主を賛美するために民は創造された

             及川 信

 詩編102編19節〜

後の世代のために
このことは書き記されねばならない。
「主を賛美するために民は創造された。」


 人間は誰でも、自分は何のために生まれてきたのかと考えるものだと思います。しかし、この問題はいくら考えても分からないとも言えます。また、世はそういう問題を考えさせないように仕向けますし、目の前にある試験の解答を見つけることや、当面の課題の解決策を見つけることが評価されますし、解答や解決策を見つけることが出来たときはそれなりに嬉しいものです。しかし、それは「魂の喜び」というようなものではありません。存在の根底に感じる喜びとは違うと思います。
 パスカルという人がこう言っています。

「信仰によらなければ、だれでも、自分が目覚めているのか、眠っているのか、確信が持てない。それは、眠っている最中でも、実際に目が覚めている時と同じように、今目が覚めているんだなと思い込むことがあるのを見てもわかる。」(『パンセ』田辺保訳)

 そして、こうも言っています。

「もし人間が神のためにつくられているのでないのであれば、人間が神においてしか幸福になることができないのはなぜだろうか。
もし人間が神のためにつくられているならば、人間がこんなにも神に反対するのは、なぜだろうか。」(同書)

 たしかに、人間は矛盾した存在です。また、矛盾した現実の中に生きているものです。
 詩編一〇二編八節には、こうあります。

「屋根の上にひとりいる鳥のように
わたしは目覚めている。」


 「屋根の上にひとりいる鳥」。最近はこの鳥のことをよく考えます。天でもなく、地でもない、その中間の所でひとり目覚めている鳥のようにして何を見ているのか、何を見ようとしているのか。何が見えたのか。
 地上では、
「敵は絶えることなくわたしを辱め
嘲る者はわたしによって誓う。
(中略)
あなたは怒り、憤り
わたしを持ち上げて投げ出された。
わたしの生涯は移ろう影
草のように枯れて行く。」(同九節〜一二節)

 という現実があるのです。
 その中で、ひとり、

「主よ、わたしの祈りを聞いてください。
この叫びがあなたに届きますように」
(同一節)

 と祈り続ける。それは人に憎まれ、神に投げ捨てられる中での孤独な祈りです。何もかも失った中で、ひとりで祈る。そこに「目覚めている」という現実があるのでしょう。その彼がこう言うに至るのです。

「主はすべてを喪失した者の祈りを顧み
その祈りを侮られませんでした。
後の世代のために
このことは書き記されねばならない。
『主を賛美するために民は創造された。』」

         (同一八節〜一九節)

 人との交わりも、神様との交わりも、その「すべてを喪失した」時に、ひとり目覚めて神に祈り続ける。そこに人だけが陥る惨めさがあり、人だけが持っている偉大さがあると言うべきかもしれません。
 パスカルは、

「自分の惨めさを知るのは、惨めなことである。しかし、自分が惨めだと知るのは偉大なことである」

と言っています。たしかにそうなのだと思います。
 しかし、最も惨めな思いをされたのは、実は人ではないと思います。

「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか。」(マタイ二七・四六)

 この方の姿を見る。この方の声を聴く。この祈りが誰のために誰が捧げたのかを知る。この祈りを誰が顧み、侮られなかったのかを知る。ひとり祈りの中に知る。ここにある悲惨と偉大な姿を見る。「目覚めている」とは、そういうことなのではないかと思います。
 そして、この方の祈りが主なる神に顧みられ、この方が復活させられたが故に、

「主はその聖所、高い天から見渡し
大空から地上に目を注ぎ
捕われ人の呻きに耳を傾け
死に定められていた人々を
解き放ってくださいました」

           (同二〇節〜二一節)

という救いがもたらされた。そのことを知ることが、「目覚めている」ということなのではないか。そして、その時、私たちは
 「主を賛美するために創造された」ことを知り、賛美せざるを得なくなるのだと思います。

「偉大なるかな、主よ。まことにほむべきかな。汝の力は大きく、その知恵ははかりしれない。しかも人間は、小さいながらもあなたの被造物の一つの分として、あなたを讃えようとします。それはおのが死の性を身に負い、おのが罪のしるしとあなたが『高ぶる者をしりぞけたもう』このしるしを、身に負うてさまよう人間です。(中略)あなたは私たちを、ご自身に向けてお造りになりました。ですから私たちの心は、あなたのうちに憩うまで、安らぎを得ることが出来ないのです。」(アウグスティヌス『告白』)

 まことにその通りだと思います。

【及川信牧師休養中のため、会報五九六号─二〇一三年五月二十六日発行─所載のものを再録しました】
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