私と天体時計との出会い
モデル名バーゼル1986(右の写真)はコスモサイン商品化決定のきっかけになった初代コスモサインのプロトタイプである。スイスのバーゼル市で開催された世界最大規模の時計・宝飾品 の展示会として名高いバーゼル・フェアーは、毎年春の訪れと共に開催される。1986年4月に開催されたバーゼル・フェアーで発表された上原氏設計・開発の本モデルは、世界初の星座早見内蔵ウォッチとして注目され大変大きな話題となり、その反響によって9月に国内で販売モデル発表、12月発売が実現しました。大変希少なモデルでWEB上ではもちろん他のどこにもほとんど存在しない写真です。

 私が初代コスモサインの腕時計を最初に手にしたのは、何年前の事だろうか。時計屋さんの店頭で見て、そのあまりに精緻な作りに息を飲んだのを覚えています。当時私は高校を卒業したばかりで留学に向けて色々準備が忙しかった時期でした。そんな時、上原氏が開発した世界初の星座表示時計であるコスモサインという腕時計に出会いました。具体的な値段は覚えていませんが、それまで数千円の腕時計をしていた高校を卒業したばかりの私には身分不相応な価格である事は間違いの無い事でした。その場で買えるお金が財布に入っている筈もなく、家に帰り部屋にある貯金箱をひっくり返し、さらに足りない分を、次の望遠鏡機材購入の為に貯めていた貯金の一部を銀行口座から引き下ろしました。なんとか購入の為の資金は目処が付いたのですが。それにしても大きな金額であったので一晩考える事にしました。(というか心は、決まっていたのだけれど、)その日の夜は、時計の事が頭を駆けめぐって寝付きが悪かったのは言うまでもありません。

 翌朝は朝食後、時計屋さんの開店時間まで随分と長く感じたのを覚えてます。開店時間の前から時計屋さんに行きシャッターが開くのを「いまか、いまか」と待っていました。時計屋のオヤジさんは、僕がシャッターを開けたら店の前に立っていたのでびっくりした顔をしていましたが、すぐ笑顔になり店内に招き入れてくれました。元来話し好きの私は、コスモサイン購入後も随分と長い時間時計屋さんの店頭で話をしていた記憶ですが、なにを話したのかは覚えてはいません。最後に「良い時計だから大事にしなさい。」と言われたのを覚えているだけです。購入したコスモサインは、実際素晴らしい時計でした。自分の左手首に眼を落とすとそこに宇宙があるのが素晴らしかった。その日は一日中説明書片手に、時計の機能を把握するのに時間を費やしました。

 本当に精緻な作りで、しばしば虫眼鏡で星座板を見ていたが驚くほど細かく精緻な作りで見れば見るほど素晴らしい腕時計でした。時計の針とは逆に半時計まわりに回転する星座板は極めて正確で、実際の星空と同じ様に約23時間56分で1回転するのです。今から丁度1年後の同時刻に同じ星空が現れる。それが凄く不思議でした。一日24時間を正確に刻む時計の機能と、一日約4分ずつ進んで行く星座板、違う時間の流れが同居し1年後に会合する時計と星座盤、そんな不思議な時計がコスモサインという素敵な腕時計です。

 その後、この時計を開発したシチズンの上原秀夫さんとお会いしたのは、帰国後就職した河出書房新社が当時発行していた季刊天文誌「星の手帖」の編集部でした。当時星の手帖では、ミュージアムショップに卸す、様々な教材商品の開発が進んでいましたが、上原さん開発の秒単位まで読める驚異的な精度を誇る日時計「スーパーサンダイアル」(なんと大気差まで補正)をペーパークラフト化する商品化会議の席上であったと記憶しております。日時計と言えば、それまでの私のイメージは、大きな公園の片隅にあるオブジェの様なもので、時間を知る目安になるだけのものでした。しかし良く考えて見れば、太陽の動きは正確そのものです。そこに目を付け、さらに大気差(高度により実際より太陽や星が浮き上がって見える現象、低高度になるほどその影響は顕著になる。)まで追い込み、秒単位まで読める日時計を作ることなど、上原さんとはなんと凄い人だと思ったと同時に、あの精緻なコスモサインの腕時計も、上原さんでなければ作る事は出来なかったと大いに納得したのを覚えています。
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