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5 肥料

[] 肥料とは

1 肥料の定義

肥料は、
①植物の生長に必要な成分 
②土の状態を改善するもの
に大別されます。 
 ②は酸性土壌を改善する石灰肥料などですが、一般的なイメージは①であると思います。


肥料は植物の要求量に応じて、多量必須元素と微量必須元素に分けられます。

(多量必須元素)
 窒素(N)リン(P)カリウム(K)、イオウ(S)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg) 

(微量必須元素)
 鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ホウ素(B)、塩素(Cl

  このうち、窒素、リン、カリウム(下線部)は大量に必要であり、不足することが多い成分なので、「肥料の三要素」と呼ばれています。


2 肥料の特徴


     植物の生長に必須である。
  大量肥料、微量肥料は植物の生長に必須です。一つでもかければ生長が著しく阻害されます。
 他の肥料がカバーするということはありません。
例えていえば、野球のメンバーが足りない状況で
 す。これでは試合は成り立ちません。サッカーは一人二人退場しても、他のメンバーがポジション
 をカバーすることにより試合は続行されます(勝つこともあります)。


 肥料の拮抗作用、相互作用
 各肥料には片方が多く吸収されると、一方のききが悪くなる拮抗作用や、お互い助け合って効果がよくなる相互作用があります。
(代表的な例)
拮抗作用 カリとマグネシウム
相互作用 リン酸とマグネシウム

 肥料のぜいたく吸収
 肥料の中には、植物がその肥料を必要以上に吸収してしますことがあり、これを「ぜいたく吸収」と呼んでいます。窒素、リン酸、カリなどはぜいたく吸収されます。

 土壌PHと肥料の利用率
 有名なTroug表(土壌のPHと肥料要素の溶解と利用度)を見ていただくと分かりやすいです。
要約すると、
PH6.5あたりが、大量肥料、微量肥料ともに利用率が高い
PHが低くなる(酸性土壌)ほど、全般的な利用率が低くなる。

⑤ 転流
 転流とは、根から吸収された栄養分や光合成産物が、他の離れた器官の細胞へ送られることをいいます。
 肥料成分には、転流性の強弱があるので、障害発生部位から、成分名を推測する手がかりとなります。
 例えば、窒素、リン酸は転流しやすい成分で、不足すると古葉部(古い葉っぱ)から新葉部へ移動(転流)するので、古葉部が枯れてきます。逆に、ホウ素やカルシウムは転流しにくい成分で、不足すると新葉部(新しい葉っぱ)の生長阻害が起こります。

 欠乏症 過剰症
 肥料(成分)がぜいたく吸収されると、過剰症が発生します。人の太りすぎと同じです。
一方、欠乏症の原因は複数あります。
第一は、単純に肥料(成分)の不足です。
第二に、拮抗作用によるもので、カリ過剰投与は、マグネシウムの欠乏症を引き起こします。
第三に、酸性土壌はある種の肥料成分の吸収率・利用率の低下をもたらします。

   (水分不足などの生理障害もあります)
 今、生産現場(畑)で問題となっているのは、肥料成分が土壌中に過剰に蓄積されていることです。そこに、土壌診断に基づかない過剰な肥料の投与を行うと、欠乏症(拮抗作用)と過剰症が混在する複雑な状況が発生します。




[2] 肥料の役割

肥料の役割は「植物の生長・生体維持に必要である」と一行で語ることができます。
 ところが、肥料を単体でとらえ役割を考えると、たちどころに難しくなり、無理が生じます。 
それは、

① 植物の構成成分の多様さと、② その働きを説明することの難しさ、にあります

① 例えば、アミノ酸(窒素が含まれる)がベースになるタンパク質は、植物体内にどれくらいあるのでしょうか。タンパク質の一種である「酵素」だけでも相当な数です。さらには、一つの物質が複数の機能を有することもあります。植物ホルモンの一種である、オーキシン(C10H9NO2)は、花芽誘導促進、維管束分化促進、側芽促進阻害、屈光性など多くの働きが知られています。植物を構成する成分の数と機能があまりにも多くて、肥料成分個々の網羅的な説明は現実的でありません。

② 核酸、光合成、イオンチャネル、植物ホルモン、酵素などは、多くのノーベル賞受賞者を輩出している分野です。 内容は相当難しいです。

こういう条件が付いているので、肥料個別成分の役割を記述するためには、選ぶこと(重点項目のみ選択)と、まとめること(要約すること)が必要になってきます。

1 窒素

 アミノ酸の分子中にある、アミノ基(NH2)の中心元素です。 アミノ酸(その他)は複数結合して各種タンパク質が生成されます。
 タンパク質は植物の生命現象(生長・維持)に本質的な役割を果たしています。

2 リン酸

 リン酸はATP、核酸、細胞膜の主要な構成元素です。
ATPはエネルギーを蓄えており、そのエネルギーを使って物質(デンプンやアミノ酸)を生成し、生命維持活動(運動)を行います。植物体内での物質輸送にはATPで蓄えたエネルギーが使われています。また、核酸は、植物の細胞に存在して、遺伝現象やタンパク質の合成に関与しています。

3 交換性塩基(K Ca Mg)

①構成体の成分になり、②酵素を活性化させ、③単独でイオンとしての働きもあります。

まず①の構成体への関与ですが、カルシウムは細胞壁にあるペクチンの成分となっています。 細胞壁はセルロースとヘミセルロースが骨格部分で、その間隙をうめている(コンクリートの役割)のがペクチンです。カルシウムはペクチン分子を架橋(糊でくっつけるイメージ)し、巨大分子化させ、セルロースとヘミセルロースの間隙を充填します。細胞壁は植物の体を支え、病害虫などから植物を守る重要な役割を持っています。
 マグネシウムは葉緑素の構成元素です。葉緑素は太陽エネルギーを利用して光合成をおこなう不可欠な器官です。

②の酵素の活性化とは、酵素の働きを助ける補酵素の役割のことです。


銅の触媒作用


図1は、一般社団法人「日本触媒学会」のHPにあった、酸化銅と水素によるH2O 生成の動画を4コマのイラストにしたものです。 
 銅(Cu)の存在で、Cu + 1/2 O2 CuO   CuO + H2 H2O + Cu
の反応式は速く進行し、Cuは反応の前後で変化していません。
 この化学反応において、Cuは触媒の働きをしています。

 酵素とは、生体における化学反応を促進する触媒として作用する物質のことです。
カルシウム、マグネシウム、カリウムは酵素と連動して働き、植物体内で必要とされる物質の合成に関与しています。
 これら交換性塩基の肥料としての働きを調べてみて、「○×の代謝に役立つ」とか「合成に関与」するなどの言葉がでてくれば、酵素を活性化させる役割を述べています。

 ③ 三者に共通するのは、イオンチャネルと一対をなすイオンとしての働きです。

 イオンチャネルは、イオンを細胞内から出入りさせる役割を持つ タンパク質で、イオン(正に帯電している)が細胞内に入ると、周辺との電位差が生じてさまざまな活動の原動力になります。 よく解説書に出てくるのは、気孔を開閉させるカリウムイオンの働きです。


                         イオンチャネル

 植物とイオンチャネルを掛け合わせて検索してみると、植物体内での物質の輸送と、シグナル伝達に関する記述が多く見当たります。
 シグナル伝達とは、植物が周囲の環境の変化に適応するために行う細胞間の情報伝達です。


3 微量要素

ア 鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン

 酵素が触媒反応を行う際に、特定の物質の補助を必要とする場合があり、その特定の物質を補助因子と呼んでいます。
 ある種の金属イオンは酵素の補助因子として働き、金属イオン補因子と呼ばれます。
赤丸が金属イオン補因子で、酵素と一体となって基質(反応がおきる対象物)に化学変化を生じさせます。



金属イオン補因子


  鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(M0)、は植物体内で金属イオン補因子となります。したがって、これら金属元素(微量必須元素)の働きは、酵素を補助し植物体内での化学反応を促進させることにあります。
 これら金属元素の肥料としての働きを調べてみて、「○×の代謝に役立つ」とか「合成に関与」するなどの言葉がでてくれば、それは酵素(補因子)の役割を述べています。

イ ホウ素

微量肥料であって、金属元素ではありません。
 ホウ素の機能が解明されたのは最近(1996)のことで、ホウ素は「細胞壁にあるペクチンを架橋して構造化させ、細胞壁の安定に寄与する」とされています。
 ペクチンを架橋して結合させるというところが、カルシウムの機能と同じで、両者とも細胞壁構造の構築に必要な元素です。そのため、それぞれの欠乏症状も一致しています。
(発生部位)新緑部  (症状)頂葉部は壊死またはそれに近い


※補足 カリ、カルシウム、マグネシウムは、土づくり肥料(酸性土壌を改善する目的)の役割もあります。

 




[3]  各肥料成分の土壌診断項目


1 窒素

有機体窒素 無機体窒素 可給体窒素(地力窒素) EC


窒素の土壌診断項目


(有機体窒素)
 有機体とは炭素骨格をもつ化合物で、有機体窒素とは有機体(動植物の遺骸)に含まれる窒素成分のことです。微生物により分解されて、一部アンモニアとして土壌中へ放出されます。

(無機態窒素)
 無機とは化合物中に炭素成分(C)がないという意味です。有機体窒素から微生物の分解によって土壌中に放出されたアンモニア態窒素は、亜硝酸菌によって亜硝酸態窒素に、硝酸菌によって硝酸態窒素となります。アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を無機態窒素と呼びます。

 植物は窒素成分を硝酸態窒素の形で吸収し、根から吸収された硝酸態窒素は、植物体内で窒素同化(硝酸態窒素→亜硝酸態窒素→アンモニア態窒素→アミノ酸→タンパク質)により、有機態窒素となります。

(可給態窒素・地力窒素)
 可給態窒素とは、作物の栽培期間中に微生物の分解作用により生成される無機態窒素のことです。肥料により供給される窒素ではなく、地力(土壌)から供給されるので、地力窒素ともいいます。

(EC)
 電気伝導度
(EC)は、土壌中に存在している肥料分の含有傾向を数値で示したものです。
 この数値は、土壌溶液中にある物質(イオン)の総量によって変化します。イオンの量が多いと電気の伝わりが抵抗されるため数字が高くなります。
 土壌溶液中のイオン濃度は、窒素成分(NH4+NO3-)数と相関関係にあることから、このEC値によって、土壌中に窒素成分(特に硝酸態窒素)がどのくらい含まれているかを推定することができます



2リン酸

(有効態リン酸)
 有効態(可給態)リン酸とは、土壌中に存在する「リン酸」のうち、作物に吸収されやすい形態の「リン酸」のことです。
 炭素骨格を持つ有機態リン酸は、土壌微生物による分解や、根から放出される酵素(酸性ホスファターゼ)により、植物に吸収可能なリン酸になります。
 また、リン酸は金属イオンと結合しやすく、Ca<Fe<Alと難溶態型リン酸になります。 根は有機酸を放出し、金属イオンと結合したリン酸を溶解し、有効態リン酸とします。

リン酸の土壌診断項目


(リン酸吸収係数)
 リン酸肥料は土中で大半がカルシウム、鉄、アルミニムと結びつき、作物に利用されにくい形(難溶態リン酸)になります。これをリン酸の固定といい、その強さを表すのがリン酸吸収係数です。この数値が1500を超すと、リン酸は施肥されても大半が土壌中に固定されてしまいます。火山灰土(黒ボク土など)のリン酸吸収係数は2000を超えることもあります。

 土壌診断で用いられるリン酸関連用語はこの二種類しかありません。「地力窒素」に対応する「地力リン酸」なる用語はないようです。


3 交換性塩基

(陽イオン交換容量)
 土壌が保持できる陽イオンの量のことで、通常乾土100g当りのミリグラム当量(me/100g)で表されます。 略称CEC(cation exchange capacity)

土壌中の粘土や腐植は、マイナスに帯電していて、プラスに帯電する陽イオンカルシウムマグネシウムカリウムナトリウムアンモニウム水素など)を吸着して保持することが出来るので、陽イオン交換容量とは土壌がこれら陽イオンを保持できる総量のことを示します。簡単に言えば、陽イオンを引き付ける「手」が何個あるかということです。
 例えば、
乾土100gにカルシウム10個、マグネシウム5個、カリウム5個、水素イオン15個が有ったとします。カルシウムはCa2で1イオンあたり2個のプラスの手を持っているので、カルシウムイオン10個の持つ「手」の数は20個(10×2)です。同様にマグネシウムは10個(5×2)、カルシウムは5個(5×1)、水素イオンは15個(15×1)となり、総数は50個(2010515)です。
 このプラスに帯電した50の手が、土壌の持つ50のマイナスの手と結びついて、電気的な中性を保ったとします、この場合、土壌の保持できる陽イオンの手の数は50個で、CEC値(50)と表記されます。
 一般的に、この容量が大きいほど養分の保持力が大きく肥沃な土といわれます。

 

(塩基飽和度)
 塩基飽和度とは、陽イオン交換容量のうち交換性塩基(K Ca Mg)が占めている割合のことで、表記は%です。上記の例でいうと、陽イオン交換容量は50、交換性塩基の荷電数(手の数)は3520105)で、塩基飽和度は35/5070%です。
 塩基飽和度とPHは相関関係があり、塩基飽和度が高いほどPHは高くなります。塩基飽和度が低すぎると養分不足であり100%をこえると、濃度障害を起こします。一般的に塩基飽和度80%でPH6.5100%でPH7とされます。

※ミリグラム当量とは何か その1
 量的な表記(グラム)なのに、土壌コロイドが持っている荷電数(個数)を指していて、最初、このミリグラム当量(me)の意味に戸惑うかもしれません。でも、ここはしっかりと理解すべきポイントです。漠然としたままでは、次の塩基バランスに入れません。
 meを読むときに、ミリグラム当量に分けていると思いますが、これをミリグラム当たりの、と変えてみます。そして量を個数と読み替えると、ミリグラム当量の意味は、ミリグラム当たりの荷電数(手の数)ということになります。

  

(塩基バランス(Ca/Mg Mg/K))
 交換性塩基(Ca Mg K)の間には拮抗関係があるので、塩基飽和度とともに、塩基間のバランスも重要です。作物ごとの適正比率がありますが、一般的には、石灰:苦土:カリが当量比521がよいとされています。
 質量比でなく当量比です。交換性塩基の土壌診断値は質量で表記されるので、数値を個数に変換してから、塩基バランスを算出します。


※ミリグラム当量とは何か その2
 ミリグラム当量から個数を求めるためには、1個あたりの質量値が必要です。円当量(創作)で考えます。
(問題1)バナナは150円です。それでは500円当量は何個か?
      500円持っていれば、150円のバナナは10本買えます。500円当量は10になります
(問題2 リンゴは1100円です。それでは500円当量は何個か?
      500円持っていれば、1100円のリンゴは5個買えます。500円当量は5になります。
  この例で分かるとおり、円当量の計算には、必ず各果物の1本あたりの価格が必要になります。
 同様に、ミリグラム当量を求めるためには、必ず塩基ごとの質量値が必要となります。

 

※ミリグラム当量とは何か その3

交換性塩基の1meあたりの質量値は酸化物で考えます。
カルシウムはCaO 、マグネシウムはMgO 、カリはK2Oです。
 ① Caの原子量は40O16なので、CaOの原子量は401656
 Caは二価(Ca2+ )なので、Caの一価の質量値は56÷228になります。
 ② Mgの原子量は24O16なので、MgOの原子量は241640
 Mgは二価(Mg2+ )なので、Mgの一の質量値は40÷220になります。
 ③ Kの原子量は39O16なので、K2Oの原子量は(39×2)1694
 Kは一価(K+ )であるが二分子あるので、Kの一価の質量値は94÷247になります。

 

 塩基バランスの具体的な計算方法は省略します。(ネットで調べればたくさん出てきます)
要は、各塩基の測定値(土壌診断で得られた質量)を、ミリグラム当量に変換してから比率を算出するということです。質量値の比率ではありません。
 交換性塩基の施肥量を塩基飽和度から算出する場合には、ミリグラム当量を理解しないと計算できません。塩基バランスが算出できないからです。
 ミリグラム当量を理解すれば、施肥計算の難しさは殆どありません。小学校の算数です。


交換性塩基の質量値はなぜ酸化物で考えるのか

交換性塩基の他にもP(リン)も酸化物の形態で表記され、呼び名も違ってきます
P(リン)→P2O5(リン酸)  K(カリウム)K2O(加里) Mg(マグネシウム)MgO(苦土)
Ca(カルシウム)Ca0(石灰)
 本題のなぜ酸化物で表記するかですが、YAHOO知恵袋の質問コーナーに質問と回答が掲載されていました。(一応参考までに)
 それによると、昔の肥料成分分析法では、サンプルを燃やして酸化物になった状態で重さを測っていたからで、窒素は燃やすと気体になるのでこの方法はとれなかったということです。
 質問に対してきわめて的確な回答であったということと、質量分析方法として燃焼法が一般的であることから、おそらくこの回答で正しいものと思われます。


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