ここに掲載しましたのは拙著「実践コンサルタント教室」(ビジネス社)です。
20,000余部出て在庫が無くなりましたので、ご要望ぬよりこのHP上に場を借りて、すこしづつ
連載していきます。原本をスキャナでとってますので読みづらいのはお許しください。

                                   川口 ももんが








コンサルティング能力なしに仕事はできない

                                                                                      14

娑婆で力のある者を地獄でコンサルタントに仕上げる
株式会社○○○総合研究所には、毎年おびただしい数の自薦他薦による入社希望者があり、その内
で社員として適格なものを採用している。入社希望者がコンサルタントに対していだいている職業
としてのイメージと、入社後のコンサルタントの実務にはとても大きなギャップが感じられる。こ
のギヤップは、簡単にいってしまえば、入社希望者がコンサルティングを学究的、静作業的である
と思っているのに対して、実際のコンサルティングは、生味で泥臭いということから発生する。
事実、国家資格をもっているということで、そのままコンサルタントヘ直結しているかのように
考えている人が、案外多い。むろん国家資格とコンサルティングはまつたく関係がない。かえって、
根暗く資格のための受験勉強をやりぬくタイプの人にはコンサルタントとして不適格な人が多いと
いえる。資格というのは無いよりあつたはうがよいものである。だから弊社にも資格保有者は多い
が、その者たちは、コンサルティングの敵性があったためによって採用された人たちなのである。
コンサルティングという専門職業に入ってくる新入(中途採用の場合)はほとんど、もともと経営
のある分野について経験や力量がかなりある人たちである。それが商品分野での経験であったり、
財務であったり、マーケティングであつたりするが、その分野の業務の執行については、これはと
いう力のあると判断されるものしか採用されない。                    
反面、実務で有能な人であればあるほど、コンサルティングについての実際の知識と経験がない
のが一般的である。だから、コンサルティング業務にかかわる独特のノウハウの教育は、入社後に
徹底させることを前握として採用活動を行うことにしている。結局、「娑婆で力のある者を地獄で
コンサルタントに仕上げる」わけである。

すべてのビジネスマンにコンサルティング能力が必要

昨今は一億総コンサルタントの世の中である。あらゆる企業がコンサルティングを看板に掲げて
本業を行っている。古くは、内業業者や建築業者や広告業者が多かったように思えるが、いまや業
種を間わずに、「わが社はコンサルティングを通じて、お得意先様の繁栄にご奉仕いたします」が
うたい文句になっているのは、現今の取引が、旧来のように商品の売買にとどまらず、企画営業や
ディーラーヘルプスの実施等々、高度化、複雑化していることが背景としてあるためであろう。
加えて、コンピュータシステムの導入が、コンサルティングセールスの形態を決定的なものにし
たのは、コンピュータの売り込みは極めて専門的な指導援助を必要とするものであると同時に、方
針・手続・方法等を総合的に提案しなければならないためであったろう。
このように、システムパッケージをセールスする業務が一般的になるに従い、あらゆる分野でコ
ンサルティングセールスカの必要性が認められ、 一般化した。
こうした土壌の上に、新たに、システム営業の発展、なかんずくフランチャイズシステムが幅広
く導入されるに及んで、指導援助業務(コンサルティング)の重要性は普遍性をもつに至った。まさ
にコンサルティング花盛りである。コンサルティングばやりはいまや金融業界にも及び、銀行のコ
ンサルティング会社づくりは一巡し、証券業界にまで及んでいる。
都市銀行の多くが○○経営研究所株式会社を設立した。おもしろいことに小さすがに銀行のコン
サルティング会社は、お客様には不自由しないと聞いている。各親銀行とも数万社の資金の貸先が
あるのだから当然だろう。
その割に、銀行系のコンサルティング会社の多くがうまくいっていないのには訳がある。いわゆる
前進的指導理念がないためだといわれている。銀行でひと昔前、幅をきかせていたものに調査部
があったが、表向き経営相談所といわれていても、実は与信部である。当時銀行は、金を貸さない
のがノウハウだという観があり、与信部が資金の貸付の許諾権を握っており、ここに財務管理の専
門家が集中していたものである。
世ほ変わり時は過ぎ、今、銀行は金を貸したくて仕方がない。そのためにできたのが銀行さんの
「株式会社○○総合経営研究所」だと悪口をいう人がいる。株式会社○○店舗開発が、コンサルティ
ング部門をつくり、本業の店舗開発の受注を促進しようとするのと同じ理屈である。
○○経営研究所を作ってみたが、銀行にも不思議と経営の解る者がいない。仕方がないから、資
金の押し売りのために作った研究所に、昔の「貸さないノウハウ」の専門家ばかりを寄せ集めてき
た。だから、初期の設立日的を来たせず、教育やコンピュータシステムの押し売り屋になっている
例も多い。
かくて、企業によるコンサルティング活動の裾野はますます拡大しており、いまや個人にも及び
つつある。銀行や証券会社のライフプラン、不動産会社による税務対策など枚挙にいとまがない。
以上、企業が外部に対して行うコンサルティング業務についてみてきたが、企業内部に対するコ
ンサルティング技術の必要度はとても外部に対する比 はない。指導援助(コンサルティング)能力
の強化は企業内部において、企業の存否を左右するものとなってきている。その理由は、従来のよ
うに命令だといって上から下への組織的強制ができなくなったこと、給料が欲しけりゃ黙って働け
という経清的強制がきかないことなどにある。
日常の企業活動において、タスクフォースゃプロジェクト運営が一般化している今日、過去の執
行管理だけでは会社は動かず、指導援助力の強化育成が急務になっている。

コンサルタントの資質として重要なこと
 
本稿を書き出した動機は、筆者が弊社の新人を、プロコンサルタントに、教育する立場にあるから
である。だが、世の中のあらゆる企業で求められている指導援助業務は、何もプロのコンサルタン
トだけに任せておけば良いというものではない。ぜひ、読者の皆さんにコンサルティングのコツを
学んでいただき、あなた自身にコンサルティング能力を身につけて欲しい。           17

そのためにはまず、コンサルティング業務の最大の特性を理解いただかなければならない。
前述のようにコンサルタントは、なにかの分野での知識・経験において、卓越した力量を持ってい
なければならない。これはすべての前提である。そして、読者のあなたも、プロコンサルタントに
なる気のある人もない人も、あなたの会社の業務を通じて相応の力量を持っている人であることが
この話をすすめる上での前提である。
一般の業務の執行と指導援助業務の違いはこれから先にある。すをわち、 一般の業務の執行は、
権眼・命令によって実現されるのを常とするのに対し、指導援助業務は、業務命令なしで実施せね
ばならない。よってたつ権限はないし、発言は提案にとどまる。幸い依頼者である経営者が、権眼
を行使して執行業務を肩替りし、提案を実現してくれるのであるが、必ずしも、その保証もない。
命令によらず、説得と納得よって、物事を実現していくコンサルタントの業務の最大の特性が、こ
れである.権力によらず権威でことをすすめるという業務の特性により、様々なコンサルティング
業務独特のありようがあり、それがコンサルティングのノウハウとなり、コンサルティングの能力
を形づくっているのである。  
コンサルタントとして大事なことは、第一に、ある分野での知識と経験、次に権威の形成、その
上で「成功する方法」を実施させるノウハウの修得である。
以下に第1章を通して、権威づくりの方法と「成功法の実践法」について許述するつもりである。
成功法については○○流成功法があるから、本稿の役割○○流経営法を読者であるあなたが他の
人に実施してもらう方法を研究することにある。たとえば、○○流経営法に「市場で一番になれる
商品を必ずもとう」とあるので、われわれの研究課題は多数のお得意先様に、「一番主義」を納得
してもらう方法の研究であったり、そのための学習会の運営のコッを理解させる方法であったり、
また、ある特定の得意先で「一番商品づくり作業」を始めてもらうやり方であったりする。
次にコンサルティングノウハウの基本を述べていこう。

正しいことをやらせるコンサルティングはダメ

周知のように、相談者は必ず結論をもっている。日常生活でもよくあることだが、あなたの部下
の中村君が「折り入って相談があります」とやってくる。部下思いのあなたは「じゃ、食事でもし
ながら」と一席もうけたりするだろう。
聞いてみると、やっぱり、総務部の山田花子が好きだ嫌いだという中村君本人にとっては相当深
刻な悩みらしい。多くの場合、このような相談にのるはめになって損しない例はない。筆者もそう
だが、いつものことでわかってはいても、本人が悩んでいるので、真剣に中村君の話を聞き、ああ
でもないこうでもないと相談にのる。話の方向によっては「あの娘はやめといたほうがいい」など
ということになったりするともういけない。結局は、中村君が「花子のどこが悪い、 さては、あ
んたは花子に下心があるな」などといって店を出ていく。残されたあなたが、いやな思いをしなが
ら食事代を払うことになる。
+++++++++++++++++++++++++++++++ここまで校正済み++++

相談者は必ず答を持つている。相談者があなたに期待しているのは、答についての確信とその実
現のための手段、千)順についてのアドバイスであることが多い。このことは肝に銘しておかねばな
らない。むしろ、逆説時な言い方だが、答を持っていないような相談者の相談を決して受けてはな
らない。したがつて、コンサルタントのをすべきことは、相手のやりたいことを、より楽に、ェり
早く、より正確に、より安全に、仕上げるための援助をすることである。
筆者の過去の指導歴で言えば、相手の納得していないことをやってもらって、成功した例はほと
んど皆無であった。くビく繰り返すが、理論的に正しいことやよそで正しいときれていることをコ
ンサルティングの場で方向づけしてはならない。それは学者や評論家の職分であり、コンサルティ
ングの領域ではないことを十分心得るべきである。ここが一番、新米コンサルタントの陥りやすい
誤ちのようだ。
極端な例だが次の例を考えてみよう。
ある結合小売業の経営者N氏は、K県の郡部のS町に一五〇〇平方打の店舗を出店しようと決心
し、幸いにして地域の大店法の結審もボリた。このことは当時の通産省の大店法の運用下ではまこ
とに偉倖ともいうべきことで、N氏は店舗開発を急ぎたかった。そこでN氏は、店舗の建物の設計
をT氏に依頼したが、この時点で建設計画が一歩も前進しなくなった。
筆者は、N氏から商品構成に対する助言の使頼を受けてS町を訪間したのだが、建物の基本設計
下こ力用も頂空したままなので苛皐蒔岐やレイアウトの仕事がまったくできない。設計が進まない。

理由は、聞かずとも図面を見てすぐわかった。N氏は、いわゆる方位方角をとても気にする人なの
だ。             ・
一方、設計士のT氏は人並みはずれたまじめ人間で、N氏のためを思って、合理性をトコトン追
求しようとしている。N氏は設計士のTさんのましめさに惚れ込んでいるので図面のほうがにっち
もさっちもいかなくなってしまっているわけだ。
こんな場合は、解決はいとも簡単である。経営の立場で考えれば、何にもまして、経営者N氏の
納得を一番大事にしたあとで、次に合理性を過えばよい。結論は、建物の開田部は方角の悪い方向
に向けをい。ただ、どロティを作って設計士T氏の一番合理的とする場所に各を入れる。それによっ
てTさんの要望通り駐革場に近い位置に客の出入日が出来た。▼しうして、ものの一〇分で建物の型
が決定した。
もちろん、ビロティを作ることで相当の出費増となったが、経営者の不安を残すことにくらべれ
ば、まったくとるにたりないことである。
同じようなケースを例に引こう。
ある年の正月早々広島県の楽小都市のスポーツ店のS専務がご相談にみえた。S専務はかなり高
齢の女性准営者だが、ものすごい頑張り屋として有名な方である。相談の趣は次のようなことだっ
た。
「うちではまだ若い長男が店を継いでくれることになつて幸せです。仕事を維がせるにしても日

舎の店ではなんですから、先生もご存じのとおり、F市(人日一七万人)に五〇〇平方メートルの
スポーツ用品車円店を長男に出店させましたところ、思いのほか順調です。元旦の家族が揃ったと
ころで、長男が申しますのは、これからはスペシャリティストアの時代でもあるし、同じ出店する
なら大きな商売のできる大都市がいい。本店を閉めて資金をつくり小W市あたりに本店を移そうで
はないかというのです。私たち夫婦も長男がはりきってくれることはうれしいことなのですが、先
生、移転はいかがなものでしょうか」という質問であった。
筆者の答えは「だめです。本店を移してはいけません」
この手の相談事は、コンサルティングになれていると「否」といってほしくて相談に来ておられ
るのが手に取るように解る。そのうえS専務は「塁色判断」という占いの類にかなり焼 ていらっ
しゃることも知っていたから、S専務は筆者のところへおいでになる前に「墨色判断」のほうに寄っ
て来られたのはまずまちがいないと思えた。
墨色判断というのは半紙に筆で漢数字の一を書いて、その墨の濃淡や塁跡の勢いなどを見て術者
が占断をするもののようである。  r
S専務ご本人の心がすでに完全に「否」に固まっているのだから、長男の計画をどんなに論理的
に展開してみても始まらない話であるし、S専務本人が、納得し切っていない投資をさせれば必ず
失敗するものだ。
実は筆者には「否」といチベき十分な根拠が用にあった。


                以下、24ページからは次のアップロードまでお待ちください。