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                                                                                        令和7年10月

妄想性統合失調症の発症仮説             


要約

 

  妄想性統合失調症は、統合失調症の一型で、主に「妄想」が中心となる精神疾患です。病状の中心は妄想で、他の症状は比較的軽度とされ、発症年齢がやや高め(30代)という特徴もあります。 

 本稿は、この妄想性統失の発症仮説を説明するものですが、発症の引き金となる始点ではなく、その後の経過(病態の進行メカニズム)にフォーカスしています。とはいえ、最初の状態を定めないと話がすすまないので、その始点を何らかの理由でグルタミン酸NMDA受容体が障害され、認知機能障害が始まった時点とします。 

 
 NMDA
受容体の障害は思考能力の減少をもたらします。これの恐ろしいことは、精神活動の中心箇所とされる背外側前頭前野にも影響を及ぼすことです。この神経部位はココロを動かす中心部位と考えられ、その障害は精神破綻に繋がります。

 そのため、神経回路の再編がおこなわれ、ココロの旧中心地である楔前部背外側前頭前野とが密な連絡をとるような新経路の再編がおこなわれます。これにより、個人は精神破綻を免れますが、その代償として妄想を受け入れてしまうのです。



.多因子疾患としての妄想性統失

 

 統合失調症の第一歩をもたらす要因について簡単に紹介します。


まずはAIcopilot)に質問してみた結果です。


  統合失調症は単一の原因で説明できる疾患ではなく、多因子疾患(polygenic and multifactorial disorderとされます。遺伝的要因(細胞接着因子、NMDA受容体関連遺伝子)、発達的要因(シナプス形成)、環境的要因(ストレス、感染、栄養など)が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。

 つまり、細胞接着因子やシナプス形成不全は「土台としての脆弱性」を形成し、思春期以降のNMDA受容体機能障害やストレスが「引き金」となって発症する、という多段階モデルが現在の主流的な理解です。

 

 簡潔で明快な回答に驚くばかりです。ともかく統合失調症の原因が多因子疾患であることを理解して次に進みます。


  


.NMDA受容体障害による認知機能障害

 
 




  

           

 上図は妄想性統失の流れをフローにしたものです。統失が多因子疾患であるとはいえ、NMDA受容体に何らかの障害が発生して統失の最初のステップ、認知機能障害が始まります。しかし、臨床的には陽性症状の発現をもってが発症と診断されることが多いので、認知機能障害は前駆症状とされることが多いようです。


 それではなぜ認知機能障害に
NMDA受容体が関係するのかということですが、それはNMDA受容体がガンマオシレーション生成の中心的な働きをするからです。ガンマオシレーション(γオシレーション)とは、脳内の神経細胞が毎秒約30〜100回の周期で同期して発火する神経活動のことです。

 
 ガンマオシレーションは、主に
GABA作動性介在ニューロン(特にパルブアルブミン陽性細胞)と興奮性グルタミン酸ニューロンの相互作用によって生成されます。 ★この説明は難しいのでここでは省略


 複数の神経細胞が同期発火し
協調して活動することのメリットは、

① 情報処理が高速化・効率化でき、それにより

② 情報処理の基盤である、視覚、聴覚、記憶、注意などの高次認知処理が可能となることです。 


 そしてこの機能を最大限生かす神経部位は背外側前頭前野です。というのは、
背外側前頭前野は神経モードのCEN

Central Executive Networkの中心部であり、同時にCSTC回路の始点でもあるからです。ちなみに、CENは意識(注意)の集中時に活性化する神経モードで、論理的思考や問題解決、注意集中などを担っています。そしてここが本稿の最も重要なポイントなのですが、この背外側前頭前野、それも皮質6層の5層こそが、ココロ、の中心箇所と予想されることです。 ★ 私の仮説 です


ついでの他の神経モードを紹介すると、

DMNDefault Mode Network内省・自己意識・記憶想起             楔前部、後部帯状皮質、内側前頭前野など

SNSalience Network顕著な刺激の検出・ネットワーク切り替え         前部島皮質(AI)、前帯状皮質(ACC)など






.神経回路再編

 
 上図は妄想性統失の流れをフローにしたものです。統失が多因子疾患であるとはいえ、
NMDA受容体に何らかの障害によって統失の最初のステップ、認知機能障害が始まります。しかし、臨床的には陽性症状の発現をもってが発症と診断されることが多いので、認知機能障害は前駆症状とされることが多いようです。

 認知機能障害は徐々に進行します。 しかし放置すると最終的に精神破綻に至ってしまうかもしれません。そこで脳内神経システムは神経回路の再編を行って対処しようとします。






                   


 神経回路の再編の結果、楔前部から背外側前頭前野へダイレクトな情報を送れるようになります ★ 仮説です

それまで、楔前部から背外側前頭前野への連絡は、DMN回路で情報を統合した後、その情報を背外側前頭前野行っ
ていました(間接路)。それが見かけ上、両者は一本道(直接路)で貫通したような状態になります




    

 

 それではなぜ、楔前部が神経回路再編の中心部位になるのでしょうか。


 そのため、まず楔前部の情報を紹介します。楔部は後頭葉のことで、その前部ということで後頭葉よりやや前に位置しています。機能的には、自己意識・視空間認知・エピソード記憶などに関与しています旧脳に近い神経部位に、前頭前野に似た神経機能を持っていて、ややアンバランスな感がありますが、これは楔前部が乳幼児期のココロの主体領域であると仮定すると納得できます。

 
 背外側前頭前野は思春期以降、
NMDA受容体が成熟した後のココロの中心領域です。それではそれ以前のココロの中心地はどこにあったのか。おそらく、脳内情報が集積しやすい神経部位で、加えてその情報を統合処理できるシステムを備えている箇所となります。個人の発達段階に応じてココロの中心部位は変遷していくと思いますが、最初はまず楔前部から始まったのだと思います。


 グルタミン酸受容体の主な受容体はNMDA受容体とAMPA受容体です。両者は、時間的・機能的に連携しながら神経活動を調整しています。統失はNMDA受容体の障害による認知機能障害がまず始まります。そのため、背外側前頭前野は精神破綻を防ぐために、AMPA受容体を中心とした体制に移行せざるを得なくなります。しかし、そのノウハウがない。そこで、乳幼児時代のココロの中心地である楔前部の情報統合能力に助けをもとめることになったのだと思います。ちなみに、楔前部は乳幼児期のグルタミン酸利用システムがAMPA受容体が主力であったことも、選ばれる理由なのでしょう。




4.代償としての妄想




   
 

 

 
  

楔前部背外側前頭前野の補完的役割を果たすことによって、認知機能障害があっても精神破綻せず日常生活を送ることができます。しかしその一方で代償を支払うことになります。それが本稿のテーマである妄想の出現です。

 
 妄想発症仮説の前に、基礎的知識として大脳皮質6層構造の機能について解説します。

感覚情報が視床経由で皮質4層に入力されると、4層はその情報を分析して、3層と5層に情報提供します。3層は受け取った情報を2層に流し、また脳内各所に情報を水平伝達して分析してもらい、解析情報を受け取ります。情報を受け取った3層は受け取った情報の価値判断をして、必要とあらば5層に情報提供します。しかしそこには4層が存在して、3層から5層へのグルタミン酸投射の関門(関所)の働きをします。グルタミン酸投射細胞の周辺には抑制作用を持つGABA神経細胞が存在して、そのGABA神経細胞上に抑制性のドパミンD2受容体が存在します。

 このシステムによって、3層から5層への情報通路がgabaによって抑制され、ドパミンD2受容体によって、抑制×抑制によって、情報通路は再び開くということが可能となります。





  


 DMNDefault Mode Network)は、脳が外部の課題に集中していない「安静時」に活性化する神経ネットワークです。CENからDMNへの切り替えの主目的は、「精神の休息モード」の意味合いが強いので、CENの内容はほぼフリーハンドで、ただ単にボーとしている状態から、自己の振り返り、記憶の整理、未来の想像、他者理解など多岐に渡ります。

 ところが、妄想性統失患者(認知機能障害が主症状)の「自己と他者の関係性理解」は、消極的・批判的・被害感情が特徴的であると予想されます。これは、乳幼児時代に遡る「愛情不足」の問題や、認知機能障害による自己嫌悪感がベースにあるものと思えます。たたしこれはDMNのでの単なる思考内容なのでそれほど意味がないのですが、問題なのはその継続性と強さにあります。当然これらの思考は皮質3層を通じて背外側前頭前野にダイレクトに届いてしまいます。

(上図参照)


 そしてこれもまた仮定なのですが、背外側前頭前野3層でのドパミン濃度が上昇していれば、gaba抑制細胞に抑制をかけて3層から5層へ何の抵抗もなくダイレクトに届いてしまいます。そしてそれが何年にも渡って続いていきます。

 さらには背外側前頭前野5層はNMDA受容体の機能障害のため機能低下しています。そのため3層から届くやや妄想的な思考を押し返すことが出来なくなります。そしてこの両者の力関係はいつしか(何年もかかって)3層からの思考が優勢となってきます。 そのまま放置すると5層と3層の距離感が限りなく0になり、ココロの主体領域の分裂の危機が生じるので、3層からのやや妄想的な考えを取り入れざるを得なくなります。そしてこれが関係妄想や被害妄想という形で顕在化してくるのです。


 ところで、妄想型統合失調症においては、男性は30歳前後、女性は40歳前後での発症が目立つという性差が見られます。これは一つに女性ホルモンのエストゲンによるものと思われます。エストロゲンにはセロトニンを合成する作用があり、そしてこのセロトニンはドパミンの異常活性を抑える機能があります。そのため、背外側前頭前野第3層におけるドパミン作用を抑制し、これが妄想生成を防ぐ働きをするのです。しかし、女性では40歳前後からエストロゲンの濃度が下がってきます。そしてこれに対応するように妄想性統失が顕在化してくるのではないでしょうか。