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統合失調症陽性症状(幻聴)の虚数解仮説       20257月


   

要約:統合失調症患者に発生する幻聴は、虚数解を含む同期γと自発γの位相同期によって生じる。数学の
         定義のように虚数解(オシレーション上に存在する)を掛け合わせると、実数(音の認識)になるが、
         それはあくまで虚構(幻聴)である。
    



1.  虚数解

 2次方程式は ax2+bx+c=0 の一般解は

判別式

で表されるが、判別式D=b2-4acがマイナスになると実数解が存在することにならず「解なし」ということもできる。しかし3次方程式には必ず実数解が存在することから、すべての解を表記するため、ここに虚数解を設置する必要性が生じた。虚数は一般的に、abiという複素数で表される。biは虚数であるが、二乗すると、-bと実数となる。



2.  聴覚システム



聴覚野


 聴覚システム(図1)は端的に言うと、音の振動パターンを聴覚野で電気信号に変え大脳がそれを認識するシステムです。

 聴覚野の神経回路で音の特性(周波数、強度、時間的パターンなど)を解析し、脳が音を理解するための情報を生成します。これが聴覚野の同期γであり、γ帯域(周波数40ヘルツ前後)の周波数をもつ脳活動として脳波で検出されます。同時に、音の刺激にたいして脳は自発γを生成します。これには見当識(時空間)や自己認識が含まれます。そしてこの二つのγオシレーションがそれぞれ位相変調し同期してはじめて、脳は音を認識し知覚し、そして情報として保管します。図2参照



γオシレーション
九州大学

  ここで重要なことは、認識するということで、決して「感じる」ということではありません。そのため、ヒトは「認識」するために、以下に述べるシステムを採用しています(仮説です)。



3.  音を認識するための聴覚システム

 
  

 ① 大脳皮質は6層構造です。


 この原理を聴聴覚野に当てはめその機能を述べると、4層は耳で作成された信号の入力層になり、そのデジタル信号音を解析します。次にその解析情報を3層と5層に送ります。

 3層は個体の安全や生存に関わる情報を解析します。この3層の機能は、生物体が餌を見つけ、敵から逃れる機能をその原点にしていたと思われます。つまり接近・回避の判断基準のための主要分析層です。

 そのため、音の特徴的な側面、特に「音の方向性」や「音の空間的配置」に関連する情報を処理 します。右脳との連絡も密です。

  
   5層は他感覚との統合層で、特に視覚情報とのすり合わせが絶対的に必要です。3層で危険音と判断し、それを視覚情報で追認します。海馬との連絡を通じて、音を最終的に解析して自発
γを生成します。脳が音を認識すると即時的な行動命令を5層から発します。


② 同期γと自発γ

 γγ(ガンマ)オシレーションのことで、脳内の異なる領域の神経細胞が(30100ヘルツ)の周期で同時発火していることです。同時発火は、神経細胞(集合)の組み合わせと同時的発火を意味していて、組み合わせは情報内容を表し、同時的発火は効率的な情報の流れを目的とします。また、情報を受ける組織が、同時に入ってきた情報を翻訳するため同期した情報が必要という意味もあります。

 聴覚野で音を認識するためには、4層で発する同期γと5層で発する自発γが5層内で位相同期することが必要条件となります。


③ 分類とフィルタリング

 4層で作成された同期γに対して自発γはどのように生成されるのでしょうか。実は自発γが発せられる段階で既に分類(生存音・社会音・背景音)され、さらには優先度(フィルタリング)が求められています。つまりは、同期γに対するマッチングを予想して自発γを生成しています。

 この具体的な仕組みを、下記に示します。


④ ドパミンの賦活化

 ドーパミンD2受容体は自発γ波の生成や調整において重要な役割を担っていると考えら れます。さらには聴覚フィルタリングのプロセスにも関与する可能性が指摘されています。実はこの事実が、幻聴発症の一因となり、逆説的に統合失調症陽性症状に抗精神病薬(ドパミンD2受容体阻害剤)の作用機序を示します。



4.  聴覚野の音認識3パターン

  以上、脳が音を認識するために必要な4条件を記しましたが、これを③の分類とフィルタリングに焦点を合わせてパターン化します。



















5.  幻聴の発症仮説


    統合失調症の代表的な陽性症状が幻聴です。下図はそのフローを示しています。最初の起点はγオシレーションの異常で、これはNMDA受容体の障害に起因しています。以後、下流部へと流れていきますが、その中に虚数解の発生が出てきます。虚数解とは冒頭で説明しましたが、ここでは同期の乱れや位相同期の困難さから仮の価を設定して機能を補完することを意味します。


 






このフローがどのようにして幻聴に結びつくのでしょうか。それを示すのが下図(パターンD 幻聴型)です。






 統合失調症ではγオシレーションの異常から、神経第4層への感覚情報の流入が減少してきます。つまり処理しきれないのです。聴覚野も例外でなく、聴覚野4層の同期γが減少し3層との位相同期が障害されます。これは個人にとってかなり危険な状態となります。3層はパターンA(接近・回避型)の中心層であり、危険音に対する反応が鈍ります。そのため34層間の不安定な回路に安定した通路を設定する力が働き、聴覚野3層に巨大スパインが生成され、4層から3層への主要回路が設定され、34層間の一体化が生じます。 


 さらに、統合失調症では、同期γが減少して自発γが上昇することが確認されています。結果、線条体からのドパミン放出量が増え、5層におけるドパミンD2受容体が賦活します。3層から5層はグルタミン酸投射神経細胞による回路が存在しますが、4層のソマトスタチン陽性細胞からのgaba投射により不要な連絡はシャットアウトされています。それが、抑制作用のあるドパミンD2受容体の作用により、抑制に抑制をかけて、3層から5層への回路がフリーパスの状態になってしまいます。そしてその回路に流れるのは、34層が一体化した層から流れる情報なので、同期γとみなされるのです。


  一方で5層で生成される自発γも大きな変化をみせ、前頭前野のチェックの効かない夢想的な内容になってしまいます。半ば夢に近い内容です。 パターンB(社会参加型)のケースでは、何気ない日常会話が「私に対する悪口」になり、パターン背景音型)のケースでは、小川のせせらぎの代わりに、「警察だ、お前を逮捕する」という声に変化してしまうのです。


 

 そしてこの自発γと、3層から流れてきた同期γが位相同期して、機械的に音として認識されるのです。

冒頭の部分で虚数解×虚数解は実数になると説明しました。聴覚野のおける虚数解とは、実態のないデジタル信号です。しかし、その実態のないデジタル信号であっても、同期γ × 自発γの作用により、実数(音として認識)となってしまうのです。

 しかしそれは、数学上の実数ではありません。実態のないデジタル信号(虚数解)をいくら掛け合わせでも、結局それは、虚構(幻聴)にすぎないのです。