心はいつでも最前線
ヴァージニア・ウエスト
まろやか&ダークネス編


-奈落の底の鎮魂記-
第ニ章〜恋なる話〜
第八話・災いなす者@

愛の魔法は地獄の甘さ
マリン

「こんちわ〜マリンだよ。今回のお題は「恋人」&「おつきあい」!恋人同士のラブラブ★ハッピーな関係を経験者に聞いてみよー!」
「ひゃっほーもう、丸投げだね!…と、かく言う僕はヴァージニア・ウエストこと東操です。」
「っていうか〜。所詮我々恋愛経験の無い人間が「恋人同士のおつきあい」を語ったところで、妄想と願望にしかならないわけで〜全く意味無いというか〜」
「っていうか、別にこのコーナー自体、意味無くありません?」
「それを言っちゃあ、おしめえよ!ってか。」
「んでゲストはどうします?またママ呼びましょうか?」
「い、いや、ママさんはしばらくいいや。…気分悪くなっちゃうし。」
「だから聞かなきゃよかったのに。バラは観賞用であって、食用では無いんですよ?」
「貴公の言わんとすることは分かるが、文章自体はさっぱりだ。」
「意味が通じればOKです。で本当にどうするんです?マリンさんは他の恋愛話なんか知っているんですか?」
「他の恋愛話というかね。今回は、他の人の視点でママさんの恋愛を見てみたいと思うわけよ。」
「ああ、パパですか。なるほど。ママだけから話を聞くのも公平じゃないですもんね。」
「…まぁ、事件の部分は置いておいて…ふつーの恋人同士だった頃の話は興味あるよね。」
「そう言えばパパの口からは聞いたこと無かったな。」
「そうなの?じゃあ、今回は一緒に楽しもう!じゃあ、いっつおーらい!」
「こんにちは。操の父、リッセル・クラウスです。宙間運搬会社「ペイドロク」所属の輸送船「エル・ハイ」の船長をしています。」
「この人がママさんを拉致監禁した外道なんだね!」
「大外道ですよ!人の心まで壊しちゃうんですもん!」
「こういう悪いことする人って死んじゃった方がいいよね!」
「な、何を言っているんですか!死んで良いわけないだろ!僕のパパだぞ!」
「わ、わ、わ、ゴメン。」
「犯罪は事実だから何言われても仕方ないけど、だからって死んじゃって良いわけないよ!マリンさんの馬鹿!」
「ゴメン!本当にゴメン!言い過ぎた。」
「今度そんなことを言ったら、八つ裂きにして、その肉片を特殊第七砲兵大隊が持つ恒星間多連砲の「地獄から愛を込めて」と書かれた弾頭に詰め込んで、惑星ネグラスの人糞工場の中に撃ち込んでやるからな!」
「人糞工場はイヤァ〜!」
「まぁ、まぁ、落ち着いて…」
「誰のせいだと思っているんだよ!」
「…君だよ。」
「…返す言葉もありません。」
「…私に対するイメージがネガティブなのは仕方ないけどね。」
「あんな事をしでかしちゃぁ、ポジティブにはなりようがないねぇ〜」
「…そうだね。それで今日は何の用で呼んだのかな?」
「今日はね。ズバリ!罪滅ぼしのために語ってもらおうじゃないか!ということ。」
「罪滅ぼし?」
「パパさんが、どうやって操ママさんをタブらして恋人同士にまでこぎつけたか、教えるのだ!(ハァハァ
「…マリンさん、息が荒いよ。」
「べ、別にダマしたわけでは…」
「僕も聞きたいなぁ。ママの口から恋人時代の話は良く聞くけど、パパの口から聞くことって無いもんね。」
「そりゃ、女をコロます秘伝なんか娘にゃあ言えませんからねぇ。」
「え…と、君の中で私はどんなモンスターにされているかは分からないが、私はそんなに練達者じゃないぞ。」
「良いからしゃべる、しゃべる!」
「…やれ、やれ。」

「私とママ…つまりカミュと出会ったのは高校時代だ。」
「カミュ?ママさんの名前ってカミヨ、でしょ。」
「最初にママが言ってたじゃないですか。周囲の人はカミュって呼んでたって。」
「あ、そうか忘れたよ。カミヨじゃ言いずらかったんだっけ。ゴメンね、話を続けてソーリー。」
「えーと、そうだね…高校時代にカミュと出合って…まぁ、出合ったといっても、本当にその時は、知り合った程度の関係でしかなかったね。どうということも無かったよ。」
「初めてママさんを見たときはどうだったの?」
「そうだね…とにかく小さい!と思ったよ。身長の低い人は少なくなかったけど、彼女はぐんを抜いて小さかった。」
「ママの身長は138cmだもんね。僕はもっと小さいと思うけど。」
「本人は、高校在中に身長が伸びたと主張していたけど…とてもそうは思えなかったね。確かに高校生になって身長が伸びる人もいるけど、彼女は卒業するまで学内一の小ささを誇っていたよ。」
「あれ?そういえば、付き合い出したのは大学へ入って後だよね。高校時代ってなーんも無かったの?」
「高校の時は、そんなに仲が良いというほど、良かったわけじゃなかったからね。彼女とは同じ部活、図書・読書部に入っていたから、その縁でちょくちょく話はしていたけど。」
「同じ部活なら、一緒にいることも多いよね。えいやーってならなかったの?」
「ん〜、会話はしていたけど、彼女は当時は…というか、当時から固かったからね。」
「固いって…ああ、男女関係とかだよね。」
「男女関係もそうだけど、風紀委員にも入っていたから、学内規則の保守には並々ならぬ力を注いでいたよ。」
「風紀委員か…分かるなぁ。物凄く厳しいもん。」
「マリンさん、男女のアンニュイな行為をなんでしないの?って聞いて怒られてましたもんね。」
「うう。ママさん厳しいねん。」
「女の子は、もっと体を大事にしろってことですよ。ほいほいしちゃうのなんて映画の中だけですって。」
「…むぅ。」
「そろそろ、良いかな?」
「どうぞ!」
「そういうカミュの規律に対する厳しい姿勢が教団関係者に評価され、一時は幹部候補生推薦の話も持ち上がっていたようだね。」
「幹部候補生…って何?」
「私のいた高校は、いわゆる宗教団体系列の学校だったんだ。元々は、その教団の子女を学ぶ為に創設されたらしい。彼女の行動は規律を重んじる教団に好意的に受け止められていたようだ。」
「ん?ってことはパパさんも教団関係者?」
「いや、私は別に教団とは関係なく、一般入学したんだ。家が近かったんでね。教団関係と言っても、別に排他的な学校でも無かったし、近郊の人達も結構入学していたよ。」
「でも、最終的に幹部候補の話はなくなっちゃたんだよね。」
「そうみたいだね。私は良く知らないんだが…」
「僕は知っているけどね!」
「なんで?」
「何か特別な神事があるとかで…今はどうかは知らないけど、当時はママがいないと成り立たない儀式とかあったんだって。」
「ふ〜ん。そうなんだ。てか、何で?の中には「何でアンタが知ってんの?」っていう意味も込められているんだけど。」
「僕も一時期、神事を行う巫女の候補として上ったことがるんですよ。それで色々と。」
「…そういえば、ママの実家から帰ってきた時に、そんな話があったことを聞いたね。」
「そうそう、パパは御爺ちゃんに嫌われているから行けなかったけど。そん時にね。」
「一時期ってことは、今は候補から外されているの?」
「みたいだね。最近その話も出て無いし。まあ祭祀様から「君の魂は黒すぎる」って苦い顔して言われたことがあるから、そのためかも。」
「…分かる気がする。」
「あはは。パパ、こいつグーで殴っていい?」
「…ダメだよ暴力は。」
「う〜ん。ガッカリだよ!」
「ええやん。それでも色がついているんだから。私なんて色じゃなくて「奈落」って言われたよ?」
「な、奈落って…それは…凄いですね。魂が飢えているとか、ですか?」
「飢えた魂とか、心が無い魂とか、度量が広い魂とか、そんなんじゃなくて…何だろうね。分かんないや。見てくれた神官さんは青ざめた顔で「魔王になれる魂」とか言ってたけどね。」
「そ、それは…凄いね。」
「あ、あははは。魔王ですか?」
「目指せ!魔女王ヘカーテ…ってか。…ま、興味ないけどね。世を支配する魔王より、素敵な奥さんの方がええねん。」
「それこそタンパクじゃないですか。勿体無い。」
「魔の頂点に立つのと、生涯共にいてくれる素敵な旦那様を見つけるの、どっちが大変やねん。同じ苦労としても、少なくとも後者の方が幸せになれるっしょ?」
「…それは、そうでしょうけど。魔王ですよ?王様ですよ?」
「いらないよ王冠なんて、それって幸せな家庭以上に必要なもの?」
「…そうだね。そうだとも。」
「…マリンさん。今、ちょっとだけアナタのこと尊敬しました。」
「…そう?じゃあ、私の幸せの参考の為にも…パパさん!次、次!」
「…え、ああ。そうだね…何をお話しようか。」
「高校時代のエピソードって何かないのパパ?」
「高校時代のエピソードか…じゃあ、初めてママの、カミュの笑顔を見た時の話をしようかな。」
「笑顔って…そういえばママさんって、あんまり笑ったりする人には見えないよね。」
「感情を表に出すことを良しとしない気風があるからね。仕事上、愛想笑いはするけれども、基本的には笑顔をすることは無いね。高校時代もそうだった。」
「え?高校時代もそうだったの?」
「必要に応じて笑顔を出していたけれど、それ以上では無かった。友達と話ているときも…そうだった気がするね。」
「ずっと、あの威圧的というか、キツイ感じなのかぁ。」
「睨みつけているような感じがあるからね。ちょっと怖いかも。」
「そ、そこまで言わないよ。私は。」
「あ、ズルイ!」
「だって生娘と違って、私、高慢ちきな女!とか口が裂けても言えないよ。」
「な、なにさらりと私が言ったかのようにしゃべってるんですか!」
「だってマリンちゃん清純だしぃ。」
「…本当、殴りますよ。」
「ちなみに、家にいるときもそうなの?」
「家?家の中にいるときは、いつもニコニコしているよ。特にパパと一緒にいる時なんて…」
「こ、こら操。余計なことは言わない。」
「僕は自分の親が仲良しなのを自慢したいのさ!」
「…操にはかなわないな。」
「父親の権威は、こうして崩れるわけなのか。ふむふむ。」
「…やれ、やれ。話を始めるよ。」

高校時代
「…いや、探したかいがあった。しかし、ようやく手に入れたぞ。」
「………」
「…どれ、どれ…これは凄いな…うむ…想像通りの内容だ。うん。」
「…何を読んでいるんですか?」
「………」
「………」
「読んでないです。いや本当に。マジで。これはもう仏様に誓っていいぐらい。いや、この良い日に誓おう。うん、それが良い。」
「ほう…では、その手にあるものは何ですか?」
「本です。では、失礼…」
「待ちなさい。」
ガバッ
「あっ!ちょっ、返して…」
「…面白そうな本ですね。ふうん。」
「…えっ…と、そのなんというか」
「没収します。」
「え!?」
「停学10日…という所でしょうか。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!いくら何でも…」
「本校内にワイセツ物を持ち込んだ場合、3日から10日の間で停学処分となる決まりがあります。」
「まてぇー!それは小説じゃないか。動画や画像集ならともかく、そりゃあんまりだろ!第一、小説なんて成人指定されていないじゃないか!」
「…内容は、どう考慮するつもりですか?」
「…へ?」
「…こんな女性を…ただの性欲を解消するための道後としか見なしてない小説なんて…不潔というより下劣です。」
「しかし、小説なんて…アレだ。過去の名作…ほら、光源氏とかもエロい内容だったろう?」
「…つまり貴方は、この小説を源氏物語と並び称される名著だと?」
「そ、そこまでは言わないけど…でも、ほら、性に対する欲求というのは自然なもので…」
「…下衆。」
「げ、げすぅ!?」
「とどのつまり、この本を持つということは…貴方の自然な欲求とは、女を欲望のまま蹂躙し、その黒い愉悦を満足することだと。」
「そ、そこまでは…」
「そういう小説ではないですか!なんなら、ここで朗読してあげましょうか?」
「ま、まてぇ!いいじゃないか、想像ぐらい!それとも、この学校は脳みその中まで縛らないとダメなのかよ!いくら宗教学校とは言えあんまりだ!」
「ゲスの考えを否定するのは当然です。一人前に思想の自由を語るより、先に社会常識と高い見識を身につけることです。」
「ええい!男なら、一度や二度…いや、年がら年中、女の胸や尻のことを考えているさ!だからといって全部の男を捕まえられるのか!」
「…あきれました。開き直る気ですか?これはワイセツ物持込以外にも、風紀違反を追加する必要がありますね。」
「風紀違反だって!?そんなことを言うのなら、お前はどうなんだ!」
「…私?何を言っているんですか。」
「胸もあれば尻もあるじゃないか!」
「…当たり前です。」
「男ってのは、そういうのに惹かれるんだよ!」
「…私が誘惑しているとでも言うつもりですか。」
「そうだよ!女なんて、女なんて…いるだけで男は誘惑されるんだ!お前なんか全身ワイセツだ!」
「………」
「どうだ!何か言ってみろ!」
「…クス。何ですかそれ?」
「…え?」
「…私が全身ワイセツですか。それは思いつきませんでした。」
「…い、いや。その。」
「…ふふ、そういえば私も昔、こんなことを父に聞いたことがあります。」
「…え。」
「モザイクってありますよね?なぜ人体にモザイクをかけるのかって…そこが卑猥な場所なら、私達全員が卑猥なのって…」
「…は、はあ。そうなのか。」
「でも全身ヒワイだとは考えたこともありませんでした。面白いことを考えるんですね。」
「そ、そうかな。」
「何だか力ぬけちゃいました。確かに小説は成年指定になってませんし…」
「見逃してくれる!?」
「いえ、停学3日にしてあげます。」
「…そうは上手くいかないか。はぁ…没収の上に、停学かぁ…安く無かったのになぁ…その本…」
「…しょうがないですね。本来なら委員会にかけた後に処分するのですが、返却するように取り計らってあげます。」
「…ほ、本当に?」
「ええ、別に返還してはいけないという規定もありませんしね。でも…」
「…な、なんだい?」
「あまり、こういう本を読まれない方が良いと思います。」
「大丈夫。空想は、空想さ。」
「私は…」
「…え?」
「男の人と、女の人は、お互いに支えあえる存在になって欲しいと思っているんです。」
「………」
「こういう本を読んで…影響を受けて…女性を単なる欲望の道具として考えて欲しくは無いんです。」
「………」
「………」
「…俺は、そう思わない…ようにする。」
「…そう言ってくれると、うれしいです。」
「………」
「…女生徒の方々も…そうなんですよね。」
「…?」
「彼氏としたとか…しないから子供とか…経験豊富だから大人とか…その場限りの流れと自尊心で…男女の恋愛って、そんなものでは…」
「…カミュ?」
「…あ、すいません。それより気をつけて下さい。」
「…な、何が?」
「これからはワイセツ小説男としてマークしますから。」
「ええ!?」

「いつも気難しい顔をしていた彼女が微笑んだ…その時の落差が忘れられなくてね。この時のことは今での鮮明に思い出せるよ。」
「最初の笑顔がエロ本発見からですか。なつーか…」
「衝撃的ですよね!」
「衝撃といえば、衝撃だけど…なんか、良く聞こえるのは気のせい?」
「それから、私は”恐怖のワイセツ男”として有名になったもんさ。」
「小説の部分が抜けているやん!」
「抜けたねぇ〜小説の部分は。停学した時にウワサが大きくなって、実はカミュの前で裸になったとか、いやいや、カミュを襲ったのだとか言われてねー」
「ママは否定しなかったの?」
「ママは…「似たようなことをされました」と、言ってたみたいだね。」
「おい、おい。」
「若い時だったからね。別にエロ小僧と思われても構わなかったし、良い思い出にもなったしね。」
「でもエロ小説で停学3日ってすっごく厳しいよね?普通なら怒られて終わりでしょ?」
「まぁね。私が停学を喰らったことで、ますます我々男子は彼女を嫌い、小うるさい小姑あつかいをしていたね。ちなみに、当時、我々が彼女につけていたアダナは「超合金」だった。」
「何それ?」
「女子は知らないだろうけど、男子用のおもちゃに鋼鉄製のロボット人形があってね。それを「超合金」と呼んでいたんだよ。固いし、強いし、ちっちゃいし、まさしく彼女を表すのにピッタリなアダナだと思ったものさ。」
「へぇ〜面白いね。でも私は恋愛の話が聞きたいの。後は何かなかったの?」
「う〜ん。全く無いわけでも無かったけど、恋愛に直接結びつくものはないかな。取りあえず、高校の時の思い出はこれくらいだと思うよ。」

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