出力トランス比較試聴用
6CA7シングルパワーアンプ
出力トランスを交換して比較試聴をするためのパワーアンプを作成しました。メジャーループ帰還(出力トランスの2次側から初段管への負帰還)をかけると、アンプとしての特性は改善されるものの出力トランスの特性差異も補正されてしまうので、メジャーループ帰還はかけていません。このような条件で低歪かつ2.5以上のダンピングファクタを確保するため、初段管は高増幅率双三極管の6SL7とし、高感度の五極出力管6CA7を三極管接続としたシンプルな2段構成としました。出力トランスを交換するためシャーシ側面に端子台を取り付けていますが、リファレンスとするためISOタンゴのU-808を実装しています。外観を図1に示します。
図1 6CA7シングルパワーアンプの外観
RCA製6SL7の片ユニットを初段とし、CR結合で松下製6CA7をA1級でドライブするシンプルな2段構成のアンプです。松下の真空管規格表によると、三極管接続ではプレート電圧375V、プレート電流70mA、自己バイアス電圧-26Vのとき、出力電力6W、歪率8%となっています。しかしこの条件ではプレート損失が24.4Wとなり、許容値である25Wの97%となってしまいます。シーメンス製のEL34のようなヴィンテージ品の使用も考えプレート電圧350V、プレート電流60mA、自己バイアス電圧-22Vとし、プレート損失を20Wに抑えて許容値の80%で使うことにしました。従って出力電力も6Wの約80%に相当する5Wを目標値としました。
電源回路のトランスはノグチ製PMC-170Mを用い、東芝製5AR4で両波整流して自作の6Hのチョークコイルと400μFの平滑コンデンサで平滑しています。回路図を図2に示します。
図2 6CA7シングルパワーアンプの回路図
左右チャンネルともほぼ同じ特性なので、右チャンネルの特性グラフを示します。図3は1kHzの正弦波信号を入力して測定した入出力特性です。入力電圧が0.4Vrmsで出力電力が約4Wとなり、ここを越えたあたりから出力電力の伸びが徐々に頭打ちとなりました。図4は歪率の特性です。出力電力が1Wのときの歪率は約1%、4Wのときの歪率は2〜3%となりました。出力電力が4Wを超えると歪率の増加量が大きくなり、5Wでは約3〜4%になりました。歪率が3%を超えると歪が耳につき始めるので、このアンプの最大出力を5Wとします。ちなみに、規格表に記載された歪率8%のときの出力電力は、実測でも約6Wとなりました。プレート電圧を下げた影響はあまりないようです。多極管の三極管接続は2A3のような直熱三極管に比べると歪率が高くなりがちですが、ドライブしやすいというメリットは魅力です。
図3 入出力特性 図4 歪率
図5に出力トランスとしてISOタンゴのU-808を使ったときの、1W出力時の周波数特性を示します。メジャーループ帰還をかけていないので、400Hzを中心としたカマボコ形の特性です。レスポンスが0〜-1dBの範囲にある周波数帯域は20〜15kHzとなっており、中音域が充実した特性です。クラシックも違和感なく聴けますが、ジャズボーカルや演歌を演奏するとスピーカーの手前に歌手の音像がきちんと現れます。
図5 周波数特性
1kHz、1Wの正弦波を入力し、8Ωと16Ωのオンオフ法でダンピングファクタを計測したところ、左右とも2.8でした。効率100dB程度のスピーカーシステムを使っているので、ダンピングファクタは十分な値です。残留雑音はJIS-A等のフィルタを使わずに測定したところ、左右とも1mVrms以下でした。
出力管の6CA7は松下製のプッシュプル用ペアチューブを使いました。日本の真空管製造技術が絶頂期を迎えた頃の製品なので、電極電圧や電流の測定値がほぼ規格表に記載された値となりました。入出力特性、歪率、周波数特性、ダンピングファクタといった特性も、左右のチャンネルがぴたりと合っています。