が現れようと全く興味を示さなかった王子様ですが、シンデレラが現れると、たちまち王子様はシンデレラに近づき、二人は恋に落ちました。人々は、王子様の心をとらえたあの美しい女性は一体どこの誰だろう、とささやきあっていましたが、トレメイン夫人はどこかでその女性とあったような気がしていました。
 シンデレラと王子様はうっとりと夢のような時間を過ごしましたが、楽しすぎてお互いがどこの誰だか確かめないままに時が過ぎ、やがて12時を告げる鐘が鳴り始めました。シンデレラはようやく仙女の注意を思い出し、追いかける王子様を振り切ってあわててお城を後にしましたが、その時、ガラスの靴が片一方脱げてしまい、お城に残されました。
 まもなく魔法は解け、ドレスは元のぼろぼろのものに、そして馬車も馬や御者たちも、もとのカボチャやねずみたちに戻ってしまいましたが、残ったもう片一方のガラスの靴だけはシンデレラの手元で燦然と輝いていました。
 王子様は残された手がかりであるガラスの靴がぴったり合う女性と結婚する決意をし、王様は国中のすべての女性が靴を試すように、とおふれを出しました。そして王様の命令を受けた大公さまが国中くまなく回って女性たちにガラスの靴を履かせてみましたが、誰も靴がぴったりする女性はいません。ついに大公さまはシンデレラの家にやって来ました。
 おふれを知ったシンデレラは、昨夜の男性が王子様であること、その王子さまが自分を探している事を知り、夢心地となりましたが、昨夜の女性がシンデレラであったかもしれない、と直感したトレメイン夫人は、ガラスの靴を試すことができないように、シンデレラを屋根裏部屋に閉じ込めてしまいました。シンデレラの危機を知ったねずみや犬たちの大活躍によってシンデレラはようやく屋根裏部屋を脱出し、ガラスの靴を試すことになりましたが、どこまでも妬み深いトレメイン夫人は靴を持ったお使いの者を倒してしまい、その拍子にガラスの靴は粉々に砕けてしまいました。
 これで昨夜の女性を探すことはできなくなった、と真っ青になる大公様。その大公様にシンデレラは言いました。「そんなにがっかりなさらないで。だって私、もう片一方を持っています。」 そしてシンデレラはもう片一方のガラスの靴を取り出し、履きました。靴はあつらえたようにぴったりでした。
 こうしてシンデレラは王子様と再会し、結婚式を挙げました。仲良しの動物たちは幸せそうな二人をいつまでもうっとりと見送るのでした。
(終わり)




<ペローの童話「サンドリヨン」>


 昔々、美しく心の優しい貴族の娘がいました。不幸なことに母親が死んでしまい、父親は再婚をしたのですが、その相手というのが恐ろしく意地悪な女性でした。その継母には娘が二人いましたが、それがまた意地悪で器量も悪く、心優しく美しい娘をたいそう妬みました。
 それ以来、娘は粗末な服を着せられ、義理の姉たちの世話や食器洗い、階段の掃除など、きつい仕事をさせられるようになりました。娘は仕事の合間に炉の灰の上に座るようになったので、サンドリヨン(灰かぶり)と呼ばれるようになりました。
※ サンドリヨン(Cendrillon)はシンデレラ(Cinderella)のフランス語形
 ある時王子様がお城で舞踏会を開く事になり、二人の義理の姉も招待されました。本当はサンドリヨンも呼ばれているはずなのですが、もちろん連れて行ってもらえるわけはありません。それでもサンドリヨンは悲しい気持を隠して、義理の姉たちの身支度を親切に手伝ってあげました。
 義理の姉たちが大はしゃぎで行ってしまい、一人になると、サンドリヨンは泣き出してしまいました。本当はサンドリヨンだって舞踏会に行きたくてたまらないのです。



 そこへ名付け親である仙女が現れました。そしてサンドリヨンが舞踏会に行けるように素敵な支度をしてくれました。魔法の杖でふれると、かぼちゃは立派な馬車に、6匹のはつかねずみは6頭の馬に。そして太ったねずみは御者に、6匹のとかげは6人の従者に変身しました。
 そしてサンドリヨンの粗末な服は、金糸銀糸でぬいとられ、宝石がきらめく美しいドレスに変わりました。そして仙女はこの世で一番美しいガラスの靴をサンドリヨンに与えました。
 大喜びのサンドリヨンに仙女は1つ注意を与えました。…魔法がきくのは12時までなのです。それを過ぎたらすべてはもとに戻ってしまうから、それまでには必ずお城から出るのですよ…。サンドリヨンは、きっとご注意を守ります、と仙女に約束しました。
 さて、豪華な馬車にのり、たくさんの従者を連れ、誰も見たことがないほど素晴らしいドレスを来たサンドリヨンがお城に着くと、王様はじめ、その場にいた人々はすっかりサンドリヨンにみとれてしまいました。とりわけ若い王子様は美しいサンドリヨンにすっかり夢中になってしまいました。
 サンドリヨンは義理の姉たちのところへ行って、何かと話しかけ、王子様からもらったレモンやオレンジをわけ与えました。義理の姉たちはびっくりしてしまいました。何しろ王子様が夢中になっている美しい王女様のような女性が、どういうわけか自分たちにとても親切にしてくれるのです。(当時、レモンやオレンジはとても珍しい果物でした。)
 そしてサンドリヨンは王子様と踊ったりお話をしたりして夢のような時間を過ごしましたが、ちゃんと仙女との約束を守って、12時より前に舞踏会を後にしました。
 サンドリヨンは遅くに帰って来た義理の姉たちに、舞踏会はどうでしたか、と聞きました。すると義理の姉たちは王子様は突然現れたどこかの国の美しい王女様に夢中で、その王女様はとても私たちに親切にしてくださった、とサンドリヨンに自慢しました。サンドリヨンは黙って聞いていましたが、おかしくてたまりませんでした。
 そして王子様に、明日も来てください、と言われたサンドリヨンは、翌日も仙女にお願いして舞踏会へ出かけていきました。王子様はサンドリヨンにつきっきりで愛をささやき、うっとりしたサンドリヨンは時間のたつのも忘れてしまいました。
 そんなサンドリヨンの耳に、時計が12時を打つ最初の音が聞こえてきました。仙女との約束を思い出したサンドリヨンはハッとして立ち上がり、あわてて駆け出しました。王子様も後を追いましたが、サンドリヨンはガラスの靴を片方残して消えてしまいました。
 本当は消えたわけではなく、走っている間に馬車はかぼちゃに戻り、馬も御者も従者も元のはつかねずみやねずみ、そしてとかげに戻っただけなんですけれども…。そしてサンドリヨンのドレスも元の粗末な服に戻ってしまったので、誰もあの美しい王女様だとは気がつかなかったのです。
 それでもサンドリヨンには夢のようだった舞踏会の名残として、ガラスの靴のもう片一方が残されていました。



 サンドリヨンに心を奪われた王子様は、なぜどこの誰だかちゃんと聞いておかなかったのだろう、これでは捜しようがないではないか、と絶望的な気持になりました。それでも手がかりがあるにはあります。サンドリヨンが残していった、美しいガラスの靴です。そこで王子様は、このガラスの靴がぴったり合う女性を妻にする、と国中におふれを出しました。
 そして王女様たち、公爵令嬢たち、宮中の女性…と次々にためしてみましたが、ガラスの靴がぴったり合う女性はいませんでした。そしてとうとう王子様のお使いはサンドリヨンの姉たちのところへもやって来ました。姉たちは何とかして靴を履こうと必死になりましたが、無駄でした。 
 サンドリヨンは王子様のお使いが持って来たのは自分のガラスの靴のかたわれだとわかっていましたので、「私にも試させてくださいませんか?」とお使いに申し出ました。姉たちは大笑いして馬鹿にしましたが、お使いはサンドリヨンがとても美しい娘だと思いましたし、王子様の命令はすべての娘に試させるように、というものでしたので、履かせてみる事にしました。
 すると、ガラスの靴はまるであつられたようにサンドリヨンの足にぴったりでした。姉たちが驚いていると、サンドリヨンはポケットからもう片一方を取り出して履きました。姉たちはもっとびっくりしました。
 そこへ名付け親の仙女が現れ、サンドリヨンに杖を一振りしました。するとサンドリヨンの粗末な服は豪華なドレスに変わったのです。今や姉たちにも、舞踏会で見た美しい女性がサンドリヨンであることがわかりました。姉たちはサンドリヨンの足もとにひれふし、今までの意地悪をわびました。サンドリヨンは優しく姉たちを許してあげました。



 そして王子様のお使いは、この方こそ王子様が探しておられた女性だと確信し、サンドリヨンをお城へ連れていきました。王子様はたいそう喜び、数日後にサンドリヨンと結婚式を挙げました。親切で優しいサンドリヨンは義理の姉たちをお城に迎え、大貴族と結婚させてあげた、ということです。



<アシュトンのバレエ「シンデレラ」>



第一幕 (シンデレラの父親の家)


 シンデレラは美しく優しい娘でしたが、意地悪で嫉妬深い義理の姉たちにいじめられ、まるで召使のように扱われていました。シンデレラの母親ばかりか再婚相手にまで先立たれたお父さんはすっかり気が弱くなっており、義理の姉たちに遠慮してシンデレラをかばう事もできなくなっていました。 
 さて、今日はお城で王子様の舞踏会が開かれる日です。二人の義理の姉は嬉々として舞踏会に着て行くストールに刺繍していましたが、連れて行ってもらえるはずもないシンデレラは炉の側で物思いにふけっておりました。
 そのうち義理の姉たちはケンカを始め、止めに入ったお父さんは殴られてしまいました。そしてストールもまっぷたつに破れてしまいました。義理の姉たちは意地悪をする時は団結しているのですけれど、お互いに自分の事しか考えていないので、すぐに内輪もめしてしまうのです。
 ケンカに飽きた義理の姉たちがどこかへ行ったので、シンデレラはお父さんに、私も舞踏会に連れて行って、と頼みました。しかし義理の姉たちを恐がっている気弱なお父さんは、無理だよ…と行って逃げて行ってしまいました。



 がっかりしたシンデレラは亡きお母さんの肖像画を引っ張り出して来て炉の上に飾り、楽しかった日々を思い出してしんみりしていました。それでもやがて気をとりなおしてほうきを持ってお掃除をはじめましたが、義理の姉たちのストールのかたわれを見つけ、自分にあててみました。シンデレラはきれいなドレスを着て舞踏会へ行く自分を想像し、しばしうっとりとしていましたが、そこへ姉の一人が戻ってきて、乱暴にストールのかたわれを取り上げて行きました。
 現実に戻り、悲しくなったシンデレラは泣いてしまいました。そこへお父さんが戻って来てシンデレラを抱きしめ、二人は一緒に泣きました。しかし義理の姉たちがやって来て、そんな娘にかまうのはやめなさいよ、と乱暴にお父さんを突き飛ばしました。シンデレラはひっくり返ってしまったお父さんを優しく気づかいました。
 と、灰色のぼろをまとった物乞いの老女が入り口から入って来ました。義理の姉たちは気味悪がって追い出そうとしましたが、シンデレラはお父さんと相談してお金をあげることにしました。しかしケチな義理の姉たちが反対し、お父さんはお財布を引っ込めてしまいました。そこでシンデレラはパンをあげる事にしました。物乞いの老女はとても喜び、お礼を言って帰って行きました。 



 物乞いの老女の人が行ってしまうと、洋服屋さん、帽子屋さん、靴屋さんがやって来て、義理の姉たちの舞踏会の準備が始まりました。最新流行の装いで身を飾るのですが、性格も器量も悪く、かつお行儀も悪い義理の姉たちはちっとも美しくみえません。
 更にヴィオリニストを連れたダンス教師もやって来ました。義理の姉たちにダンスを教えるのですが、義理の姉たちはあまりに下手くそ。しかもふざけたりケンカをしたりするので、ダンス教師も引っ張り回されてくたくたになってしまいました。
 それでも何とかレッスンを終え、義理の姉たちは粉白粉をはたいて最後の仕上げをし、大はしゃぎで舞踏会へ出かけていきました。シンデレラはもう一度お父さんに、私も連れてって、と頼みましたが、お父さんは、許しておくれ…と言うばかりで、シンデレラを振り切り、姉たちの後を追って行ってしまいました。



 一人だけ置いていかれたシンデレラは、ほうきを抱えて泣き出してしまいました。でもシンデレラはすぐに気を取り直し、ほうきをパートナーに見立てて踊り始めました。そして踊り終わる頃には涙は乾き、笑顔になっていました。
 そこへまたあの物乞いの老女がやって来ました。そしてシンデレラの前でぼろを脱ぎ捨てると、老女はシンデレラの名付け親である美しい仙女に変わりました。驚いているシンデレラに、仙女は親切にしてもらった御礼に、と素敵な四季の贈り物をしました。
 いつの間にかあたりの光景は春に変わっていました。そしてお供の少年を連れた春の精が現れ、浮き浮きと弾むように踊りました。そして風景が夏に変わり、夏の精が陽のきらめきにうっとりするように暖かく踊りました。次は秋。秋の精は暖かい空気を蹴散らし、冷たい空気を運んできて、木々から葉を落として行きました。そして最後は冬です。ぴんと張り詰めた透明感のある冬の精は、突き刺すような冷たい空気を運んで来ました。
 美しい四季にうっとりしているシンデレラに、仙女は、あなたもそろそろ舞踏会へいかなきゃね、と言いました。そして驚いているシンデレラにかぼちゃを持って来させ、かぼちゃを豪華な馬車に変えました。そしてシンデレラのみすぼらしい服もまるで王女様のような美しいドレスに変えてしまいました。更に仙女はきらきらと美しいガラスの靴をシンデレラに与えました。
 最後に仙女はシンデレラに1つ注意を与えました…12時の鐘が鳴り終わるまでには舞踏会を出るのですよ。12時を過ぎたら魔法は消え、すべては元の姿に戻ってしまうのです。馬車はかぼちゃに、そしてドレスは元のぼろ服にね…。
 シンデレラはきっと約束を守ります、と言って馬車に乗りました。すると星たちがきらめきながらやって来て、シンデレラをお城へと先導してくれました。四季の精たちもシンデレラにつき従い、馬車はお城へと走り出しました。


第二幕 (お城の舞踏会)


 お城ではすでに舞踏会が始まっており、廷臣や招待客たちが優雅に踊る中、道化も楽しく踊って雰囲気を盛り上げていました。そこへ父親と一緒に義理の姉たちが現れました。厚かましくてお行儀の悪い義理の姉たちですが、早速彼女らにダンスを申し込む物好きな男性が現れました。
 背の高い男性と胸を張って威張っているチビです。ここでも二人はどちらと踊るかでケンカをしたりして男性たちを困らせました。
※ 新国立劇場のパンフレットではこの二人の男性は「ウェリントンとナポレオン」となっていました。



 義理の姉たちが踊り終わると、王子様と4人の友人たちが現れました。舞踏会は盛り上がりましたが、王子様はまだどの女性とも踊ろうとはしません。
 と、大勢のお供を連れた身分の高い方が到着されたらしく、あたりはざわざわしています。みんなが、どなたが来られたのだろう、と噂していると、きらきらとした星たちと四季の精、そしてお付を従えたシンデレラが現れました。
 何と美しい立派な方…一体どこの王女様なのだろう…人々が噂する中、王子様がシンデレラに近づいてその手をとりました。みんなが遠巻きに見つめる中、星たちのきらめきに囲まれ、四季の精と王子様の友人たちとにつき従われて、シンデレラは王子様と踊りました。やがて道化に導かれてみんなも踊り始めましたが、シンデレラと王子様はお互いにうっとりとして見つめあっていました。
 黒人の少年がオレンジの入っているカゴを持って現れました。王子様は当時はとても珍しい果物だったオレンジをシンデレラに贈りました。すると義理の姉たちがもの珍しそうに寄ってきたので、シンデレラは心よく義理の姉たちにオレンジを譲ってあげました。
 義理の姉たちはオレンジの大きさをめぐってまたケンカを始めましたが、それでもすっかり気を良くしてオレンジを持ったまま、はしゃいで走り回りました。
 王子様は、あの方はどこの姫君なのか、とみなに訪ねましたが、誰も知りません。そしてどこの誰なのかわからないまま、王子様はずっとシンデレラと踊り続けました。



 と、時計が12時を打つ最初の音が聞こえ始めました。仙女との約束を思い出したシンデレラはあわてて駆け出しました。王子様は何とか引き止めようとしましたが、シンデレラはガラスの靴を片一方残して走り去ってしまいました。
 シンデレラを見失った王子様はガラスの靴を拾いあげました。このガラスの靴があの女性を探す唯一の手がかりです。王子様は、靴がぴったり合う女性を妻に迎える、とおふれを出し、国中の若い女性にこのガラスの靴を試させてみることにしました。


第三幕 (舞踏会の後で…)


 家に帰ったシンデレラは炉の側で夢のようだった舞踏会の思い出に浸っていました。そしてほうきがまるで王子様であるかの様に、ほうきを愛しそうにかかえて踊るのでした。
 と、シンデレラはポケットの中にガラスの靴が片一方入っているのを見つけました。馬車もドレスもみんな元の姿に戻ってしまいましたが、このガラスの靴だけはシンデレラの手もとに残されていたのです。
 そこへ舞踏会で疲れてしまった二人の義理の姉が帰って来ました。二人はシンデレラを突っついて着替えを手伝わせながら持ち帰ったオレンジを見せびらかし、王子様が夢中になっておられた王女様がわざわざ私たちにくださったのよ、と自分たちの人気ぶりを自慢しました。シンデレラはおかしくてたまりませんでした。



 その時父親が帰って来て、王子様がガラスの靴を持っていらっしゃった事を知らせました。王女様たち、公爵令嬢たち…と次々にガラスの靴をためさせ、靴がぴたりと合う女性をみつけられなかった王子様は、ついにシンデレラの義理の姉たちのところへやって来たのです。
 姉たちは喜んで、これは私の靴だわ、と言い、何とか足をガラスの靴に押し込もうとしましたが、入りません。それでも義理の姉は、ぴったりよ、と嘘をいいながら靴を足先に引っかけたまま立ち上がりました。その拍子に義理の姉は転びそうになったので、シンデレラは支えようとして駆け寄りました。
 その時です、シンデレラのポケットからもう片一方のガラスの靴が転がり落ちました。
 王子様は驚いてシンデレラを見つめました。粗末な身なりをしてはいるけれど、どこかで見かけたような美しい娘です。王子様はガラスの靴を両方そろえてシンデレラにはかせてみました。靴はあつらえたようにぴったりでした。
 王子様はシンデレラがあの時の女性である事を確信しました。びっくりした義理の姉たちも寄って来て、いままでの意地悪を泣いて謝りました。シンデレラは優しく二人を許してあげました。
 そこへ仙女が現れました。そして王子様とシンデレラの手を結ばせ、杖を振りました。すると四季の精と星の精が現れ、二人を祝福するように踊りました。シンデレラは正装し、王子様はひざまづいてシンデレラの手をとりました。
 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしました。
(終わり)



<ディズニーのアニメ映画「シンデレラ」>


 昔々、遠い所に小さな王国があり、そこにシンデレラという美しい娘が住んでいました。母親が死んでしまったので、父親は娘には新しい母親が必要だと思い、再婚しました。しかし父親が急な病で死んでしまうと、継母トレメイン夫人は悪い本性をむきだしにしました。トレメイン夫人はとアナスタシアとドリゼラという自分にそっくりな器量も性格も悪い二人の娘がいました。 
 トレメイン夫人と二人の娘が無駄遣いばかりしたので、屋敷は荒れ果ててしまいました。アナスタシアとドリゼラはシンデレラの美しさを妬み、トレメイン夫人もまたシンデレラの美しさが自分の娘たちの醜さを際立たせるのでシンデレラを疎み、家中の仕事を全部言いつけてシンデレラを召使にしてしまいました。
 シンデレラは塔の屋根裏部屋に追いやられ、粗末な服を着てそうじや洗濯に追われる毎日でしたが、それでも自分がこの家の娘であるという誇りを失う事はなく、「いつかは必ず虹が微笑む、たとえ辛いときでも信じていれば夢は叶う」と信じ続けていました。



 さて、今日も朝がやって来ました。仲良しの小鳥たちがシンデレラを起こし、身支度を手伝います。そして粗末でも清潔な仕事着を整えたシンデレラのところに仲良しのねずみでリーダーであるジャックが駆け込んで来ました。見慣れないねずみがネズミ捕りにかかっているというのです。
 シンデレラは跳んでいき、そのねずみを助けてやりました。そのねずみはガスと名付けられ、ジャックや小鳥たちと同じように、シンデレラお手製の洋服を着せてもらい、シンデレラの家族となりました。
 シンデレラは朝の仕事にとりかかりました。まずは継母の愛猫ルシファーの朝食を与えるのです。小ずるいルシファーは早速シンデレラをてこずらせました。そしてシンデレラをだまして天敵である犬のブルーノを悪者に仕立て上げ、外へ出させてしまいました。さあ、これでルシファーは安心してねずみり狩ができます。
 さてシンデレラの方は他の動物たちに朝食を与え始めました。明るく優しいシンデレラが声をかけると、小鳥、あひる、馬のメジャー(Major)やにわとりたちが喜んで集まってきました。
 しかしねずみたちは朝食をもらいに行けません。出入り口にはルシファーがどっしりと陣取り、ねずみを捕らえようと待ち構えているのです。そこでジャックがおとりとなり、その間にねずみたちはさっさと走り出て朝食にありつきました。
 ちょっぴりとろくてこの家に不慣れなガスはなかなか食事にありつけなかったのですが、にわとりにいじめられているところをシンデレラに助けられ、たくさんのチーズ片をもらいました。ところが欲張ってたくさん持って帰ろうとしたため、途中で大きな音をたててチーズ片を落としてしまいました。ルシファーがそれに気づき、早速ガスを追いかけ回し始めました。

 その時、台所のベルがやかましく鳴り始めました。トレメイン夫人やアナスタシア、ドリゼラが、朝食を持って来い、とシンデレラを呼ぶ音です。もううんざりなやかましさですが、シンデレラはてきぱきとカップ&ソーサーやポットを整え、朝食の用意を始めました。
 一方、ガスはジャックに助けられ、カップ&ソーサーに寄りかかってホッと一息ついていましたが、そこへルシファーがやって来て、カップとソーサーの間にガスを閉じ込めてしまいました。ルシファーはガスをなぶりものにしようとほくほくしていましたが、そこへシンデレラがやって来て3人分の朝食の用意を持って行ってしまいました。もちろんガスが入ったカップ&ソーサーも一緒にです。
 シンデレラはアナスタシア、ドリゼラ、トレメイン夫人に朝食を配り、そしてその際にたくさんの用事を言いつけられました。それでも反抗することもしょげることもなく毅然と引き受けるシンデレラでしたが、突然アナスタシアのするどい悲鳴が上がりました。ガスの入ったカップ&ソーサーはアナスタシアのところへ配られてしまったのです。
 アナスタシアは、シンデレラがわざと食器にねずみを入れた、とトレメイン夫人に言いつけました。ドリゼラも、あの子にたくさん罰を与えてちょうだい、とアナスタシアの尻馬に乗りました。そしてシンデレラは罰としてたくさんの大変な仕事を言いつけられてしまいました。



 さてその頃お城では、王様が今夜舞踏会を開くように、と大公様に命令していました。今夜だなんてそんな急な…無茶です…と大公様は抵抗しましたが、王様は妥協しません。
 実は今日は王子様、プリンス・チャーミングが留学先から帰って来るのです。プリンス・チャーミングに親離れされた王様はさびしくてたまらず、心の隙間を埋めるために可愛い孫が欲しくてたまりません。そこで帰郷祝いと称して国中の若い娘を一堂に集め、プリンス・チャーミングに誰かと恋に落ちてもらい、早速その娘と結婚させて孫の誕生を待とうというアイデアを思いついたのでした。
 大公様はあたふたと舞踏会の準備にとりかかりました。そして早速国中の娘に舞踏会に来るように、と招待状を出させました。

 さて、シンデレラは次から次へとトレメイン夫人からいいつけられた大変な仕事をしていましたが、夢見る心を失わないシンデレラは何をしていてもへたこれません。上の部屋からは猫のルシファーでも耳をふさぎたくなるようなドリゼラの歌声とアナスタシアの調子っぱずれなフルートが聞こえてきますが、シンデレラはシンデレラで、仕事をしながらも楽しそうに美しい声で歌っていました。
 そこへお城からのお使いが舞踏会の招待状を持ってやってきました。お城の舞踏会と聞いたアナスタシアとドリゼラは大はしゃぎし、あれこれとドレスを選び始めました。
 国中の娘が招待されているという事でしたので、シンデレラは、私も行っていいでしょう?…とトレメイン夫人に訊ねました。トレメイン夫人は、もし言いつけられた用事をすべてこなし、ふさわしいドレスも用意できたらもちろん行っていいわ、と言ったので、シンデレラは大喜びで仕事に励みました。
 でもそれはトレメイン夫人の新たな意地悪でした。シンデレラを喜ばせておいて、次から次へとこなしきれないような用事を言いつけ、結局は舞踏会行きを認めない心づもりだったのです。

 そうとは知らないシンデレラは屋根裏にある自分の部屋へ行き、亡くなった母親の形見のドレスを引っ張り出して、リフォームすれば何とかなるわ、とうれしそうでした。そして何とかして仕事を全部片付けようと張り切って仕事場へと戻って行きました。
 でもジャックにはトレメイン夫人の考えていることがよくわかっていました。…ドレスを仕上げる暇なんかあるはずないよ、かわいそうなシンデレラ…。…そうか、そういう事なのか…ねずみたちも小鳥たちもシンデレラが可哀想になってみんなしょんぼりとしてしまいました。
 その時、1匹のねずみが言いました。「みんなでシンデレラのドレスを仕上げましょう!」そしてねずみたちや小鳥たちは力を合わせ、ドレスブックを見ながらリフォームにとりかかりました。
 ジャックやガスもアナスタシアやドリゼラが捨てたネックレスやサッシュを命がけでルシファーのいる部屋からとってきて、それらも使ってシンデレラのための可愛いドレスが仕上がりました。
 仕事がなかなか終わらず、舞踏会行きをあきらめていたシンデレラはドレスを見て大喜びしました。みんなにお礼を言い、早速ドレスを着て階下へ降り、トレメイン夫人に、舞踏会に連れて行ってください、と頼みました。
 しかしトレメイン夫人はシンデレラのネックレスとサッシュに目をとめ、「どこかで見たことないかしら?」と娘たちをそそのかしました。
 その途端、「こんなつまらないものなんか要るもんですか!」と言って捨てたネックレスやサッシュであるにもかかわらず、アナスタシアとドリゼラは「これは私のネックレスよ!」「これは私のサッシュだわ、この泥棒!」と罵りながらシンデレラにおそいかかり、ドレスをメチャクチャに引き裂いてしまいました。
 震えるシンデレラに、トレメイン夫人は悪魔のような微笑を残し、娘たちを連れて出かけてしまいました。



 「ひどい、ひどい…!」さずがのシンデレラにもこの仕打ちはたえられませんでした。シンデレラは駆けだしていき、「夢なんかかないっこない!」と泣き叫びました。ジャックもガスも、他のねずみや小鳥たちも、馬のメジャーも犬のブルーノも、ただシンデレラを取り囲み、悲しむその姿をしょんぼりと見ているしかありませんでした。
 と、突っ伏して泣くシンデレラのまわりがきらきらと輝き出し、フェアリー・ゴッドマザー(代母である妖精)が現れました。フェアリー・ゴッドマザーはシンデレラをなだめ、「あなたも舞踏会へいかなくちゃね」と舞踏会行きの準備を始めました。
 驚くシンデレラの前でファアリー・ゴッドマザーが魔法の杖を取り出し、♪ビビディバビディブ〜♪と魔法の言葉を唱えると、畑のかぼちゃは立派な馬車に変わりました。そしてジャックやガスたち4匹のねずみは馬に、馬のメジャーは御者に、犬のブルーノは従者に変身しました。そしてシンデレラの引き裂かれた服は見たこともないような透明できらきらした美しいドレスになりました。そしてシンデレラの足にはガラスの靴がきらめいていました。
 大喜びのシンデレラにフェアリー・ゴッドマザーは1つだけ注意を与えました。時計が12時を打ち終わったら魔法は消え、すべては元にも戻ってしまう、だからそれまでには舞踏会を出るように、というのです。
 そしてシンデレラはフェアリー・ゴッドマザーに送り出され、胸をときめかせながら舞踏会へと出かけて行きました。


 


 さて、お城ではすでに舞踏会が始まっており、招待された令嬢たちが一人一人プリンス・チャーミングに紹介されていました。しかしプリンス・チャーミングはその中の誰にも興味がないようで、退屈そうな様子です。
 それを上から見ていた大公様は王様に、陛下の夢見ているような事は起きるわけがありません、陛下はロマンチック過ぎます、と王様をからかっていました。
 その時です。シンデレラが現れました。するとプリンス・チャーミングはハッと胸をつかれたようで、吸い寄せられるようにシンデレラに近づき、その手をとって踊り始めました。それを見た王様は上機嫌です。「お前が責任を持って二人を見張っておれ。王子がプロポーズしたら報告せよ」と大公様に言いつけ、王様は寝室へ引き取ってしまいました。
 みんなシンデレラを見て、どこのどなたなのかしら?としきりに噂をしていました。アナスタシアとドリゼラもしきりとシンデレラに見入っていましたが、トレメイン夫人は誰だかは思い出せないのだけれど、どこかで会った事があるような気がしていました。
 シンデレラとプリンス・チャーミングにはそんな回りの視線もささやきも少しも気になりません。二人は恋に落ちたのです。そしてそのまま二人はお互いにどこの誰だか知らないまま踊り続けました。あまりの幸せにうっとりしたシンデレラは、時間の経つのもすっかり忘れてしまいました。 
 と、時計が12時を打つ音が聞こえてきました。フェアリー・ゴッドマザーの注意を思い出したシンデレラはあわてて駆け出しました。まだシンデレラの事を何も知らないプリンス・チャーミングは後を追おうとしましたが、人垣に阻まれ、シンデレラを見失ってしまいました。
 シンデレラが走り去るのを見た大公様も驚いて後を追いましたが、シンデレラはガラスの靴を片一方落としたまま走り去ってしまいました。
 大公様は、娘を追え、と命令を出しましたが、シンデレラを乗せた馬車は全速力で走り出しました。そして12時を打つ鐘が鳴り終わった時、馬車は元のかぼちゃに、馬はねずみに、御者や従者もメジャーやブルーノに戻ってしまいました。大公様の追手が猛烈なスピードで追って来ましたが、元の姿に戻ったシンデレラたちには全く気がつかずに通り過ぎて行きました。
 ジャックやみんなに取り囲まれたシンデレラはまだうっとりした顔をしたまま、楽しかったわ、と舞踏会の余韻に浸っていました。と、ジャックがガラスの靴が転がっているのを見つけました。すべては元の姿に戻ってしまったのに、ガラスの靴だけは消えていなかったのです。シンデレラはガラスの靴を見て、本当に素敵な夢だったわ、とため息をつくのでした。

 仕方なく大公様は王様に例の娘をを取り逃がしたことを報告しました。王様は烈火のごとく怒りましたが、ガラスの靴が片一方残されており、プリンス・チャーミングはその靴がぴったり合う娘と結婚する決心をした事を聞かされると、早速すべての娘に試させよ、と大公様に命令しました。


 

 朝が来ました。シンデレラはいつもの通り朝食をトレメイン夫人や二人の義理の姉に運んでいましたが、トレメイン夫人はひどく興奮してアナスタシアとドリゼラを起こしました。二人の娘は眠くてたまらないので不機嫌でしたが、お前たちにも王子様に選ばれるチャンスがあるのよ、と聞かされて、すっかり目が覚め、欲の皮を突っ張らせて、どういう事なのよ、と騒ぎ始めました。
 トレメイン夫人が言うには、プリンス・チャーミングは突然いなくなってしまった昨夜の娘が忘れられず、残されたガラスの靴がぴったり合う娘を妻に迎える決心をした、それで大公様が夜通しガラスの靴がぴったり合う娘を探している、らしいのです。
 シンデレラは驚き、思わず持っていた朝食のお盆を落としてしまいました。昨夜のあの男性は何とプリンス・チャーミングだったのです。しかもプリンス・チャーミングは自分を妻に迎えようと捜し回っている、というのです。長い間信じていた夢が叶う…。シンデレラはうっとりとしてしまいました。
 そしてシンデレラは、大公様がいらしたらこんなかっこうじゃ失礼だわ、と屋根裏部屋へ着替えに行きました。アナスタシアとドリゼラは、あの子ちょっとおかしいわよ、と言うのみでしたが、疑い深いトレメイン夫人は、ピンときました。…あの舞踏会の娘、どこかで会ったような気がしたけど、あれはあの子だったのに違いない。
 シンデレラが幸せになる事を決して許す事ができないトレメイン夫人は、屋根裏部屋の鍵を持ってそっとシンデレラの後をつけて行きました。その様子を見たジャックとガスはこれは大変だ、一刻も早くシンデレラに知らせなきゃ、と全速力で屋根裏部屋へ駆け上がって行きました。

 シンデレラは訪れようとしている夢のような瞬間に思いを馳せながら、屋根裏部屋で身だしなみを整えていました。そこへジャックとガスが飛び込んできて、息を切らせながら何かまくしたてましたが、あまりの早口に何を言っているのかわかりません。シンデレラが、「何?落ち着いて話してちょうだい。」と言った時、ガチャッと音がしてトレメイン夫人が部屋に鍵をかけ、シンデレラを閉じ込めてしまいました。
 「やめて、そんなひどい事!出して、お願いだから出して!」シンデレラは泣き叫びながら扉をゆすりました。でも扉はびくともしません。大公様の前でガラスの靴を履くことさえできればせっかく長い間の忍耐が報われ、夢がかなうというのに…。
 ジャックはガスに言いました。「何とかしなきゃ!」窓をのぞくと、大公様が従者をつれてやって来るのが見えます。「急ごう、もう時間はないぞ!」



 さて、到着した大公様は国王の布告を告げ、アナスタシアからガラスの靴を試す事になりました。夜を徹して探し回ったせいで眠くてたまらない大公様は居眠りを始めたので、その間中アナスタシアは無理に無理を重ねて足を靴に押し込もうとしていました。トレメイン夫人は、必ず入るわよ、とアナスタシアを励ましながら見守っていました。
 広間に入り込んだジャックとガスはその隙に必死の思いでトレメイン夫人のポケットから鍵を奪い取りましたが、トレメイン夫人は全く気がつきません。
 そして重い鍵をひきずりながら、ジャックとガスは気が遠くなりそうな長い階段を一歩一歩と上がっていきました。
 さて、アナスタシアはしつこく無理を続けていましたが、ようやく居眠りから覚めた大公様は、もうよい、とアナスタシアを止め、今度はドリゼラの番となりました。
 その間にもジャックとガスはありったけの力で鍵をひきずって階段を上がっていきました。そしてようやくシンデレラの部屋の前までたどり着きました。ジャックは急いでシンデレラに声をかけ、鍵を持って来た事を告げました。シンデレラはこれで助かったわ、と大喜びしましたが、ネズミ捕り用のおわんを持ったルシファーが現れ、鍵を持ったガスにおわんをかぶせてつかまえてしまいました。
 シンデレラは「お願いだからガスを出して」と懇願し、ジャックや他のねずみたち、小鳥たちも何とかガスと鍵を取り返そうと果敢にルシファーと戦いましたが、歯が立ちません。
 「そうだわ、ブルーノだわ!」と思いついたシンデレラは小鳥たちに犬のブルーノを連れて来てくれるようにと頼みました。小鳥たちはさっと飛び立って外で居眠りしているブルーノの所へ行き、事情を話しました。ブルーノは寝ぼけていて何の事やらさっぱりわかりませんでしたが、いち早く理解したメジャーに説明され、小鳥たちに突っつかれてものすごい勢いで階段を駆け上がりました。
 そしてシンデレラの部屋にたどり着いたブルーノは猛然とルシファーを追いかけ、ルシファーは窓から転落して行きました。ジャックは大急ぎで鍵を扉の隙間からシンデレラに差し入れました。



 ドリゼラもアナスタシア同様、無理やりに履こうとしましたが、無理やりに突っ込んだ足が伸びた拍子にガラスの靴がパチンコ玉のようにとんで行き、危うく割れそうになるという失態までしでかしてしまいました。うんざりした大公様はこの二人しかいない事を確かめ、帰ろうとしました。
 その時です。シンデレラが急いで階段を下りて来ました。そして驚くトレメイン夫人を後目に、私にもガラスの靴をためさせていただけませんか、と大公様に申し出ました。
 器量も性格も悪い二人の姉たちにうんざりしていた大公様は、美しいシンデレラを見て期待がふくらみました。そしてシンデレラを椅子にかけさせ、従者にガラスの靴を持って行かせました。
 その時、どす黒い妬みがトレメイン夫人の胸から噴き出しました。ガラスの靴が壊れてしまえばシンデレラは靴を試すことができません。そこでトレメイン夫人は靴を持ってシンデレラの方へ向かう従者の足元にサッと杖を出しました。従者は出された杖に引っかかり、転んだ拍子にガラスの靴は宙を舞い、床に叩きつけられて粉々に壊れてしまいました。
 これでもう昨夜の娘を捜す事はできません。王様の怒りを思い、大公様は真っ蒼になってしまいました。
 そんな大公様にシンデレラは言いました。「そんなにがっかりなさらないで。ほら、私もう片一方を持っています。」そしてシンデレラはガラスの靴のもう片一方をポケットから取り出しました。思いがけない事の成り行きにトレメイン夫人はびっくりし、真っ蒼になりました。
 大喜びの大公様がシンデレラにガラスの靴を履かせると、まるであつらえたようにぴったりでした。大公様の顔は喜びに輝き、ジャックたちは大歓声をあげました。



 ついにシンデレラの夢はかないました。今日はプリンス・チャーミングとシンデレラの結婚式です。鐘が鳴り響く中、チャペルで式を挙げた二人は幸せにあふれて階段を駆け下り、馬車に乗りました。メジャーが得意そうに先導し、馬車は走り出しました。ブルーノも大喜びで馬車と並んで走りました。宮廷風の服を着たジャックやガス、他のねずみたち、小鳥たちもうっとり幸せに酔いしれ、いつまでも夢と幸せにあふれたシンデレラの馬車を見送るのでした。
(終わり)






ペローの童話について
 ペロー童話はペローのオリジナルというわけではなく、昔から口承であちらこちらで伝わっているものをペローが童話に仕立てたものです。そしてペローは童話の末尾に「教訓」をつけました。「サンドリヨン(Cendrillon)」には「美貌も素晴らしいが、善意はもっと尊い」という教訓がついています。
 そしてそれに続いて「もうひとつの教訓」もまたつけました。それは、「天賦の才能も無駄になってしまう。もしそれらの才能を生かす名付け親の代父や代母がいなかったなら」というものです。 
 これは頷けますね。確かに善意は大切なものですが、いくら善意でも埋もれてしまっては何にもなりません。また、善意を利用して裏切る他人も多いものです。「運がよけりゃ…」とも言えますが、やっぱり力のある誰かが愛情を持ってひきたててくれる事が必要不可欠です。この教訓は現在でも通用しますね。

 さて、ペローの童話では舞踏会は2日にわたってひらかれていたのです。サンドリヨンは1日めは仙女の注意をきちんと覚えていましたが、2日めは舞い上がってしまい、忘れてしまいました。それでもガラスの靴はちゃんと片一方は王子様に、もう片一方はサンドリヨンの手元に残ったというのですから、仙女はすべてを見越してガラスの靴による縁結びを用意していたのかもしれませんね。
 またペローの童話では、サンドリヨンの父親は生きています。しかしサンドリヨンがいじめられているのを知らなかったことになっており、また知ったとしても後妻を恐れて知らないふりをしただろう、と書かれています。よい仙女がちゃんと見ていてくれたサンドリヨンは幸せ者ですね。



バレエについて


<シンデレラ基本情報>
音楽 セルゲイ・プロコフィエフ
初演(振付…ザハーロフ) ボリショイ・バレエ 1945年
セルゲイエフ版初演 キーロフ・バレエ 1946年 配役:シンデレラ…ドゥジンスカヤ  
王子…セルゲイエフ
アシュトン版初演 サドラーズ・ウェルズ(英国ロイヤル) 1948年 配役:シンデレラ…モイラ・シアラー


 「シンデレラ」はアシュトンにとって、そして英国にとって初めての全幕もののバレエです。ソ連での上演の話に興味をひかれて自らの作品にとりかかったアシュトンですが、オリジナルな変更を幾つか加えました。その最も大きいものは、継母が登場しないことと、義理の姉たち(アグリー・シスターズ)を男性が演じる事です。
 キーロフ版では継母も登場しますし、義理の姉たちも女性ダンサーが素晴らしい踊りを見せます。その分、シンデレラへのいじめもとげとげしくリアルです。どうもアシュトンは子供時代に兄たちからいじめられた事がトラウマになっていたらしく、それが故にイノセント(罪のない、無邪気な)である事にこだわりが強かったという意見もあります。
 新国立劇場のパンフレットによれば「(シンデレラの)父親は妻に二度も先立たれていました。」とありますから、継母も死んでしまったという設定なのでしょう。
 そして男性が演じるアグリーシスターズは動作のすべてが大げさで滑稽です。意地悪な義理の姉、というよりは笑いを誘うおかしな人たち。ですからもともと「シンデレラ」にあった毒は上手に抜かれており、作品全体としてはアシュトンのねらい通りイノセントなものとなっています。
※ このアグリーシスターズはアシュトンの当たり役で、ロバート・ヘルプマンと競いながら、思いっきりおもしろおかしく演じ続けたらしいです。私もDVDで見ましたが、ちょっととろい方の義理の姉を実に見事に演じていました。

 そんな風ですから、イノセントなこの「シンデレラ」は子供たちへの贈り物として、クリスマスシーズンに上演される事が多いようです。
 なお、この義理の姉たちは「アグリーシスターズ」と呼ばれているだけで、個々に名前はありません。童話では姉のうちの一人がジャボットという名前になっています。ディズニー・アニメではアナスタシアとドリゼラという名前がちゃんとありました。 
 新国立劇場ではこのアシュトンのシンデレラをレパートリーにしていてクリスマス・シーズンに上演しますから、ぜひ一度、たくさんの美しい踊りをちりばめたこの楽しいバレエを観に行ってみてください。きっと幸せな気分になれる事でしょう。



ディズニーのアニメ映画について



 このアニメ映画はバレエと同様に童話に基づいていますが、かなりディズニーらしさが加わったオリジナルな作品です。何より違うのはシンデレラが自分をいじめ貶める継母や義理の姉たちに毅然とした、戦うと言ってもいいような態度をとる事です。
 また、それと歩調をあわせるようにいじめる側も醜さと妬み深さが震えがくるぐらい恐ろしく描かれています。これを見ると、イノセントである事をめざすアシュトンが自らのバレエで継母を省いた理由がわかる気がします。
 この物語ではシンデレラもただ美しく善意であるというだけではありません。普通はあんなに貶められればひねくれたり卑屈になったりするものですが、シンデレラにはまったくそういうところはありません。継母や義理の姉たちに対しても「今でも私はこの家の娘です。」と堂々と主張しながらどんな召使よりも有能に働きます。そして動物たちに対してはまるでフェアリー・ゴッドマザーのような庇護者ですらあるのです。
 これはただの若い娘ではありません。このどんなに強い男性でもかなわないような鉄の意志を持った人物はディズニーその人なのだと思います。豊かな才能を持ち、どんどんと新しい道を切り開くディズニーは常に同業者たちに嫉妬され、仕事を妨害されていた、と言います。
 つまりシンデレラの戦いはディズニーの戦いそのものなのです。ですから、ペローの童話やバレエと違って最後にシンデレラが継母や義理の姉たちを許す場面はありません。

 また、幸せだった時代から一緒だった馬のメジャーや犬のブルーノ、賢くて勇敢なジャックやボケ役のガスなど、動物たちがシンデレラと常に共にあり、彼女を助け、共にドラマを紡ぎだすところも大きな特徴です。継母の悪を拡張気味に描いたため、ともすればえぐくなりがちなところを彼らがその可愛らしさと健気さでアクをやわらげ、メルヘンにふさわしい雰囲気を作り上げています。

 





「完訳ペロー童話集

シャルル・ペロー/作 新倉朗子/訳 岩波文庫
「新国立劇場公演パンフレット 2008/2009 シーズン」

DVDシンデレラ 英国ロイヤルバレエ シンデレラ・・・アントワネット・シブリー
王子・・・・・・・・アンソニー・ダウエル
アグリー・シスターズ
       ・・・フレデリック・アシュトン
    
 ・・ロバート・ヘルプマン
KULTUR
(このDVDはリージョン1です。普通のDVDプレーヤーではみられません。パソコンに入っているマルチメディアプレーヤーで見てください。
DVDシンデレラ キーロフ・バレエ シンデレラ・・・ガブリエラ・コムレワ
王子・・・・・・・マラート・ダウカーエフ
義理の姉・・・マルガリータ・クリーク他
新書館



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