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令和7年10月
識確認系強迫症の発症仮説
要約:
確認系強迫症はCSTC回路が無限ループに落ちいることによって生じるが、その原因は、前部帯状回や眼窩前頭皮質が「皮質から発せられ行動計画(C1)と修正された行動計画(C2)が同一である」と証明ができないからである。
しかしそれは、前部帯状回や眼窩前頭皮質の機能障害によるのでなく、C1 ≠ C2であることによる。
確かに、行った行為を視認(目)することははできる。しかし、それは修正された行動計画のC2に対する確認であり、C1 ≠ C2 であることから、最初に発せられた行動計画の確認とななっていない。 このため、彼はこの目で確かめたことに疑問を持つようになる「確立が低いが見逃しの可能性もある」。 そして不安になり、もう一度、確認行為を行うことになる。
1.DLPFCと扁桃体

CSTC回路の始点は、背外側前頭前野(DLPFC)であることが多いとされていて、確認系強迫症では、このDLPFCと偏桃体の関係に異常が生じているとされます。
DLPFCは、意思決定・感情制御・注意力・ワーキングメモリなどの高次認知機能を担う領域です。
一方の偏桃体は、恐怖や不安などの情動処理に関与し、ストレス反応の中心的な役割を果たします。
確認系強迫症では、DLPFCの機能が低下して、扁桃体の反応を抑えきれずに不安感が強くなり、脳の危機管理システムが過剰に働くようになります。
常に安全安心のための意識のレーダーを周囲に投射して、少しでも気になることを見つけると、起こりうる事象を「必要以上に悪い方向」に拡大解釈することが多くなってきます。
そのため、CSTC回路の行動計画も自ずと確認行為が多くなってしまうのです。
2.CSTC回路の基礎
「確認系強迫症の原因は、CSTC回路の中にある」とするのが本稿の趣旨なので、以後、CSTC回路について箇条書きします。
① CSTC回路は、C1・S・T・C2 回路でもある。
CSTC回路は C(皮質)→S(線条体)→T(視床)→C(皮質)の略なので、領域的な側面からはCSTC回路はこの表記で誤りではないのですが、機能的な側面からはC1・S・T・C2 回路とした方が理解しやすいです。 C1は最初の行動計画、C2は線条体で修正された行動計画です。
② CSTC回路の情報の流れは、同期→非同期→同期となる。
皮質から線条体への入力は同期した神経発火(主にγ帯域)で送られます。
線条体は抑制性のPVニューロン(GABA作動性)が密集しており、情報はここで翻訳・再構成され、線条体上のgaba投射性中型有棘神経細胞上に分散されて状態(つまり非同期)で運ばれます。そして、視床で再び同期した情報に変換されて皮質に戻っていきます。

③ 情報が線条体上で非同期となる理由は、中型有棘神経細胞上で個別に情報を修正させるためと考えれれ ます。
ある学校のクラスでIT技術を学ぶことになった。しかし学校では教えることができないので、バスに乗って(同期)個別指導塾に連れていき、個々の能力(非同期)にあった個別指導をしてもらう。そして再び集合して(同期)バスの乗って学校に戻る。こんなイメージです。
④ 視床で同期した情報になって皮質に戻ってきた情報は、前部帯状回や眼窩前頭皮質でチェックを受ける。 このチェックには二つの意味があって、一つは内容のチェック、一つは組み合わせのチェックです。
実は、 CSTC回路上には複数の行動計画が同時に流れていて、線条体への入力も複数同時入力なら、視床 からのアウトプットも複数同時になるはずです。そのため、元情報(C1)と修正情報(C2)を的確に
一対一に組み合わせる必要があり、そのためのチェックが必要になります。
⑤ そのためCSTC回路は機能面でみると、C1→S→T→チェック→C2 となります。
⑥ 修正された行動計画は実行され、目で確かめて(チェック)、OKならこれで一連の行動計画は完了して、 最初の行動計画C1は消去されます。 C1→S→T→チェック→C2→行動→チェック→C1消却
⑦ そしてここが本稿で一番重要なポイントなのですが、行動→チェックのチェック対象は修正された行動計画 なのですが、T→チェック→C2のチェックはC1とC2の一対一の対応関係にあることのチェックなので、
行動のチェックはすなわち最初の行動計画C1のチェックと同義なのです。
3.確認系強迫症の発症
上記のCSTC回路の基本を踏まえて、ここから確認系強迫症の病態論に入ります。まずは、確認系強迫症と上記基本編とのCSTC回路利用上の違いをあげてみます。
① 普通では行動計画が複数本、CSTC回路上をながれるが、確認系強迫症では1本である。
これは、次のような流れで生じます。
・元々心配性であった個人は直近のストレスで扁桃体が賦活してくる。
・この影響は背外側前頭前野(DLPFC)に及び、外界に対して危険察知の予防線を張り巡らす。
・常に緊張していることは疲れるので、意識を弛緩させてリラックスしたいのだが、神経モード変換シス
テム(SN)に偏桃体があるので、神経を集中させる(CEN)モードから、リラックスできる(DMN
)モードへの変換が難しくなっている。

・偏桃体の恐怖(不安)の精神作用に押され、また休むことも許されず、背外側前頭前野は徐々に機能低下し てくる。これは、同時に複数の行動計画を作成できなくなることを意味していて、心配事に対する行為計画(CSTC回路)が生じると他の行動計画は生じない。結果、確認行為一本の単独計画となる。
② CSTC回路の間接路調節は、ドパミンやアセチルコリン・セロトニンなどの神経伝達物質、エンケファリン やダイノルシンなどの神経調整物質を用いて行うが、確認系強迫症では加えて構造体調節を行う。
つまり、視床下核を間接路ループを加えたり、視床から線条体への再入力が行われる。

③ この結果、最初の行動計画と皮質に戻される行動計画は、C1≠C2 となる。
④ 視床から皮質にC2情報が戻されると、チェックを省いて行動計画が実行される。これは一つに偏桃体の賦 活から緊急性が高いと判断されていること、さらには、行動計画が一つしか発令されていないので、複数の 行動計画を始点と終点で一対一に対応させる必要がないからです。つまり、視床から送られてた修正版行動 計画は、最初の行動計画と必ず一対一に対応しているのです。
図式化すると C1→S→T→行動 となり視認すると、C1→S→T→行動計画C2→行動→チェック(目視)
となります
⑤ さてここからが確認系強迫症病態論の本質に係る箇所になります。 何もなければ、C2行動計画とそれ に基づく行動を目で確かめて一連の行動計画は完了するはずなのですが、今回のケースは違ってきます。な ぜなら、C1≠C2 となっているからです。
前部帯状回や眼窩前頭皮質は戻ってきた修正行動計画をチェックしますが、C1≠C2 であることを即座に 判断します。
図式化すると、C1→S→T→行動計画C2→行動→チェック(目視)→チェック(エラー発見)となります。
⑥ エラー発見により、この行動計画は未達扱いとなり、最初の行動計画C1は消除されずに残ってしまいま
す。 そのため、自分の確認に疑問を持ってしまい、これがまた新たな不安感が生じてしまいます。
⑦ この流れにより次の行動計画を立てても結果は同じになり、無限の行為ループ(確認系強迫症)が生じ てしまうのです。
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