第1章 チック症 総合案内
第5節 補足
(Q&A)
以下は、重要ではあるが、本稿で書ききれなかった内容をQ&A方式でまとめたものです。
Q チック症は殆どのケースで自然緩解するが一部でトゥレット症に移行する。それを分けるものは
A 前頭前野は20歳代前半まで成長していき、神経細胞(軸索)の髄鞘化も脳内で最後に完成する。
つまりチックが発症する時期に比べて、前頭前野は加速度的に賢くなる。そのため、「行動とドパミ
ン量の組み合わせに不調」があっても、やがてシステムとしてそれをカバーしていく。しかし、一部で
このリカバリーがうまくいかないとエピジェネティックの機構が働いて、島皮質による強制的なシフ
トチェンジがオートマチック化してしまうのだろう。
Q チックの症状(種類)が男に多いのは
A スズメバチが現れると男も女も驚き逃げる。それではカブトムシならどうだろうか。おそらく男児は
捕まえようとするが、女児は逃げる。このように、前部帯状回が扱う情動に対する行動は、男児の方
がバラエティに富んでいる。そしてその差が症状の多様差として表れるのだろう。
Q チックの症状(種類)が就寝中に起きないのは
A 前頭前野は就寝中は機能しない(行動計画を立てない)ので、当然、症状もでない。
Q チックの症状が出る前にムズムズ感があるのは
A 行動プランニングの遅れからイライラ感が生ずるかもしれない。またヒスタミン(痒みに関連する
神経伝達物質)が関係するのかもしれない。チック症状がでればこのムズムズ感は解消されるが、
基本的にはチック症を抑えようとする。これは前頭前野の意識を集中することなのである程度は成功
する。
Q チック症の原因におけるドパミンの位置づけは
A
ドパミンは発症のきっかけと考える。行動とドパミン量の組み合わせがうまく合致しないと行動プラ
ンニング(報酬予測誤差)が立てられないし、線条体における誤差学習が機能しない。それが必然
的にチック症に結びつくのだろう。また、その機能異常の発生箇所は、脚橋被蓋核を扇の要とした
行動と報酬のループ内のいずれかにその源泉があるものと思う。
Q 治癒するか
A チック(トゥレット症)とエピジェネティックが関係していることをまず前提にした上で、
次の論文が参考になります。
※ 精神疾患におけるエピジェネティクスの役割の基礎 ―DNA メチル化を中心に― 篠崎 元
この中で、「エピジェネティックは可逆性があり元にもどることも有りうる」との記述がありま
す。 これは、チック(トゥレット症)が治療可能であることを意味しているのではないでしょうか。