はじめに
 星を見るといっても、やはり何も知らずに見るより、有る程度知識を付けた上で見た方が言うまでもありません。それはどんな分野の趣味でも同じです。例えば望遠鏡を覗いたとして、土星を望遠鏡で見たとします。なにも知識がなければ、「輪が見えた!」でも「こんな小さくしか見えないの?」それで終わってしまっては詰まらないと思います。あの輪はどんなものから出来ているのか。土星は一体どの位の距離にあって、実際の大きさはどの位なのか。また現在、土星の周りにはアメリカのNASA の探査機が周回しているという事実を知っていたら、僕らの小望遠鏡で見えるあの土星はもっと興味深いものとして見える事でしょう。

 また、星空を眺めていても、様々な色や明るさの星が見えますが、星の色が青い星は温度が高く、赤い星は温度が低い。という知識があったり、星座にまつわるギリシアの神話を知っていたなら、星空はもっと生き生きと見える事でしょう。

 ここではそうした星空を楽しむための星の基礎知識を説明したいと考えています。「太陽系内の天体」コーナーでは、各惑星の横に地球が表示されていますが、これは各惑星に比べて地球がどの位の大きさかを視覚的に分かり易くするための工夫です。この様に各コーナーでも視覚的に宇宙の大きさや、天体の大きさが分かるように工夫をしております。さらに「必要なものコーナー」では、星を楽しむのに持っていると便利なもの、必要なものの紹介をしております。それではリアルスペースの世界へいってらっしゃい!

望遠鏡でどの位の大きさで見えるのか
17インチのモニターをお使いであれば、1024X768の解像度に設定してください。20センチの距離から見て頂きます。黒い円内に惑星が並んでいますが、各惑星を左から50倍、100倍、200倍、300倍で観察した時の大きさです。20センチの距離から見た時、黒い円は、見掛け視界40°の接眼レンズの視界となります。

各惑星の画像は、シチズンアクティブの上原氏の惑星写真やクレーターの写真を元に加工を致しました。無断転載厳禁です。各惑星の大きさは、内惑星を除き、各惑星が一番大きく見える衝の時期の視直径をペースに計算しております。

見え方に影響を与える外的要因〜シーイング/シンチレーション/透明度
 望遠鏡で星を見ていると、日によって随分と見え方が違う事に気付きます。惑星などを高倍率で観察していると、日によって細かい模様まで見える日もあれば、川底の石の様に揺らめいてぼやけてしまい良く見えない日もあります。また星雲などを比較的低倍率で見ていると、星雲の淡い部分まで良く見える日と星雲の濃い部分しか見えない日があります。前者は、大気の揺らぎに関係し、後者は、大気の透明度に関係しています。大気の揺らぎの事を「シンチレーション」といいます。シーイングとは、本来シンチレーションと透明度の両方を勘案したものですが、シーイングと単に述べた場合、しばしばシンチレーションの事を言っている場合が多いようです。

 下の写真は、シンチレーションの小さい時とシンチレーションの大きい時の惑星の見え方のシミュレーションである。極短時間の間に急激に良くなったり、その反対に良く見えていたものが急激に悪化したり、短い観測時間の間にも空の状況は刻々と変化していきます。日本列島は、ジェット気流の真下に位置しているため、シンチレーションの大きく惑星像がぼやけて見える日も多いのですが、粘り強く観測していれば、「この望遠鏡はこんなに見えるのか!」と驚くほど細かい模様が見える日もあるはずです。また、観察する惑星が、地平線に近いと大気を斜めに横切ってくるため揺らめきは大きくなります。出来るだけ空の高い位置に来る時「南中時刻」に観察するのが良いでしょう。

 また、冬は、シンチレーションが大きい日が多く、比較的夏の方がシンチレーションが少なく良く見える日が多いものです。透明度が高く、シンチレーションが小さな日が一番良いのですが、なかなか2つの条件が両立する日は少なく、透明度の高い日より、何となくドヨ〜ンとした日の方がシンチレーションが小さく惑星や月面を観測するにはうってつけな日が多いようです。

 さらに望遠鏡の種類によって望遠鏡の鏡筒の内部と外部の温度が異なると(特に冬場や夏場の様に部屋の内外で温度差がある時)鏡筒内部で激しい対流が生じ高倍率での観測時に、像が悪化する事が良くあります。反射望遠鏡や、シュミットカセグレン、マクストフカセグレン、その他カタディオプトリック光学系では顕著に発生します。その様な望遠鏡では、温度順応するまでは比較的影響を受けにくい低倍率に向いている対象(星雲星団など)を観測するなど工夫をしてください。筒内気流の発生しにくい屈折望遠鏡も、大型になるとそれなりの温度順応が必要であることを申し添えて置きます。

見え方に影響を与える内的要因〜望遠鏡自体の性能によるもの
上図一番左は、口径10センチ超クラスの良質な天体望遠鏡で好条件下で見た土星像です。カッシーニの空隙は輪の全周に渡って確認する事ができ、表面の模様(温帯縞)も確認できます。上図真ん中は、私が所有しているビクセンNA140SSによる土星像です。ネオアクロマートと呼ばれる色収差がやや残る鏡筒で、色収差によって青い滲みがあります。青滲みにより土星の色が少し変色しているのが分かるでしょうか?ただ球面収差が非常に少ないレンズなので土星の像自体は非常にシャープです。一番右は、粗悪品と書いてありますが、レンズに問題があったり、光軸がずれているとしばしばこの様にぼけて見えます。光軸のズレは調整できますが、粗悪なレンズの望遠鏡は、修復は不可能です。
倍率の限界
適正な倍率で観測する事は重要です。一部メーカー製の望遠鏡(ケンコーやナシカや無名メーカー)製の望遠鏡は、とんでも無い高倍率を謳うものも存在しますが、どんな高性能な望遠鏡でも対物レンズ(鏡)の口径をミリになおしてその2.5倍の数値の倍率が限界です。(60mm の望遠鏡であれば150倍)口径ミリの2.5倍以内の倍率でも、倍率が高くなればなるほど、前述のシンチレーションの影響を受けやすくなり、倍率を高くすればするほど、望遠鏡の震動が像のブレにつながりますから望遠鏡を支える架台の強度も必要になります。また視野も狭くなり、モーター付きの自動追尾できる架台でないと、星は日周運動により動いていますからあっという間に視野の外に逃げていってしまいます。また倍率を上げれば上げるほど、望遠鏡のマスターレンズ(対物レンズ)の性能が高いもので無いといけません。さらに倍率を上げれば上げるほど下の写真の様に像は暗くなります。さらに口径ミリの2.5倍の倍率以上で見ても下の写真の様に暗くぼけるだけです。公共天文台の対物鏡の口径が60センチもあるような大型反射望遠鏡でも、観望会などで使用する倍率はせいぜい300倍程度だという事を覚えて置いてください。

 では、観測時に土星を観測するとして、どのような倍率で観測するのが良いのでしょうか?口径8センチ程度の望遠鏡を例にとりますと、まずは数十倍の低倍率で土星を視野の中心に導入します。次に100倍程度の倍率に上げて見ます。良く像を観測し、シンチレーションも少なく高倍率を使える条件下であれば、さらに倍率をあげ150倍前後で観測を行います。普通はこの辺りの倍率で終わりですが、稀に条件が良くシンチレーションが少なく倍率がさらに上げられそうな時200倍を試してみます。この倍率でぼやけてしまう様であれば、また見易い倍率に落とします。この様に、して一番使い易い倍率で望遠鏡を使うのが快適に観測するコツです。

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