-届かぬ声-


愛してる





声が聞こえた。小さな声。

でも、とてもよくっ知った声。

誰よりも愛しい声





知ってる




声に呼応するように大きな暖かい声が返ってきた。

小さな声を愛する声が。

小さな声はちいさく照れたように笑い、もう一度言った





愛しているわ





知ってるよ。

…俺も愛してる




大きな声は同じように照れた。

お互いに笑いあう声が聞こえる





なあ…




…うん?





声が聞いた。

先ほどとは違う、低く、思いつめた声で。

何かを、安息を破る声で





どうして死んじゃったの?




…………。





声は黙る。

大きな声からは既に聞いてきた声から暖かさがなくなっている





俺の…せいなんだろ?

俺がお前を殺したんだろ?

俺が、俺がお前を…っ!




やめてっ!





今にも泣きそうな声が返ってきた。





あなたは何も悪くないわ。

誰も悪く無いの。

あなたが責めることなんてないの。

これは私が選んだ――





いやだっ!




声が拒絶の声を上げる。

聞こえる声は今にも泣きそうで、胸が痛い。





だって、誰も悪く無いのならどうしてアリスはここにいないの?

どうして見えないの?

どうしていつもみたいに触れてくれないの?




それはまるで子供が駄々をこねるような声。

悲痛な声。大切な何かを失った声。壊れてしまった何かを探す声。





会いたいんだ。会いたいよ。

笑ってよ。いつもみたいに微笑んで、そっと触れてよ。

優しく抱きしめてよ。




ウル…





どこを探しても彼女はもういない。

今まで大切なものを失ってきた。

何度も何度も、奪われてきた。

だから、今度は絶対に守ろうと思った。

守って守って、守り抜こうと心に誓った。

なのに…





なのに彼女はここにはいない。

守れなかった。

絶対に守るって誓ったのに。




心の中の彼女はいつも微笑んでくれる。

いつも励ましてくれる。

それが自分の唯一の救いかもしれない。

でも――時々無性にこの状況がたまらなくなる。

会いたいんだ。触れて欲しいんだ。

心の中だけでなく、この現実で。





世界は変わりなく今も回り続ける。

ただ、この虚ろな瞳に映る世界だけが変わってしまった。

全ては灰色の世界。灰色の夢。

生きていて何の意味があるのだろう。

君を失ってしまった自分に、何を見出せば良いのだろう。





声はもう聞こえない。

声はもう届かない。





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TのBAD直後から。
自分をいつまでも責め続けるウルがテーマでした。
Uでこそゲーム中は(一応?)明るく見えるが、それまでには色々あったのではないかと…。
自分を責めないで欲しいというアリスの声がいまいちウルに届いていないというのを書きたかったのでした。
「私はいつまでもあなたの側にいる。私は貴方といつも一緒にいるわ」みたいな。
ウルが一方的に耳を塞いでますが。てか、急展開過ぎるわな。この文章。大失敗…。