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双極性障害発症の左脳と右脳の循環仮説                        20258月


   

要約双極性障害は、ミトコンドリア機能異常をトリガーとして、うつ病から移行する精神疾患である。ミトコンドリア機能異常は、うつ病にカルシウムとセロトニン機能の異常を付加するので、うつ病と双極性障害は別個の疾患とみなされるが、実態はスペクトラムである。 

 大脳皮質や辺縁系諸器官は左脳と右脳それぞれに対として存在するが、機能的な違いがある。右脳は空間把握能力に優れていて危険回避や生存を前提とした「生きる」ことを目的とする。一方、左脳は言語やコミュニケーション能力に秀でた、「より良く生きる」ための機能面の充実がある。 

 うつ病は、「愛する者の死や、組織に自分の居場所を見つけられない」といった、「より良く生きる」ことが閉ざされたことをきっかけに発症する。つまりは左脳の機能障害である。この状態に遺伝性の強いミトコンドリア機能障害が加わることが、双極性障害への序章となる。

  
 うつ病下、体は動かないので、右脳は拡張する自己像を設定する。空想とは言え、拡張された自己像は快でありドパミンが放出される。そしてこのドパミン作用により行動の一歩が踏みだされるのである。ところが、ミトコンドリア機能異常はカルシウムとセロトニン機能異常をもたらし、ドパミン生産は物理的限界値まで上昇し、一方で抑制機能が働かない状態に落ちいってしまう。つまりここれが、双極性障害(躁状態)となって表れるのである。




1.  ミトコンドリア機能障害とは


 ミトコンドリア
機能障害とは、順天堂大学の加藤忠史教授らによって提唱された、双極性障害発症仮説の中核概念です。注目すべきポイントは以下の二点に集約されます。

 
 第一に遺伝の影響が強いということです。ただこれを遺伝子学的に説明することは難しいので、AIの解説をベースにかなり単純化した説明をします。ミトコンドリア機能異常は、遺伝子の異常として次世代へと引き継がれます。ここで遺伝子異常をピストル(拳銃)の設計図にたとえます。出生前後の不安(ストレス)が乳児にかかると、ピストルの設計図が翻訳され実弾がセットされます。ただし当面は問題ないのですが、思春期以降に再びストレスを被る経験をすると、ピストルの引き金がひかれてしまうのです。

 
 それでは、実弾が発射されると何が起きるのかが第二のポイントで、ミトコンドリアの機能低下が生じて神経細胞内での
ATP産生が不十分になります。ミトコンドリアATPは神経(肉体)活動のエネルギー源ですから、思考は停滞し体も動かなくなります。続いて、カルシウムとセロトニン機能の変調が生じます。両物質は脳神経活動の最重要物質なので、その影響が広範囲の脳神経部位へと流れていきます。そして、その影響こそが双極性障害の躁の状態を作り出してしまうのです。一言でいえば、チェック機能のないドパミン過剰放出です。



2.  うつ病とは

 

 うつ病は症候群ですが、70%弱はヒトヘルペスウイルス6HHV-6)に感染によるものとされます。これは急速に発症し、左右の脳を侵す感染症ですが、双極性障害への移行は殆ど無いとされているので、本稿が主題とする脳病としてのうつ病とは別の疾患と捉えます。 

 
 脳は左右に分かれていて、右脳は「動物的な脳」で
感覚・情動・空間認識などの基本的な生存機能を担い、左脳は「人間的な脳」言語・論理・抽象思考などの高度な認知機能を担います。人間的な脳とは、社会に適応するための脳とも言い換えができます。端的に表現すれば、右脳は「生き残る」こと、左脳は「よりよく生きる」ことを主題にした脳ですそしてこのことの意味することは、左右の脳を構成する神経部位には微妙な機能差が生じていることです。

 
 ところで、うつ病のきっかけは「よりよく生きる」ことの挫折により始まります。それにより左脳の情動・記憶・報酬・行動計画の神経回路のいずれかの神経部位がピンポイントで障害されます。神経回路は複雑に絡み合って有機的な連携を保っているのですが、わずか一箇所の障害で全体の連携を止めてしまうのです。これにより、情動が乏しくやる気も無くなります。 


 ここで更なる試練が生じるケースが出てきます。上述のミトコンドリア機能異常です。ミトコンドリア機能異常は遺伝性で、それに環境要因が加わると遺伝子が機能するようにセットされます。環境要因でよくいわれるのが一時的な母親の愛情不足で、これによりピストルが作られ(イメージです)実弾が装填されます。その後、彼は順調に育っていくのですが、思春期以降に愛する人の死(原因の一例です)を経験すると、精神的なダメージを受けうつ病に罹患するケースもでてきます。それでも多くは、その辛さ苦しみを乗り越えていくのですが、ストレスによりピストルの引き金が惹かれると、ミトコンドリア機能障害が発生します。これによりエネルギーの基であるATPの生産が減少し、思考や行動に著しい制限が生じ、治りかけのきっかけが封印されてしまいます。



3.  双極性障害


 うつ病はある意味、生存の危機であるので、補償的に右脳が賦活してきます。しかし、左脳の抑制的思考が強いので、右脳が体を動かす命令を行うことはありません。うつ病では、心が内向的になるデフォルトモードネットワーク(DMN)なので、右脳の働きもここから始まります。右脳は、悲観色にみちた内省に、「一矢報いる」ような拡大した自己を提示してくるはずです。これはバランスであり、うつ病から双極性障害への分岐点になります。自己拡大イメージは人ぞれぞれですが、共通しているのは、「それは快でありドパミンが放出されると」いうことです。


 ミトコンドリア異常は、2次的にセロトニンとカルシウム機能異常をもたらします。そしてその異常は3次的な広がりをみせていきます。その対象は広範囲に及び、また内容が複雑に絡み合うので、これを全て紙面に乗せることは困難です。そのため、双極性障害の症状に関係する部分(それもかなり省略)にフォーカスして説明します。

 
 人は誰しも楽しいことには夢中になりますし、いつまでも続けたいと思います。しかし、そこには時間的、金銭的、倫理的、肉体的、心理的な制約があるので、いい所で折り合いをつけています。だから社会生活を送れるのです。

 
 ところで双極性障害にあっては、拡大する自己イメージはだんだん膨れていきますし、つられてドパミン量も増えていきます。左脳の不足する分まで、つまりは生理的限界値までドパミンが生産されるかもしれません。そして、いつしか行動の第一歩が始まるのです。「これは行動するからドパミンが必要」の逆ので、「ドパミンが増えるのでつられて行動する」の論理です。ここまでなら右脳の左脳への補償的行動としては正当化できるかもしれませんが、当人は自己を忘れた陶酔の境地にあり、行動は常軌を逸したもにになってしまうので、その行動は決して褒められたことではなくなってしまいます。

 
 また、
チロシン → ドパミン → ノルアドレナリン 、つまりドパミンはノルアドレナリンの前駆体なので、ドパミンの過剰はノルアドレナリンの過剰生産につながり、これが交感神経を過度に刺激して、心身にさまざまな影響を及ぼします。例えば、些細なことでキレやすく攻撃的になったり、気分が異常に高揚して眠れなくなったりします。

 
 また拡大する自己イメージは
皮質第3層にて創作されます。そしてその創作はドパミン量の増大に合わせてフル操業の段階になります。ところで、3層で生成された情報は4層のチェックを受けて5層に情報伝達されますが、4層の機能がかなり低下してしまっています。4層は主に感覚情報の受け入れ層なのですが、うつから始まる行動制限で感覚情報の受け入れが極端に少なく、神経可塑性によりその機能が大きくダウンサイジングしてしまっています。そのため、3層の情報を5層に流すことができないので、3層から5層への直接路を設定し大量に自己拡大イメージ情報を5層に投射させます。皮質5層は「ココロ」の存在箇所なのですが、大量に流入する自己拡大情報を処理しきれなくなり、自己破綻のリスクから、現実離れした情報を結局受け入れてしまわざるを得なくなってしまうのです。双極性障害の誇大妄想は一型で50%の出現率が報告されています。 

 
 さて、双極性障害の躁時の症状がこれほどまでに悪化してしまうのは、拡大するドパミン供給を止める、つまりは制御するシステムが破綻してしなうことによります。


 ミトコンドリア機能異常は、セロトニンの神経活動を異常亢進させますが、これはドパミンの過剰放出を抑制する一方で、部位や受容体の種類によっては興奮性にも働くことも指摘されていて、トータル的にはドパミン過剰を必ずしも抑制できていないとされます。  
 同様にカルシウム機能異常は前頭前野と前部帯状帯状回の機能低下をもたらします。前頭前野は高度思考の機能を担っているため、現実離れした行動計画を立ててしまいます。また妄想思考を容易に侵入させてしまいます。
前部帯状回は、本来なら個人の行っている行動にチェックをいれ修正を前頭前野に送る機能があるのですが、この役割も効かなくなります。双極性障害の躁状態は自分の行動の正当性を妄想的に信じ、チェック機構も働かないため、彼の行動を誰も止められなくなってしまうのです。


4
.  双極性障害のその後

 

 双極性障害は躁とうつの循環が特徴なので、ドパミン過剰による躁の状態はやがて、鬱へと転換していきます。

それではこの移行期にミトコンドリア機能異常はどのように変化しているのでしょうか。躁は鬱が治った状態と捉えれば、ミトコンドリア機能異常が緩解期を迎え、結果、双極性障害が治癒したとも考えられます。

 これに対して、視床室傍核(PVT)という脳部位でミトコンドリア異常が蓄積していることが分かっていて、その一方で症状が出ないことについて、まだ明確な答えは出ていないのが現状なのだそうです。ただし、前回と同じようなストレスに曝されてしまうと、再度うつ病が発症してしまうことは自明です。それも、より少ないレベルで発症してしまうかもしれません。


 最後に統計的な数字を出します。


1 
うつ病患者の約67.9%ヒトヘルペスウイルス6HHV-6)に感染している

     HHV-6由来のうつ病は双極性障害に移行しないされる AI回答

2 うつ病から双極性障害への移行率は約7.4% 

3 12より従来型(ストレスによる発症)うつ病から双極性障害の割合は23%  

 

 もしこの数値に妥当性があれば、かなり憂慮すべき事態で、もはや「うつ病は風邪」などと言っていられません。 
 とはいえ次に述べる技術も既は確立しています


1 うつ病患者の中から、
ミトコンドリア異常に関連するエピジェネティックな変化(遺伝子の発現状態)を調べる  方法は確立している。 実際に行っている医療機関もある

2 エピジェネティックな変化が存在する場合、うつ病から双極性障害への移行を阻止する薬は存在するが、完全に  防ぐことはできない  

3 エピジェネティックな変化は基本的に「可逆的」であると考えられている。これは、遺伝子の塩基配列 そのも  のを変えるのではなく、遺伝子の「スイッチのオン・オフ」を制御する仕組みによるからである

4 リチウムがミトコンドリア機能障害に関連するエピジェネティックな変化を修復する可能性があるという研究報  告がある。

5 リチウムは「毒性が強い薬」ではあるが、「危険な薬」ではない。しかも、数十年にわたる臨床使用歴があり、  エビデンスが豊富である。   

 
 以上1~5(特に3と4)により予想されるとおりに、
リチウム(炭酸リチウム)は双極性障害の治療において非常に有効とされています また、双極性障害の第一選択薬として、世界中の治療ガイドラインで推奨されています

 
ただし、長期間にわたり再発を抑えても、それは緩解とされ、完治とは呼ばれません。それは、双極性障害の根本的な発症原理が解明されていないからです。とはいえ、双極性障害のミトコンドリア障害仮説が実証的に証明され、仮説から原理に昇格して、双極性障害が完治したと認められる日はそれほど遠くないかもしれません。