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3 酸性土壌

 [1] 酸・塩基


 酸、塩基の定義は一般的には、「酸」とは「水素イオンH」を出す物質、「塩基」とは「水素イオンH」を受け取る物質、のことです。

代表的な「酸」
「強酸」 塩酸(
HCL)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4
「弱酸」 酢酸(
CH3COOH炭酸(H2CO3
 
化合物中に H  があるのが分かります。

代表的な「塩基」
「強塩基」 水酸化ナトリウム(
NaOH)、水酸化カルシウムCa(OH)2 、水酸化カリウム(KOH)
「弱塩基」 アンモニアNH3
アンモニアを除いて、金属イオンと水酸基(
OH)の化合物です。アンモニアは(OH)を持っていませんが、NH3HNH4により、自身で(水素イオンH)を受け取れるので。塩基ということになります。

① 酸、塩基の強弱、例えば、強酸(HCL)、弱塩基(NH3)は、その化合物の水溶液中での電離度によって決まります。 強酸(塩酸)は、HCLHCL の反応が100%おこり、塩酸分子が100個あれば、反応によってHも100個生じます。
 
一方、アンモニアは NH3H20 →NH4OHの反応が一部しか起こらず、ほとんどの分子がNHのままになっています。

② とは酸・塩基反応によって生じる物質です。

HCL
NaOH NaCL + H2O   反応式の段階を増やして表記すると、
HCL
NaOH  HCL+ NaOH  (H+ OH)+(NaCL-)
 水(
H20)+NaCL

 
つまり、酸塩基反応によって、水以外にできる物質が「塩」ということになります。

 
また、塩の液性は、強酸と強塩基の組み合わせは中性(NaCL・CaSO4)、強酸と弱塩基の組み合わせは酸性(NH4CL ・(NH4)2SO4)、弱酸と強塩基の組み合わせは塩基性(Na2CO3を示します




[2] PH

1  PHとは

 PHとは、溶液中の水素イオン濃度をいいます。水は分子式H2Oで表されますが、100% H2O分子のままで存在していることはなくて、必ず水素イオン(H)と水酸イオン(OH)がかい離しています。
 
H2O ⇔ HOH
 どのくらいうかい離しているかというと、両者の数が同量時(中性)で、107という数字です。水分子が10,000,000あるなかに1イオン存在するという数字で、東京都民に一人の割合です。
 ここで両者のイオン濃度を掛け算すると、107×107 = 1014 になります。この数値を水のイオン積といい、水素イオン濃度に関わらず一定の数値(1014)を示します。
 水素イオン濃度(H)×水酸イオン濃度(OH)=1014 
 水素イオン濃度が104なら水酸イオンは1010、水素イオン濃度が109なら水酸イオンは105で、両者のイオン濃度の積は常に1014です。 両者は反比例しています。

 PH(power of hydrogen)は、水素イオン濃度表記の(10-x)から、(10)をとって、ただ単に「PHX」と簡潔に表記する方法です。 水素イオン濃度105PH5、水素イオン濃度10-6PH6と表記します。
 PHの数値が一つ違うと水素イオン濃度は10倍違っています。また、PH7は中性、7以下を酸性、7以上をアルカリ性と呼んでいます。


2  二つのPH

土壌中の水素イオンは二通りの存在形態があります。 
A)土壌溶液中に溶けているものと、(B)土壌コロイド粒子(粘土腐植複合体)に吸着しているものです。 水を加えて測定するPH(H2O)は(A)の濃度を表していて、塩化カリウム溶液を加えて測定したPH(KCL)は(A)と(B)との合計濃度を表しています。

 
PH(H2O)は、土壌酸性の強弱(活酸性)を示し、PH(KCL)は土壌の持つ潜在的な酸性(潜酸性)を示しています。生物の生長に影響するのは、直接、根と接触する土壌溶液中の水素イオン濃度なので、PHといえばPH(H2O)のことを指していて、農作業管理上はこの数値さえ分かれば良いということになります。
 それでは、
PH(KCL)は何に使うのか。(※ 以下は著者の考えです)

 
PH(H2O)PH(KCL)の差は一般的に1であるといわれます。PHは1違うと、両者の濃度の差は10倍です。これは、土壌溶液中よりも、土壌コロイド(粘土腐植複合体)に吸着している水素イオンの数が圧倒的に多いからです。土壌コロイドは負に帯電していて、ここに吸着しているのは、水素イオンの他に、植物の肥料成分となる交換性塩基(Ca Mg K)などです。
 
ここで次のようなモデルケースを設定します。土壌コロイドのCEC40(土壌コロイドに40のマイナスの手がある)、塩基飽和度は5050%交換性塩基がるという意味)、プラスイオンは全て水素イオンとします。
 
①土壌溶液中に水素イオンが2個あるとすると、両PHの差はおおよそ1になります。
 
2個:2220+2)個=111 → PHの差はおおよそ1です。
 
②塩基飽和度が100%であると、土壌コロイドから溶出してくる水素イオン数は0であり、2個: 20+2)=11 → PHの差は0です。
 
③塩基飽和度が0%の時には、土壌コロイドから溶出してくるのは全て水素イオンで、2個: 42402)=121 → PHの差は1以上になります。

 
CEC値が分かっていることが前提で、PH(KCL)の値は、PH(H2O)の数値と比較することで、土壌コロイドに吸着している養分量(交換性塩基)を推定する手段となります。




[3] 酸性土壌の改善



1  酸性土壌の原因

多くの野菜はPH5.56.5の値でよく成長するので、酸性土壌は実用的にPH5.5以下の土壌を指しています。(但し、各作物には作物ごとの適正PHがあります)

 土壌中の水素イオンが増えればPHは下がっていくので、土壌が酸性化する原因は、土壌に水素イオンが蓄積する仕組みの中にあります。

酸性土壌の原因

(素因) 水素イオンを蓄えるシステムの存在

 ・土壌コロイド(粘土腐植複合体)はマイナスに帯電していて、水素イオンを蓄える器の役割を持っています 器は土壌溶液中への水素イオンの供給源となり、これがなければ水素イオンは土壌中に蓄積できません。器の大きさは、CEC(塩基置換容量)で表されます。

 ・器に水素イオンを収容する余裕があること。 器がすべて塩基で満たされていれば、器からの水素イオンの供給がないわけで、土壌のPHは中性に近づきます

(主因水素イオンを土壌中に増やす要因があること

雨そのものが酸性になっている。
 (二酸化炭素が水に溶けて弱酸性の炭酸(H2CO3)を生じる)
   H2OCO2    H2CO3      H + HCO3

  ・交換性ALに由来する土壌の酸性化
  土壌溶液中の交換性アルミニウムが水を解離させ(H2OHOH)、水素イオンを発生させる。
  AL33HO  ALOH3H

化学肥料による酸性化 (その1)
  例 塩化アンモニア(塩アン) NH4CL
     NH4+は土壌に吸着される。 土壌]NH4
   ② 土壌に吸着されたアンモニアは硝酸化成菌によって硝酸に変換される
      土壌]NH4+2O2 = 土壌]HH2O HNO3

          矢印  

化学肥料による酸性化 (その2)

安(NH42SO4や塩化カリKCIを施肥するとアンモニアやカリは植物に吸収されますが、負に帯電した硫酸イオン(SO42)や塩素イオン(CL)が土壌中に残ってしまうので、電気的中性を保つために土壌中から水素イオンHが放出されます。
(このような酸性化をもたらす肥料を生理的酸性肥料といいます)

 

2  土壌のPHの緩衝能

土壌にはPHの緩衝能があります。水素イオンを吸収するシステムが働いて、水素イオンの急激な上昇を抑えてくれます。

① 陽イオン交換によるPH緩衝能
 論理矛盾のようですが、酸性土壌の原因となった土壌コロイド(粘土腐植複合体)は、また、PH緩衝能を持っています。土壌コロイドを水素イオンの供給源(酸性源)とみるか、収容先(緩衝能)とみるかの違いです。
 水素イオンは、土壌コロイドの塩基とのイオン交換により、土壌コロイドに吸着(収容)されます。この数だけ土壌溶液中の水素イオンは減少して、PHの上昇が緩やかになります。

② 交換性ALによるPH緩衝能
 土壌を酸性化させる原因の中で、交換制ALに由来するものは、土壌の酸性化が進むと、水素イオンを吸収する反応が強くなります。
AL3+ 3HO  ⇒  ALOH33H   酸性化が進むと
AL3+ 3HO  ⇐  ALOH33H矢印

③ 粘土鉱物の変異荷電によるPH緩衝能
 粘土鉱物は、増加した土壌溶液中のHを吸収して、Hの急激な低下を防ぎます。

PH緩衝能

3   酸性土壌の問題点

    酸性障害はアルミニウム障害とも言われています。
  土の酸性化で粘土鉱物から露出してきたAL3による障害です。このAL3により、植物の根が加
  害され、養水分が吸収できなくなります。また、
AL3はリン酸と結合してリン酸欠乏をもたらし
  ます。
② 交換性塩基(Ca Mg)は、酸性土壌の原因である水素イオンと交換溶脱し、雨水とともに流亡す
  るので、カルシウムやマグネシウムの欠乏症が生じます。

    微量要素のホウ素やモリブデンは、土壌の酸性化によって植物が利用できにくくなり、欠乏症が
   生じます。

     土壌が酸性側に傾くと、微生物群のうち、病害をもたらす糸状菌の活動が活発になります。逆に
  アルカリ性に近づくと、細菌や放線菌の活動が盛んになり、拮抗作用により糸状菌の活動を抑え
  有機物の分解を促進します。
⑤ 酸性土壌が土の団粒化を破壊する、といわれています。

 

4   酸性土壌の改善

*以下に述べる内容は、私の現時点での理解に基づいて作成したものなので、参考程度にして下さい。

 酸性土壌改善の仕組みを理解するためには、酸とアルカリ(塩基)間の中和反応と、その反応が起こる場所と役割を考えてみることが必要です。
 土壌溶液中で中和反応が起こり、土壌コロイドでイオン交換が行われますが、土壌コロイドはこれらの反応を仲介する役割があります。水素イオンもアルカリ(塩基)も土壌溶液中と土壌コロイドを行き来して、結果として酸性土壌は改善します。
 土壌コロイドの役割と水素イオンの挙動を、酸性土壌の原因に戻って確認し、そのうえで酸性土壌の改善について考えます。

① 雨による酸性化の仕組み


雨による酸性化

 雨水は二酸化炭素と反応して炭酸水となり、土壌中で水素イオンと重炭酸イオンに電離します。
水素イオンはイオン交換によりカルシウムイオンと置き換わり、溶脱したカルシウムイオンは重炭酸イオンと結合して流亡します。

 イオン交換が起きる条件は、各イオンとコロイド間の結合力の差、イオン濃度、コロイドの種類、平衡など複雑な要因が関係しています。

 

② 養分吸収による酸性化のしくみ


養分吸収と酸性化

 根は養分を吸収する際、水素イオンをいつ放出するのでしょうか? 養分を吸収する前か後か
 で、両論(①②)あります。


 ① 水素イオン放出→養分吸収(根)は、「植物が水素イオンを放出し、交換溶脱したカルシウム
   イオンを吸収する」という流れで、雨による酸性化と同様、イオン交換(水素とカルシウム)
   を前提としています。

 ② 一方、養分吸収の後に水素イオンを放出とするのは、
   1 根がカルシウムイオンを吸収する。
   2 平衡関係(土壌と溶液)にあった土壌コロイドのカルシウムイオンが、土壌溶液中に溶けだ
   してくる。

   3 根が水素イオンを放出するのは、植物体内に水素イオンがたまったためであり(植物体内のPH
    は低い)、イオン交換を意図したものではない。水素イオンの放出により根は負に帯電して
    カルシウムイオン(プラスに帯電)の吸収を助ける。根は
CO2も放出する。CO2は水と反応
    して炭酸となり、電離して水素イオンとなる。

  4 カルシウムイオンが抜けた箇所に水素イオンが入ってくる。

①②とも経過は違っていますが、結果(イオン交換)は同じです。


③ アルカリ肥料による酸性土壌改善のしくみ




炭カルによる酸性土壌改善

炭酸カルシウム(炭カル)の酸性土壌改善の仕組図です。
土壌中で炭カルは中和反応により、土壌溶液中の水素イオンを消費していることがわかります。
 それでは、土壌コロイドの水素イオンとカルシウムとが交換する仕組みはどうなっているのでしょうか? やはり、考え方は二通りあります。

(先にイオン交換が行われる)
① イオン交換(カルシウムイオンと水素イオン)が行わる。
② 土壌溶液中に溶出した水素イオンは、重炭酸イオンとの中和反応により炭酸となり、水と二酸化
  炭素に分解される。

 この流れは、イオン交換を前提とするものですが、(雨による酸性化)時に起こった、水素イオン→カルシウムイオンと主客逆転しています。今回はカルシウムイオン→水素イオンです。
 各イオンとコロイド間の吸着力は各イオンで差があり、水素イオンの吸着力がカルシウムイオンより大きいと仮定するなら、今回の現象は起こりません。
 イオン交換が行われる前提は、溶液中の濃度の上昇(カルシウムイオン)によるものと思われます。

(先に中和反応が行われる)
①土壌溶液中の水素イオンが中和反応によって消費される。
②土壌溶液中の水素イオンの減少を補うため、土壌コロイドの水素イオンが溶脱する。
        (平衡関係)
③土壌コロイドに空きができ、カルシウムイオンが入ってくる。
  ①~③の反応によって、水素イオンとカルシウムイオンが交換される。

 結論は同じですが、どちらが正しいのでしょうか? 個人的には非常に関心があり、正解を知りたいところですが、今の私の理解力では判断できません。 「水素イオンが土壌コロイドでカルシウムイオンと置き換わり、酸性土壌が改善する」と理解して終わりにします。



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