接眼レンズの役割

望遠鏡の対物レンズ(鏡)で集められた光は、焦点で像をつくります。その焦点にトレーシングペーパーやすりガラスを置くと良く理解できます。

 月で試すと分かりやすいですが、月の場合、焦点の位置に対物レンズの焦点距離の約100分の1の小さな像が出来るわけです。例えば焦点距離が1000ミリのレンズであれば、直径約10ミリの像が投影されるわけです。対物レンズの焦点距離が同じであれば、直径3センチのレンズであろうと直径15センチのレンズであろうと同じ大きさの月がすりガラス上に投影されることになります。3センチのレンズと15センチのレンズのその投影される像の違いは何でしょうか?

 一番すぐ気付く違いは、その投影された像の明るさでしょう。3センチのレンズと比較すると15センチのレンズは、光を集める面積が25倍あります。同じ直径10mm(同面積)の月の像に25倍も明るい像が投影されているわけです。さらに詳しくその像を比べると口径15センチの対物レンズによって作られた像は、ずっとシャープで細かい部分が映り込んでいることに気付くでしょう。これが分解能の違いです。

 接眼レンズの役割は、この小さな焦点像を拡大するルーペの役割をします。同じ口径の対物レンズでも精度が悪い粗悪品や調整不良のレンズは、焦点像がシャープでなくボケてしまいます。粗悪なレンズや光軸などが調整不良のレンズでは、ルーペの倍率を上げても細かい模様は見えてきません。

 また最高倍率は、口径をmmで表した数値の2倍から2.5倍となりますが、これは精度が良い対物レンズの話で、精度の悪いレンズでは、この倍率は望めないと言う事です。精度の悪いレンズでは、焦点像が様々な収差やその他の原因で十分シャープでなく接眼レンズで無理に拡大してもシャープには見えません。この様な場合、対物レンズの性能に見合った倍率で使用する事が肝要です。

 逆に、低倍率での広い視界を大口径で楽しむ為の望遠鏡で、ドブソニアン式の反射望遠鏡がありますが、高倍率での観測をしないのであれば、対物鏡の精度は、低くても低倍率で問題が出ない程度に精度を落としても影響は無く、比較的安価な反射鏡を使用しコストダウンし広視界・低倍率・強力な集光力で星雲・星団を楽しむための望遠鏡も存在します。低倍率でシャープに見えれば良いのであれば、高額な高精度鏡は単なるオーバースペックで必要無いわけです。

接眼レンズの重要性

いくら対物レンズが精度よく仕上げられていても、焦点像を拡大する役割のルーペに当たる接眼レンズの性能が悪ければ当然シャープな天体像は望めません。。望遠鏡は、対物レンズ50%接眼レンズ50%と言われる由縁です。

 ちなみに3センチと15センチの解像力には大きな差があります。解像力の低く、明るさの限られた像を無理やり拡大しても暗くボケた像になるわけです。ここまでの説明から分かるようにこのような点により望遠鏡には口径により適正な倍率というものが存在するわけです。

アイピースの焦点距離と倍率の関係

左の写真をご覧下さい。どの接眼レンズにもアルファベット記号と ○○mm と長さが書いてあります。この数字はアイピースの焦点距離を表しています。

倍率=対物レンズ(鏡)の焦点距離÷接眼レンズの焦点距離という式で求められます。

また、望遠鏡の対物レンズは焦点距離を変えることができませんので、倍率の調節はすべて接眼レンズを交換することで行わなれます。上の式から分かりますように、接眼レンズの焦点距離が長くなれば相対的に倍率は低くなり、接眼レンズの焦点距離が低くなるほど相対的に倍率は高くなります。倍率が低くなればなるほど、見える範囲が広く明るくなり、倍率が高くなれば高くなるほど見える範囲は狭く暗くなります。実際の観測では、見る対象に応じて焦点距離の異なるアイピースを交換することにより、最適な倍率で星を観測します。

接眼レンズの種類は、色々あります。カメラのレンズと同じように、古典的なものから、先進的なもの、廉価なものから、一本10万円以上する超高級品まで存在します。内部に使用されるレンズも簡単なものでは2枚のレンズから、10枚前後のレンズを使用する複雑なものまで存在します。接眼レンズのアイレリーフ(この長さが覗きやすさに関係します)

接眼レンズの基礎

接眼レンズは、組み合わされるレンズにより沢山の種類があります。ここでは代表的なものをご紹介します。接眼レンズは、一般的に2群以上のレンズの組み合わせで構成されています。下の接眼レンズの断面図は、左側が対物レンズ側で右側が眼で覗く側になっています。対物レンズ側(左側)のレンズを「視野レンズ」もしくは「ひらき玉」といい視野をひろげげる役目をしています。眼で覗く側のレンズ(右側)のレンズを「眼レンズ」もしくは「のぞき玉」といいます。接眼レンズは大きく分けると正の接眼レンズと負の接眼レンズがあり、負の接眼レンズとは「視野レンズ」と「眼レンズ」の中間に焦点があるものをいい、正の接眼レンズとは、「視野レンズ」より対物レンズ側(この図で言うと視野レンズの左側)に焦点があるものをいいます。また正の接眼レンズも負の接眼レンズも、その焦点位置に「視野しぼり」というドーナツ状の金具があり、その位置に対物レンズの焦点像が結像します。ここに十字線を入れれば、望遠鏡のファインダーの様に視野内に十字が入ります。

トラディショナル・タイプ接眼レンズ
負の接眼レンズ
ハイゲン式      1703年 1703年にハイゲンス(ホイヘンス)という人が設計したのでこう呼ばれています。アイレリーフが極端に短いのであまり短焦点のアイピースは作られません。
見かけ視界は40度程度です。二枚の平凸レンズを同じ向きに配した構成です。口径比15程度の古典的な屈折望遠鏡に使用すれば視野の中心部は非常にシャープです。口径比10以下の望遠鏡の組み合わせでは球面収差が増大し像がぼけてしまいます。
ハイゲンスの視野レンズをメニスカスレンズにした改良品でハイゲン式に比べると球面収差が減っています。口径比10までの屈折望遠鏡と相性が良く、アクロマート対物の屈折望遠鏡の青色の収差を打ち消す働きがあるといわれています。レンズに貼り合わせ面がないため太陽観測に向いています。ニコンや五藤光学、ツァイス製で良いものがありましたが、20年くらい前の普及品の望遠鏡についていたものは、良いものは少ないのでご注意を。
ミッテンゼー・ハイゲン式       1800年頃
正の接眼レンズ
ラムスデン式     1783年 1783年にイギリスで正直者のジェスと呼ばれていた精密機器の技師ジェス・ラムスデンが考案した接眼レンズです。二枚の平凸レンズ(片側が平面でもう片側が球面のレンズ)を球面側を内側にして配置したレンズで、見かけ視界が30度くらいしかありませんし、色収差が発生するので最近はほとんど使われません。
ケルナー式      1849年
オーストリア人の顕微鏡技師のカール・ケルナーが顕微鏡用の接眼レンズとして開発した接眼レンズです。。ラムスデンの目に近い方のレンズを二枚あわせにしたアイピースで像面の湾曲がやや多めです。視野の周辺まで比較的シャープなのが特徴です。口径比が8以上の反射望遠鏡や屈折望遠鏡の低倍率から中倍率用として良く使われます。
アッベ・オルソスコピック式               1880年

ドイツのエルンスト・アッベが考案した(クラシックカメファンならご存知ですよね。)3枚貼り合わせの視野レンズとアイレンズとして1枚の平凸レンズを組み合わせた接眼レンズです。

特に3枚合わせの視野レンズの組み立てに職人技を必要とするため近年はほとんど作られなくなりつつあります。大変高性能な接眼レンズで各種の収差が非常に良く補正されていることから、重星の角距離の測定などに使われたり、惑星観測者に好まれるアイピースです。近年新型アイピースの出現で影が薄くなりつつありますが、新型アイピースと比べるとレンズの枚数が少ないせいもあり、抜けが良い視界で、もっと注目をしても良い接眼レンズといえます。この少ないレンズ枚数でこれだけの性能を実現したエルンスト・アッベは、やはり只者ではないということでしょう。またまだこの日本にこの微小なレンズを正確に組み立てる職人がいることに乾杯です。(^^)

プロースル・オルソスコピック式          1860年 G.S.プロースルが発明した接眼レンズです。彼は18歳の時にドイツのカメラ会社「フォクトレンダー」に見習いとして入社しそこで技術を磨きました。その後独立し、自分で設計した顕微鏡の対物レンズやオペラグラスを作っていました。1830年、ハイデンベルグの科学評議会は、彼の作った顕微鏡を、最も優秀な顕微鏡として表彰しました。余談はさておきまして、このプロースル式の接眼レンズは、ラムスデン式のレンズをともに二枚合わせとした構成です。変種としてミードのスーパープロースルがあります。近年中国製が日本市場に乱入し、評価が非常に低くなってしまいましたが、中国製・日本製にかかわらずきちんと作られたものは侮れない性能の持ち主です。オルソスコッピクとは整像の意味ですが、それに恥じないだけの性能を秘めています。収差補正も良好で高倍率用アイピースとして理想的な特性の持ち主です。プアマンズ・ポルシェならぬプアマンズ・オルソと言えましょう!
エルフレ式
カールツアイス社のエルフレという人が1918年に発明した接眼鏡です。見掛け視界が65度から70度とナグラー登場以前は、ダントツに広視界で少年のころは、あこがれのアイピースでありました。現在は入手が難しいアイピースの一つです。エルフレ式はバリエーションも多く、左の図とはレンズの構成が違う物も存在します。その昔、天体望遠鏡メーカーのビクセンは、あこがれであったエルフレ20mmを入門機に付属させ話題になったことがあります。

接眼レンズは、接眼部後端に差込んだりねじ込んで使いますが、大きく分けると下記の様な規格があります。

24.5mm径(差込)、31.7mm径(差込)、36.4mm径ねじ込み、50.8mm径(差込)などの大きさがあります。31.7mm径はアメリカンサイズと呼ばれ、最近では主流になっています。