収差ってなに?

対物レンズ(鏡)で集められた光は、焦点像を結像しますが、対物レンズや主鏡の精度が悪かったり組み立て調整が不完全であったり、光軸がずれていたりすると焦点像がぼけたりゆがんだりします。シャープさを損なう要因を収差といいます。

大きく分けて五つあり、ザイデル5収差といいます。

球面収差〜レンズの内側と外側で焦点距離が違う収差

視野の中心でも発生するいわゆるボケです。粗悪品には一般的な収差です。レンズの中心を通った光とレンズの周辺を通った光が同じ位置に焦点を結ばないという厄介な収差で、多量に残存すると著しく像が劣化し解像力を低下させます。ピントを合わせても星はまるくボケたままになります。通常望遠鏡では、解像力を落とす主因となるためなるべく球面収差が発生しないよう設計しますが、粗悪な短焦点望遠鏡ではその辺はおざなりにされています。またニュートン式反射望遠鏡でも、理想は放物面であるべき主鏡が球面鏡ですと発生します。口径が小さく(10センチ内外)で口径比が8程度であれば、主鏡が球面でもほぼ問題はありませんが、口径に対して鏡筒が短いにもかかわらず球面鏡、もしくは何も表示がされていない場合、粗悪品である場合が多いといえます。

コマ収差

視野の端の星が尾を引いて見える収差です。放物面の高品質な主鏡を用いたニュートン式反射望遠鏡でも口径比が小さくなると目立つようになります。通常は外コマといい、視野の外側方向に尾を引きます。光軸が狂っていると本来無収差のニュートン式反射望遠鏡でも視界の中心でもコマ収差が発生する事があります。

非点収差

良質な望遠鏡では、ほとんどありませんが、粗悪品では頻繁に見られる収差です。レンズの縦方向と横方向で焦点距離が異なるためおきてしまう収差で、ピントを合わせた状態からピントを内から外へずらして行くと星が横に伸びていたものが縦に伸びたりして変形します。通常非点収差が無い望遠鏡であれば、ピントがボケても丸くボケるだけで非点収差の様にピントの前後で縦長になったり横長になったりはしません。またニュートン式反射望遠鏡でも粗悪品では良く見られる収差です。主鏡が歪んでいたり、斜鏡の表面が正しく平面でないと発生します。他に発生原因としては、主鏡や斜鏡を強く固定しすぎていたり、屈折望遠鏡のレンズの枠を締めすぎていたりするとレンズや鏡が変形し発生する場合があります。この場合は緩めると直ります。プラスチックのレンズ枠を利用した中国製の鏡筒で良くあるのですが、レンズ固定枠を締め過ぎて発生しているものが良く見られます。レンズがカタカタ中で動くか動かないかというくらいまで緩めてやると良くなります。

歪曲収差〜ひどいとぐにゃり

4.歪曲収差

安物の双眼鏡を覗くと良く分かる収差です。視野の端ほど顕著になります。確かめ方は、マンションのヘリなど直線上のものを視野の中心に入れて、視野の端へ動かしていくと本来直線であるべきものが、ぎゅうーっと曲がります。接眼レンズが原因と成っている場合も多い収差です。接眼レンズではオルソスコピック式(略記号Or)ではほとんど発生しません。

像面歪曲収差

望遠鏡で眼視で観測している場合はほとんど問題になりませんが、写真撮影(直焦点)では問題になります。視野中心と視野周辺でピントの合う位置が異なる収差です。症状としては直焦点撮影時に視野中心付近ではピントがあっているのに視野の端でピンボケになっていたらそれは像面湾曲収差です。直焦点写真を撮ることが主な利用目的の望遠鏡では、像面湾曲収差が発生しないような設計をします。またフィールドフラットナーという像面湾曲収差を補正する望遠鏡後端にとりつける補正レンズもあります。

以上5つの収差を、ザイデルの5収差といいます。レーザーなど波長がそろった単色光でも発生する収差です。
色収差の起こる仕組み

レンズの中を通る時、光の波長による屈折率の違いにより起こる収差です。

ガラスの屈折率は、光の波長(簡単に言うと色)により異なります。太陽光をプリズムに通すと七色(非科学的な表現ですね)に分かれます。なぜでしょうか?お日様の光は、何色でしょうか?夕方や朝方の太陽はオレンジに染まりますが、昼間は白色光ですよね。白色光とは、様々な波長(色)の混じった光です。太陽からの光線をプリズムに通すと、その証拠に、虹色に分かれるわけです。これは、波長の短い光ほど強く曲げられ、波長の長い光はあまり曲げられません。レーザー光線のような単色光は、プリズムを通しても分光しません。夜空を見上げると星が沢山見えます。赤っぽい星、白い星、青っぽい星、黄色ぽい星と色々ありますが、色々な波長の光が混ざったミックス光です。赤っぽく見える星は、プリズムで分光すると、もちろん赤の成分が多いのですが、黄色い光も、青い光も放っている訳です。凸レンズを通った光は、屈折率の高い紫(波長が短い)が一番手前に焦点を結び、青、緑、黄、赤の順でレンズより遠くに焦点を結ぶ訳です。1枚のシングル対物レンズを使う屈折望遠鏡に特に多く発生し色収差と呼ばれています。先に望遠鏡の歴史で述べたように、初期のケプラー式の望遠鏡の対物レンズは、1枚の凸レンズのみです。短レンズの望遠鏡で色収差を減らすためには、口径比を非常に大きくする必要があり、長大な空気望遠鏡が作られた訳です。

窓際に置いたプリズム(上の写真)と分光した太陽光(下の写真)
レンズに使われる光学ガラスには色々な種類のガラスがあり、あるガラスは、光の波長により屈折率の違いが少なく、またあるガラスは、光の波長により屈折率の変化が多いものがあります。光の波長(簡単に言えば色の違い)により屈折率の変化が少ないものを低分散ガラスといい、屈折率の変化の多いものを高分散ガラスといいます。低分散クラウンガラスの凸レンズと、高分散フリントガラスで出来た凹レンズを組み合わせると、打消すような感じで色収差を大幅に減らすことが出来て、このようなレンズをアクロマートレンズといいます。アクロマートレンズは、単レンズの望遠鏡に比べるとだいぶ小さな口径比でも色収差の少ない望遠鏡を作ることが出来るようになり、望遠鏡は大分短くなったわけです。それでも口径比は、対物レンズの口径にもよりますが、1:15とか1:20とかありました。
さらに色収差の小さい対物レンズがあります。価格はかなり高くなりますが(アクロマート同口径の数倍の価格)、通常のクラウンガラスよりも分散が小さく、分散の度合いが光の波長により偏りがある異常分散ガラスの利用です。光学ガラスでは、EDガラスとかSDガラスと呼ばれるクラウンガラスの一種や、ガラスではなくフッ化カルシウムの人口結晶、天然で産出されるものは不純物がまざり望遠鏡で使えるような無色透明の大きな結晶はえられませんが、蛍石と呼ばれるものもつかわれます。蛍石が不純物なしで工業的に生産できるようになり、天体望遠鏡のレンズとして使えるようになったわけです。EDやSDより更に低分散な素材です。このような高価なアポクロマートレンズにしてはじめて口径比が8とか短いものですと6前後でも高倍率の惑星観測にも耐えうる高性能でコンパクトな望遠鏡の製造が可能になる訳です。

色収差は、二種類あります。

軸上色収差

ガラスの屈折率は、光の波長によって異なるという事を先程触れましたが、光線がレンズを通過する際も同じ事が言えます。対物レンズを通過した光の波長による焦点のズレを軸上色収差と言います。

倍率の色収差

接眼レンズは、何枚かのレンズで構成されており、当然そこを通過していく光線は光の波長により屈折率が異なる訳ですから色収差(光の波長による焦点距離のズレ)が発生します。接眼レンズには、Or.4mmとかK.20mmなど接眼レンズの焦点距離が記されていますが、厳密に言いますと光の波長(色)により焦点距離が異なるという事になります。もちろん対物レンズの色収差と同様に、接眼レンズも色収差(色による焦点距離のズレ)が少なくなるように設計されていますが、多かれ少なかれ接眼レンズ単体で光の波長による焦点距離のズレは、存在する事になります。ということは、対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離、で計算される倍率は光の波長(色)により異なると言うことになります。望遠鏡を覗くと、像の縁に色が付いて見えることになります。本来色収差の無い反射望遠鏡でも、ラムスデン式の接眼レンズなどの性能の良くない接眼レンズを使うと色が付いて見えますが、これが倍率の色収差です。

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