T
h
e
M
y
T
a
s
t
e

Z
a
n
o
n
HP
-中世時代で大逆転-


「金色の担い手編」

-公判3:逆転の王道-















HP

西暦14××年×月×日(×)第×××号裁判記録
法務部第三指定封書×××号-××
法王庁機密文書指定××号
「イザベラ王女及びエンリケ王子婚姻取消し裁判」

大聖堂・法廷


ザワ…ザワ…ザワ…

ザワ…ザワ…
裁判長・カンタベリー大司教
「静粛に!静粛に!皆さんも知っている通り、先ほどポルトガル王の従者アーサーが、弁護人を襲い軽傷を負わせました。この点についてアルフォンゾ陛下自らが陳謝したいとのことです。」
弁護側・弁護人
「………」
告発側・アルフォンゾ5世
「…まずは弁護人に陳謝したい。余の知らぬこととは言え、長年使えておった従者が、このような凶行に及ぶとは、余の不徳の致すところである。」
「あ、あんなことを言っているよ!自分がやらせたくせに!」
「落ち着きなさい。これからその厚い皮を剥ぎ取ってあげるのですから。」
「…余はここに、弁護人に対してしかるべき医療を受けられるように手配するのと共に、慰謝料として金貨3000枚を支給するすることを約束しよう。」


おおおお…
…何という器量!…さすがはポルトガル王だ…
「さすがはアルフォンゾ陛下…どうですか弁護人、王も、こう申されていることですし…」
「その前に陛下にお聞きしたいことがあります。」
「…何であるか。」
「従者のアーサー氏とは、どれくらいのお付き合いだったのですか?」
「…アーサーを大道芸人の一座から買取り、余の従者として仕えさせてから、もう30年になる…余の事を常に真摯に考える良き従者であり、余も我が一部として珍重しておった。」
「今回のことは、あくまでもアーサー氏の陛下に対する忠誠心ゆえに起きた、単独犯行だと言われるのですね?」
「…アーサーの忠誠は騎士にも劣らぬものであった。余の苦境を見かねて、義憤ゆえに行ったのであろう。」
「なるほど…それほど強い絆があったのですね。」
「…これも余の溢れんばかりのカリスマ性が巻き起こした悲劇…余も、余自身が憎い…」
「…よくも、まあ、臆目もなく言えるもんだぜ。」
「………」
「…余の陳謝を受入れてもらえるだろうか?」
「(…ここで、陳謝を受入れなければ、それを理由に陛下は休廷を求めるだろう。仮にそれに裁判とは別の問題だと抗議したところで、裁判に関係あるか否かの無意味な討論が始まり、相手に時間の余裕を与える事になる。)」
「(…時間は相手の味方、無駄を省き直球勝負だ!)」
「弁護人、如何ですか?」
「…陛下の陳謝を受入れたいと思います。」
「おお、さすがは弁護人、道理を良く理解しておる。」
「…ただし、真実を明らかにすることに、ご協力いただけたらの話です。」

ザワ…ザワ…
「静粛に!弁護人、どういうことですかな?」
「この事件が起きた事により、アルフォンゾ陛下に、新たなる疑惑が生まれてきた…ということです。」

ザワ…ザワ…
「ほぅ…疑惑ですか。」
「あれ?王子、裁判長さんにはアーサーさんが、アサシンだってことも、イスラムと手を握っている可能性も話したんだよね?何で初めて聞くような素振りなんだろう?」
「大人の都合ってヤツさ。」
「貴方も大きくなったら、きっと分かりますわ。」
「…うう、ついに赤ちゃんレベルの扱いになっちゃったよ。」
「確認しておきますが、それは襲撃事件そのものに対する疑惑なのですかな?」
「襲撃事件をきっかけに見つかった。が正しい表現です。」
「…なるほど、如何ですか陛下?」
「…余の従者が犯してしまった行為には、少なからず余にも責任があろう。それに関係するのであるのならば余としても異存は無い。」
「…分かりました。では弁護人、初めて下さい。」
「(…泣いても笑っても、これで最後だ。気合を入れていくぞ!)」


弁護側:弁護士 VSアルフォンゾ5世:告発側

ポルトガル国王アルフォンゾ5世に対する質問
「…それでは陛下にお聞きいたします。ポルトガルには毎年どれくらいのイスラム教徒が入国してきますか?」
「…それが、先ほどの襲撃事件に関連する疑惑に、必要な質問なのかね?」
「もちろんです。お答え難いのでしたら、お答えされなくても結構ですが…」
「…いや、関係があるのならば、一向に構わん。そうだな…実数はハッキリとはせぬが300人前後であろう。」
「それは正しい数字ですか?」
「…体感的なものだ。実数といっても統計をとったわけでもない。もしかしたら、その十倍は来ているのかもしれんし、十分の一以下かもしれん。」
「つまり、把握はできていないと。」
「…うむ。」
「…では、次にお聞きします。ポルトガル領内にイスラム教の寺院は存在していますか?」
「無い。」
「………」
「…より正確に言うのならば、レコンキスタ以前のムスリムが建てた寺院なら、幾つが原型を留めて残っておるだろう。だが施設としては稼動しておらぬ。」
「…それは確かですか?」
「…むろん、イスラム商人や旅行者が、勝手に祈りを捧げている可能性もあるかもしれんが、そこまでは知らぬ。」
「…知らぬ?見過ごしていると言うわけですかな?」
「…それは飛躍と言うものですぞ、大司教。余は敬虔なるキリスト教徒。もしそんな輩がおれば、発見次第、即座処分を行うであろう。」
「………」
「ただ、余にしても万事を知っているわけでない。余や、余の忠実なる臣下たちが賢明に働いても、影で悪さをする輩は存在する。そこの所は大司教にもご理解頂きたい…」
「………(ムス」
「…それでは、お聞きしますが。陛下の知りうる限りにおいては、領内にはイスラム教徒はいないということですね?」
「商人や旅行者がおるだろうから、ゼロでは無いだろうが…我が領内には基本的にイスラム教徒はおらぬ。」
「…それは確かですか?例えばイスラム教徒の臣下はいないのですね?」
「…我国はカスティーリアほどでは無いが、イスラム教圏に近い。貴族、市民問わず、亡命者もおる。従って、元イスラム教徒ならば存在するだろう。」
「…亡命者ですか?ならお聞きしますが、亡命者が改宗を拒んだ場合はどうなるのですか?」
「…残念ながら、我が領内から追放するか、処刑する。無論、何度か改宗を勧めた上での話しだが。」
「………(イライラ」
「裁判長のお爺ちゃん、なんか変だよ?」
「きっと「異教徒なんて皆殺しにしろ!」と叫びたくて、ストレスが溜まっているのですわ。」
「こ、怖いよ…」
「…さて、弁護人。そろそろ今の質問の真意をお願いします。」
「…先ほど僕を襲撃してきたポルトガル王の従者・アーサー氏は…イスラム教徒の可能性があります。」

ザワ…ザワ…
「………」
「静粛に!静粛に!それは一体どういうことですか!」
「アルフォンゾ陛下はハッキリと言われました。臣下にはイスラム教徒はいないと。例えいたとしても改宗をさせると。」
「ええ、そう主張されていましたね。」
「ですが、もし臣下に…しかも数十年も従者としていたものがイスラム教徒であったとしたら!」
「ま、まさか…!」

ザワ…ザワ…
「………」
「くくく、役者だねぇ大司教様も…腹の中じゃあ、異端者をなぶり出そうって舌なめずりしているぜ…くくく…」
「なんか、この裁判って大人の嫌な部分ばかり見えてくるよ…」
「あら、そういう時は、その人の良い部分を見つけるんですわ。良い部分が悪い部分を帳消しするのなら、少しぐらいは目をつぶらないと…ね!」
「…大人だ。」
「裁判長!弁護側はアーサー氏の証人喚問を要請します!」
「…何を企んでいるのかは知らんが、そんなことをしても無意味だ。」
「無意味かどうかは…アーサー氏を呼んで決めましょう!」
「分かりました。弁護側の要請を受入れます。執行官!アーサー氏をここへ連れてきなさい!」
「…愚かなり。」
ドックン
何だ!?今一瞬…何かが!
「………」
そうだ…おかしい。何かがおかしい。何なんだ、
この「違和感」は?
「………」
ドックン
そうか…そうだ。なぜアルフォンゾ陛下は抵抗しないんだ?
なぜ、もっと強行に…そうか、この違和感…この違和感は…

あまりにもスムーズに話が進みすぎている!

「おい、相棒!しっかりしろ、アーサーが来たぞ!」
「…あっ」
「アーサー氏を連行して参りました!」
「よろしい、証言台に立たせなさい。では弁護人よろしいですか?」
「…はい。」

アーサーに対する質問
「お久しぶりですね。といっても、先ほどからそれほど時間はたっていませんが。」
「………」
「僕が聞きたいのは一つだけです。アーサーさん、貴方はイスラム教徒ですか?」
「………」
「証人、答えるように!無意味な黙秘は、貴方の元主人にまで類が及びますぞ!」
「…(チラ」
「………」
「…違います。」
「それは嘘ですね。アーサーさん、貴方はイスラム教徒のはずです!」
「下らぬ尋問は止めよ。何か証拠があるのか?」
「証拠は…ハッシと武器です!」
「………」
「ハッシ…ハシーシュのことですかな?」
「そうです。アラブの過激なイスラム教徒「アサシン」が用いている薬物です。彼の体から薬物の臭いが漂っています…専門家の方がいれば分かるのでが…」
「おお、それは偶然!そこの執行官は、査問委員会に所属していたことがあります。早速、調べさせましょう。」
「…ハッ!」
「異端査問委員会出身の執行者がいたのか。…幸運であったな弁護人。」
「…幸運とは自らが引き寄せるものです。」
「…なるほど、予め手配しておったか。」
「…別におかしくはないでしょう?アーサー氏の衣飾には不信な点がありました。裁判長が予め呼んでいたとしても不思議ではありません。」
「…呼んだのは貴様らであろう?」
「…同じことです。」
「…裁判長!間違いありません、大麻を服用しております!」
「………」
「幸運は自ら引き寄せるもの、か。なるほど良い言葉だ。ならば余も、幸運を引き寄せるために少しでも多く抵抗せぬばな。」
「………」
「アーサーは己をふるいたたせるために、薬を用いたのであろう。イスラム商人もくる。大麻ぐらい、信徒でなくても調達できよう。」
「では、武器はどう説明するおつもりですか!」
「…武器?」
「私を襲ったさいに使用された武器は、明らかに欧州では用いられないものでした。もっとハッキリといえば、イスラム教徒が用いる武器でした。」
「それがどうした?イスラム商人は来ているのだ。彼らから手に入れたとしても不思議では無い。」
「それは何故です?」
「…なに?」
「こんな出所の分かるような武器を持っていたら、見つかったさいに怪しまれるのがオチです。それならば、騎士の持つ短剣や果物ナイフの方が、よほど怪しまれずに便利じゃないでしょうか?」
「…う、む。」
ドクン
(…あれ?何だ。今、何か…とても重要なものが…)
「どうしました弁護人?」
「い、いえ。考えをまとめていました。つまり、アーサー氏が、なぜワザワザ出所の分かるような武器を用いていたのか?それは…」
「自分がイスラム教徒であるという誇り…すなわちアイデンティティ―のためです!」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「…偶然とは恐ろしいものよ。」
「こんな偶然があるわけありません!」
「確かに弁護人の言う通りです。一つだけならば偶然である可能性がありますが、たまたま大麻を吸って、たまたまイスラム教の武器を用いたなどとは…とても偶然の産物とは思えません。」

ドックン
…偶然の産物では無い?
そう…偶然のはずが…偶然?
「………」
何かがおかしい。何かを忘れている…
もしかしたら僕は、とてつもない間違いを…
「…ククク」
「…?」
「…なるほど、読めましたよ貴方の考えが。いや、素晴らしい。さすがは王がお認めになれたほどです。」
「………」
「私をイスラム教徒とすることにより、その疑惑を主様…アルフォンゾ陛下にまで及ぼそうとお考えなのでしょう?」
「!?」
「おしい…実に良い線をいっていました。しかし、おあいにくさま…実は正直に告白しますと私の雇い主は別にいるのですよ。」
「な、なんだって!?」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!証人、一体どういうことですか!」
「ククク…私は貴方がたの言う通り、私はイスラム教徒。そして私の本当の雇い主は…グラナダです!」

どおおおおおお!
「な、な、な、なんだって!」
「ポルトガルの動向をグラナダへ逐一連絡するのが私の任務でした。そう、20年前にアルフォンゾ陛下の配下となったその時から!」

ドオオオオオ!
ドオオオオオオオオオ!
「う、ウソだ!」
「いいえ、本当のことです。合図がありしだい、アルフォンゾ陛下を暗殺するつもりでしたが…それがかなわなかったのが、唯一の心残りです。」
「そ、そんな馬鹿な!」
「…そうか、余も騙されておったのか。」
「なっ!?」
\ ドオオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオオオ /
「ど、ど、どういうことなの!?」
「しまった…アーサーの忠誠心の量を見誤った!」
「それって!?」
「…全ての疑惑を一身に受けることにより、アルフォンゾ陛下の立場を優位なものとする…自分ひとりの命でカスティーリアを手に入れられるのなら、捨てがいのある命と思っても不思議じゃありませんわ。」
「そ、そんな!そんなのって!?」

\ ドオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!…何と言う事でしょう。こんな事態に直面するとは。まさか、忠臣と思われていたアーサー氏が裏切り者だったとは…」
「そ、そんな話が通じると思いますか!なら、どうして僕を襲ったんですか!アルフォンゾ陛下に対する忠誠心では…」
「ククク…人は信じたい話を信じるものです…」
「どういう意味ですか!」
「私が貴方を暗殺しようとしたのは…その罪をアルフォンゾ陛下に押し付けて、裁判を混乱させるためなのですよ。」
< 「なっ!」

ザワ…ザワ…
「グラナダにとっての最大の不幸は、イベリア半島のキリスト教国家の集合です。それを阻止する為にこの裁判をぐちゃぐちゃにしてやろうと画策した…というわけです。」
「ば、ばかな!」
「なるほど、そういうことだったのですか。継承権問題の混乱をさらに助長させようと…」
「あっ、いや、裁判長!この話にはおかしいところが…」
「どこがですか?」
「…え?いや、つまり…そう、本当にそんなことを画策していたのなら、ベラベラしゃべるわけないと…」
「…ふむ。確かに単に観念したからしゃべった、とも思えませんな。証人、なぜしゃべる気になったのですか?」
「ククク…それはですね。貴方がたのマヌケ面を見たいがためですよ。」
「な、なんですと!」
「どうせ、そこの弁護人が、無理やり私をイスラム教徒にするでしょう。ならば、正直に答えて、騙されていた馬鹿どものマヌケ面を楽しもうと思ったわけです…ククク…」
「…な、なんなんだ…そんな理由で…そんな理由が通じると…」
ぶ、無礼な!異端者め、火炙りにしてくれるわ!」
「落ち着いて下さい裁判長!」
「いやぁ〜貴方がたのマヌケ楽しめましたよ。特にアルフォンゾ陛下は私を信用しきりで、様々な情報を教えてくれました。騙されているとも知らずにね…ククク…」
「………」
「(…し、しまった!何気なくアルフォンゾ陛下を被害者側へと押しやられてしまった…こ、これじゃあ…)」
「何と言う…この…下賤な異端者め!唾棄すべき存在とは、まさに貴様らのような存在を指すのだ!アルフォンゾ陛下を謀るなぞ…」
「(ち、違う!アーサーは、絶対にアルフォンゾ陛下の手先だ!…でも証明できない!全てが演技だと言われたらどうにもならない!)」
「ククク…予定が、狂いましたな?…ククク…」
「くっ!?」
「執行官!その破廉恥な極まりない裏切り者を『断罪の塔』へ幽閉しなさい!」
「ハッ!こっちへ来い!」
「これは、これは…もっと優しく扱って下さい…ああ、それと弁護人…」
「…?」
「アサシン教団の教えはフィダーイー…目的の為なら自己犠牲を辞さぬ…もう少しお勉強された方がよろしかったですね。」
「!?」
「…カンタベリー大司教。よろしいかな?」
「何でしょうか?」
「…余は裁判を受ける気力が無くなってしまった。一時休廷をお願いしたい。」
「なっ!?」
「そのお気持ちは十分理解できます。なにせ寵愛していた臣下が、実は異端の裏切り者であった。さぞ、お辛いことでしょう。」
「…それにアーサーほど身近にあったものがイスラム教徒ならば、イスラムの手は内部深くまで浸透している可能性もある。早急に帰国し、異端者のあぶり出しと共に、情報管理の再構築を行わなければならぬ。」
「ま、待ってください!それは…」
「それは…とは?これほどの大事が発覚したのに、まさか帰国を止めて裁判を続けろとでも言うつもりか?」
「あ、いや…その…」
「弁護人。幾らなんでも、それは無体というものです。ことは急を要するのですぞ?間者が見つかったとなればグラナダが次に何をしてくるかも分かりません。異端との聖なる戦いは時間との勝負でもあるのです!」
「…うっ(な、何なんだ。これは?さっきまで、あれほど有利だったのに…い、いつのまにか追い詰められている。チェックメイトされている!?)」
「いや、弁護人の気持ちも分からぬでは無い。正直、余もここまで裁判を続けていきなり休止とは心苦しい…だが、ことは国家安全保障、それに異端者との戦いなのだ。理解してもらいたい…」
「(…え?あ…何も…何もできない!?…これで…終わり?これで終わりなのか!?)」
「ず、ずるいよ!」
「…あっ。」
「…ん?何がだね。」
「だって…だって…「カスティーリアに介入する」って質問、答えて無いよ!ずるいよ!卑怯だよ!」
「これ、お嬢さん。アルフォンゾ陛下のお気持ちも考えてみなさい。」
「でも!でも!」
「…うむ。言いたいことは良く分かる。余も申し訳ない気持ちで一杯である。この気持ちは…弁護人なら分かってくれるであろう」
「…え?」
「…(ニヤ」
(…あっ ああああああああああああ!)
そうか、そうだったんだ…違和感の謎が解けた…
全て、全て罠だったんだ!

アーサーは言った。「証拠を残すヘマはしない」と、それなのに、なぜハッシや武器を携帯していた…失敗した場合の証拠を…残しすぎている!

そしてアーサーの疑惑にたいして
ほとんど反論しないアルフォンゾ王…

…つまり…これは…最初から、アーサーを捨てて
この裁判を打ち切る計画だったんだ!

いやそれだけじゃない。最初から幾つも罠をしかけていたんだ! アーサーの説得が成功すれば良し
失敗して暗殺をしても時間が稼げるから良し
よしんば暗殺が失敗しても、暗殺に対して僕が怒り狂えば、それを理由に延長し、陳謝を受入れ僕が暗殺を追及したとしても、それを逆手にとって休廷せしめる…

いや、仮に僕が暗殺を追及しなくても
アルフォンゾ陛下は、アーサーを呼んでなぜ、このような愚行を行ったかを聞こうとしただろう…


なら、アーサーが死んでいたら?…道具から推測してやはりイスラム教徒と断定していたに違いない。そうなれば騙されていたことを主張して…く、なんてことだ!
全てアルフォンゾ陛下の作戦だったんだ!

…やっと理解できたか。
これが貴様ら庶民と王との格の違いよ。
「…あ」
いくら口が立つといっても、所詮その程度…
幾数万の民を導く余の知恵にかなうと思ったのか?
「…あああ」
王を畏れよ!王に跪け!
貴様など王の前では何の力も無い哀れな猿
余の手の平で踊るしかないのだからな!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ドスン!
「あっ!」
「………」
「どうした!おい、しっかりしろ!」
「おかしいですわ!変ですわ!顔面蒼白ですぅ!」
「彼も、よく理解できたようだな…」
「ってめぇ!」
「しっかりして、ね?しっかりして!」
「お、終わりだ…」
「え!?」
「今度こそ…本当に…」
「………」
「初めから勝てる相手じゃなかったんだ…」
「………」
「………」
「…所詮平和な時代の…一介の弁護士が…国家間のパワーバランスに立って戦う王の見識に…勝てるわけが無いんだ。」
「………」
「…ま、しょうがないな。相棒は良くやってくれたよ。」
「そうですわ。立派ですぅ!」
「………」
「………」
「…殿下。第3軽装隊、突入準備が整っております。」
「…ローマとの交渉は?」
「………」
「…先ほど連絡があり、交渉ルートの確保に成功したとのことです。また動乱のさいにおけるフランス軍の動向を見極めるべく、ナヴァラに対する工作を開始されました。」
「…よろしい。では作戦計画にしたがい、行動するように各員に伝えるように。」
「………」
「…ないで…」
「フェルナンド…」
「…何、夕飯までには帰ってくるさ。」
「………」
「…負けないで!」
「…!」
「…!」
「……………
………
…えっ?」
「…私、応援しかできないけど…でも、でも…負けないで!負けないで!頑張って!」
「…お嬢ちゃん。もう…」
「もうじゃない!私、約束したもん!誰も応援しなくても、私だけは応援するって!」
「…でも、もう無理だよ。
…どうにもならない。どうにもならないんだ。」
「無理でも良い!裁判に負けても良い!倒れたって構わない!だけど…
自分自身にだけは負けないで!」
「…自分自身に…負ける?」
「そうだよ…判決も出てないのに…裁判も終わってないのに…自分で、自分の負けを認めて倒れちゃうなんて…こんな負け方…駄目だよぉ…」
「(…裁判は…まだ、終わっていない?そうだ…僕は…心が折れてしまって…でも、裁判はまだ続いているんだ…)」
「負けてもいいから、最後まで全力を尽くして…頑張ろう…頑張って戦おう…ね、お願い…」
「(…そうだとも…いつだって、諦めないできたじゃないか…相手がどんな知恵者であろうと…高い地位にいようと…関係ない。同じ人間なんだ。同じ人間なんだ。)」
「…ひく…ひく…」
「(…そうだ。僕はまだ負けてない…
負けたと思っただけだ!)」
「…あっ」
ガバッ
「…いつも助けてくれてありがとう」
「…え?」
「…大好きだよ。」
「…うん。私も…大好き。」
「…相棒。
…ああ、そうだな。お嬢ちゃんの言うとおりだ。まだ裁判は終わっちゃいねぇ!倒れるなら、前のめりに倒れないとな!」
「フェルナンド殿下…」
「そうですわぁ!ここで負けたら男がすたるって、もんですわよ!」
「イザベラ殿下…」
「(そうだ。裁判はまだ決裁されていない。何も終わっていないんだ!もう何も残っていないけど…でも!)」

ザワ…ザワ…
「大丈夫ですか弁護人?え〜それではアルフォンゾ陛下の要請を受け入れ…」
「…失礼します。」
「…ん?」
「………」
「何だ弁護人、余の顔を凝視しおって…無礼で…」
「弁護側はアルフォンゾ陛下の休廷要求に異議を唱えます!」
「な、何だと!?」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!…ど、どういうことですか!」
(…もう、僕には何も考え付かない。思いつくままにしゃべるのみだ!)
「それは…アルフォンゾ陛下はウソをついているからです!」
「…ウソだと?」
「アルフォンゾ陛下は、前にこう言いましたね。「王は一人、孤独に生きるもの!愛や情に囚われて正しい判断なぞできようか!」と…寵臣が裏切っていたからといって倒れるほど、貴方は弱い人間で無い!」

\ どおおおおおお /
「む、ぐぅ…」
「静粛に!静粛に!…弁護人、考えが飛躍していませんか?幾らなんでも、情が全くないわけでは無いでしょう。」
「いいえ、ありませんよ。情なんか。事実、そこのアルフォンゾ陛下は臣下を捨てたんですから。」

\ どおおおおおお /
「…貴様、何だその口の聞き方は!誰に向かって口を開いておるのだ!」
「私はアルフォンゾ陛下の領民でも無ければ臣下でもありません。嫌なら結構、出て行かれたよろしい。しかしその場合、告発を取り下げたと解釈するがよろしいですね!」
「…グッ…貴様!」
「べ、弁護人、少し落ち着きなさい。」
「ご安心下さい。自分でも不思議なほど、落ち着いています。そう、アルフォンゾ陛下のペテンが見えてくるぐらいに!」

\ ドオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!」
「ペ…ペテンだと?」
「そう、ペテンです!アーサー氏はイスラム教徒でもなければ、グラナダからの刺客でも無い!」

\ ドオオオオオオオオ /
「どういうことですか!」
「アーサー氏はウソをついたんですよ!アルフォンゾ陛下を守る為に!」
「なぜ、そんなことが分かる!」
「貴方が言ったんじゃありませんか!アーサーは30年前に大道芸人の一座から買取ったと!」
「!?」
「30年前に臣下にした人間が、どうやって20年前にグラナダから送られてくるんですか!」
「じ、時間の間違いなど良くある話では無いか!」
「なら、大道芸人の話は?まさか、大道芸人一座はイスラム教徒で、わざわざ斡旋したと…相手が奴隷商人ならともかく、そんな話が通じると思いますか!」
「ぐっ…むぅ…」
「では、大麻や武器は!?」
「我々の目をくらますための道具ですよ。事実、我々はひっかかり、アーサー氏をイスラム教徒と勘違いしました。」
「しかし、弁護人も言われたではないですか。なぜ、そのように…普通の武器を用いれば…」
「それでは暗殺に失敗した場合、現在公判の人物に疑いがかかるからです。つまり、単独犯にみせかけるためにワザとアサシンの体裁を整えたんですよ!」
「………」
「そうすることによって、我々はアーサー氏の言葉を鵜呑みにしてしまった!アーサー氏のグラナダからの刺客と言う、話をね!」
「…グッ」
「しかし、それはありえないんですよ!30年前に大道芸人の一座から買われたアーサー氏がアサシンだなんて!」
「ならば一体…」
「決まっています!アーサー氏を自由に動かし、あまつさえ切捨さえも厭わない…そんな命令を下せる人物は、この世に一人しかいません!それは…」
「ポルトガル王アルフォンゾ5世貴方だ!」

\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!」
「貴方はアーサー氏に命じて、僕の買収が失敗した場合にそなえて、アサシンの格好をさせてた!そうすれば万が一にも失敗したとしても、グラナダからの刺客がきたことで片付けられるからだ!」
「弁護人の買収ですと!?」
「し、知らぬ!」
「そして失敗した貴方は、予定通り容疑を全てアーサー氏に押し付け、自分は傷心をきどり、公判を休廷させようとした!」
「デタラメを申すな!」
「デタラメなのは貴方の行動だ!情が無いと言いながら傷心をきどり、罪を押し付けたアーサーにはなんら同情すらしない!」
「…!!!!!!!!」
「しかし動機はなんですか!幾ら裁判が不利だからとはいえ、そんな暴挙に出る理由がありますか!?」
「決まっているじゃありませんか。裁判長、よく思い出して下さい。先ほどはなぜ休廷したのですか?それは「カスティーリアに介入するか否か」その身の潔白をアルフォンゾ陛下が証明するためではなかったのですか?」
「まさか!」
「そうです!つまり、私を殺すか仲間にすることによって、この問題をウヤムヤにしようとした!その意味することは一つ!」
「アルフォンゾ陛下は、カスティーリア介入を企んでいるからに他なりません!」


\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!」
「タワゴトを申すな!」
ならば、今、この場で答えてもらいましょう!陛下、貴方はカスティーリアに介入しないのですか!」
「…う、ぐっ…く……分からぬ」
「分からない?そんな答えがあるわけないじゃないですか。介入しないか否か、それだけなのですから!」
「…ぐぅ…ぐぐ…せ…政治は……複雑なのだ!」
「ならば機会があれば、介入するのですね!大義名分があれば、貴方はカスティーリアに侵略するのですね!」
「ん…ぐぐっ…ぐぐぐぐ…ぐぐぐぐぐ…ぐぐぐぐぐぐっぐぐぐ…
ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
…………………………………………


……………………

…………








………………………………………………………


「…まさか…たった一言の矛盾で…全てが破綻するとは…」
「………」
「アルフォンゾ陛下、大丈夫ですか?」
「…大事無い。」
「では…」
「…もう良い。」
「…は?」
「…告訴は取り下げる。エンリケ王には余から伝えておこう。」
「…本当によろしいのですね?」
「…国運を左右するような問題、問われてすぐ軽々に答えられるものではない。」
「分かりました。告発人代理、ポルトガル王アルフォンゾ5世の告発取下げを受理します。

よって被告人に対する
告発を取り下げます!」


\ パチパチパチ /
…ワー…ワー…ヒューヒュー…
\\ パチパチパチパチパチパチ //

「やったぁ!やったよ!やった、やったぁー!」
「…え?」
「勝ったんだよ!私達、勝ったんだよ!」
「…勝った?僕達が…勝った?」
「やったな相棒!」
「やりましたわね!凄いですわ!号泣ですぅ!」
「…両殿下。」
「あれ?どうしたの?嬉しくないの?」
「…え?いや…夢中になってやってたから、自分がどうやって勝ったか…思い出せないというか、実感が無いと言うか…」
「う〜ん。夢中かぁ〜、きっとアレだよ。一生懸命やったから、守護霊様が助けてくれたんだよ。」
「きっと、そうですわ。守護天使様が助けてくれたんですわ」
「…守護天使?」
「ん?どうしたの、人の顔をじ〜と見て?」
「…いや、僕には強力な守護天使が付いていると思って…さ。」
「じゃあ、天使様を大切にしないとね!良いこといっ〜ぱいしないと!」
「…そうだね。うん、そうだとも。」
「…ふむ。賑やかなことだな。」
「!?」
「…アルフォンゾ陛下。」
「…やられたぞ。まさか、あそこから反撃してくるとは…思いもよらなかったわ。」
「………」
「勝利を確信したその瞬間にまさかの敗北とはな…ふふふ、余も思考の隙を狙われたわ!大したものよ!」
「…恐縮です。」
「…フェルナンド王子。」
「何だい、王様?」
「今日負けたのは、あの弁護人であって、お前では無い。…忘れるな、余はお前をまだ認めてはおらぬ。」
「…ああ、次は戦場で会おうぜ。」
「…ふ。」
「………」
「…良い女とは中々手に入らぬものよ。折角見つけたと思ったら、既に他の者の手にいる。難儀なことだ。」
「あら、あら、「手に入れるとは」勘違いというものですわ。殿方を選ぶのは、常に女性ですのよ?」
「…ふ、ふははははは!このじゃじゃ馬め!」
「陛下…」
「…さらばだ。裁判という次期は過ぎた。もう貴様とも会うことも無かろう。」
「…はい。」

ドガン!
「な、何だ!」
「み、見て!西の塔が崩れているよ!」
「ほう…あれは、断罪の塔でございますな。あれほどの爆発、中の罪人は助からないでしょうなぁ。」
「なっ!?」
「初めまして。私は、アーサーの双子の弟のアン・シンと申します。」
「あ、アンシン?」
「そう、兄と違って、とても安心なのでございますよ。」
「(な、何だかな)
そ、それで一体何のようですか?」
「いえ、いえ、用と言いますが、主様に対する偏見を払拭しようと思った次第です。」
「払拭…ですか?」
「主様は一見冷徹でございますが、実は情に溢れているお方でございます。そう、例えるのなら…無残に切り捨てると思わせ、実は双子の弟という存在を予め作っておいて、死を偽装するとか…ね。」
「ま、まさか!」
「例え…で、ございますよ。では失礼します…ククク…」
「大丈夫か?土煙がひでぇな、おい…何だアンのヤツとしゃべってたのか?兄貴が死んだかもしれないってのに、随分余裕だな。塔の中にいたやつらは原型もねぇそうだぜ。」
「………」


「今日は良いお勉強になりましたな。最後まで気を抜かない。これは人生の糧となりましょう。」
「うむ。しかし…」
「どうかされました?」
「いや、女一人のために世界を敵に回す…そういう戦いも悪くはないと思ってな…ふふふ…」

ポルトガル王アルフォンゾ5世
(1432年1月15日 - 1481年8月28日)
1474年、エンリケ王の死にともない王位継承権を持つ実子ファナ・ラ・ベルトラネーハ王女と結婚。カスティーリア王を称して軍事侵攻を企てたが、出自の明らかでないフアナ王女に付くカスティーリア貴族は少なく、1476年3月、トロの合戦において、イザベラ、フェルナンド両軍の前に敗北すると大勢は決した。

その後、ローマ教皇への根回しや、フランス王に支援の要求などを行うが、一旦崩れたバランスを立て直すことは出来ず最終的に介入を断念。和平に合意するとファナ王女と離別し、その野望に終止符をうった。


「馬鹿な!あの老練なアルフォンゾ陛下が敗北したと言うのか!信じられん…こうなったら総力戦だ!」

カスティーリア王エンリケ4世
(1425年1月25日 - 1474年12月11日)
エンリケ4世は、度重なる貴族達の謀反と、王位継承問題に神経をすり減らし、1474年12月、マドリードにて死去した。
娘ファナ王女は、出目の怪しさから貴族達の支持が得られず、またポルトガル王と結婚するも、トロの合戦で敗れたのが尾を引き、ついには王位継承を剥奪されて、修道院に入ることになる。


「…やれやれ、血圧が上ったり下がったり、疲れました。やはり、こういう問題は教皇様にお願いするのが一番ですな。」

カンタベリー大司教
(597年 - 1536年)
西暦597年にアングロサクソン人を教化すべく設置されたイギリスのカンタベリー教会は、ヘンリー8世の離婚問題により、ローマ教皇と決別を余儀なくされ、西暦1536年に国王至上法の公布により、独立することになる。その後、カトリックへの復帰運動もしばし起きたが、1559年、エリザベス1世は英国国教会法を定めたことにより、完全に分離した。

「はぁ〜しかし、疲れたね〜」
「本当だね。もう、クタクタだよ。」
「窮地に陥ってからの大逆転!って、見ている人は楽しいけど、たまったもんじゃないよね。いつか過労死しちゃうかも。」
「え、縁起でもないことを言わないでくれよ。」
「これというのも、あの魔女っコが悪いんだよ!人を呼んでおいて、勝手に一人だけ消えちゃうなんて!」
「(…あれ?そういえば、あの子…姿を隠して後にいるって言っていたような…)」
「…がるるる。」
「あ…れ?いたんだ…あははは…どこにいたのかなぁ?」
「私、悪くない!」

ドガン!
「げふぅ…また爆破オチぃ〜(ばったん」
「…な、なんで僕まで…(ぐったり」
「人が一声かけてやろうと来てみれば…何やってんの、あんた達?」
「ふふふ、楽しい人達ですわ。」
「ああ、そうだな。ははは。」


カスティーリア王イザベラ1世
(1451年4月22日 - 1504年11月26日)
アラゴン王フェルナンド2世
(1452年3月10日 - 1516年6月23日)
1474年、エンリケ王の死によりイザベラはカスティーリア王位を継いだ。エンリケ王の実子ファナ王女と結婚したポルトガル王アルフォンゾは、ファナの王位継承こそ正統なものとして軍事侵攻を開始したが、イザベラ、フェルナンドの両軍はトロの合戦でこれを撃破、イザベラの優位性を確かなものとした。そして1477年7月、アルカソヴァ和親条約により、継承戦争は終結した。
1479年にフェルナンド2世がアラゴン王位を継ぐと、国をあげてイザベラ支持を開始、イザベラ女王がカスティーリア王であることから、ここにカスティーリア=アラゴン両王国、すなわちスペイン王国が誕生することになる。

1492年1月、両王国はついにグラナダ王国を滅亡させ、レコンキスタを完遂させた。 そして同年、コロンブスはインドを目指し出港、新大陸を発見するのである。

ここに新時代「大航海時代」
が幕を開けるのであった。

戻る
←インターローグ3

この物語はフィクションです。
実際の組織及び人物、歴史、事件などにはいっさい関係ありません。