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1.はじめに
  減農薬は全世界的な趨勢であり、我々アマチュア園芸家にとっても今日的課題であると思います。実際に、世間の農薬に対する見方は年々厳しくなってきており、住宅街にローズガーデンを設けた私にとって、非常に重要な問題でした。
  こうした時勢のなか、本格的なバラ栽培を始めた私は、究極的な目標である無農薬を目指し、試行錯誤を繰り返しました。サラリーマンという時間的な制約があるなか、手探りの状態での挑戦が始まったのです。
  結論を先に記しますが、市販されている生薬製剤(天然由来の漢方薬等)を利用することによって、バラの無農薬栽培は十分に可能であるという感触を1シーズン目から早くも得ることができました。ヒトでの効果から勘案して、半信半疑で生薬製剤の使用を開始したのですが、ある程度の効果を確認することができたのです。ただし、実際には若干量の農薬を使用し、減農薬を達成したのに留まりました。何故、敢えて私が農薬の使用に踏み切ったのかという点に、「生薬製剤の効用と、その限界」という問題が集約されていると思います。
  以下に、私が実際に使用した処方箋など、これまでの経験を記したいと思います。少しでもバラ愛好家の方々の参考になることがあれば幸いです。


2.生薬製剤のカクテル療法
(1)私の処方箋
  有害反応(副作用)と効果を確認しながら、私のローズガーデン向けの至適用量を模索していきました。
  その結果、下表に示すカクテル療法が私の基本処方として確立されました。また、葉面散布と平行して、バラ自体の活力アップのために、液肥と天然活力液の土壌散布も重視しました。


減農薬を目指した年間スケジュール(2008年改訂版)
<備考>括弧内の数字は、希釈倍率を示します。希釈倍率は、気候とバラの状態を勘案しながら、適宜増減します。
<備考>矢印は、おおよその散布回数を意味しています。
<備考>3剤併用など、薬剤強度を上げた際には、有害反応軽減の目的でHB-101を追加しました。
<注意>「ダコニール」は、黒点病予防の第一選択薬ですが、高温時には有害反応が出やすくなります。
<注意>「オルトラン粒剤」の株元散布は、樹高が高くなると効果が減弱しますので、補助的に使用する程度の期待と位置付けです。
     「オルトラン」(有機リン系薬剤)耐性が疑われる場合には、「モスピラン」もしくは「ベストガード」の株元散布に変更します。
<農薬散布の考え方>
栽培環境の調整などの耕種的防除を第1選択と考え、不足している部分を農薬で補うという基本方針を遵守します。
壊滅的打撃を受けてから農薬を使用した場合、大量散布の反復を要します。
これでは減農薬になりませんので、農薬を使用するのであれば、大量発生の兆候が見られた段階で緊急事態と判断し、敢行すべきです。

▼私が使用した生薬系薬剤及び液肥の一覧
薬剤名(商品名) 主成分 期待される主な効果
木酢液・二千年の煙120℃ 炭職人が120℃で採取した最高品質の木酢液
Web通販で入手可能
散布の基本液(展延・効果増強)
土質改善
ジックニーム 有害物質を低減したニームオイル
(インドセンダン抽出物)
害虫の忌避、殺虫
バイオゴールドのニーム 有害物質を低減したニームオイル
(インドセンダン抽出物)
害虫の忌避、殺虫
碧露 ※本表最下段参照 クララ、センダンなど、
複数の生薬から抽出された成分の配合剤
殺虫
アグリクール ※本表最下段参照 クララから抽出された成分
生薬抽出エキス
殺虫
ウコン抽出液 ウコンから抽出したエキス
(自家製=春ウコンを2ヶ月以上焼酎に浸漬)
殺菌(ウドンコ病対策)
HB-101 樹木やオオバコなどから抽出された成分
(天然活力液)
耐病性アップ
薬剤有害反応低減
バイオゴールドバイタル(液) 天然由来の成分を熟成・発酵させた活力液
(追肥には、同シリーズの固形肥料を使用)
生育促進、耐病性アップ
根張り促進による個体の充実
バイオゴールドオリジナル 天然由来の成分を熟成・発酵させた固形有機肥料。
自家調製(溶解・懸濁)により液肥としての使用も可。
生育促進、耐病性アップ
個体の充実、土質改善
ハイポネックス ハイグレード・バラ 各種栄養素を配合したバラ専用の液肥。
1000倍希釈で使用。
生育促進、個体の充実
バラ専用の活力キトサン
キトサン
葉面保護作用を有する有効微生物
生育促進、耐病性アップ
有効微生物の増殖(ウドンコ病対策)
アグリクール→農薬アバメクチンの混入が、公式発表された(2007年11月=農林水産省)
碧露→農薬ロテノン、ピレトリンの混入が、公式発表された(2008年2月=農林水産省)
<左>生薬系の薬剤
<右>自家製のウコンエキス(春ウコンを2ヶ月以上焼酎に浸漬したもの)

(2)生薬製剤の効果
市街地にあるため、害虫の絶対量が少ないという好条件が整っていたとは思います。しかし、チュウレンジハバチの幼虫とハダニの被害には悩まされていたことは確かであり、これらを制御できたことは大きな成果でした。

病害虫の種類 効果判定 生薬製剤の効果等に関するコメント ※「」は、農薬であることを示しています。
チュウレンジハバチ(幼虫) 成虫の飛来は抑止できませんが、幼虫の成長を抑止することは可能です。個体が小さな幼若な段階で効きますので、葉の食害による大きな被害は減少しました。
アブラムシ(緑) 効果発現は緩徐ですが、個体数の減少は認められました。ただし、大量発生時には、「スミチオン」「スミソン」などの農薬が必要です。「オルトラン粒剤」の株元散布も安全で有効な手段でしょう。
ハダニ 大量発生を抑制できます。
大量発生してしまったら、専用の殺ダニ剤が必要かもしれません(使用経験なし)。
スリップス(橙) アブラムシよりも効きが悪い印象です。かなり広範に発生してしまいました。外来種(海外産)をはじめとして亜種が多く、体躯の色によって、薬剤感受性が異なることがありますので、要注意です。
農薬では、「スミソン」が奏効することが多く、第一選択。「オルトラン」と「モスピラン」には、植物組織への浸透性があるため、補助的に併用すると有効です。
尺取虫類(蛾の幼虫) × 大型化した老齢幼虫に対しては、ほとんど効果がなく、広範に発生して甚大な被害が出ました。
「スミチオン」は奏効しますので、制御は可能です。
バラゾウムシ × 全く効果が得られず、かなりの数の蕾に被害がでました。孵化を防止するために、被害を受けた部位を摘み取る必要があります。被害抑止には、捕殺と「スミチオン」の散布が必要です。
コガネムシ × 成虫には全く効果がなく、幼虫の発生制御と、捕殺しか手立てはないと思います。
幼虫には、特効薬「ダイアジノン」の株元散布が安全で有効な手段です。
ハキリバチ × 全く効果が得られず、かなりの数の葉に被害がでました。
農薬を使用しても制御は困難なうえ、捕殺もできませんので、諦めるしかないでしょう。
ウドンコ病 ウコンエキス及び溶媒となっている焼酎が木酢液との混和で相乗効果を発揮したのか、年間を通してウドンコ病の発生は僅かでした。「キトサン」の散布は葉面・土壌共に有効です。
黒点病 × ほとんど効果はないと思います。早期発見が有効ですが、それでも少量の農薬散布は必要であると思います。予防には「ダコニール」「マネージ」、治療には「サプロール」が有効です。

(3)有害反応の発生
  上図のカクテル療法を施行していくなかで、薬液の攪拌を十分行ったのにもかかわらず、葉面での有害反応の発生を多々経験しました。具体的には、「縮れ」「シミ」「黄変」「落葉」などです。状態としては、ハンドスプレーによるスミチオンの散布よりも強い有害反応が出ていたと思います。
  効果、毒性共にマイルドな薬液であると目算していただけに、この結果には非常に驚きました。期待とは裏腹に、実際には、効果がマイルドながら毒性は強いという薬液だったのです。
  ただし、全品種一様に有害反応が出たわけではなく、品種によって大きな差が認められました。私の印象では、初期のハイブリッドティーローズにおいて有害反応が強く現れる傾向が強いように思われました。
▼強い有害反応が現れた品種
グランパ・ディクソン、パパ・メイアン、ラ・フランス、ネージュ・パルファム、ブルーシャトウ、マヌウ・メイアン、クイーンエリザベス、ルージュ・メイアン、クリスチャンディオール


3.考察「減農薬の成否を分ける要素とは?」
  以上のとおり、生薬カクテル療法の有用性を確認することはできましたが、予想外に強い有害反応も経験しました。
  有害反応の低減のためには、当然のことながら、薬剤を減量するか、休薬期間を延長することが必要となります。しかし、生薬カクテル療法の効果はマイルドかつ非持続的であり、上表の薬剤強度で少なくとも2週間に1回の散布を実施しないと、十分な効果は得られません。
  そこで、重要となってくるのが、プラスアルファの要素による効果の上積みです。生薬カクテル療法単独で病害虫を制御するのは困難であり、下表に記す事象を満たすことが必要となってくるでしょう。
  全体から見れば、生薬の散布自体よりも、他の要因の方が重要であると、私は考えています。

内容 重要度
適度な植え込み場所を選ぶこと
(5時間以上の日照+適度な風通し)。
生薬の定期散布を怠らないこと。

噴霧ムラが少ない高性能の噴霧器を使用すること。
蓄圧式ポンプを使用する場合には、噴霧中に適宜加圧し直し、良好な噴霧状態を保つようにすること。
病害虫の発生状況をこまめに観察し、大量発生前に病変部を手で摘み取って凌ぐこと。
(栽培経験を積むと、不思議なもので、病害虫発生の場所がある程度予測できるようになります)
病害虫が発生する葉面にばかり気をとられることなく、土壌を豊かにすることで個体の充実を図ること。

葉が過剰に茂っていないこと(適度な風通しがあること)。

冬場に石炭硫黄剤による消毒を実施し、予め病害虫の発生要素を叩いておくこと。

病害虫が大量に発生してしまった部位には、生薬を重ねて散布せずに、手で除去するか適切な農薬を少量散布すること。
窒素過多はウドンコ病を誘発するので、液肥の量に留意すること。
※バラ専用の肥料を規定用量どおり使用していれば、問題はないと思われます。
品種別に有害反応の出方を調査し、状況を把握しておくこと。
有害反応が出やすい品種への散布量は控えめにし、適宜、少量の農薬を補助的に使用する。
良質な木酢液を使用すること。
※木酢液の品質格差は著しく、劣悪な商品も多数出回っているので、要注意です。
病害虫の疫学と農薬の感受性(効果)に関する正しい知識を有していること。
※最適の農薬を最少量散布することで最大の効果を得ることも立派な減農薬です。


4.結語「何故、私は減農薬に留まったのか」
  無農薬栽培も可能なレベルにまで達していましたが、最終的に私は農薬を使用し、減農薬に留まる決心をしました。実際に使用した農薬は僅かなものですが、散布した以上、無農薬とは言えなくなってしまいました。
  以下に、私が農薬使用に踏み切った理由を記します。要は、残存する害虫と無農薬では発生が必至となる黒点病を容認できるかということに、無農薬と減農薬の分岐があるように思われます。病害虫によって多少痛んだバラを見て、より自然で美しいと感じれば無農薬、もう少し何とかしたいと思えば減農薬という方向になるはずです。あるいは、多少バラが傷んでも無農薬栽培の達成によって得られる喜びと、目的に適ったより美しい花を手に入れる喜びを天秤にかけるという考え方の選択肢もあるでしょう。私は、熟考の末に、後者の減農薬を選び、最少量の農薬を使用しました。
  こまめに病害虫の発生を観察する時間があるという前提の下で記すと、生薬散布による有害反応が出にくい品種では無農薬栽培は可能です。農薬散布時のような完璧さは望めないまでも、生薬の力を借りて十分に美しい花を手に入れることは可能でしょう。しかし、これはあくまで特定の栽培条件における特定の品種での話であり、バラ全体のことを考えると、減農薬までが限界ではないかと思います。

(1)生薬も毒には変わりないという事実
  私は、化学合成によって製造された農薬が悪玉で、天然由来の生薬は善玉であるという二項対立によって減農薬を論じる風潮に疑問を抱いていました。何故なら、両者共に薬理学的には相反するものではなく、所詮毒であることに変りはないからです。もし、スミチオンを噴霧した時のように、害虫がコロッと瞬時に死ぬような生薬があれば、かなり薬理活性の高い成分であり、ヒトへの影響も憂慮しなければならないと思います。もしくは、薬剤に微量の農薬成分が混入していることが疑われます。
  トリカブトをはじめ、自然界には危険な物質も多数あります。毒性が低いとされているニームオイルにしても、ヒトへの大量投与では堕胎促進作用が発現するという話もあります。ですから、農薬の代替として生薬を散布すれば問題解決という図式にはならないと思うのです。優れた効能がありながら、過剰使用によって世間の批判に曝されるようになってしまった農薬の二の舞にならないように心掛けたいものです。

(2)有害反応に関する一考
  生薬カクテル療法には、ある程度の効果が認められましたが、有害反応の強さには愕然とさせられました。天然由来とはいえ、やはり毒には変わりないということです。特に、気温が30℃を超える季節になると、生薬の有害反応は急激に強くなり、病害虫に侵される前に葉面が生薬にやられてしまうこともあります。高温時の有害反応は、農薬でも認められるものですが、生薬カクテル療法の方が温度依存性の毒性が強いのではないかと思われました。
  意外と盲点になっているかもしれないと思うのは、ヒトへの急性毒性は生薬の方が安全でも、植物に対する影響は生薬の方が強いこともあるということです。生薬散布が防護なしで気軽に可能であるということに浮かれていると、病害虫制御という本来の目的を見誤り、農薬以上の有害反応を生み出しかねません。
  そこで、私は、高温期には思い切って生薬を減量し、効果が低下する分を少量の農薬で補うことで、良好な結果が得られました。ハンドスプレーによる軽い散布でも、ベースに生薬があると農薬は十分に効果を発揮するようです。
  一方、反省点としては、少し完璧さを求め過ぎたかもしれないという気持ちはあります。効果を上げるために、無理して生薬の薬剤強度を上げた感は否めないところです。高温期には薬剤強度を控えめにし、一時的に敢えて病害虫の残存を許容するという選択肢もあったかと思います。

(3)切花には残存する害虫の問題
  私は切花を室内に飾るのが好きなので、生薬カクテル療法では不都合が発生しました。まず、生薬の効果がマイルドで緩徐なために、スリップスやアブラムシなどが花によく残存しています。
  食卓付近に虫が付着した切花を飾るのは気持ちがいいものではありません。知人に切花を差し上げる際にも、少し気が引けてしまいます。花が汚れる点も生薬の欠点であり、近年の農薬に、花の美観を損なわないような配慮がされているのとは対照的です。
  そこで、私が行ったのは、生薬に少量のスミチオンを併用することでした。この際に散布するスミチオンは、生薬を噴霧器で散布した後、スポット的にハンドスプレーで散布する程度でしたが、完全防除とまでは言えないまでも、良好な結果が得られました。

(4)生薬が効かない害虫の問題
  生薬が効きにくい害虫を列挙すると、「大型の幼虫類」「コガネムシ類」「バラゾウムシ」「スリップス」などが挙げられます。これらを全て捕殺すれば農薬は不要ということになりますが、現実的には不可能でしょう。
  これらの害虫を放置しても、通常は枯死に至るほどの重篤な被害にはなりませんが、花の観賞価値を減じることは必至です。私は、熟慮の末、農薬が必要であると判断しました。
  無農薬でいくためには、ある程度の病害虫によるダメージがあっても、かえってその方が自然の姿で美しいという感性が重要となります。私には、ある程度の病害虫を許容する気持ちはありますが、限度がありました。
  ただし、農薬の使用に際しては、無差別に散布するのではなく、計画的な散布を心掛けました。一例を挙げると、農学部出身の知人から、スリップスは種(体の色)によって農薬への感受性が異なることを教わりました。そして、この知人にアドバイスを求め、最少の農薬散布量で最大の効果が得られるよう選択薬剤を厳選しました。すなわち、農薬の適正使用という観点から減農薬に成功したのです。

(5)有害反応に関する品種格差の問題
  農薬の中には、特定の品種に対して強い有害反応を示すものもあるようですが、概して有害反応の出方は一様です。
  ところが、生薬製剤では、かなりの品種格差があることが次第に分かってきました。50品種近く保有するようになると、有害反応の品種格差は非常に大きな問題となってきます。結果として、生薬の濃度を薄くするしか手立てがなく、ときに、効果を補うために農薬が必要となってくるのです。

(6)黒点病の問題
  生薬で制御できるのはウドンコ病までであると思います。農薬の散布なしでは、黒点病の発生は抑制できないでしょう。葉が全て落ちても直ちに枯死することはないようですが、成長面でのマイナスと美観が大きく損なわれるのは必至です。

<後記>
  生薬も用いずに食品等で完全無農薬栽培に成功している方々がいることを知り、驚天動地の衝撃を受けました。食品を使用するのであれば、アレルギーを除いて健康被害のリスクはゼロとなります。
  一気に無理をするつもりはありませんが、私も少しずつ近づければと考えています。

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