鷹術四季書 冬之巻

 

作成2015年10月1日

このページの最終更新日は2017年09月10日です。

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主題:「御鷹匠同心 森覚之丞と鷹術四季書法儀」

副題:鷹術四季書法儀


 このページでは御鷹匠同心「森覚之丞」(もりかくのじょう)殿の書かれた鷹術四季書法儀(五)冬の巻上「若大鷹馴ヶ之事」を現代語訳でご紹介します。何故この章を取り上げたかというと、現在輸入されてくる網懸けの若の仕込みに最適だからです。特にこのページは初心者向けに書いております。自己流で行うのは時間の無駄ですから、基本は勉強してからにしてください。それと鷹にも良く有りません。但し、基本さえ覚えていればこの章を参考にすれば仕込む事が出来ます。


鷹術四季書法儀 五

※此の色は本文の現代語訳。

※此の色は本文の注記及び管理人の落書き。

※此の色は管理人による注記。

さて、此れより吉田流による三十日間の鷹の仕込みに入ります。

鷹術四季書法儀冬の巻上「若大鷹馴ヶ之事」

一、若鷹は11月下旬(旧暦)迄に献上された鷹が皆揃い馴ヶに懸かる。肉が十分で有れば初晩は丸鳩を持ち、茶碗に水を用意して嵐戸より入り、直ぐに閉め鼠鳴きしながら拳に据取り、鼠鳴きしながら丸鳩を鷹の脚元に出し、脚の上をそろそろと撫で回してみせる。その時に拳にしがみ付けば脚の上に鳩を置き、時々少しづつ動かして、羽を引き出したら胸の方の羽を十分に引かせ、胸肉に嘴が掛かり出したら丸鳩を引いて、据前は口で胸の皮を剥ぎまた脚元に出して食わせ、また鳩を引いて様子を見ながら片胸を飼って足元に茶碗に入った水を出し、水をすくわせこの夜はそのまま置いておく。

※ここから注記が始まるが、夜据日記にこの部分を原文で書いているので割愛する。また、肉の見方に付いては購入先に聞かれるのが良いと思います。

 現在では日本に運ばれて来る途中に可也人間には馴れているが、長期間一箇所で飼われる事は少なくストレスを受け十分な栄養を取れていない個体も多い。日本に到着後ペットショップに長くいたものは別としてストレス下に長く置かれている個体であれば、あえて詰めを行う必要は無い。それより人間に馴れている所をうまく利用して仕込みを行った方が鷹のストレスの軽減や無理な詰めによる体力低下を防ぐ事が出来る。「日本の鷹狩り」を書いた時には未だこの書は読んでいなかったが、同じ扱い方だったので驚いているが、要するに鷹に合わせて仕込まなくてはいけないという事である。もし、肉色が極端に低ければ架に繋いだまま餌飼を行い、肉色を上げてから仕込みに入った方が良い。どちらにしても詰めは必要有りません。詰めが必要な鷹は自分から食べないので無理せず、鷹に合わせると良いです。


同二日目夜、前夜の通り、拳へ据取り丸鳩を折々喰わせながら拳を架に乗せ水を飼い五つ過ぎ頃まで据え片胸を飼って繋ぐ。

 現在ではこの様なことは無いと思いますが、注記に一日目より餌付かない時は餌板に作り餌を載せて足元に出せば餌付く事も有り、肉の肥え様によっては未だ食いつかないことも有るのでその時は何時までもいじらない方が良いこと。

同三日目夜、鳩の片胸を引き裂き羽ずるにし、もう片胸を作り餌にして餌合子に入れ、羽ずるを持ち前夜の通り拳へ据取り羽ずるを折々喰わせ、様子を見て常に餌を探す素振りを見せる様ならば大緒を解いて床机に腰掛けて餌合子から少しづつ餌を飼いその度に餌合子を少しづつ鳴らし、小声でホホと呼び声も懸けて慣らす。また、水を飼って体振るいもさせる様にして五ツ半頃まで羽ずる餌合子合わせて片胸を飼い繋ぐ。その後、明け七ツ時より昨夜と同じ様に扱い、片胸を作り餌にして明け前迄に飼って繋ぐ。

 こでは注記は有りませんが、三日目の夜に大緒を解くまでが架据えと呼び、その後拳に取ってからは部屋(小屋)据えに変わります。架据えとは拳に鷹を取り、拳を架にゆだね据えることです。くれぐれも脚革を強く握らず、鷹が脚革引けしても邪魔しない様に優しく据えて下さい。拳が架の一部になった心積もりで。

同四日目夜、今夜の餌飼いは昨夜の通りにて闇夜になったら戸を半分開けて据えてみる。様子が良ければ戸を全部開けて鷹の形を見て水を飼いて体振いさせる様にして、餌合子と口餌にて片胸分を飼いながら四ツ時位まで据えて繋ぎ置く。同じく明け七ツ時より据え餌飼いは片胸を開け前迄に飼い、戸を開けて据え、開け前に繋ぎ置く。

 但し、肉が高く手強い鷹は未だ餌付かない事もある。この様な時は餌板に作り餌を並べ、行灯の灯りで良く見せ、喰い付けば少し飼ってから行灯を引き又餌板を足元に出して餌喰い出したら、拳に取り直ぐに餌飼いを行いその後丸鳩か羽ずるに変えて飼うのが良い。もし又燈でも喰い付かぬ時はこの後も親切に色々なケースを書いていますが長いので省略します。今では行灯ではなくて懐中電灯で肉(ニク)だけ見える様にすると効果的です。LEDの小型の暗いのが良いです。

 同五日目夜、闇夜に丸鳩を口餌にして静かなる所へ据え出してこの時は当然ですが軒据えに移ります。昨夜嵐戸を全開にしていますので、この日も昨日と同じく少しづつ開けて全開になったら鷹部屋の出入りを繰り返して様子が良ければ軒下で据えます。但し、闇夜と言っても現在の日本では闇夜を確保するのは難しいかもしれませんが、据え前の顔に外の光が当たって鷹に見られない様に気を付けて下さい。この辺の扱いは長くなるのでまた別の機会に書きます。軒据えで鷹が据え前を見つめる事がなければ今度は軒離れに移ります。ここも詳細は別の機会に五ツ半頃迄据え、口餌で片胸を飼いまた、明け七ツ時より丸鳩を口餌にして据出し、明け前迄に片胸を飼って繋ぐ。もっとも明け方に丸鳩両胸を口餌にして飼うのが良い。

 さてまたここで注記が始まります。

 但し、肉持ちが良く手強い鷹ならば、餌を両胸と定めず宵明けの口餌ばかりにして片胸位の餌の量で良い。また、夜据中に肉が上がらぬ様子の鷹は早速この頃より宵明けに飼い残した羽づる、脚、丸迄も明けて飼い終わる時に作り餌にして餌合子似て飼うのがのが良い。

 また、早く仕入れて仕込み迄飼い置きにして肉が十分になってしまった場合は、最初の餌付けや外据えに移る時、丸鳩を使い驚かさないように据え、その他には餌を多く飼わない様にし、鷹部屋内の据えより宵には餌合子に雀1羽作り暁に2羽作り、口餌は羽づるにて据廻し町据え迄では餌を減らして詰めて置くのが良い。また、時期に関わらず、捕獲後直ぐに仕込みに入った鷹の場合はは、鳩を餌にするのが良い。

 同六日目夜は据え方、餌飼い共前夜同様で良い。暁八ツ時に据え出し七ツ時頃繋ぎ、暫く休みまた据え出し明け前に仕舞う。もっとも餌飼いは同様。

 同七日目夜は据え方、餌飼い共前夜同様、もっとも口餌は間を開けて飼い、体振いする様に据え扱い桃灯等に出会ったら片脇に寄って口餌を掛けて様子を見、また燈に折り合えば、餌を喰い事を覚えさせ四つ頃迄据え仕舞う。

 上記は灯火仕込みの話ですが、江戸の街中には所々に提灯が上げられたりしていたようです。今では反対に明る過ぎて暗い場所を探すのが大変ですが、近くに暗闇が無い人はフードを使うか車と鷹箱を使って移動すのも良いですね。灯火仕込ですが、初めは灯りを背中に受けて顔を見せない様にして少しづつ馴らして下さい。今の照明は明る過ぎるので、遠くに見て次第に近づきなら様子を見て下さい。意外と良いのが暗いところにぽつんと有る自販機です。光が前面にしか出ませんから、明暗の差がはっきりしていて据前が照らし出されずに済みますし、鷹には口餌だけがはっきり見えてあとは暗闇の中ですから好都合です。この明暗の差を上手く使い最後には自販機に向かって立っても鷹が口餌に付く様に仕込みます。

 同八日目夜、丸鳩を口餌に町据えに移ります。町中でも静かな所を探して驚かさない様に据廻し、賑やかで無い所を探して驚かさない様に据え廻し四ツ頃繋ぎ、曙に羽づるを口餌にてその他に餌合子に作餌を用意し、明け前に灯火を遠くに見せて呼び声を懸け餌合子を鳴らし、飼い仕舞う。

 ここからまた長い注記が始まります。

 但し、町据えは此の日に限らず鷹の様子に合わせて据え出すのが良い。尤も若鷹は遠国より運ばれて来ているので灯りにも自然に慣れていて驚かない。よって片塒の仕込みとは違い静かな所で二三夜据え廻し様子に依り町据えに早く移っても良い。また町据えに移った後は雨降りの時は座敷内で遠くに灯りを見せて折々少しづつ喰わせ、灯火の影にて据えるのが良い。尤も灯火の前にて餌飼うのは町据えを二三夜した後、行灯の前にて餌飼いをするのが良い。未だ据前に懐かざる内は灯火の前へ据え出せば必ず面気が出るので、最初は遠灯りを見せて手早く餌に懸けて段々と行灯前にてゆるゆると餌飼いをおこなう。先の遠明かりとは障子の内に行灯を置き、外より障子越しの明かりか、遠くに灯りを見せて餌飼いを行うこと。

 同九日目夜、餌飼い据え方共前夜同様で良いが、鷹の様子に依り追々賑やかな場所にても据え廻し、明据え餌飼い共前日と同様で良い。

 同十日目夜、餌飼い据え共前夜同様で良し。

 但し、町据えの様子が良ければ宵据え出しの節は鳩の片胸の半分を作餌にして餌合子に入れ、残り半分を羽ずるにて口餌に使う。若し又、肉持ちが良くて日増しに馴かない時は、雀にて二、三夜飼うのが良い。肉を吹くことは闇夜より追々灯前より吹きならすことである。

 同十一日、十二日、十三日夜、餌飼、据方共前と同様に肉が疲れない様に又肥えざる様に持たせて置き、手を抜かない様に据えるのが良い。

 同十四日夜、宵据え餌飼共前と同じく、暁据出しも前と同じく尤も明け前に餌合子にて一二度喰わせてその度に活鳩を出し、拳の上で毛を引かせて胸を剥き出し喰わせ又、燈の前に投げ出して見せ、掛かれば拳を添えて獲らせ少し飼いまた人に呼ばせて喰わせる。何時もの餌飼いと同じにして仕舞う。若し又未だに鷹がほごていれなければ、絞鳩にて最初に行うのが良い。

 同十五日夜、宵、暁共に据方、餌飼は前夜同様とし、尤も明け前活鳩を策の長さ位の竹に紐を結び付け行灯前に出して鷹が掛かれば拳を添えて捉えさせ、十分に毛を引かせもぎて据前が口にて胸を?き少し喰わせ、前日の明けの通りに人に呼ばせその鳩を良い程に喰わせ仕舞う。

 但し、行灯前にて活物を捉せる時は据前の身体は灯りの影にして平らに居身体を十分にくつろげ居て大緒を架またぎ丈け延ばし置き、鳩は本文の通り拵え灯前に差し出して捉せもぐ時は竹を膝の下にして押さえて置き、鷹に据前の身体が平らにならない様にもぎ取り、鳩も竹より解きて喰わせる。尤も右の活け物は片塒屋にても同様にてその鷹の日数に沿ってほごれが悪い時に用いるのが良い。然れども又その初めの早き時は良くなく、此の夜に限らず鷹の様子を見てほごれが悪い場合には五、六度行い、よくほごれている鷹には昼出し前に三、四度も活物を捉えさせるのが良い。

 同十六日、十七日、十八日、夜の頃は据え廻しを専念して行い、餌飼いも同様肉の張り目又は疲れ方により少しづつ餌の増減の調整を行うこと。

 同十九日目夜、宵据え餌飼いは前日と同様に暁八ッ時据え出し、何時もの通り七ッ頃少し繋ぎ休ませ、また据え出して燈前にて活物を飼い、早速燈前でほごれが良い状態になったならば、燈前にて餌飼いはもはや必要無いので東の空が白み掛けるまで据えて、鷹部屋の前にて人に呼ばせて餌飼いを行い仕舞う。

 但し、引き明け据え候ことは未だ山恋据えざる内は明け放れ迄据え候事宜しからず。人顔のしかと分からず内、鷹部屋廻りに据えおりて人に度々呼ばせ飼い仕舞い。尤も是まで行灯前にてほごれ宜しくとも初めて外にて呼ばせ候時はほごれ宜しかざる。それより毎朝外にて餌飼い候へばしかと分かり申し候ざる共ほごれ宜しく相成り候ものなり。

 同二十日目夜、宵据え餌飼い前夜同様、暁据え前同様引き明けは前明けより又少し開け候頃迄据え、度々呼ばせ飼い仕舞う。

 江戸言葉計りで意味が判りにくいかも知れませんが、原文は送り仮名を取った状態です。

 同二十一日目夜、宵据え餌飼い前同様、同暁据えより引き明け迄の扱い前明け同様、餌飼いは是まで鳩片胸、両足、羽づる共残さず飼置き候はば此の明け片胸飼い置き候事也。

 但し、雀にて是迄明け四羽づつも飼い置き候へば此の朝二羽も飼い置候方宜し。是より昼初めての餌飼。

 同二十二日目、昼九ッ時頃鳩餌に候へば片胸片足又雀に候はば三羽か四羽の内作り、餌板に載せて水を振り餌合子を鳴らし呼び声を掛け静かに戸を明け残らず飼い候事也。

 但し、初めて昼餌に廻し候時は鷹夜据えに疲れ居て昼へいれ廻らず故、いつもの餌数より少し減じて飼い候方宜し。又、大鷹に長餌板は用いざり候へ共、初めての昼餌飼いは鷹に依りて用い候方宜し。

 同夜据方、前同様早速宵餌は飼い候に及ばず。然れども口餌は羽づるにても持ち居て驚かさず様据え候方宜し、昼に餌飼いを廻し候へば何鷹にても宵のいれ薄く相成り是まで驚かざる物に驚き候事これ有り候物なり。よって口餌は心掛け居り候方宜し。同暁据えより引き明ヶ餌飼共前明け同様。

 但し、昼餌飼いに廻し候事、是までの宵餌を朝餌に廻し朝餌を昼餌に廻し、餌増減は鷹の肉合いに寄り候事也。

  いよいよ昼出しの準備で文章も長く内容も濃い物になってきました。しかし、これまでの夜据えがしっかり出来ていないとその先には中々進めません。

同二十三日目、昼九ッ時頃前日の通り鳩に候はば片胸、両足雀に候はば四羽作り餌板にて飼い、半分ほど喰わせ餌板を引きて鷹の様子を見←ここが一番肝心ですよ。私もその様に教わりました。

驚かさざる内、残らず飼い仕舞う。同夜宵据え曙据え共、前日同様餌飼いは引き明け雀一羽飼い置き候方宜し。尤もこの明けは餌飼い少なく候に付きいつもより早く仕舞い候方宜し。

 但し、此の日は昼出し大切の詰めにて雀一羽の詰めは夜据え中肉持ちよくば、又手強き鷹の詰め方これまた鷹に依りて雀二羽又は三羽位と詰め候方宜し。夜据え中成る丈け肉を持ち置かせ、此の日は餌数の少なき方よろし。尤も若鷹は別し、夜据え中肉甲斐無く、鷹は寒さに困り候に付き鳩餌にていじりひかいに仕り候事也。然る時は引き明け丸鳩にて半胸も飼い置き残り半胸と両足昼四ツ半頃又、九ッ半頃両度作り餌にて餌板に載せその度々鷹部屋明けたて二三度づつ志餌飼い候。是をいじりひかいと名付け候て肉甲斐無く強く詰めの出来ざる鷹に用い候事也。諸鷹共夜据えの肉は持たせ置き此の詰めは昼据えの根元にて餌軽き方宜し。

同二十四日目、昼九ッ時頃鷹部屋を明けて様子を見て此の日雀二羽の詰めに候はば引き明け一羽飼い置き此の時一羽作り餌板にて二三切飼い戸外に出て又々様子を見、一羽残らず飼い仕舞う。

 中々書き終わらない内に日本への網掛けの若の輸入がほぼ無くなり、人口繁殖のものが主流となり今度は巣大鷹の仕込みの方が実情に合うようです。網掛けと巣鷹(人口繁殖)では仕込み方が全く違います。網掛けの仕込み方では変な癖が付いてしまいますし、無駄な時間が掛かってしまいます。その内、書きたいと思います。


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参考文献:「鷹術四季書法儀(五)冬之巻」


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